あるトレーナーの話   作:撹拌された抹茶

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本日から1話ずつの更新になります。


ホウエン神話(3):新たなる伝承

グラードンたちが見えなくなってからダイゴは今からある遺跡に向かうと言い出し、それに勿論少女とミクリもついて行くことにした。その遺跡は海底洞窟から少し離れた場所に位置しているらしく、ボーマンダとエアームドに乗って目指すことになった。

空を飛んで数十分で着いたそこは最近発掘されたのだろうか作業員のテントやブールシートなどが点々あり、遺跡の入口もかなり狭い。大人1人が入れるくらいの広さしか無かった。

 

「ここの遺跡はつい最近発掘が完了したばかりでね。完了したと言っても遺跡の重要部分が終わっただけで、最低限の所しか終わっていないんだ。まだ発見からそんなに経っていなくて、これから遺跡の調査団が研究するのに入って、またそれから補正作業に入って、数年後に一般公開されるんじゃないかな。」

 

ダイゴは軽い口調でそう話すが、発掘から短期間で最低部分のところだけと言ってもそんな早く終わるのかという疑問を抱く。しかし少女はダイゴが何とかしたのだろうとあまり深く考えないことにした。さすものデボンコーポレーション、という訳だろう。

少女たちはその狭い入口から遺跡の中へ入ると、本命の所までの道は入口の狭さとは打って変わって、洞窟の中は大人2人が並んでも大丈夫な程の広さがあった。電球も設置されているのであかりの心配もないが、本当に最低限の補正しかされていないのが見て取れる。

 

「この遺跡には何があるんですか?」

 

少女の問いに横を先導していたダイゴが答えてくれる。

 

「ホウエン神話に関わるかもしない壁画が見つかったんだ。僕が最初に来た時はまだ壁画の全貌が明らかになってない時だったから詳しいことは分からないけど、ひとつ言えるとするならレックウザらしきものが描かれていた。元々今日は3人でここに来る予定だったんだよ。」

 

ダイゴの言葉にそうだったんですね、と少女は返す。

少女は少し考えるような仕草を見せて、小走りでダイゴの横に並んだ。

 

「ダイゴさん。一ヶ月前の話になるんですけどちょっと聞きたいことがあるんです、いいですか。」

 

「ん?何かな。」

 

「前にダイゴさんは【ゲンシカイキ】は自然エネルギーが起こす変化で、【メガシンカ】は一時的な超進化だと言いました。その、変化と進化の違いって何ですか?」

 

これは一ヶ月前の石の洞窟に行った時、ダイゴが少女に教えた内容だった。その時少女は何故レックウザがグラードンとカイオーガと肩を並べる存在でありながら、【ゲンシカイキ】ではなく【メガシンカ】なのか気になっていた。あの時はその答えを得ることはできなかった。

では、【ゲンシカイキ】と【メガシンカ】は何故別の現象として扱われるのだろう。2つの現象は等しくポケモンの姿を変化させ、強い力をポケモンに与える。何故、態々グラードンとカイオーガは別のものとして扱うのか、少女はそのことを疑問に思ったのだ。

ダイゴはあぁ、そのことかと頷く。

 

「【ゲンシカイキ】は文字に起こすと、ゲンシは物事の始まりを意味する【原始】、カイキは巡り還ることを意味する【回帰】。合わせると【原始回帰】、物事の始まりに還るという意味になるんだ。このことから【ゲンシカイオーガ】と【ゲンシグラードン】は本来のカイオーガとグラードンの姿ではないかと言われている。」

 

「だから進化ではなく変化。」

 

「そう。退化の方が正しいのではないかと言う人もいるけど、退化は衰えも意味するからこの場合は変化というのが適切だろう。」

 

超古代ポケモン2体が【メガシンカ】ではなく【ゲンシカイキ】という言葉を使われるのは、2体に起きている現象が過去の姿に戻っている、つまり本来の姿、力を取り戻しているからという理由だった。

やはり【メガシンカ】【ゲンシカイキ】は同じようで、本質は全くの別物というわけだ。

少女は先程のゲンシカイキした超古代ポケモンを思い出す。古代にはあの2体がずっと海を泳ぎ、陸を歩いていたのだと思うと身震いしてしまう。いや、厳密に言うと少女は知っている。超古代ポケモンたちの恐ろしさを。夢の中で人々が怖じ恐れていた姿を見ているのだ、苛烈な環境だったことは想像に容易い。

 

「ここだよ、これが新たなホウエン神話に関わるだろうと言われている壁画だ。」

 

ダイゴの言葉に見上げると、視線の先に現れたのは岩の洞窟で見た壁画と同じ大きさのもので、そこにはレックウザらしき胴体が長い龍神のような絵と、多くの人の絵、そして大きな岩が描かれている。

荘厳な壁画に少女は見たまま口を開けて固まってしまった。

 

「実はこの壁画と共にとある文章が出てきてね。最近はこれの解読をしていたんだ。」

 

少女はたしかに最近ダイゴさんは古い辞書みたいなのを見ながら仕事していたなと思い返した。まさか、最近発掘された壁画の解読だとは思わなかったが。

 

「いきなりですまないが読ませてもらうよ。」

 

 

《大昔、海と大地を司る神々が20の朝と夜の間、世界をかけて争い続けた。その争いは天をも揺るがし災いをもたらし、世界はその姿を失いかけ、人々は為す術なく災いの前に心を砕かれた。困り果てた人々は巨大な虹色の石を目の前に天空に住まう龍神に祈りを捧げた。すると龍神は天から地上へ舞い降り、虹色の石は大いなる龍に力を与え、龍神はその姿をみるみるうちに変化させた。龍神はその力を持って大いなる神々鎮めた。人々は龍神に感謝を捧げ、この壁画と塔を作った。》

 

「海と大地を司る神々ということは、カイオーガとグラードンかな?」

 

「うん、正解だよミクリ。そしてこの壁画が示していること、、、お嬢さんはわかるかい?」

 

ダイゴが何故自分にそんなことを聞くのかわからなかった。ただの素人、その上この壁画を見たのは今が初めてだ。だがダイゴの目は、少女に答えを求めていて、見逃してくれそうになかった。

少女は壁画にもう一度見て、自分がこの壁画に何を思ったか、正直に伝えようと決めた。

 

「メガシンカの、原初、、、。」

 

少女の答えにダイゴは頷く。

 

「そうか、君はそう答えるんだね、、、。

僕も同意見だよ。壁画はこの世で初めてメガシンカという現象を起こした時のこと、つまり、起源について記されている。」

 

ダイゴの見解はこうだった。

カイオーガとグラードンが海と大地をかけて争いあった時、世界には天変地異に見舞われ農作物や水産物、あらゆるものに影響を及ぼし人々やポケモンの生活が困窮することになった。それをどうにか打開するために虹色の石、これは恐らく数ヶ月前にホウエンに出現した巨石だろう、巨石を通して人々はレックウザに祈りを捧げた。その結果、レックウザは地上に降臨した。降臨したレックウザに巨石が力を与えたことで、レックウザはメガシンカし、カイオーガとグラードンを鎮めた。

 

「前にお嬢さんは何故、レックウザが【ゲンシカイキ】ではなく【メガシンカ】なのか、疑問に思っていたね。その答えはこれだと僕は思う。」

 

「ゲンシカイオーガとゲンシグラードンは彼ら本来の姿で、メガレックウザは元々彼らを止めるために人々の願いによって巨石が齎した超進化、【メガシンカ】だったんですね。」

 

ダイゴが重々しく頷いた。

 

「レックウザはカイオーガとグラードンが争う時に天から降臨し、それを鎮める。ホウエン神話の全ての伝承の中で、カイオーガとグラードンを鎮める存在は必ずレックウザだ。つまり、、、あぁ、そうか。」

 

ミクリが何かに気づき苦虫を噛み潰したような顔した。少女はその表情に不安を煽られてしまう。

 

「ミクリさん、、、?」

 

声に不安が漏れていたのか、ミクリはできる限り少女を怖がらせないように言葉を発した。

 

「組織にとってゲンシグラードンとゲンシカイオーガは本来の目的のコマに過ぎないのかもしれない。彼らは超古代ポケモンを使ってレックウザを呼び出すつもりなんだ。」

 

「レックウザを、、、?!」

 

「恐らくゲンシグラードンとゲンシカイオーガが揃ったことでその計画はもう完成されている。レックウザが降臨するのは確定しているんだ。

それもそうだろうね、知っての通り彼らの狙いはもともとレックウザだったんだから。」

 

そう、ミッションに参加した時点で組織の狙いがレックウザであることは分かっていたことだ。

もっと早く気づくべきだった。

少女は絶望から膝を着きそうになるが、ぐっと耐える。

 

(あの夢の意味を考えろ。レックウザが助けを求めたんだ、私に。約束を忘れるな!)

 

まだ諦めるときでは無い、諦めることは許されていない。少女は自分を鼓舞し奮い立たせる。

 

「ダイゴ、次に組織が動くとしたらいつだと思う。」

 

「分からない。連絡ではグラードンもカイオーガも行方を眩ませてしまったそうだしね。

ただ、もしピースが揃っているならば直ぐに動きはあると思うよ。」

 

ダイゴの言葉にミクリはそうだよね、、、と肩を落とす。

少女たちはすぐに事が起こらないことを願うしか無く、その願いが虚しくも叶うことは無いことはまだ知らない。

 

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