手洗いうがいを終えたダイゴと少女がリビングに行くとミクリが準備してくれたのだろう、夕食の準備が整えられていた。
献立は副菜にオニオンスープとサラダ、主菜はホワイトチュー、主食にパン。朝以降はご飯を食べていない少女は美味しそうな夕食に口腔内に唾液が溢れた。3人は席について手を合わせていただきます、と言ってから食べ始める。
少女はまずオニオンスープを手に取り一口コクリと飲む。オニオンスープはコンソメとバターの香りがよく、丁寧に飴色にされたのであろう玉ねぎの甘みがスープによく溶け込んでいて美味しい。オニオンスープの次は主菜のホワイトシチューにしようとスプーンで掬い口に運ぶ。どうやらホワイトシチューの牛乳はモーモーミルクを使っているのであろう、とても濃厚なルーに仕上がっている。具材はシンプルなもののように見えたが食べ進めるとシャキリとしたものに当たった。どうやらそれは蓮根のようで、ホワイトシチューに入れているのは珍しいなと思いながら、食感の楽しさを感じながら美味しく頂いた。じゃがいも、人参、ブロッコリー、玉ねぎ、きのこ、鶏肉、食感のアクセントに蓮根、味も美味しく栄養価が十分に取れそうなシチューはとても満足感があるものだった。サラダはえぐみがないベビーリーフに生ハム、モモンの実とナナシの実が入っていて、フレンチドレッシングがかかったサラダだった。甘みと酸っぱさが楽しく、それをベビーリーフとドレッシングが上手く纏めてくれてとても美味しい。合間合間に食べているパンは焼きたてを持ってきてくれたのだろうか、しっとりふわふわで素材の良さが分かるパンであった。
どれも絶品な料理を綺麗に完食した少女はご馳走様でしたと手を合わせから食器を台所に持っていく。
少女より先に食べ終わっていたダイゴが何故かベスト姿で袖をまくっていた。手にはスポンジ。
「ダイゴさんお皿洗うんです?」
「ん?うん、そうだよ。君のも一緒に洗うからシンクに置いておいて。」
ダイゴに言われたままシンクに食器を置いて水につける。ダイゴはありがとうと言うと洗剤を泡立てたスポンジで意外や意外、慣れた手つきで食器を丁寧に洗っていく。それをボケっと見ている少女にダイゴがくすぐったそうにした。
「どうしたの?洗うところ見たって楽しくないだろう。」
「いえ、、チャンピオンでも洗い物するんだなって思って。」
「ぷッ、、なにそれ、、できないと思ってた?」
ダイゴが可笑しそうに笑う。二日間一緒にいただけだが、ダイゴとミクリの行動の一つ一つが上品で育ちの良さが見て取れたし、こっそりダイゴとミクリをネット検索した時にダイゴがデボンコーポレーションの御曹司であることを知った。なので、まさかそんな人が自ら皿洗いをするとは思っていなかった。
そう、ただの少女のド偏見であってダイゴもミクリも元はトレーナーであるからそれなりに自分のことは自分でできるのだ。
「まぁ、結局僕が1番強くて凄いんだよね。」
「大誤算、、、。」
「え、なに?」
「いえ、なにも。」
キッチンの片付けも終わりそれぞれミクリの入れてくれた紅茶を飲んで一息着く。ミクリとダイゴはさて、と改まってからテーブルにカップを置くと少女の方を見る。少女はダイゴとミクリに突然目を向けられたことに驚いき口に付けていたカップを慌てて離す。
「あぁ、ごめん、驚かせて。飲んでもいいんだよ。」
少女はダイゴの謝罪にいえ、大丈夫です、と返すと自分のカップもテーブルに置いて向き合う。
「それで、どうしました?」
少女の質問にダイゴたちは歯切れが悪そうに答える。
「うん、えっとね、正直怖い思いをした君に思い出させるのは僕たちとしても申し訳ないないんだけど、任務だからさ、、。」
ダイゴの言葉に少女はあぁ、と察すると苦々しく笑う。
「今日のことですよね、気にしないでください。お仕事ですし、私もわかってますよ。それに私もそろそろ話そうと思ってたので。」
少女はそう言うと、そらのはしらで起きた出来事を余すことなく話した。敵はお互いを呼び合っていたことからオトギリとカマスミという名前で合っているということ、男の手に惑星の刺青があったことから件の組織だと推測されること、彼らの話から考えるにどうやら彼らはあそこに何かの計画の最後のデータを取りに来たのであって実行はもう少し後、そしてカマスミの言葉の中に出てきていたシュオウという人物が奴らの上司だと考えられること。
少女が話し終えるとミクリとダイゴは、顎に指を当てて考える姿勢を取る。2人が同じポーズで考え込む様子を見て、この人たち本当に仲良いなと少女は場違いなことを思ってしまう。
「お嬢さんは2人組を見てどう思った?」
「どう思ったか、、、。そうですね、多分2人は組織の幹部だと思います。2人だけで行動してまし、それに風貌も幹部のそれかなって思いました。あと、カマスミ、女性の方が口にしたシュオウ様って人は団のリーダーだと思います。カマスミが陶酔仕切ってましたから。」
「なるほどねぇ、僕もそう思うよ。」
「私も同意見だね。」
あそこまで人を心酔されることができるほどのカリスマ性、そういった類の人間がただの一団員なはずがない。そう少女は思う。ダイゴとミクリも少女の意見に同意を示した。
すると、ダイゴは不意にふぅと息をついた。ミクリと少女はそれに首を傾げる。どうしたのか。
「それにしても、お嬢さんが来て2日目でこれだけ進展があるとはね。」
「あぁ、そうだね。今日1日でこれだとこれからが少し怖いね。」
「なんでなんでしょうねぇ、あはは、、。」
ダイゴたちの発言に少女は乾いた笑いしか出なかった。だって、自分自身でも正直今日以上に濃い一日が続くなら少し身が持ちそうにないと少女は思う。少女自身、悪の組織と対峙すること自体が初めての経験。慣れない環境に、プレッシャーを感じてしまうのは無理もないことだ。
少女は少し考え込んで、外でダイゴにも言えなかったことを今言うべきか迷う。気絶中に見た夢の話だ。普通なら言うべきだろうが、夢の話なので信憑性がないし、ドン引きでもされた日には寝込むかもしれない。
少女が突然ぐぎぎと歯をかみ締めて渋い顔をしたのでダイゴとミクリがどうしたのかと様子を伺う。
悩んだ末に少女はもうこうなったら当たって砕けてしまえ!と覚悟決めて、ダイゴたちに向き直った。何故既に砕ける気満々なのかは謎だが。
「あのですね、ダイゴさん、ミクリさん。」
何故か少女から放たれる厳粛な雰囲気に2人はごくんと生唾を飲んだ。
「おふたりのお耳に入れたいことがありまして、、、。」
そう言って少女は気絶していた時に見た夢の話をした。
………
……
…
「と、言うことがありましてあぁ分かってますただの夢ですただの夢なんですけどね私もそんなことあるのかと思ったんですけどレックウザに助けられましたし信憑性ないですけど夢を夢で終わらせられないんですよ頭おかしいですよね夢でレックウザとあったとか過去を見たとかとかもう本当何言ってんだって思いますよね困りますよね本当すみませんごめんなさい私は何を言ってるんでしょうか」
「うん、落ち着こうね。」
ノンブレスで喋る少女にダイゴが落ち着けと声をかける。少女の目が泳ぎすぎて2人は目が当てられなかった。苦笑いしかできない。
「そんな焦らなくても信じるとも。」
だから落ち着こうねとミクリが笑って言う。少女はそれに口を開ける。信じる?信じるの?唯の夢なのに?懐広いなぁ。と少女はミクリとダイゴの柔軟さに脱帽するしかなかった。合掌しようとしたのをダイゴに止められてしまったのは遺憾の意だが。
「まぁ、レックウザと夢であって、加えて過去を見るなんて本当夢だけに夢物語だけど、君がレックウザと縁があるのは分かっているからね。事実は小説よりも奇なり、そういうこともあるよね、きっと。」
「は、はぁ、、。」
自分から話したのにも関わらず、まさか信じてくれるとは思わず少女はそういうものなのかと思うしか無かった。少女は知らないが、この世の中にはポケモンの涙で人が生き返ったり、、メガシンカでもない絆変化と言うものだがそれを生み出したたり、唯一のゼットクリスタルを生み出したり、ポケモンの力で時間を超えて未来を変えたりなど様々なことが起きている。まぁ、全て1人の少年がやった事なのだが。
「と、なると今後の調査は君が鍵になるだろうね。」
ダイゴが少し苦い顔をする。今日のことを気にしているのだろう。鍵となるということは、今日のような首を絞めらるなんて暴力を受ける理不尽に晒さられる可能性がこれからある、ということになるからだ。
「そうですね、でも大丈夫ですよ。私には頼れるポケモンたちがいますし、これからはダイゴさんたちもいますしね。」
心配するダイゴを他所に少女は意外にもあっけらかんとする。その姿にダイゴは拍子抜けしてしまって、仕舞いには逆に笑いが込み上げてきた。
少女はダイゴが思うより強い子だったようだ。
「うん、そうだね。僕たちは仲間だ、頑張ろうね。」
ダイゴがそう微笑みながら言うと少女も安堵の表情を見せた。
「うん、信頼関係というのはとても美しいね。」
2人を見てミクリがうんうんと頷いている。
「何他人事みたいに言ってるんだ、君もその1人なんだぞ。」
そう咎めるように言うダイゴにミクリは分かっているさと笑う。本当に分かっているのだろうか。
そのやり取りに少女も笑みを零すが、その一瞬、2人に暗い影が落ちたように見えた。少女がぱちくりと瞬きをすると、2人は朗らかに笑っていて気のせいだろうかと頭を傾げる。
少女は少し考え込んでから、真剣な面持ちでソファから立ち上がる。そして、ダイゴたちの前まで歩いていく。少女の唐突な行動にダイゴたちは何を言うわけでもなく黙ってそれを見守った。
「ダイゴさんミクリさん、改めまして、今日は御迷惑をお掛けしてすみませんでした。」
少女がそう謝罪の言葉を口にした。
少女は今日自分が起こしたことに対して後ろめたい気持が残っていた。だから今こうして頭を提げて謝った。それにダイゴたちはお互いを見合って苦笑を漏らす。
「お嬢さん、今日のことはもう気にしなくていいんだ。君が謝る理由はない。」
そういってミクリが少女の肩を持って頭を上げさせる。少女は口を結んで2人を見上げる。ダイゴはミクリと逆の肩を持って少女に笑いかける。
「それにね、君がかけたのは心配であって迷惑では無いよ。迷惑だなんて、思うわけないだろう。」
少女はダイゴたちの言葉に少し引け目を感じたが、もうこれ以上は止そうと頷いた。
ありがとうございます、そう言って憑き物が落ちたように笑う少女に、ダイゴたちは良かったと微笑んだ。