【書籍版二巻発売中】迷宮狂走曲~RPG要素があるエロゲのRPG部分にドはまりしてエロそっちのけでハクスラするタイプの転生者~ 作:宮迫宗一郎
Q.【門番】になる前の「彼」の欲望って結局なんだったんですか?
A.「彼」は死体に性的興奮を覚える特殊性癖の持ち主でした
Q.ということは、あのボス戦で敗北した場合って……
A.つまりそういうことです
Q.でも屍○するって言ったって、今の「彼」にチ○ポついてる?
A.本作はエロゲです。つまりそういうことです
――【アヘ声】公式Q&Aより抜粋
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《表》
あれから俺は【騎士】のクラスレベルを上げることでダンジョン上層のボスに有効なスキルを覚え、ルカも罠の解除だけでなく戦闘もこなせるようになっていった。
そして、ついにその日はやってきた。
「とうとうここまでたどり着いたな、ダンジョン上層・10階層!」
俺たちの視界いっぱいに広がるのは、高さ10mくらいはありそうな扉。いわゆる「ボス部屋」というやつだな。ボス前の扉は巨大……ゲームのお約束って感じだ。
“ホント、ようやくって感じだよ……。奴隷になってからの時間が濃厚すぎてノーム時代の記憶が掠れそうなんだけど”
相変わらず何を言っているのかは分からないが、ルカも心なしか感無量といった様子で、俺の肩あたりの高さをフヨフヨと浮かんでいる。
ああ、ちなみに浮遊効果のある装飾品は色々なことに
こうして浮遊する姿を見てると、小さな身体と幼い顔立ちも相まって妖精みたいだな。まあそれを本人に言うと
「……ん?」
と、よく見れば扉の前に人相の悪いゴロツキみたいな3人組がいた。先客かと思って後ろに並ぼうとするも、そいつらはこちらを見るなりニヤニヤ笑いながら道を空けた。なんだこいつら。
「……えっと、どうしたんですか?」
「ククク……なに、オレたちのことは気にしないでくれや」
「アンタの邪魔したりはしないからよ」
「オレたちのことは観客だとでも思っててくれ」
“あっ(察し)”
あー、なるほど。こいつら、俺のボス戦に便乗するつもりか。俺がボスを倒した瞬間を見計らってダッシュで中層に下りるつもりなんだろう。いや、こちらに害意がないなら構わないんだが……。
「別に便乗するのはいいですけど、もしボスがドロップするアイテムを横取りなんてしたら……分かってますよね?」
“そこで真っ先に気にするのがドロップ品なあたり、主らしいというかなんというか……”
「へ、へへへ……お見通しってワケか……さすがだぜ……」
「わ、わぁーってるよ……オレたちは下に行きたいだけだ……」
「どうせオレたちでは使いこなせねぇだろうから、戦利品にゃ興味ねぇよ……」
“顔面蒼白を通り越して土色になるくらいなら、最初からやらなきゃいいのにね”
そう、ドロップ品だ。今回のボスはとても有能な武器を落とす。その名も【遺恨の槍】。複数の状態異常が付与されている武器だ。
まあここでドロップしなかったとしても、後でモンスターが落とす宝箱からも入手は可能なんだが……モンスターが落とす宝箱の中身というのは、言ってみれば「闇鍋ガチャ」だ。つまりピンポイントで入手するにはここで粘るしかない。
粘るしかないんだが……。
この世界では
「……ッシャア! やるしかねえ! イクゾーーー!!!」
“ガンバレー。今回ボクはやることないから応援だけしとくよ”
ダイスの女神様にお祈りを済ませた俺は、自分の頬を叩いて気合いを入れつつ扉を開け放ち、部屋の中へと突入していく。
すると部屋の中央の床に描かれていた魔法陣がスパークし、全身鎧を着た騎士が片膝をついたポーズで出現した。
いや、それは
そいつは走り寄ってくる俺の姿を認めると、ゆっくりと立ち上がりながら槍を構え――
「敵が目の前にいるってのに呑気に
悪いけど、それを待ってやるほど俺はお人好しじゃないんだよなあ!
俺が走りながらあるアクティブスキルを発動すると、装備している盾に光が集まり、爆発的なエネルギーを生み始める。
説明しよう! 発動するのは【シールドアサルト】! 威力の計算式に
つまり、この攻撃は防御を固めれば固めるほどに威力を増すということである!
「盾を【
“主はテンションが上がると言動が気持ち悪くなるよね。というかその説明いる?”
右手に装備した盾がギュオンと唸りをあげ、アッパーカットが【背信の騎士】の腹部に命中! あまりの威力に身体が浮いて無防備になったところへ、左手に装備した盾を真っ直ぐに叩き込む!
今の俺に用意できる最強の攻撃手段をモロに食らった【背信の騎士】は、きりもみ回転しながら勢いよくカッ飛んでいき、壁に激突してバラバラになった。
俺の勝ちである。
「「「ひ、ひぃぃぃッ!?」」」
“うん……まあ……普通はそういう反応になるよね……”
後ろで見ていた3人組が何か騒いでるが、そんなことはどうでもいい! 【遺恨の槍】だよ、【遺恨の槍】! ドロップするのか!? しないのか!?
「…………」
すぅ、と【背信の騎士】の身体が空気に溶けるようにして消えていく。そして、最初から存在しなかったとでも言うかのように、痕跡1つ残さずに【背信の騎士】はこの世から消え去った。
……。
…………?
………………???
「ああああああ!!! 何も落とさなかったああああああ!!!」
“あー……ドンマイ?”
思わず俺はその場にくずおれ、何度も地面に盾をガンガンと打ち付けた。
ちくしょう……! 落とさなかった……! ここにきてクズ運……! チャンスは1度きりだったってのにいいいいいい!
「あ、あのー……狂、じゃなかった、ハルベルトの旦那? その、ですね……お取り込み中に申し訳ないんスけど……はやく中層へ続く扉を開けた方がいいッスよ……? ほっとくとソイツ復活しちまうんで――」
「今なんつった???」
「ヒイッ!? な、なにがですかい!?」
グリンッ! と首だけを高速で3人組の方へ向ける。今、なにか、非常に重要なことを言わなかったか???
「今、そいつが復活すると申したか???」
「ハ、ハヒィィィィィ!? そ、そうです! 言いました!」
「詳しい話、聞かせてくれるかな???」
“あーあ、こいつら余計なことを……”
俺が笑顔でそう尋ねると、3人組は意外と親切な奴らだったらしく、コクコクと頷いたのだった。
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《裏》
“(私はいったい何をされたのだ……?)”
たった1人で突撃してくる男を見て、今日はまた一段と愚かな人間がやってきたものだと思った瞬間、HPが全損して自身の身体がダンジョンへと溶けていく。薄れゆく意識の中、【背信の騎士】の心は疑問で埋め尽くされていた。
ダンジョンには10階層ごとに【門番】と呼ばれる存在が配置されている。それは文字通りダンジョンに侵入してきた者の行く手を阻む「門番」としての役割を持たされた存在であり、「ダンジョン最奥に鎮座するとある存在」に使役されている特殊なモンスターである。
通常、ダンジョン内で死んだ生物の亡骸は、ダンジョンに吸収されて魔素へと変換される。そして「とある存在」が復活するためのエネルギーにされてしまうのだが、「とある存在」が直接使役している【門番】は少し事情が異なる。
彼らは魂がダンジョンに縛りつけられており、肉体が滅びても魂は消滅しない。【門番】が守護する領域に何者かが侵入した瞬間、ダンジョンが自動で魔素を変換して肉体を再構築、そこに【門番】の魂を憑依させて侵入者を排除させるのだ。
ただ、魔素は有限のリソースである。現時点でダンジョンは膨大な魔素を蓄えているので【門番】の再構築くらいなら実質無尽蔵に行えるが、だからといって無駄遣いをしていいという訳ではない。
なので魔素の無駄な消費を防ぐために、1度でもその【門番】を打倒したパーティが再び侵入してきた場合、「その【門番】では行く手を阻むことは困難」とダンジョンが判断し、パーティを素通りさせるのだ。
“(……む、また人間どもが現れたのか? 今日は妙に頻度が高いな)”
消えたと思った意識が再び覚醒し、【背信の騎士】が兜に備わっている視界で前方を確認すれば、そこには真っ青な顔をした3人組がいた。
“(……ふん、まあいい。先程は何をされたか知らんが、どうせ2度と戦うことはないのだから気にする必要もあるまい。私は
それよりも、この場に立つには不相応な弱者に、己の愚かさを骨の髄まで叩き込んでやらねば。そう考えた【背信の騎士】は、ゆっくりと立ち上がり――ふと、3人組の視線が動かないことに気づく。
【背信の騎士】は3mを超える長身であるため、【背信の騎士】が立ち上がったのであれば3人組の視線は自然と上へスライドし、このモンスターを見上げる形になるはずなのだ。なのに、3人組の視線は【背信の騎士】の腰あたりの空間に釘付けだ。
それはまるで、【背信の騎士】を挟んだ反対側にある「何か」を凝視しているかのようであり――
「背後からの攻撃は『不意打ち』扱いで確定
嫌な予感がしたので振り返ろうとした瞬間、再び【背信の騎士】のHPが肉体もろとも消しとんだ。
……確かに、1度でも【門番】を打倒したパーティが再び度侵入してきた場合、ダンジョンはそのパーティを素通りさせる。
逆に言えば、全く戦闘に参加しなかったがゆえに「
「【シールドアサルト】! 【シールドアサルト】! 【シールドアサルト】! ……ドロップしないな」
「だ、旦那ぁ……もうそのへんで勘弁してやったらどうですかい……?」
「中層に行きたいんですよね? だったら黙ってそこに立っててください。
「サー! イエスサー!」
“たぶん、今はもう中層に行きたいと思うよりも帰りたいって思ってるんじゃないかなぁ……”
“(グオオオオオ!? な、なんなのだコイツはァァァァァ!?)”
発声器官を持たないがゆえに心の中で悲鳴を上げる【背信の騎士】。長年この階層の【門番】を務めてきた【背信の騎士】といえど、短時間に何度も一撃でHPを全損させられるなどという経験はさすがにない。
本来の肉体を失い、ダンジョンが用意した仮初めの肉体に憑依している形であるため、痛みを感じないはずの【門番】であるが……こう何度も一撃でHPを全損させられまくっていると、なんだか魂を削られているような気がしてきて、精神に多大なる負荷が掛かり始めていた。
「まだドロップしないのか。まあいいや。ボス部屋周回は回数が全てだ。【シールドアサルト】」
「こ、これが【黒き狂人】……! ちくしょう、『オレたちなら上手く出し抜ける』なんて思ってた過去のオレを殴ってやりたい……!」
“(グワアアアアア!!!)”
「【遺恨の槍】って言うくらいだし、まさか敵が恨みを抱くような倒し方でないとドロップしない……?」
“ドロップが渋いと変なジンクスに頼り始めるのは主の悪い癖だと思う”
“(グギャァァァァァ!!!)”
「
“また変な儀式してる……そんなことしても確率は上がらないのに”
“(グェェェェェ!!!)”
途中からは遊んでいるとしか思えない変な挙動で倒され始め、その事実が「こんなのに負ける私はいったい……」と【背信の騎士】の【門番】としてのプライドを粉々に砕いていく。
“(おお、神よ……これが貴方に背いた私への罰だというのですか……?)”
無限にも思える地獄の時間を過ごす中、「
「彼」はかつて人間だった。神に仕える聖騎士であった「彼」は、世界に平和をもたらすという使命を帯び、志を同じくする「誰か」と共にダンジョンを攻略していた――はずだった。
だが、高潔だった「彼」はいつしか欲望に溺れ、己の快楽を満たすために神と「誰か」を裏切り、悪しき存在に魂を売った。
それ以来、【
「おっ!? こ、これはぁ!? よっしゃああああああ! ついに【遺恨の槍】をドロップしたあああああ!」
とうとうこちらに見向きもされずに打ち捨てられ、【背信の騎士】は
【背信の騎士】の脳裏に、かつての楽しかった日々の記憶が過る。しかし、共にその時間を過ごした「誰か」の顔は、黒く塗り潰されてしまっていた。
もはや走馬灯ですら、大切に思っていたはずの「誰か」の姿を見ることができなくなっていたことに気づいた【背信の騎士】は、裏切り者の自分に相応しい末路だと思いながらこの世を――
「よし、じゃあこの槍で【二刀流】したいから、もう1本ドロップするまで頑張るか!」
――去ることはできず、今後もダンジョンに囚われ続ける。そりゃあそうだ。ダンジョンの主にしたって、勝手に【門番】に成仏されては困るのだ。
“(こんな罰を与えてくる神ってやっぱりクソでは……?)”
最後に風評被害も甚だしい不敬なことを心の中で呟き、それ以降【背信の騎士】は考えるのをやめたのだった……。
モンスターの台詞は、
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「……」に注釈をつける
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斜体にする
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「 」ではなく『 』などで表現
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斜体にして下線を引く
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「……(※あひいいい!)」で表現
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台詞の色を変える