「これで手続きは以上となります。」
「うん!ありがと!」
フランの満面の笑みに組合の受付嬢も顔を綻ばせている。
さて、今はダリアとして私の姉という事になっているユナ、もといフランの冒険者登録に来ているのだ。
そして問題の容姿だが、赤いライトアーマーを着ていることと翼が見えない事以外は
殆どいつものフランそのままだ。……正直、偽名を使っている意味も無い。
なので登録する時、フランが自分を姉だと言うと顔を見比べられた後に凄い勢いで受付嬢に二度見されてしまった。
まあ、どう見ても妹だからね。天真爛漫……というかどう見ても子供だし。
私の見た目は二十代半ばだし強いて言うならセイバーの格好をしたアルトリア・ランサーなので
この容姿をした人間の姉となるとアラサーという事になってしまう。
実は今の所、私の年齢は公表していないので今回は何とかなりそうだ。
……私は二十三くらいという事にしとこう。まあ、私の見た目は若いし問題ないんだけど
それでもフランの容姿で私の姉というのは正直、大分無理がある。
だけど子供だろうと冒険者としての登録だけなら誰にでも出来るので、まあ多分フランが姉だと信じる人間は残念ながらいないだろう。
実際、先程の受付嬢の目も完全に子供を見る目だったし、私が我儘に付き合ってあげてるとでも思われているのかもしれない。
せっかくフランも機嫌がいいし、わざわざ本人に言うような野暮な事はしないけれど。
「どうされます?
「ううん、地道に上げていくから大丈夫!どうせすぐ上がるよ。」
その言葉に周りの冒険者から嘲笑が漏れるが、
そもそも普通の人間がいきなりアダマンタイト級冒険者のパーティとして活動出来るわけないだろうに。
そして組合の規則というか不文律みたいなもので、パーティを組む際はランクに二つ以上差がある冒険者同士では組まないのが鉄則らしい。
まあそんな事私達には関係ないんだけどね。どうせすぐにフランの評価は上がっていくだろうし。
「終わったなら行きますよ、ユナ。」
「おね……ダリア。ユナお姉様でしょ?」
腰に手を当ててそういうフランはとてもかわいい。そして凄いドヤ顔だ。余程姉という設定が気に入ったらしい。
「はいはい、分かったから行きますよ。ユナお姉様。」
「むー」
何か不満げだが、渋々フランが着いてくるのを見た私は隣にいる咲夜に話しかける。
「セレネ、確か今日はラキュースに呼ばれていましたよね?」
「……ええ。何か極秘に話したい事があるんだってね。」
「なになに?何の話?」
「私達も詳しくは知らないわ。ただ、何か依頼を受けて欲しいんですって。」
まあ、大方予想は着いている。
恐らくラナーとかいうお姫様が私達の能力に目をつけて都合のいい駒にでもしようと思ってるんでしょう。
私達が扱いやすい駒なのかを見極める為に呼んだのかもね。
そういえば、前に複製出来るかと思ってた何でも癒すとかいう薬草だがパチュリーの話によると複製自体は可能らしいが、
手間がかかりすぎて普通のポーションを作る方が何倍も楽らしい。
つまりコスパが悪いらしく、結局複製はしないでそのまま組合に返してきた。
あんなものを組合が素直に依頼主に渡すのだろうか。というか今更だけど依頼主は王族か何かだったのかしら。
一応共同依頼だったので蒼の薔薇と報酬を折半したのだけど、それでもかなりの額だったわ。
「じゃあ今からイビルアイに
そういって咲夜がこめかみに手を当てたのを見た後、フランが話し掛けてくる。
「ねぇ、おね……ダリア。私って常に魔獣を連れて歩いた方がいいのかな?」
「え……?そうですね、魔獣登録は済んでいるので連れ歩いても咎められはしませんよ。」
「そういう事じゃないんだけどなぁ……」
まあ実際、連れて歩いた方がいいんだけどフランの場合何処にいても召喚出来るらしいからあんまり意味無いのよね。
魔獣を連れて歩いたくらいじゃ今更このパーティに箔が付くような事もないだろうし。
「まあ、今召喚しても無用な混乱を招くだけです。やめておいた方がいいでしょう。」
「そう?じゃあやめとくね。」
というか、フランは殆ど素のままだから私を呼ぶ時にお姉様って言っちゃいそうで怖いのよね。
別に私にダメージはない訳だが……
と、ここで咲夜が口を開く。
「連絡が付いたわよ。今から黄金の輝き亭って所で合流した後、転移でそのまま向かうみたい。」
そういえば……あの依頼の後からアインザックに引き止められて未だにこの都市を出れていないのだ。
しつこく依頼を押し付けて来たり、なんとか私達をこの都市に留まらせる為に必死みたい。
まあ実は依頼と食事の時間以外は宿から紅魔館に転移して過ごしてるんだけどね。
「分かりました、では行きましょう。」
そうして私達は黄金の輝き亭とかいう無駄に高い宿屋へと足を運ぶのだった。
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「……来たか。」
到着すると、宿屋の入口近くにイビルアイが壁を背にして待っていた。
「ええ、待たせたわね。」
「ふん、別に待ってはいない。転移するからもう少しこっちに寄れ。」
そしてイビルアイが
「……着いてこい。」
へぇ。イビルアイは顔パスなんだ。……顔出してないけど。
「さて、着いたぞ。」
イビルアイに案内されて十分ほど歩くとどうやら目的の部屋に着いたらしい。
部屋の前には特筆すべき所のない平凡な少年が立っている。ふむ、これがクライムか。
……というか、どうせならここに直接転移させれば良かったのに。
私がそんなことを考えているとイビルアイがクライムへと話し掛けた。
「中にラキュースもいる。……おい、小僧。貴様の主人の客人だ。」
「あ、イビルアイさん。お疲れ様です!では、ここからは私が案内します。」
……別に案内されなくてももう目の前なんだけど。
「ラナー様、お客様がいらっしゃいました!」
クライムが扉を開けてすぐ張ってあるカーテン越しにそう声を上げる。なんで扉前にカーテンがあるの……?
「まぁ、よくいらっしゃいました!さあさあ、こちらに掛けて。」
へぇ、見る限りでは不自然な様子は全く無い。これだけ見ると腹の中が真っ黒とは思えないわね。
強いて言うなら少し綺麗すぎるかしら。私ならもう少しキャラ付けをするわね……
「あら?もう来たの?早かったじゃない。」
ラキュースは優雅に紅茶を嗜んでいる。
ふん。……私が十分も歩いてる間こいつはお茶を楽しんでたのか。
「ええ、お初にお目にかかります。ラナー殿下、アダマンタイト級冒険者、『十六夜の月』のダリアと申します。」
そうして私達は順番に挨拶を交わしていったのだが……
「ラキュース?……あなた私の事話していたの?」
「え?そんな事ないと思うけど……。」
どうやら彼女達は何故私達がラナーと会う事を知っているのかが気になるらしい。
……私の場合は何となく分かったとしか言いようが無いわね。
「失礼しました、じゃあ本題に入りますね。」
そしてラナーの話によると、王国には八本指という犯罪組織が根付いており、
そいつ等を片付けたりアジトを特定したりするのを手伝って欲しいとの事らしい。
「私は構いません。無辜の人々の安寧を脅かす存在は看過できない。」
私は慈悲深い騎士という設定なので断る事は出来ない。
「私はどちらでも。」
と咲夜。
「私もどっちでもいいよ!」
とフラン。
……どっちか反対してくれれば良かったのに。
「まあ、では受けてくださるのね?」
「別に断る理由がないから今回は受けるわ。でも、私達はあなたの道具では無いからそこは勘違いしないで欲しいわね。」
とここでナチュラルに無礼をかます咲夜。
「ちょっとセレネ!?」
驚くラキュース。
と、冗談はここまでにして、これは予め伝えておいたのだ。
私達は自由に扱える駒では無いと主張する様に。……私はほら、キャラ的に断れないから。
まあ……意味があるとは思えないけどね。精々深読みしてくれれば助かるくらいかしら。
「承知しております。勿論、依頼をこなす度に報酬はお渡ししますわ。」
「……そういう問題じゃないんだけどね。あなた、分かって言っているでしょう?」
お、今眉がピクっと動いたぞ。
絶対にこのお姫様今内心めちゃくちゃ咲夜のこと罵倒してる。
「ちょっとセレネ!何のつもり?」
と、ここでラキュースが割って入ってくる。
「……まあいいわ。ただ、私の言ったことを忘れないでね。」
「……?分かりました。」
おっと今のは私でも分かったぞ。確かに純新無垢なお姫様キャラを作ってるみたいだな。
「では、ラキュース。受けてくださるようだから、あの写しを出して。」
「……分かったわ。」
納得いかない表情のラキュースだが、ラナーが怒っていない事が分かるとため息を吐いて丸めた羊皮紙を取り出した。
……傍から見れば急に咲夜が喧嘩を売ったようなもんだしね。
「……これよ。」
なんだこれ。……ああ。そういう事ね。
「簡単なアナグラムです。ここをこの順に並び替えるとこうなります。」
そしてそれは漁村として有名な村の名前と、王国で夜の11時辺りを示す言い回しであった。
「な、凄いわダリア!どうしてそんな事が分かるの?」
逆に私は今までこういう任務を数多くこなして来たであろうラキュースが何でこんな簡単な法則性を導き出せないのかが分からないわ。
「……昔取った杵柄という奴です。まあこれで場所と日時は分かりましたね。」
「おう、じゃあ奇襲を仕掛けるか?」
とこれまで退屈そうだったガガーランが突如元気になってそう言った。
……こいつ戦いたいだけでしょ。
「まあ、私も概ね賛成ね。ただ、少し早く着いておかないと村の何処で取引があるのかが分からないわ。」
と咲夜が言う。そうなのよね、この羊皮紙に書かれてるのは大まかな日時と場所だけ。
……というか、何でこんな少し頭が回る人間ならすぐ分かりそうな暗号を物理的な証拠として残してるのよ。
紙に書いておかないと忘れてしまいますって?……馬鹿じゃないの?
「そうね、じゃあ取引開始の一時間程前にティアとティナに場所を掴んで貰いましょう。」
そして忍者姉妹が返事をするとイビルアイが声を上げた。
「なら私も同行しよう。お前達だけだと
「では、取引の場所を特定出来たらイビルアイが私達に連絡して、そのまま村の宿屋で落ち合いましょう。」
自分で言っていてなんだけど、作戦もクソもないわね……これ。
「おう、分かりやすくていいじゃねえか!要は俺らは連絡が来たらいつも通りやるだけだろ?」
「ねぇ、これ私たち居るの?絶対他の任務に人手を回した方が良いと思うのだけど。」
咲夜の言う通りだ。こんなもんアダマンタイト級所かオリハルコン級でも出来るだろう。
「そうかもしれないけど、最近は八本指の連中も私達に拠点を潰されて護衛を増やしたみたいなの。」
要は私たちは保険か。わざわざ呼び出しておいて依頼の内容がたったこれだけとは……馬鹿にされてるのかしら。
……まあいいわ。あとはこの女を眷属で見張らせておいて何か怪しい動きをすればナザリックと繋がっているという事なのだから。
今回はその為だけの接触といっても過言ではないわ。
「では、当日はよろしくお願いします。」
そう言って私達は王城を後にした。