ゲルグさんが好き。天然で優しい化け物だ。
「勘違いしてんじゃねえぞ。これは幸運のピースマークだ。化け物と負け犬の子が自分の意思で生きた証だ」
フーマはそういうと、意識を失った。
ゲルグは己の弟子にして友人が話したことを聞き、ようやく答えが知った。
瀕死だった彼は空にある光の輪に言い放つ。
「お前が渡すのはただの力だ。これと同じ」
ゲルグの手から光の手裏剣が現して、何もない場所へと投げた。
「故に、お前の力を求めるものは決してそれを手には入れない。いや、力を得ても望んだ光の巨人になれないだろ。善人だろうか、悪人だろうか。力を求めた時点で、雑念を生じ力を歪む」
戦士の頂にまつわる伝承を、今一度思い出した。
二人の戦士がここに登り、一人は光の巨人となり、一人は魔人となった。
三人の兄妹は山麓を経由して、二人の兄は光の巨人となり、妹は怪獣となった。
そして、多くの人は何も手に入れずに失意の中、生を終えた。
「あの魔人も怪獣も、お前はかなり期待しただろ。善人だったから、力を与えたのだろ。それに比べて、俺はバカだ」
ゲルグは吐き出した。
「この子が僅か数年で悟ったことを、俺は死に直面してからようやくわかった」
化け物が光に手にすること自体は何の証明にもならない。
そもそも、この宇宙では善悪自体は曖昧だった。
悪をもって悪を制す。正義と正義がせめぎ合う。
すべては他人に好き勝手に解釈される。
戦士の頂の力はゲルグにとって着飾るものでしかないということを見抜けられたから、力が与えられなかった。
「だけど、愚者でも、譲れないものはある。力を得られなくても、それだけは決して諦めない」
フーマが言ったことを思い出したゲルグは、己の生き方を見つめ直した。
振り返ると、後悔ばかりの生だった。
しかし、フーマと過ごした日々は胸に張って誇れるものだった。
なら、彼の命だけは決して諦めはしない。
「守るべきものがある俺は幸運だ。たしかに、この子が言った通りだ。俺たちは幸運すぎる」
ゲルグは軌道上にいる戦艦がミサイルを発射したことを感じた。
よほど、二人を抹殺したいようで、十枚以上のミサイルは戦士の頂に向かっている。
ゲルグは満身創痍の体を無理矢理に巨大化した。
体は悲鳴を上げても、構わない。
四本腕で大きな手裏剣を作り出し、ミサイルに放った。
普段はそれぞれの手でこれより威力が高い手裏剣を放てるが、今はこれで限界だ。
一発、二発、三発……
ミサイルを六枚撃ち落した頃、ゲルグの体は限界が訪れた。
力は集めなくなって、心臓の鼓動が止まりそうで、巨大化した体は見る見ると元々の姿に戻っていく。
全身の細胞は諦めろ、楽にしろって、ゲルグに叫んだ。
「諦めない!」
ゲルグはもう一度空に手を伸ばした。
【諦めるな!】
周りの光景はどこかの遺跡に変わった。
伸ばした手がその中心に安置した石棺に触れた。
幻影から目を覚ましたゲルグは謎の物体を握っている。
初めて見たものだが、なぜか使い方をわかっている。
鞘を抜いて、それを天にかざした。
星間連盟の戦艦は信じられないものを見た。
いきなり現れた光の巨人は四本の腕で、放たれたミサイルをすべて撃ち落した。
全身は水色で、腕には水生生物の水搔きを生じているが、紛れもなく光の巨人だ。
戦意を失った戦艦は即座に帰還命令を受け、惑星O-50から離脱した。
連盟の帰還を確認した巨人は一筋の光となってどこかに消えていく。
そして、残された瀕死の青年は光に包まれた。
ゲルグは見知らぬ惑星で目を覚ました。
光が彼から分離する前に傷をすべて直したが、疲労で指一本さえ動けない。
今でも夢を見たような気がする。
巨人と化した時は、ゲルグは心の底から理解した。
あの無辺無尽と思われる光の本質は、絆。
生きることを諦めない命が本来持ち得る強さ。
彼は思わずに苦笑した。
結局、あらゆる光は己自身に宿るもので、外に求めるものではない。
その答えを得たのはかなり遠回りしたが、それでもいいと思っている。
ゲルグは静かに目を閉じて、夢を見た。
風のような蒼き巨人は人々を助ける夢を。
ノアさんはゲルグを別の宇宙へ送った。
O-50の宇宙にいたら、星間連盟に狙われるから。