「キリサメ・マリサ様。これで登録は完了となります。こちらが等級を証明するプレートになります。」
「おう、あんがとよ。」
銅……まあ最初はそんなもんか。それにしてもプレートって思ってたより重いんだな。
「試験は受けなくて良かったの?もしかしたら少し等級が上がったかもしれないのに。」
「お前なぁ……忘れてるかもしれないが、私はまだ位階魔法は使えないぜ。」
私がそういうと目をパチリとさせて咲夜は固まった。
「……そういえばそうだったわね。」
こいつはいつもキリッとしてる癖に何処か抜けてるというか、天然ちゃんというか……。
まあ個人的には完璧すぎる人間よりは好感が持てるが。というかこいつの場合、多少の欠点がないと人間らしさが皆無だな。
「そんな事より、依頼は無いのか?」
「そこの掲示板に貼られてるわよ。……多分最初のうちはロクな依頼がないと思うけど。」
どれどれ……何だこれ。猫が居なくなったから探してほしい?こっちは……従業員がいなくなったから数日間働ける方を募集中?
ちなみに、字はまだ読めないからパチュリーの作った眼鏡で翻訳している。
「何だこれ。何処に冒険者要素があるんだ?」
「言ったでしょう?最初はそんなもんだって。それか、私宛の依頼を一緒にやる?」
確か咲夜はアダマンタイトだったな。というか、今更だがただの付き添いなのに変装する必要はあるのか?
そういえば咲夜じゃなくてセレネと呼ぶように念を押されたな。
レミリアもそうだが……変わってるよな。私にはわざわざ身分を隠すなんて器用な事は出来ないぜ。
「それって大丈夫なのか?」
「規則的には問題ないわ。ただ、冒険者の不文律は破る事になるけど。」
グレーって事か。でもまあ、雑用みたいなのを何回もやるよりはマシかもな。
「具体的な内容は?」
「商人の護衛ね。バハルス帝国までですって。」
なんだ、簡単そうじゃないか。
「楽勝だな。んで、報酬はいくらだ?」
「ほら……ここ。」
ん?……は!?数日間護衛するだけでこんなに貰えるのか!
「でも、これは私を指名してるからね。アダマンタイト級冒険者への依頼料としては妥当な金額よ。」
私が思ってたより最高位の冒険者ってのは凄いんだな。色々と。
「私が着いて行って大丈夫なのか?指名依頼なんだろ?」
「この商人が求めてるのは護衛じゃなくて私とのコネよ。おまけが一つ着いてくるくらいで文句は言われないわ。」
おまけって……まあそうだけどさ。色々と言い方ってもんがあるだろうに。
「まあ……何でもいいぜ。とりあえず雑用を熟すよりは良さそうだしな。」
何が悲しくて異世界に来てまで雑用をしなくちゃならんのだ。おまけに依頼料は雀の涙と来たもんだ。
……私は絶対にごめんだぞ。
「了解、じゃあちょっと待ってて。」
咲夜は依頼を受注しに行ったらしい。よく見ると受付嬢の対応も他より丁寧な気がする。これがアダマンタイトの力か。
「はい。受けて来たわよ。……それで、その格好で行く訳?」
咲夜は私の頭から足元までを見るとため息を吐いた。
「人を見てため息を吐くなよな!……失礼な奴だぜ。生憎だが他に服なんて持ってないぜ。」
何かおかしいか?いつも着てるし、何より魔女っぽいし、私のお気に入りなんだが。
「とりあえず、冒険者は普通の服で依頼を受けないわ。」
確かに周りの奴らはみんな鎧なりローブなりを着てるな。一番多いのはレザーアーマーか。
でもどうしろってんだ?レミリアに借りた金しか無いしな。装備を買うってんなら妥協はしたくないし……
「魔理沙……これは絶対にパチュリー様に言わないでよ?」
咲夜によると、私がこの世界に来た段階でパチュリーは私の装備品を用意していたらしい。
……なんでパチュリーが私の為にそんな事するんだろうな?心当たりが全く無いぜ。
「まあ、貰えるんなら貰っとくぜ。」
パチュリーが作ったってんなら性能は保証されてるようなもんだしな。
「ちゃんと感謝しなさいよ?お嬢様が自分の装備品を作って欲しいって言った時は嫌々作ってたのよ?」
へー。まあレミリアの事だからいつも似た様な事を言ってパチュリーを困らせてるんだろうな。
……想像しなくても目に浮かぶぜ。
「へいへい。ちゃんと感謝してるぜ。」
「はぁ……とりあえず、紅魔館に戻りましょう。私も私服のままだし。」
私服といっても見た目は全然違うけどな。まず髪が紫だし……中身はそのまんまだが。
━━━━━━━━━━━━━━━
「あら?咲夜。もう戻ったの?」
まだ三時間も経ってないんじゃないか?かなりスムーズに登録出来たらしい。
「はい。それと魔理沙の装備を取りに来ました。」
「ああ、パチェから預かってるわ。本人は未だに弟子に魔法を教えてるらしいけど。」
まさかパチュリーが弟子を取るとは思わなかった。それも魔法が使える事以外は絵に書いたような凡人。
思想も魔法使いには向いていない。さっき聞いた時には驚いたわ。
正式に弟子を取るのは初めてらしいけど……そもそもあいつにこっちの魔法が覚えられるのかしら?
彼はお世辞にも頭が良いとは言えないし。まあ単にパチュリーの気まぐれかもしれないけど。
それに魔理沙にも何か作ってあげてるみたいだし。……私にもサプライズで何か用意してくれればいいのに。
「パチュリーが弟子を取ったのか!?」
そういう反応になるわよね。彼女の性格上、魔女のしきたりも文句を言いながら一応守ってるし。
何より魔法使いにとって弟子を取るというのは特別な意味を持つのだ。
弟子が無能なら師匠も……と言う事になってしまう。
それは彼らのプライドが許さないだろう。私の予想だが、モモンガはアホみたいな量の知識を叩き込まれるんじゃなかろうか。
思考能力そのものの向上には限界があるけど、知識というのは誰でも身に付ける事が出来る。
私自身も、恐らく王国の第三王女やアルベドなんかには思考能力という一点で見れば多少劣っていると思っている。
だがそれらは知恵でカバー可能なのだ。思考能力勝負ならパチュリーにやらせればいいのだ。
さて、話が逸れたが、要は弟子は師匠に相応しくあらねばならないという事だ。
パチュリーがその辺に妥協する事は残念ながら有り得ない為、モモンガは恐らく地獄を見るだろう。
「その反応は予想出来てたわ。私も困惑してるの、詳しく知りたいなら本人に聞いて頂戴。」
まあ、今は間違いなく返事を期待出来ないが。
「それよりその装備よ。羨ましいわ、まさかパチェが自主的に作るなんてね。」
「見た目は……あんまり変わんないな。少し生地が違う気がするが。」
「詳細は聞いてないけど、かなり気合いを入れて作ったらしいわよ。」
見た目は確かに……少し色が濃い、かしら?本当に違いが分かんないわね。
何の生地って言ってたかしら。
「ただの布じゃないのは見りゃあ分かるが、これは何で出来てんだ?」
「さあ?私も知らないわ。そんな事より、依頼を熟さないとランクは上がらないわよ。」
「分かってるぜ。依頼はもう受けてあるんだ、明日の朝王都の宿で合流らしい。」
ふーん。まあ、魔理沙ならすぐ上がるでしょう。組合が放っておく訳ないもの。
「咲夜、紅茶ちょうだい。」
「かしこまりました。」
私は一瞬で目の前に現れた紅茶を優雅な動作で口に含む。……あっつ。舌火傷したわ。
二人に感ずかれないようにすまし顔でもう一度紅茶を口に含む。
あっつ!!!これ絶対温度おかしいでしょ!
私は熱すぎて目に涙を浮かべながら紅茶のカップをそっとテーブルへと戻すのだった。
ちなみに横でニヤついていた咲夜はシバいておいた。