あるトレーナーの話   作:撹拌された抹茶

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技名は漢字表記になってます。


かえんほうしゃ→火炎放射


そらのはしら

「うわぁ、本当にすごい雨だわ。」

 

少女がハウスから出ると思っていた通り土砂降りで、風も吹き荒れ横殴りの雨になっていた。ハウスから出て横にずっと走るとミクリが教えてくれた鍾乳洞の入口の様なところが見えてくる。入口は大人1人くらいの大きさはあるがそれでもギリギリで、ダイゴやミクリは男性の中でも線が細いため特に問題なく入れるだろう。それにしても教えてもらえればすぐに見つけることが出来るが、入口は岩陰に隠れている為知らなければ絶対気づかないであろうと思うほど変な所に存在していた。

少女は足を滑らさないように慎重に入ると、そこはとても暗くブースターに出てきてもらう。雨の影響で湿気が強いためブースターの自慢の鬣が少しうねっていて、本人は少し嫌そうにしていた。ブースターにごめんね、と言うと鬼火を出してもらい、明るくなった一本道を真っ直ぐ進む。暫く進むと前方向から淡い光が漏れているのを見つけると少し足の進みが早くなった。暗い道を抜けるとそこには幾つもの鍾乳石が氷柱のように垂れ下がっており、水の光を反射して怪しく光っているようにも見えた。得も言わない自然の造形美に見とれそうになるが、本来の目的を忘れてはいけないと首を振り鍾乳洞の奥へ進む。鍾乳洞の奥はすぐ入江に繋がっていて、鍾乳洞から出ると悪天候により荒れた波が崖に打ち付けられていた。少女は海の状況を確認したあと、1度鍾乳洞の出口に引き返す。雨風が当たらない所まで入ると今日の主力になるであろうポケモンが入ったモンスターボールを取り出し空中へ投げた。

ポンと出てきたポケモンは鈴を転がしたような美しい声を上げ、辺りをキョロキョロと見回し、鍾乳洞の外がかなり荒れていることに気づいた。

 

「出てきてくれてありがとう、ラプラス。」

 

少女はラプラスの首になるところを撫で、今日呼び出した理由を説明する。

 

「どう、ラプラス行けそう?無理しなくていいんだよ、どうせお昼は落ち着くみたいだから。」

 

と少女は声をかけるがラプラスは少女を一瞥した後、海の方へ迷いなく進んでいき、海へ入っていってしまう。少女は鍾乳洞の出口でラプラスがどうするのか見ていたが、振り向いたラプラスが行かないのかという目をしたので、カバンからフード付きの上着を取りだし着るとフードを目深く被りラプラスの元へ走っていった。

ラプラスの甲羅の部分にしっかりしがみつき荒れる波の動きに耐える。ラプラスの様子をちらりと見ると、当の本人は逆に何故か楽しそうでやる気に満ちていた。この悪天候のおかげで海には人っ子1人おらず、誰にもバトルを吹っかけられることもなく127番水道を抜け、128番水道も抜け、129番水道、130番水道と難なく通り抜け131番水道に位置するそらのはしらまでたどり着いた。

 

ルネを経ってから2時間後にそらのはしらに繋がる洞窟までたどり着き、少女はラプラスをボールに戻してから洞窟の中に入ると沢山の水を吸った上着を一旦絞り、水を出す。少女は一息つくと洞窟の中を歩き出した。洞窟は予想外にも短く、外へと通じる道もほぼ一本道であった。外に出るとまだ嵐は吹き荒れ風は轟轟と流れている。少女は飛ばされないように急ぎながらも慎重に足を進め、そらのはしらへ向かう。

何とか飛ばされずにそらのはしらまで着くことができ、長く被っていたフードを取り去り上を見上げた。どうやらそらのはしらは5階建ての様だが、その殆どは床が抜け落ち各フロアを繋ぐのは申し訳程度に設置されている梯子のみであった。

少女は瓦礫を避けながらつま先で探るようにして慎重に歩いていく。有難いことにフロア毎を繋ぐ梯子は外れそうになったりグラついたりすることは無く、屋上へ登ることが出来た。流石にここまで何事も無いことに虫の知らせのようなものを感じる。1度引き返そうかと思ったが、どうしてか引き返すことをしてはならないように感じてしまい、足は止まることなく屋上へたどり着くことができた。

 

外へ出ると登っている最中に嵐は治まったのであろう、雨は止み風も弱く吹いている程度だった。

屋上に来て分かるが、床が三角の形で作られていることから塔自体が三角柱状になっているのだろう。珍しい形に何か意図があるのだろうかという疑問を持ちながら中心部分まで歩いて行く。少女がす 塔の真ん中ほどに歩いていくと突然人の声がした。

 

「あ"ァ〜?なんだァ人がいるなァ?まだガキじゃねェか、しかも女。」

 

「!!、、誰。」

 

バッと後ろを振り向くと少女が登ってきた方向に大柄な男が立っていた。身長は190センチ近く、横幅はシンオウのマキシやカロスのウルップの程で格闘技かスポーツの何かをしていたのだろう体全体は筋肉質である。自身と体格差がありすぎる男に少女は2歩後ろへ下がる。

 

「おいおい、べつにまだ何にもしてねぇだろうがよォ。」

 

とげたげた笑う男に少女は、まだってことはこれから何かするんじゃないかよとキッと睨んだ。

 

「お、なんだよ。俺を睨むたァ思ったより威勢がいいなァ?」

 

少女の様子に気分を良くしたのか更にげらげらと笑う。

 

「何を遊んでいるのよ、オトギリ。あんた、ここに何しに来たわけ?」

 

男が大柄故に気づかなかったが、その後ろにはもう1人仲間がいたようだ。男の影から出てきたのは女性で、金髪にこの場に不釣り合いな黒いドレスを纏い動きずらそうなヒールを履いている。その声によると大柄の男はオトギリと言うらしい。

 

「おぉい、カマスミィ。テメェまだそんなカッコしてやがんのかよ。どうやってここまで登ってこれたんだァ?」

 

「部下のポケモン使ったに決まってんでしょ。私があんな所、普通に歩くわけないじゃない。そんなことも分からないなんて流石脳筋ゴリラね。で、何?そこの小娘は。てか、こんな悪天候の中ここまで来るバカなんかいたのね。」

 

オトギリにカマスミと呼ばれた女は終始不機嫌そうな態度で居ると、今度は少女を見つけギロリと睨んだ。少女は男のみならずもう1人仲間が来たことに少しの焦りを覚え、腰にあるモンスターボールが入ったポーチに手を添えて警戒している。

そんな少女にふんと鼻を鳴らし、まぁいいわと背を向けた。

 

「私たちの目的はレックウザよ、あのガキはたまたまここに来ていただけでしょ。さっさと始末してくれる?」

 

「お、やっちまって良いんだな。いいぜェ、あんまり経験はねェが、子供を痛ぶるのに躊躇はねェぜ!!」

 

「ッ!!!」

 

オトギリが今日1番の下卑た笑みを浮かべた時、少女はモンスターボールを空中へ投げる。モンスターボールからボーマンダとブースターが飛び出し、オトギリを威嚇する。

 

「おぉ!良いポケモン持ってんじゃねェか!!楽しめそうだ!!」

 

オトギリは心底楽しそうに笑った後、オトギリもポケモンを出す。出てきたのはオノノクスとニドキング、ボーマンダとブースターは些かタイプ相性が悪いが、タイプだけがバトルではない。それを理解している少女もポケモンたちも引き下がろうとしない。それにまた満足そうに笑ったオトギリは見敵必殺かとでも言うように技を指示する。

 

「オノノクス、ドラゴンクロー!ニドキング、岩石封じ!」

 

オノノクスとニドキングがそれぞれボーマンダとブースターに突っ込んでくる。ボーマンダたちはそれに慌てることも無く、ボーマンダはドラゴンクローを龍の舞で避け、ブースターは岩石封じを飛んで避けると、岩を足場にニドキングに詰め寄り、手に炎の牙で噛み付いた。

 

「ハハッ!いい動きだ、そう来なくっちゃなぁ!オノノクス、ボーマンダにドラゴンクロー!ニドキングはブースターをひっつかめ!」

 

それぞれオトギリの指示通りにするが、ボーマンダもブースターもそれをサラリと躱す。しかし、その時オトギリがニヤリと笑った。

 

「オノノクス、馬鹿力だ!ボーマンダの尻尾掴んで、ブースターの方に投げつけてやれ!!」

 

オノノクスのドラゴンクローをサラリと避けたボーマンダを間髪入れずにオノノクスが尻尾を掴む。

 

「ボーマンダ!!」

 

少女が叫ぶが、ボーマンダはオノノクスの馬鹿力によってブースターの方へ投げ飛ばされる。ブースターは自分より大きなボーマンダが突然飛んできたことにより対応しきれず激突してしまう。

そこに畳み掛けるようにニドキングが地ならしを発動させた。

諸に技を食らった2体は鳴き声を上げて苦しむ。少女はその様子に歯を食いしばって見ることしかできずにいた。

 

「おいおい、そんだけで終わりじゃねぇだろォ?俺をもっと楽しませてくれや!!」

 

オトギリがそう叫ぶと、オノノクスとニドキングも同じように雄叫びを上げる。ボーマンダとブースターは立ち上がり首を振って対抗するかのように鳴く。

 

「そうだ!そう来なくっちゃなァ!!オノノ

「ねぇ、ちょっと。」

あ"ぁん?」

 

オトギリがオノノクスに指示を出そうとした時、つまらなさそうに傍観していたはずのカマスミが声を掛ける。いい所で止められたオトギリは不機嫌そうに声を上げカマスミを睨みつけたが、彼女は全く気にする様子もなく言葉を続けた。

 

「あんた気づかないわけ?そこの子、1回もポケモンに指示出てないわよ。」

 

はぁ?とオトギリは声を上げるが、カマスミの言う通り先程のバトル中1度も少女はポケモンたちに指示を出して居らず、ポケモンたちが自分たちだけで戦っていたのだ。

 

「おい、何でだァ?俺を舐めてんのかテメェ。」

 

青筋を浮かべたオトギリはカマスミから少女に視線を移し睨みつける。強面のオトギリから睨まれた少女はビクッと肩を震わせる。

 

「わ、私は、ポケモンバトルができない、、、だから、今はポケモンたちだけで戦ってもらってる。」

 

「あ"?ポケモンバトルができないだと?巫山戯てんじゃねェぞ!!」

 

更にピキピキ青筋を増やすオトギリはワナワナお震え、少女に怒鳴りつける。

 

「やっと!やっと俺は!!長ぇ情報収集やら事前準備やらが大方終わってやっと楽しめそうなバトルができそうでワクワクしてたのによォ、、それが、こんなバトルもできない腑抜けのクソガキだとわなァ!俺をバカにしてんのか!!」

 

憤慨した様子で少女に詰め寄ろうとするオトギリに自身のトレーナーが危ないことを察したボーマンダとブースターがオトギリを止めようとする。

 

「腑抜け野郎のポケモンと勝負する気はねぇ、、オノノクス、ニドキングやれ!!」

 

オトギリしか見ていなかったボーマンダとブースターは自分に近づく2体に気づけずオノノクスのドラゴンクローとニドキングの毒づきを急所に受けてしまった。音を立てて崩れ落ちるボーマンダとブースターに少女は叫び、近寄ろうとする。

 

「おっと、どこに行こうとしてんだァ?」

 

駆け出した少女の首を花を掴むように掴みあげたオトギリはそのまま少女の首を締めていく。少女はオトギリに首を締め上げられ、もがいて抵抗するが更に首を締められ、それにより気道と総頸動脈が止められ段々と脳が酸欠状態になってしまい意識が朦朧としてくる。ぼやける視界の片隅で男が自分を締める左手に違和感を覚えた少女は、何とか左手を視るとそこには惑星のような刺青が見て取れた。

 

(この人、ツワブキさんたちが言って悪の組織!ということは、あの女も恐らく仲間、、、。)

 

「ちょっと、流石に殺さないでよね。私たちはここに最後のデータを取りに来たのよ?実行はもう少し後、それまで変な騒ぎは起こさないで頂戴。」

 

カマスミがオトギリに止める様に言うが、オトギリは絶えず少女の首を締め上げる。遂にミシミシという音がし始めカマスミも焦りの表現を浮かべる。

 

「ちょっとオトギリ!止めなさいって言ってるでしょう!!」

 

遂にカマスミもまずいと思ったのかオトギリの名前を叫ぶと同時に、その場に不釣り合いな音が鳴り響いた。

 

ビー!!ビー!!ビー!!

 

何かの警報音に似たそれに、カマスミが急いで懐から小型の機械を取り出した。どうやら音の発生源はその機械らしい。

カマスミが取り出した機械には何かの数値が表示されており、段々とその数値が爆発的に上昇していた。それを見たカマスミはバッと空を見上げ、叫ぶ。

 

「避けなさいオトギリ!!」

 

カマスミが叫ぶが早いかオトギリの頭上に黒い影が飛来した。オトギリは間一髪で少女を投げ捨て、己は後ろへ飛び退けてそれを避けた。影は砂埃を巻き上げながら着陸する。

 

「なんだなんだァ?」

 

オトギリは片方の口角を上げ、好戦的に笑う。そんなオトギリに投げ捨てられた少女は床に激突し、ゴロゴロと転がったあとゲホゲホと咳き込み、酸素を目一杯肺に取り込んだ。少女は上体だけ起き上がり砂埃の中にいる正体に目をやる。

砂埃が段々晴れ影が正体を現した。

 

「ーーーー!!!」

 

雄叫びを上げ現れたのはいつの日にか見たあの黒いレックウザだった。レックウザはオトギリたちに一瞥もせず後ろを振り向いき、少女を視る。朦朧とする意識の中で少女はレックウザの不審な動きに戸惑う。

 

「やべぇな!!これがレックウザかよ!!ほんとに来やがったぞ!!」

 

レックウザの様子を気にも留めないオトギリは目の前の伝説に興奮が頂点に達していた。それはレックウザが伝説だからと言うより、今まで出会ってきたどんなポケモンより圧倒的強者の貫禄と強圧に興奮していると言った様子であった。そう、この男は勝負事にしか興奮できないような完全脳筋男だった。

 

「あのお方が言った通りレックウザがここに、、、流石ですわシュオウさまぁ。」

 

語尾にハートが付き添うなねっとりとした話し方をしているカマスミは先程の少女やオトギリに対して絶対零度だった女性とは全く違う女性に見える。

騒がしい外野にレックウザは少女から目線を外しオトギリたちを見ると、そんなレックウザにオトギリは早々にテンション高々と攻撃を仕掛けた。

 

「オノノクス、逆鱗!!ニドキング、岩石封じ!!」

 

オノノクスとニドキングはレックウザに攻撃を放つが、レックウザが一瞬でその場から姿を消した。オノノクスとニドキングは立ち止まり辺りをキョロキョロとみるが何処にもレックウザの姿は無い。あの巨体が一瞬でどこに行ったというのか。そう隙を見せた2匹を上から空気塊のようなものが襲う。空気は地面に激突すると今度は跳ね返り、上昇気流を発生させオノノクスとニドキングを巻き上げた。

 

「オトギリ、上よ!!レックウザの暴風だわ!!」

 

カマスミの声によりオトギリが上を見るといつの間にか消えていたレックウザの姿がそこにあった。

レックウザの暴風により巻き上げられた2体は地面に叩きつけられそのまま目を回す。オトギリは2体をボールに戻し、新たなボールを投げようとした時、何処からともなく閃光が目の前を通り過ぎる。その閃光はレックウザの物では無いことにオトギリは苛立った様子で叫んだ。

 

「何処のどいつだァ?!出て来やがれ!!」

 

「言われずともそのつもりだよ。」

 

オトギリの叫びに塔の影からポケモンに乗った男性が姿を現す。男の正体は、何を隠そうこのホウエン地方のチャンピオンであるツワブキ・ダイゴその人であった。ダイゴはエアームドに乗り、その横には銀鉱石のメタグロスの姿が見える。メタグロスは倒れている少女の前に降り立ち、オトギリたちから守る様に立ちはだかった。

レックウザは突然のダイゴの登場に驚くこともなく、少女を守る姿勢を取るメタグロスを確認するとダイゴとエアームドには攻撃するつもりは無いのかオトギリとカマスミのみをじっと睨んでいた。ダイゴはレックウザがこちらに攻撃するつもりが無いことを不思議に思ったが、それならそれで好都合だと目の前の敵であろう2人に目を向けた。

流石に伝説のポケモンに加え、ホウエンチャンピオンの登場に分が悪いと分かると、今日無理をする必要は無いと2人は大人しく去っていった。

オトギリたちが去っていったのを視認した少女は限界ながらも持ち上げていた上体もついに力が入らずバタリと地に伏してしまった。意識も既に飛びかけており、さっきまでは気力だけで保っていただけだったのだ。薄れゆく意識の中で空を見上げるとあのレックウザと目が会い、レックウザは少女の姿をもう一瞥すると雄叫びを上げて空へ舞い上がって行った。少女が最後に見たのは雲の向こうへ去るレックウザと、自分に駆け寄るダイゴの焦った顔だった。

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