「あー、おはようございます。すみません、昨日はお見苦しい所を見せてしまって……」
翌日、朝食時に二人を呼ぶとそこにはすっかり一般人になってしまったモモンガが居た。
「そうね。謝罪は受け取っておきましょう。それより、完全に支配者としての仮面を捨てたように見えるのだけど?」
「いや、俺の素を知ってる人の前でだけですよ。他のNPC……従者達には今まで通り接する事にします。」
ふむ、私の前では取り繕う事を辞めたというわけね。
「それで?肉の体はお気に召したかしら?」
「ああ!そういえばまだこの身体のままなんですけど、どうすれば元に戻るんでしょうか?」
「宝石にどのくらい魔力を注いだか覚えてる?その量次第ね。」
「……えーと、かなり。長引くと大体どのくらいで解除されるんでしょうか?」
「最大まで魔力を込めて半年くらいね。ずっとその状態を保ちたいならその都度魔力を込め直す必要があるわ。」
そういうと、モモンガは絶望したような表情で呟いた。
「半年……」
「まあ、能力が使えなくなる訳じゃないんだし、気楽に考えなさい。それより……」
うーん、これは言った方がいいのだろうか。流石にまだ気付いていないだろうし……
「あなた、その格好……致命的に似合ってないわよ。ダボダボだし、正直言ってダサいわ。」
「ぐはっ!」
まあ、その格好で歩き回られるよりはマシね。紅魔館内ならまだいいけど、これで街に出た日には噂になるレベルでしょうし。
「とりあえず咲夜に服を用意させる……待って、男性用の服なんてあったかしら。」
使用人に男が全くいなかった訳では無いけど……多分燕尾服しかないわよね。
「後で美鈴に買ってこさせましょう。まあ、暫くはその格好で我慢して頂戴。」
「はい……それと、ありがとうございました。色々と気を遣って頂いて。」
「気にしないでいいわ。未来への投資よ。」
まあ、これで大抵の事は向こうから協力してくれるようになったわね。……いざと言う時の弱みも握ってる。
「そういえば、パチェがあなたの魔法に興味を持っていたの。お礼はいいからパチェの研究に協力してあげて頂戴。」
「パチェ?」
「あー、私の友人の魔女で、いつも図書館に居るわ。私なんかより遥かに博識だから気になる事があるなら聞いてみたら?」
まあ逆にユグドラシルの魔法についてはウンザリするくらいに根掘り葉掘り聞かれるでしょうけど。
「私はその間にあなたの服を用意しておくわ。」
そういった直後、私は
『美鈴?男性用の普段着を何着か買ってきて頂戴。サイズは分かんないけど多分普通サイズでいいわ。』
よし、服の用意完了。後は奇抜なデザインじゃない事を祈るだけね。
「でも俺、魔法についての知識なんか持ってないですよ?」
「そこはパチェにとってどうでもいいのよ。……とにかくあなたはパチェの所に行ってきて頂戴。」
「ええ……何か出来るとは思いませんけど。分かりました。」
「咲夜、案内をしてあげて。」
「かしこまりました。」
モモンガは咲夜に連れられてパチュリーの元へ連行された。
……そこで私はモモンガについて行こうとしていたアルベドを呼び止める。
「ねえ……少し二人で話さない?」
「……私に何か御用ですか?」
うーん。警戒されているというか、多分利用するつもりなのがバレてるからこういう態度なのね。
「そんなに畏まらなくていいわよ。普通に話しましょ。」
「……では聞くけど、モモンガ様を利用して何をするつもり?」
おっと、単刀直入に来たわね。まあ言葉の裏を読むのは疲れるだけだし私としては有難いけど。
「そうね。まず私は私達の緊急時に助けてくれるお友達が欲しいの。そこでとりあえず恩を売っといたわけ。」
「……でもそれだけでは無いのよね?」
「勿論。でも全ての理由を話していたら日が暮れちゃうし、何よりあなたは怒るでしょう?」
「主人が利用されるのを快く思う訳が無いでしょう?」
「だから敢えて言わないのよ。打算的な理由は勿論あるけど、多少の同情もあるのよ?知ってるでしょ?彼の生前。」
「……なんであなたが知ってるのかが私には分からないわ。」
まあそれは……そうか。昨日何か話したんだろうし、その時に私が盗み聞きしたとでも思われてるのかもね。
「そこはまあ、私の能力が関係しているわ。詳しくは言わないけど。」
「……あなたが私達を利用するというのならこちらも最大限あなた達のことを利用させて貰うわ。」
それでいいのよ。少なくとも私と敵対するリスクは分かっているはず。裏で何か企まれるのは確実だけど、表向きは友好関係を築いておきたい。
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「……あの。」
「……何?私の読書を邪魔しないでくれる?」
「いや、レミリアさんからあなたの所に行くように言われて……」
「レミィが?……そういう事。」
何に納得したのか再び読書を始める全身紫色の魔女。
「いやあの、用がないんだったら帰りますけど。」
「……こっちに来て。」
ええ……話が通じない。こういうタイプは苦手なんだけど。
「あなた、アンデッドね?」
「ええ。今は肉体が有りますけど、普段は骸骨です。」
魔女は頷くと再び黙り込んでしまう。
「魔法は使えるわよね?」
「使えますけど……感覚的なもので理屈は全く分からないです。」
「なるほど……感覚的にある程度の魔法が使えるのは種族としての魔法使いに近いわね。
でも知識を求めないのは分からないわ。生まれながらの魔法使いは自分の無知が許せないものだし、やっぱり別物ではあるようね。」
……馬鹿だから魔法使いっぽくないって言われてる?
「規模の大きい魔法だとどの位の事が出来る?」
「ええと、半径数キロくらいの環境の性質を変えたり、何でも願いを叶える魔法なんてのも有ります。」
そういうとレミリアさんにパチェと呼ばれていた魔女は物凄い勢いで食い付いてきた。
「何でも願いを叶えるですって?具体的に何を代償とするの?」
「経験値っていうものなんですけど……なんて言ったらいいかな。」
「経験値……なるほど、魂の欠片ね。」
魂の欠片か、言い得て妙かもしれない。
「他には何か無い?」
「他には……天使を召喚したり、効果範囲内を灼き尽くしたり……」
「なるほどね。というかあなた、それだけの魔法が使えるのに知識がからっきしなのは何故?許せないわ。」
「え?」
「だから、あなたの存在自体が気に食わないの。」
ええ……凄い暴言を吐かれたぞ。何か傷付くな。
「私の元で魔法を学びなさい。あなたの持つ魔法に相応しい知識を授けてあげる。」
「いや……その、勉強は苦手で……」
「はあ?私の弟子になりたいなんて奴は山ほど居るのよ?……まあいいわ。あんたに拒否権はないの。分かったらそこに座って。はい。」
えぇ。なんで異世界に来てまで勉強しなくちゃいけないんだよ……
でもまあ、この魔女に師事すればナザリックの支配者に相応しくなれるかもしれない。とりあえずやれるだけやってみよう。
俺は以前の自分とは比較にならないほどポジティブな気持ちで机と向かい合った。……でもやっぱり勉強は嫌だな。