あるトレーナーの話   作:撹拌された抹茶

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見慣れない場所、見慣れない風景、見慣れない人々。

少女の視界に拡がっているのは全く見覚えのない世界だった。そこにはビルもコンクリート家も、ポケモンセンターも、現代を思わせるような建物はなく、藁で出来た家が立ち並んでいて、ここが自分の住む世界ではなく過去の世界だとわかる。自分に何が起こっているのかわからない。だが、少女はぼんやりとこれは夢なんじゃないかと思う。道行く人の誰にも目が合わないからだ。誰も少女に気づいていない。そんなことは、おかしいのだ。昔の人々は村以外の人が突如として現れれば驚き何者かと探りを入れるし、閉鎖的なところならば問答無用で追い出しにくるだろう。

少女はこれ幸いと村の中をゆっくりと進む。きょろきょろと周りを見渡し観察する。穏やかな村に、自身の故郷を思い出し笑みがこぼれる。

そうしていると、遠い、しかし近いところで轟音が響き渡る。村人がなんだなんだと騒ぎ出す。轟音が響いてきた方向を見上げると、2体の巨大なポケモンがぶつかり合い、激しく争っていた。雨が降り、日が照りつけ、雨が降り、日が照りつけ。天変地異といっていいほど空が混乱し始める。

『グラードンとカイオーガだ!!!』

誰かがそう叫んだ。すると周りの村人たちは一斉に慌て出す。

『皆早く家の中に入れ!!!』

『馬鹿野郎!そんなことしても意味がねぇ!!』

『私の子は、、、!私の子はどこ!!』

『とにかく早く逃げろ!!!』

阿鼻叫喚。老若男女がグラードンとカイオーガの争いに恐れ、喚く。家の中に逃げ込むもの、泣き叫ぶもの、焦りと怒りが混じるもの。

その中で少女だけが、ただ上の空でその様子を見続けていた。今の少女は傍観者だった。

するとドラマやアニメのシーンが変わるように、ぱっと視界が切り替わる。

何か大きなもののものの前で大勢の人々が膝をつき祈っている。

空が割れる。照りつけるような日差しではない。優しい、陽の光が降り注ぐ。人々が空を仰ぎ見ると、雲の隙間からあの龍がやってきた。

少女は人々と同じように空を見上げ、目を瞬くと、また視界が変わっていた。

村の風景じゃない。白い何も無い世界だった。

少女がゆっくりと前を向くと、目の前には黒い龍。

レックウザ、、、少女がその名を呼ぶと、レックウザは首を下げる。少女は頷き、レックウザに手を伸ばした。

 

………

 

 

少女がハッと目を覚ますと一度だけ見たことがあるような無いような天井が見えた。先程の夢はなんだったんだろうか。少し混乱しながらムクリと起き上がるとどうやらそこはルネシティのハウスで自身に当てられた部屋であることに気づいた。朝に窓辺に干しておいたシーツがあったからだ。

シーツを触り乾いていることを確認するが今は畳む気は起きず吊るしたまま少しズラして窓の外を見る。外は少女が最後見た空と打って変わって晴天だった。1日経ったのだろうかと時刻を確認しようとカバンに入れっぱなしのはずのスマホロトムを取り出す。画面をつけると待ち受け画面の日付は1日経っていることも無く、時刻は14時半を回った所だった。自分が倒れた時間は分からないが、長い時間寝ていた気がする少女は少し時差ボケのような感覚に陥る。ポケモンたちは、とモンスターボールの入った腰ポーチを探すが、ベッドや机の上、カバンの中の何処にもなく、ポーチを探すためにも兎に角リビングに行こうと部屋を出る。

 

リビングに音を立てずに入ると、ソファに長い足を組んで座っているミクリを見つけた。ミクリさん、と少女が声を掛けるとミクリは物凄い勢いで声の方向に首を動かした。ミクリは少々ツリ目のダイゴとは違い、タレ目気味で美しいながらも威圧感のない瞳なのだが、今その目は大きく開けられ少し怖い印象を与えた。少女を視界に入れたミクリは顔の緊張を解きいつも通りの表情に切り替えたが、少女は背筋が凍る感覚を覚えた。

 

「あぁ、良かった。目が覚めたんだね、お嬢さん。体の調子はどうかな?」

 

「は、はい。先程起きました、、、。え、と、体も、はい、大丈夫、です。」

 

「そうかい、それは良かった。」

 

「、、、。」

 

「、、、。」

 

ミクリの声は少女の体を気遣う物で、少女もそれが分かったから大丈夫です、と答えた。その後のミクリの言葉も少女の回復に安心するものだったのが、如何せんその後の会話がない。少女も何か言った方がいいのか分からず、沈黙が続くだけだった。

しかし、意外にもその沈黙を破ったのはミクリだった。

 

「すまない。」

 

「え?」

 

いきなりのミクリの謝罪に少女が戸惑う。何故ミクリが自分に謝るのか全く分からないのだ。

 

「僕が軽率に行かせてしまったから、、、。こんなことになるなんて思わなかったんだ。」

 

「い、いえ、ミクリさんは何も悪くありません。あそこに行くことを決めたのは私です!外だって酷い天候だったのに危機感なく海を渡ってそらのはしらに行って、勝手にバトルに負けて、勝手に気絶しただけなんです、だからミクリさんは全く悪くないんです、、、。」

 

ミクリの言葉に少女は焦り、支離滅裂な事を言っている自覚はあったが口を止めることはできなかった。だって、本当にミクリは何も悪くないと思っているから。少女があそこへ行ったのは少女の意思であるし、ミクリも少女もあんな奴らが出てくるなんて思っていなかったのだ。ただ言うのなら少女に鍾乳洞の存在を教えただけであり、またそれも情報が無いなら無いで別の方法を少女は取っていたため海に出るのが少し早くなったくらいである。

 

「そうかい、、、。あぁ、そうだ、君のポケモンたちはここだよ。ポケモンセンターに預けていたのをダイゴが届けてくれてね。ボーマンダとブースターは元気になったみたいだよ。」

 

ミクリが微笑みながら、少女が探していたポーチを差し出す。少女はポケモンセンターにまで行ってくれたのかと申し訳なくなりながらお礼を言って受け取った。チラリと見たミクリの顔は笑っているが昨日のような笑みではなく少し影が落ちているように感じた。それに気づかない振りをした少女はポーチを抱きしめた。

 

「あの、私、ポケモンの様子見るのに外に出ます、、、。」

 

「あぁ、行ってらっしゃい。」

 

ミクリの言葉に軽く頭を下げ、足早に玄関へ向かった。

 

……

 

ポンっといつもと変わらない軽い音を立てて開くモンスターボールから出てくるのはオトギリのポケモンに倒れたボーマンダとブースター。

ボーマンダとブースターは少女に申し訳なさそうな顔をして首を下げていた。

そんな2体に少女は泣きたくなり、ボーマンダとブースターを抱きしめた。ごめんと謝りながら。2体は少女は悪くないと言うかのように首をブンブン振る。

 

(私のせいだ。私がちゃんとバトルできていればこの子達をあんな風に傷つけられることも、この子達にこんな顔をさせる事にもならなかったのに。)

 

少女は心の中で何度もポケモンたちに謝る。そしてゆっくり抱きしめていた腕を緩め、ボーマンダとブースターに向き合う。

 

「ボーマンダ、ブースター。助けてくれてありがとう。指示が無くてもあれだけ動けて凄いね、かっこよかった。」

 

今度は謝るのではなく、純粋なお礼を伝えると2体は嬉しそうな顔をして頷いてくれた。少女はホッと息を着くと、ハウスに戻ろうかとも思ったが自分がいる事でミクリにまたあんな顔をさせてしまうと思うと申し訳なくなってしまう。そう考えているとボーマンダが少女に背を向けばさばさと羽を振った。このボーマンダの動きは背中に乗れという意思表示であり、また自分が少女を乗せて飛びたい時にするボーマンダに進化してからずっと変わらない行動だった。

 

少女は苦笑を漏らす。ボーマンダに気遣わせてしまったことへの自己嫌悪だ。

ブースターを撫でてからボールに戻しボーマンダの背に乗った。ボーマンダは羽を力強く動かし飛び立つと、一気にカルデラ壁の上に飛び上がってしまった。その元気の良さに少女はまた安心すると、今日はルネから離れないようにしようねとボーマンダに声をかけた。

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