【書籍版二巻発売中】迷宮狂走曲~RPG要素があるエロゲのRPG部分にドはまりしてエロそっちのけでハクスラするタイプの転生者~ 作:宮迫宗一郎
Q.表情差分が表示されないバグのせいでノームきゅんがいつも無表情なんですが
A.仕様です。ノームに表情差分はありません
Q.なんで??? なんでノームきゅん表情差分ないの???
A.愛らしい顔をしているのは人間を誘き寄せるための疑似餌で、そもそも表情筋がないからです。無表情でもクレショフ効果を巧みに使ってノーム畑まで人間を誘導します
Q.なんで??? なんでノームきゅん表情差分ないの???
A.作画担当の負担を考慮した結果、基本的にHシーンがないモンスターに表情差分はありません
Q.なんで??? なんでノームきゅんHシーンないの???
A.本作においてはあくまで性別がないモンスターだからです
Q.なんで??? なんでノームきゅんキノコ生えてないの???
A.仕様です
――【アヘ声】公式Q&Aより抜粋
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《表》
「うーん……」
パーティが2人になったので、俺は改めて俺とノームのスキル構成や装備構成を考えていた。いわゆる「ビルド」というやつだな。
【アヘ声】では条件さえ満たせばスキルはいくらでも習得できるんだが、それだけではスキルは使えない。スキルを使うためには、「スキルスロット」にセットすることでスキルを活性化させる必要がある。
だが、活性化できるスキルの数には限りがあるため、どのスキルを活性化するかの取捨選択が必要となるんだよな。
もっとも、俺はたとえめったに使わないようなスキルでも最終的には
まあそれはともかく、今後のスキル構成の話だ。
「なあ、ノーム。【剣士】を極めたら、次はメイン【騎士】・サブ【剣士】にクラスチェンジして、味方を敵の攻撃から守りつつ反撃する戦法でいこうと思うんだが」
「……」*1
相変わらずノームは無言だ。ただ、最近分かってきたことだが、どうやらこれは無反応という訳ではないらしい。俺が言ってることは理解しているようなので、気にせず話を続けることにする。
「ただ、それには君の協力が必要でな。2パターンあるから、どちらか選んでほしいんだよ」
「……」*2
「君は『常に
「……」*3
詳しく説明すると、前者は【ナイトシップ】というパッシブスキルを利用したスキル構成にする案(通称【湿布】)だ。このスキルの効果は「瀕死の味方を自動で庇う」。まあ「騎士」の名に相応しいスキルだな。
【ナイトシップ】は味方全員を瀕死にしておく必要こそあるものの、スキルの発動率は100%だ。他のメリットとしては、味方全員にパッシブスキル【死中活】を覚えさせておけば、全キャラ全ステータス2倍で脳汁出そうになるくらい爽快な戦いができることがあげられる。
デメリットは常に全滅の危険性を抱えることだが、全ステータス2倍なので敵より早く動けるし殲滅力も非常に高いので、ボス戦を除けばこのデメリットはあってないようなものだ。
後者は【バンガード】と【ナイトプライド】というパッシブスキルを利用する案(通称【バトライド】)。効果はそれぞれ「後衛の味方を自動で庇う」と「庇う系スキルの発動率を上げる」だな。
メリットは味方のスキル構成が自由なことと、全滅の危険性が下がること。また、メインの壁役の他にサブの壁役をパーティに入れておけば、ボス戦のように事故が起こりやすい戦闘で万が一メインの壁役が倒れても、サブの壁役が代わりに前に出ることでメインの壁役を回復させる時間を稼げるため、戦線を建て直しやすくなる。
デメリットは壁役以外の味方全員を後ろに下げる必要があるため、全員に遠距離からの攻撃手段を持たせる必要があることと、「庇う」発動率が100%にはならないことだ。運が悪いと魔術攻撃に特化させた【魔術士】のように紙装甲なクラスは雑魚モンスターの攻撃であっても即死する可能性がある。
あとはまあ【ナイトガード】っていう1ターンの間だけ味方を庇うアクティブスキルもあるんだが、
「そういう訳で、君にも関係あることだから、君の意見が聞きたいんだ」
「……」*4
どうやら悩んでいる様子に見えたので、先にノームのスキル構成を考えることにする。
といってもまあこちらに関してはそんなに考えることはない。現在ノームのクラスは【狩人】なんだが、まずダンジョンの道中に仕掛けられた罠や宝箱に仕掛けられた罠を察知して解除するスキルは必須として、あとは「戦闘中に何をさせるか」決めるだけだしな。
選択肢としては、俺の後ろから弓で攻撃させるか、状態異常を付与するスキルなどで俺の支援をさせるか、といったところか。まあ今のところ攻撃役は俺が兼任なので、ノームにはサポートに徹してもらうのがよさそうか。
「……おっと。ほったらかしてごめんな。ノーム、そろそろ決まったか?」
「……」*5
「俺としては【湿布】がオススメなんだが」
「……」*6
む、首を横に振ったぞ。絶対こっちの方が戦闘が楽しいんだけどなあ……。まあ無理強いはよくないかな。
「じゃあ【バトライド】だな。分かった」
「……」*7
でもいずれは【湿布】を体験させたいところだな! マジで面白いくらい雑魚敵をバッタバッタとなぎ倒せるからさ! あの爽快感を味わうと二度と元のビルドには戻せなくなるぜ!
「……」*8
「それじゃあ、今日も元気にダンジョンへ行こうか! とりあえず今日中に【剣士】を極めて【騎士】にクラスチェンジするとしよう! なあに、あと500体くらいスライムを倒せばすぐだ!」
「……」*9
「ああ、そうそう。この前に入手したレアアイテムなんだけど、アレは装備している間は浮遊して床に仕掛けられた罠を回避できるようになる装飾品で――」
俺はノームを胸ポケットに入れると、ノームに他愛のない話をしながらダンジョンへと向かっていったのだった。
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《裏》
その冒険者は、正義感に溢れた少年であった。
この世界に突如としてダンジョンが現れてから幾星霜。ダンジョンから湧き出るモンスターたちによって1度は滅亡の危機に陥った人間であったが、神より加護を賜りし「勇者」によってモンスターはダンジョンへと追い返され、世界には束の間の平穏が訪れた。
だが、その平穏も終わりを迎えつつある。勇者が施した封印は年を追うごとに弱まっており、やがて封印は破られ世界は再びモンスターによって蹂躙されるであろう。そうなる前にダンジョンの最奥へとたどり着き、今度こそ「元凶」を破壊しなければならない。
そのような状況下において、ダンジョンへと潜る冒険者たちは大きく3種類に分かれている。
1つ。世界の終わりから目を逸らし、富を求めてダンジョンへと潜る者たち。ダンジョンで得られる宝箱を目当てに、日々の糧を得るためだけにダンジョンへと赴く者たちである。
2つ。世界の終わりを受け入れ、享楽に溺れる者たち。どうせ世界が滅びるならば、と自らの欲望を満たすための力をダンジョンに求める者たちである。
そして3つ。勇者の遺志を継ぎ、かつて勇者が果たせなかった使命を果たさんとする者たち。今度こそ世界に真の平和をもたらすため、ダンジョンの最奥を目指す者たちである。
その少年もまた、幼い頃から勇者に憧れて冒険者になったクチである。そのためか、少年は奴隷というシステムを嫌悪していた。自身が使命を果たして新たな勇者となった暁には、それによって得た名声を利用して真っ先に奴隷を廃止しようと思っていたくらいだ。
だからこそ、こうなることは必然だったのだろう。
「あの人が、【黒き狂人】ハルベルト……。噂通り、モンスターを奴隷として連れ回してるみたいだな」
その日、少年は遠くからコソコソと男の様子を窺っていた。最善は
とはいえ、相手が正当な手続きを経て奴隷を購入している以上、それが難しいことは少年とて理解している。だから待遇の改善を約束させられれば御の字だろうとは思っていた。
「今からダンジョンに行くみたいだな……」
……なぜさっさと男に声を掛けないのか、などと言ってはいけない。少年は相手が悪人ならばたとえ格上の存在であっても立ち向かえるが、さすがに【
そりゃあそうだ。「HPが残り2割を切ればどんな悪人だろうと泣いて命乞いをするレベル」と言われている世界で、HPが残り3割の状態をキープしたまま嬉々としてモンスターの群れに突撃していくような奴に話し掛けようと思っただけでも、さすがは勇者を目指しているだけのことはあると言えるだろう。
だが、接触するタイミングには細心の注意を図らねばならない。下手に刺激して周囲にまで被害を出してはならないのだ。犠牲になるのは自分だけでいい。いくら【狂人】といえど、いきなり
「よ、よし……!」
そのため、よせばいいのに少年は男を追って自らもダンジョンへと突入していった。
「【バンガード】でノームを庇ったことにより【打ち落とし】の判定! あらかじめ【七星剣】により【死中活】を発動させておくことで自動成功! まずは物理攻撃をしてくる敵を殲滅! 敵の魔術は2倍になった
……そして少年が目撃したのは、全ての攻撃から身を挺してノームを庇いつつ、返す刀でモンスターたちの首をはねて回り、そして逃亡を始めたモンスターに対して剣先からビームみたいなのをブッパしてトドメを刺す男の姿であった。
しかも男はなぜか地面から数cmほど浮いており、ぬるぬると滑るような挙動でノームの周囲を高速移動していた。控えめに言って非常に気持ち悪い挙動であり、その姿は紛うことなき【
「…………」
少年はそのまま回れ右してダンジョンから脱出。その日からしばらく悪夢に悩まされ、1週間ほど自室に引きこもった。
「それじゃ、今日も元気にダンジョンへ行こうか!」
「「おーっ!」」
その後、ようやく復活した少年は、悩んだ末に冒険者に復帰。その背景には、引きこもっている間にずっと励ましの言葉を掛けてくれていた、仲間たちの存在があった。
それからというもの、彼は自分の身を危険に晒してまで人助けをしようとはしなくなった。
勇者になることを諦めた訳ではない。だが、行きすぎた自己犠牲の果ては【狂人】である。実際に狂っている人間を直接その目で見たことで、彼はそう悟ったのだ。
ああ、そうだ。オレは大切な人たちの笑顔をずっと見ていたいから勇者を目指したんだ。こいつらの笑顔を守りたい――その思いがオレの原点。子供の頃に憧れた勇者は、自分の命と引き換えにダンジョンを封印したって話だ。でも、オレはかつての勇者とは違う道を行く。だって、オレが自分を犠牲にしても、こいつらは絶対に笑ってはくれないのだから。
かくして、少年はそれまでの漠然とした憧れからは卒業し、自分なりの「
もしもそのままダンジョンの奥へと進んでいれば、きっと仲間を巻き込んで苗床エンドを迎えていたであろう少年が今後どうなるかは、今はまだ分からないのであった……。