あるトレーナーの話   作:撹拌された抹茶

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そらのはしら再び

時は宵の口、遺跡から帰った少女ら一行はルネシティのハウスに帰り、夕食などを済ませたあと、ダイゴとミクリは組織をどうにか追えないか動向を探るためにポケモンGメンやポケモンレンジャー、警察などの各機関へコンタクトを取り情報収集に勤しんでいた。

少女も何かすることは無いかと聞いたが、休んでいて欲しいとダイゴに言われたので大人しく宛てがわれた自室で休んでいた。

 

少女はベッドに横たわりため息をつく。オトギリをもっと早く倒せていれば奴らの計画を止められたのだろうか、伝説と云われる超古代ポケモン2体を前に何ができるだろうか悶々と考えるがその答えを出してくれる人はここにはおらず、自問自答をするしか無かった。落ち着くためにも一旦寝るかと目を瞑る。

静かな空間はリビングから聞こえてくる人が動く音や外のポケモンの鳴き声を響かせた。

コイキングが跳ねる水の音、夜になると活発になるゴーストポケモンの鳴き声。パタパタとダイゴかミクリが歩くスリッパの音、紙が擦れる音、蛇口を捻ったのかキッチンから聞こえる水が流れ落ちる音、それに付随される水道管の音。

沢山の音が反響しあって頭の中で響くのに、不思議と思考は冴えて行く。一種の精神統一と言えるのだろうか、その心地良い感覚に少女は身を任せた。

呼吸が整っていく。

 

 

 

 

 

………

 

 

感覚がふわふわする。きっと夢だ、あの夢だ。

 

ゆっくり目を開けるとあの時の景色が広がる。

大きなもの、あの時は分からなかったが、今回はその姿がはっきりと見えた。白く虹色のように、怪しく光る岩。少女はこれがダイゴが言っていた巨石であることがわかった。

 

人々が巨石に祈る。

『どうかグラードンとカイオーガをお鎮下さい』

『どうか我々をお助けください』

『どうか』

『どうか』

『どうか』

人々の祈りを聞き届けるかのように空から舞い降りる、大いなる龍。その龍は少女がよく知る彼とは違って、新緑の色をした龍だ。

『レックウザ、、、』

『レックウザが我々を助けてくれるのだ』

『レックウザ、どうかあの2体を鎮めてくれ!』

『レックウザ!!』

人々の強い願いに巨石が輝き、レックウザへ光が伸びる。光に包まれたレックウザがその光から飛び出すと、その体は大きく変化していた。

そうして、人々の願いの通りに争うゲンシグラードンとゲンシカイオーガをその圧倒的な力で捩じ伏せ、争いを鎮めた。

『グラードンたちが止まったぞ!』

『レックウザが我々を救ったのだ!!』

 

人々の中から1人の老人が現れる。

『地の化身、海の化身争うとき。大いなる龍、天より降臨し静めん。』

少女は老人の言葉を聞く。

 

地の化身、海の化身争うとき、、、

 

レックウザが雄叫びを上げて空に登る。少女も人々と共にその姿をただ眺める。

 

『レックウザの道こそ空の柱なり』

 

 

………

 

 

「!!!」

 

少女はベッドから飛び降り、リビングへ走る。ドアが酷い音を立てるのも気にせず、少女は廊下の板を軋ませながらバタバタと走っていく。

 

少女が大きな音を立てながらリビングのドアを開けると、ダイゴとミクリが少女の顔を見た時ぎょっとした顔をする。

音の大きさもそうなのだが、少女の顔が真っ青を通り越して紫に見えていた。

 

「ど、どうしたんだい、お嬢さん。」

 

唯ならぬ雰囲気にミクリは少し戸惑いながら声を掛ける。少女を落ち着かせようとする優しい声に、少女は幾分か息を整える余裕を持つ。

少女は震える口を何とか食いしばって、ダイゴとミクリを見据える。その目は確信を持っていた。

 

「レックウザが呼んでいます。

すぐ行きましょう、そらのはしらに、、、!」

 

………

 

そらのはしらの屋上に当たるところ、そこを目指して1匹のエアームドとボーマンダが空を駆けていた。もうそらのはしらには目と鼻の先で少女はそれに目を凝らした。

夜の暗闇でも分かってしまった、そこに人がいることを。それは1人や2人ではなく10人単位の大人数。悪の組織の奴らだと確信するのは簡単だった。

少女たちはポケモンたちに加速するように指示を出す。

組織も暗闇から近づいてくる存在に気づいたのか、ポケモンを出してこちらに技を放ってくる。それを少女たちは物ともせずにポケモンに指示を出す。

 

「ボーマンダ、龍の舞で避けて!ミクリさん、しっかり捕まってて下さい。」

 

「あぁ、分かっているとも。」

 

「エアームド、鋼の翼。」

 

ミクリが少女と自身にしっかり捕まったのを感じ取ったボーマンダは龍の舞で技を躱し、エアームドは鋼の翼で技を切り裂いていく。

ポケモンたちの上手な立ち回りのおかげで敵のポケモンの裏に回ることができ、着地することができた。

着地してすぐ屋上の真ん中の所に一人の男性がいることを視認し、近づこうとするが下っ端共に道を塞がれてしまった。

 

「行かせるかよ!!」

「へへ、こんな所に3人でノコノコ気やがって、思う存分痛めつけてやるよ!」

「おい、1人は子供だぞ。」

「なら泣かそうぜ。ああいう子を泣かせるのが背徳感ってもんだなぁ?」

 

口々に言いたい放題喋る下っ端に少女は顔を顰め、ダイゴとミクリは鼻で笑った。

 

「随分な口ぶりじゃないか。」

 

「女の子の扱いができてないね?全く美しくない。」

 

ダイゴたちの挑発に乗った下っ端たちは次々とポケモンを出してくる。

どうやらやる気らしく、少女たちもそれぞれポケモンを繰り出した。

 

「ここで出し惜しみはしないとも、頼んだよメタグロス。」

 

「華麗に美しく行こう、ミロカロス。」

 

「頑張ろう、ボーマンダ。」

 

銀に輝くメタグロス。豪華絢爛、八面玲瓏な世界一美しいミロカロス。ドラゴンポケモンの名を冠するボーマンダ。

その圧に怯む下っ端たちだが、誰かが気を持ち直したのだろう辺りに喝を入れると、他の下っ端が次々と気を入れ直し少女たちに攻撃を仕掛けてきた。

 

「ドサイドン、ストーンエッジ!」

「ドータクン、ラスターカノン!」

「レパルダス、シャドーボール!」

「ワルビアル、悪の波動!」

「ヨノワール、ナイトヘッド!」

 

敵ポケモンたちの攻撃の準備をとる。ダイゴとミクリは迎え撃とうとするが、少女が二歩前に出たことで2人はお互いを見合ったあと、少女を黙って見守る姿勢を見せる。

 

「ボーマンダ。」

 

少女がボーマンダを静かに呼び、ボーマンダは少女の横に着く。

 

「ボーマンダ、二年ぶりだけど、、、いけるよね?」

 

ボーマンダは少女の言葉に雄叫びを上げる。その首には輝く石が一つ。そして、少女の首のチョーカーにもそれに似た小さい石が輝いていた。

少女はチョーカーの石に触れ叫ぶ。

 

「ボーマンダ、メガシンカ!!」

 

ボーマンダのメガストーンと少女のキーストーンから光が放たれる。光と光は結びつき交わり、ボーマンダを光が包む。

段々とボーマンダの姿が変化していき、翼が三日月へ。光が散ると同時にボーマンダの声が辺りを轟かせた。

同時に敵ポケモンたちの攻撃が一斉に発射される。

 

「ボーマンダ、龍の舞で全て巻き上げて。」

 

メガシンカしたボーマンダの姿は極限まで空気抵抗が減らされ、ジョット機よりも早い。上昇した防御力を駆使して空を滑空する。

ボーマンダは体を捻り龍の舞で風を起こすと、飛んでくる攻撃に向かって飛び、直前で急上昇する。風がボーマンダに着いていくように巻き上がり、それによりポケモンが放った技が巻き上げられた。体の回転を止めたボーマンダはそのスピードで風を振りほどき、更に高く上昇する。ボーマンダの回転がなくなった事で竜巻のようになっていた風は止まり、行き場の無くなった攻撃はそれぞれぶつかり合い爆発を起こした。

 

「そんなのありかよ?!」

 

下っ端の1人が叫ぶ。

少女はお構い無しに容赦なく畳み掛けた。

 

「ボーマンダ、急降下しながら捨て身タックル!!」

 

高く上昇していたボーマンダは敵のポケモン目掛けて急降下する。

メガシンカしたことによって特性がスカイスキンになりノーマルタイプの捨て身タックルは飛行タイプに変化していた。更に特性は威力も上げる効果も持つ。

落下するように突っ込んでいくその様は彗星のようで、ボーマンダの攻撃は見事に敵ポケモンたちに直撃し爆発を起こした。衝撃波が地面に突き出たストーンエッジの岩が破壊し、その威力の強烈さを物語った。

 

「「「「「~~~~~~~~!」」」」」

 

為す術なくボーマンダの攻撃を食らった敵ポケモンは鳴き声を上げて目を回す。ばたばたと倒れるポケモンたちに下っ端たちは唖然としていた。

 

「ありがとう、ボーマンダ。」

 

ボーマンダは少女を羽の内側に収められるように着地し、頭を擦り寄せる。少女はボーマンダの頭部を抱き寄せて顎を撫でた。

 

「見事だね。」

 

「なんとpowerfulな戦いだろうか。龍の舞をあの様に使うとはね。」

 

ボーマンダと少女に賞賛の言葉をかけるダイゴとミクリ。少女は嬉しそうな顔を見せるが、直ぐに切り替えて下っ端たちの向こうにいる人物に目を向けた。

 

「ほぉ、面白い戦術だ。」

 

酷く落ち着いた声だった。いきなり登場してきた少女たちを障害とも思っていないかのように振る舞う男は、ダイゴとはまた違う黒いスーツに身を包みシルクハットを深く被っている。その表情はよく見えないが随分と余裕そうな様子だ。

それもそのはず、超古代ポケモンを目覚めさせたことでレックウザの出現はもう確定している。そこから生まれているのであろう男の余裕に少女は嫌悪感を覚えた。

 

「貴方がこの組織のボスですか。」

 

少女の問いに男はふわりと笑う。そして男はゆっくりとシルクハットを取り、胸に抱える。流れるような仕草は、正しく紳士そのものだ。

 

「如何にも、私はボスのシュオウという者。我々の名はスペース団。レックウザを手に入れ、宇宙を破壊するもの、、、以後お見知りおきを。」

 

そうお辞儀をする男に少女は何処か既視感を覚えた。どこかであった気がする。もしくはどこかですれ違ったか。

 

「貴方何処かで、、、いや、そんなことより宇宙を破壊するとはどういうこと。」

 

「はは、それは君のような娘が知る必要のない事だよ。」

 

シュオウの言葉にムカついた少女はずんずんと近づいていく。それを妨げる人物が2人。

 

「なぁに、シュオウ様に近づこうとしているのかしらぁ?あんたみたいな青臭いガキが。」

 

「お前好い奴じゃねェか。戦おう!戦おう!!」

 

立ちはだかったのはカマスミとオトギリだった。

カマスミは顔を歪めて少女を睨みつけ、対するオトギリはニヤニヤと好戦的な笑みを少女に向けている。温度差が酷い。少女はガリッと唇を噛み締めた。

 

「悪いが僕たちは君たちに構っている時間はない。話したいのはボスの方だよ。」

 

「あぁ、悪いがご退場願おうか。」

 

いつの間にか少女の横にいたダイゴとミクリがカマスミとオトギリと対峙する。メタグロスとミロカロスも臨戦態勢だ。

カマスミとオトギリもモンスターボールを構えるが、シュオウがそれを止める。

 

「先に計画を進めよう。それに、あの者たちは彼らに戦ってもらった方が、奴が引き寄せられて来るだろう。」

 

シュオウの言葉にカマスミは頬を赤らめオトギリはつまらなさそうに舌打ちをし、モンスターボールを引っ込める。

 

「何をするつもりだ。」

 

ダイゴの問いにシュオウはくすくすと笑う。

 

「何をも何も、君たちの予想通りだとも。君たちはこれを止めるために来たのでは無いのかね?

あぁ、それともただの物見客だったのかな?」

 

野次馬はご遠慮願いたいのだが、と言いながらシュオウは右手を天に掲げる。

シュオウからただならぬ空気が溢れている。少女はやめさせなければという使命感が生まれ駆け出す。しかし、あと一歩のところでそれは叶わなかった。

 

「来い、超古代ポケモンたちよ。」

 

その言葉に呼応するかのように大地と海が鳴き声を上げる。少女たちはそれぞれのポケモンにしがみつき耐える。

海の底から音を響かせて現れたのはゲンシカイオーガとゲンシグラードンだった。ゲンシカイキした超古代ポケモンの登場に少女は戦慄する。

あの肌に突き刺さるプレッシャーに再び晒される。呼吸すらも許してくれない圧迫感に押しつぶされそうになる。ハッハッと浅い呼吸しかできない。思考が停止していく。

 

「お嬢さん、しっかりするんだ!!」

 

異変に気づいたダイゴが呼びかける。少女の耳に声が届き、意識が現実に引っ張られる。邪念や恐怖を物理的にも振り払うように、頭を振る。

超古代ポケモンたちに向き直る。

 

(今、彼らを止めなければレックウザが危険に晒されることは明白。しっかりしろ、お前に怖がってる暇なんてないんだぞ!!)

 

自分自身を奮い立たせる。恐怖を振り払うことに成功したのか、少女は闘気を宿した。

ダイゴは持ち直した少女に安堵すると己の左胸に着いているメガラペルピンに手を伸ばし、持ち上げる。

 

「石のきらめき 絆となれ。メタグロス、メガシンカ!」

 

ダイゴが口付けを落とすとキーストーンは光を放ちメタグロスの右前脚につけられているメガストーンと結びつく。虹色の光に包まれたメタグロスの姿が変わっていく。4本だった足は8本に増え爪は鋭く巨大に、顔を囲むように大きな手が4本前方に来た姿になった。ボーマンダのメガシンカより大きく体が変化しているように思える。

 

「ゲンシカイキした超古代ポケモンに再び合間見えるとはね。メタグロス!全力で行くぞ、コメットパンチ!」

 

メタグロスが4本の脚を前に突き出し回転を加えながら突進していく。

それに続くように少女とミクリも技の指示を出す。

 

「ボーマンダ、捨て身タックル!」

 

「ミロカロス、ハイドロポンプ!」

 

グラードン、カイオーガが向かって来るポケモンの存在に気づく。ぐるりと身体を動かして、ボーマンダとメタグロスを捉えた。

カイオーガの周りに幾つもの水の玉が浮かび上がり、そこからハイドロポンプより数倍の威力の水の光線が放射される。グラードンの前方にもいくつもの岩の剣が海の中から突き出るように現れ、ボーマンダとメタグロスに襲いかかる。

これは彼らだけが使うことができる技、【根源の波動】【断崖の剣】だ。どちらも強力無比、あんなものが直撃すればどんな豪傑であろうと一溜りもない。

 

ボーマンダは根源の波動を避けながら空を飛び、下から襲ってくる断崖の剣を躱していく。だが技の嵐に思うように近づくことが叶わない。ミロカロスのハイドロポンプも根源の波動とぶつかりあって水飛沫を作り上げていた。

唯一超古代ポケモンと戦った経験のあるメタグロスは技を去なし、グラードンに腹部に一撃を入れる。

しかし、グラードンは一瞬の隙を逃がさず、メタグロスの後方からヒートスタンプで襲い掛かる。更にメタグロスの前方にはカイオーガ。メタグロスが完全に挟まれてしまった。

 

「ボーマンダ、グラードンの前に回り込んでドラゴンダイブ!」

 

メタグロスとグラードンの合間に滑り込んだボーマンダは、そのまま海へドラゴンダイブで突っ込んだ。

 

「ほぉ、、、」

 

シュオウが感心するように声を上げる。

ドラゴンダイブによって勢いを付けたことで、ただ落下するよりも格段に高い水飛沫が上がった。

ミルククラウンのように、円柱状に上がった水の柱は、グラードンたちの視界からメタグロスを隠す結果になり、炎技であるヒートスタンプとの相性が良かった。

 

「メタグロス、水を使うんだ!サイコキネシス!」

 

ボーマンダが作り上げた水柱を操り、回転を付け加えて水に勢いを付けてから水柱を爆発させる。

2体は水圧で後退させられ、更にカイオーガには押し飛ばされた後に、海中から飛び出したボーマンダのドラゴンダイブを腹部に受ける。

 

伝説のポケモンに何とか一撃を与えることはできた。

しかし、それだけでは彼らは少しの安心も与えてはくれない。身体を引き起こした超古代ポケモン2体は、ボーマンダたちをその圧倒的力でねじ伏せてくる。

グラードンの大文字がメタグロスを襲った。

メタグロスは守るで大文字を防ぐが、大文字から零れた炎の塊が海水を蒸発させる。メタグロスはメガシンカしたことより飛躍した演算能力で、グラードンの隙をついて距離を取った。

ボーマンダも水蒸気によって視界を奪われたことで、体勢を立て直すためにも蒸気の海から上昇して抜け出そうとする。だが、それが誤りだった。

水蒸気の中を飛び出した瞬間に、目の前に洗われたカイオーガに対応することができなかった。隙をつかれたボーマンダは根源の波動によって再び荒れ狂う海中に堕とされてしまう。

 

 

「ボーマンダ!!!」

 

波に呑まれるボーマンダに少女が悲鳴を上げる。その瞬間にカイオーガとグラードンがその瞳に少女の姿を映した。

超古代ポケモン2体は一体どうした事か、少女へ一直線に歩を進め始める。

 

「ミクリ!お嬢さんがカイオーガとグラードンに狙われている!」

 

どうして突如グラードンたちが少女に反応したのかは不明だった。兎に角守るべきだと判断したダイゴとミクリは少女を後ろへ匿おうとする。

しかし、それにいち早く反応したカマスミとオトギリのポケモンによって邪魔されてしまう。

 

ダイゴはオノノクス、ミクリはバイバニラに行く手を阻まれ少女の元へ行くことが叶わない。トレーナーのピンチにミロカロスとメタグロスが対峙する。

これで少女が孤立してしまった。少女はグラードンとカイオーガのプレッシャーを直に受けたことで、また身体が硬直していた。

 

(クソっ!どうして2体はお嬢さんを狙うんだ?!いやそんなことより)

「お嬢さん、そこから逃げるんだ!」

 

「!!」

 

「おっと、逃がしはしないよ?オトギリ。」

 

ダイゴの叫びに意識を浮上させた少女がその場から離れようと背を向けて走り出そうとしたところを、オトギリに腕を掴まれてしまった。少女はその手から逃れようと抵抗するが、屈強な体を持つオトギリの握力の方が少女の腕力によりも上だった。

そのままオトギリに引きづられる形で超古代ポケモン2体の前へ連れていかれてしまう。

 

「ゲンシカイキした超古代ポケモン2体が居れば確実に奴は来るが、、、まぁ、ダメ押しと言うやつだ。すまないが(にえ)になってくれ娘さん。」

 

塔のギリギリのところへ引きづられ、超古代ポケモンの前に出された。超古代ポケモンの自分を見る目に血の気が引き、膝が笑う。もう立っていることがやっとで逃げることなんてできない。

ゲンシグラードンが少女へ手を伸ばす。

少女の危険に海からボーマンダが飛び出すが、空に上がった所にカイオーガの雷が落ちる。

ボーマンダが煙を上げながら堕ちる姿を少女は呆然と見ていた。

 

(あ、あああ、嫌だボーマンダ、嫌だよボーマンダ)

 

ボーマンダが背中から海へ沈む。

 

「お嬢さん!!

メタグロス、僕のことはいい、あの子を助けろ!!」

 

新たなモンスターボールを構えるダイゴだが、今からメタグロスを少女の元へ急がせても、もう遅い。誰も間に合わないことがわかっているシュオウは終始その様子を可笑しそうに満足そうに笑う。

グラードンの鋭い爪が少女にもうすぐ触れる。ダイゴは届かない手を伸ばし、ミクリもミロカロスにハイドロポンプの指示を出すが時すでに遅し。

 

シュオウ笑う。来る、奴が来る、そう笑う彼の手に握られた端末はカマスミが先日持っていたものと同じ物で、端末に表示された数字はあの日のように爆発的な上昇を示していた。

 

「あ、、、」

 

少女が声を発した。少女の前髪を大きな爪が掠める。

 

(もう、だめ)

 

 

 

 

 

――――――――!!!!

 

 

けたたましい轟音が響くと共に少女に手を伸ばしていたグラードンが横に吹き飛ぶ。カイオーガがそれに巻き込まれ、身体が崩れる。

 

少女は唖然としながら空を見上げる。

 

そこにいたのは夜空に溶け込むかのような黒い龍だった。

 

「レッ、クウザ、、、?」

 

「やはり来たか。」

 

ゲンシグラードンを吹き飛ばしたのはレックウザのようで、超古代ポケモンの2体を見下ろしている。

レックウザの出現に気づいた2体は技を放つ。それぞれのソーラービームと冷凍ビームを放つが、レックウザは一瞬でその場から消える。

 

「神速か。」

 

レックウザは2体の後ろに回り込み、暴風をぶつける。背後からの暴風に2体はよろめくが即座に反攻に転じ、ストーンエッジと雷を仕掛けた。が、それを体をうねらせ空を泳ぎながら躱す。

あの2体の攻撃を去なしていくレックウザに、少女は凄い、と声を漏らす。

しかしシュオウは少女を嘲笑うかのように笑う。

 

「本当にそうかな?伝説のポケモン、しかもゲンシカイキしたカイオーガとグラードンにメガシンカできないレックウザが勝てるとでも?」

 

「何が言いたいの。」

 

「分からないかい?今はああして2体の攻撃を躱しているが、よく考えて見るといい。レックウザの暴風は2体をよろめかせただけだ。」

 

そう、シュオウの言う通りレックウザが放った暴風は確かに伝説2体をよろめかせるほどの威力は持っていたが、逆をいえばよろめかせることしかできていないのだ。背後からの攻撃を受けたなら普通は前へ倒れたり膝をつくなりとするはずである。しかし、2体はそれをすることは無く直ぐに反撃に出た。

 

「やはり、あのレックウザは()()()()()()()()()。」

 

思い返すと壁画でもゲンシカイキした2体を鎮めたのはメガシンカしたレックウザであって、今のこの場にいるレックウザは通常のレックウザだ。2体を倒せるのほど力は今のレックウザには無いのかもしれない。

 

(どうしてメガシンカしないの?巨石が無いから?)

 

神として未熟、シュオウの言葉の意味がわからない。ダイゴやミクリなら理解できるかもしれないが、生憎その2人は離れたところにいる。幹部に加えて、下っ端の団員までもバトルに参加していて、こちらに気を向ける余裕が無かった。

 

「レックウザがここに現れた時点で君たちの負けだ。」

 

そう言うとシュオウは懐から何かのスイッチのようなものを取り出した。それをなんの迷いなく押す。

少女がシュオウの不振な行動に訝しんだ。

 

「何を、、、?!」

 

「はは、空を見るといい。」

 

その場にいる全員が空を見上げる。そこにはどんよりとした雲がそこにあるだけだったが、雲の隙間から何か大きな物が現れる。その奇妙な物体を雲の隙間から覗いていた月が照らしだした。

 

「何、あれ」

 

少女たちは唖然としてそれを見上げる。

 

「紹介してあげよう。あれはレックウザを捕獲して奴の生命エネルギーを奪う物だよ。」

 

その飛行物体には大きな檻のようなものが取り付けられている。シュオウ曰くそれがレックウザを捕獲する装置らしい。

檻が大口を開ける。

 

「でもあの様子じゃ神速で逃げられてしまいそうだから、少々弱らせようか。ゲンシカイオーガ、ゲンシグラードン、頼むよ。」

 

超古代ポケモンたちがレックウザへ襲いかかり、レックウザも暴風で応戦する。レックウザが一度もダメージを受けてないのはさすもの、と言ったところだが決定的なダメージが無い。

ダイゴたちは幹部2人が次々に繰り出すポケモンに手間取っている様子で、増援は見込めない。

少女は新たなモンスターボールをポーチから取り出す。

 

「おっと、そうはさせないよ。君はレックウザを捉えるまでの大切な(にえ)なんだから。」

 

シュオウはそう言うとモンスターボールを取り出し空に投げた。現れたのは磁場ポケモンのジバコイル。バチバチと電気を纏いながら少女に迫る。

ジバコイルが近づき少女がモンスターボールを投げようとした瞬間、その鉄の身体が横に吹っ飛んだ。

 

「ボーマンダ、、、!!」

 

ダメージを負いながらもボーマンダはジバコイルに苛烈な怒りを向けて威嚇していた。

少女はボーマンダに駆け寄って、その首に抱きつく。ボーマンダは少女が無事であることに酷く安心して、グルグルと喉を鳴らしながら少女に擦り寄った。

 

「正に粉骨砕身、トレーナーのために何と健気なことだろうね。」

 

ジバコイルが浮き上がってシュオウのもとに戻ってくる。

穏やかな顔から打って変わってボーマンダは、ドラゴンポケモンよろしく恐ろしい形相でシュオウたちを睨みつける。

 

ボーマンダは勢いよく飛び出してドラゴンダイブで突進していった、()()()()()()()()()()()

ボーマンダが突如指示無く攻撃仕掛けたことに少女も驚く。確かに指示がなくても戦えるように練習はしていたが、前回そらのはしらに来て以降はポケモンたちだけで戦うことはしていない。

 

「ボーマンダ!!」

 

少女の制止も振り切って、ボーマンダはジバコイルに向かっていく。

 

「リフレクター」

 

ドラゴンダイブがリフレクターで受け止められる。リフレクターは物理技の威力を下げる防御技。例に漏れずドラゴンダイブのダメージを軽減した。ボーマンダが顔を顰める。

ボーマンダが今度は捨て身タックルで攻撃を仕掛け始める。

 

一見、ボーマンダの行動は暴走しているかのようにも見えるが、彼女は至って冷静だった。ボーマンダの目的は唯一つ、少女を守るためだ。

超古代ポケモンたちのプレッシャーに晒され、少女は初めてポケモンに恐怖を抱いた。オトギリの手によって、その超古代ポケモンの目の前に連れ出された時、彼にそうするように支持したのは目の前にいるシュオウだ。一番の危険人物はシュオウであり、ボーマンダはこれ以上少女に危険を近づけたくなかった。ならば、自分だけで目の前の男を倒そうとしているという訳だ。

 

「はは、ここまでトレーナーに過保護なポケモンは見たことがないな。ジバコイル、ラスターカノン。」

 

ジバコイルのラスターカノンがボーマンダを捉えるが、ボーマンダは龍の舞でひらりと躱すと、体勢を建て直してジバコイルに突進する。

 

「止まってボーマンダ!!」

 

ボーマンダとジバコイルの間に少女が割り込んだ。

ボーマンダが少女の出現にギョッする。勢いをつけた捨て身タックルを止めることができず、ボーマンダは身体を下に傾けてぎりぎりで少女の足元に突っ込んだ。

砂埃が目に入った少女は痛みで少し涙が出そうになるが、それよりも先にボーマンダの身体に被さった。ボーマンダからの抵抗は無い。

 

「ボーマンダ、、、ずっと、ずっと不甲斐ないトレーナーでごめんね。私が弱い人間なせいで、急にバトルできないなんて言い出して、ボーマンダに一番負担をかけてきた。パートナーだからって、甘え過ぎてた。虫のいい話になるかもしれないけど、、、私、強くなる。強くなって、ボーマンダたちとまた旅がしたい。だから、聞いて欲しい」

 

少女が上から離れてボーマンダが身体を起こすと、2人は目を合わせた。目を離すことなく、真っ直ぐ見合う。通じ合っている感覚が確かにあった。

 

「お願い、私をあなたたちと一緒に戦わせて。もう二度と、ひとりでなんて戦わせない。」

 

そこには不安も迷いもなくて、強い覚悟が込められていた。

ボーマンダは身体を起き上がらせて、少女の横を通り過ぎる。少女はその場に立ちすくんだままだ。

 

「、、、ジバコイル、ラスターカノン」

 

少女もボーマンダも、立ったままで反応がない。シュオウにとって好機だ。

ラスターカノンが2人を襲う。

 

「ボーマンダ、ドラゴンダイブ!!」

 

少女の声と共にボーマンダが飛び上がってラスターカノンとぶつかり合う。

どすんと音を立て着陸したボーマンダは、地を踏み締めて完全に戦闘態勢だ。

 

「思いが通じあった、、、という訳かな。」

 

目が細められる。少し怒りのような不快感のような、そんな感情が孕んだ声だ。

少女が近づくと、ボーマンダはすりっと顔を寄せる。ありがとう、そう言われた言葉はしっかりとボーマンダに届いていた。

 

「飛んで、ボーマンダ!」

 

ボーマンダは空に急上昇する。先程見せた高所からの落下捨て身タックルと同じ高さだ。

 

「ジバコイル、リフレクターで受け止めなさい。その後、ボルトチェンジ。」

 

ジバコイルがリフレクターを構える。電気もばちばちと蓄えて近距離からのボルトチェンジ、いや、急所を狙っているのだろう。

ボーマンダが高所から急降下していく。ボーマンダの攻撃は近接技のみで、敵に接近することが前提となる。そのためカウンターを受けたり、至近距離からの攻撃を受けたりとボーマンダ自身にリスクが生じる。

だが、そんなものは百も承知だ。

 

「ジバコイルをリフレクターごと羽に挟んで!

空中散歩に招待してあげよう。」

 

「ほう、、、?」

 

ボーマンダは寸前で身体を横に傾け、ジバコイルをリフレクターごと羽と体の間に挟んで空中に持ち上げる。ジバコイルはリフレクターと自身の巨体がボーマンダの羽に引っかかって抜け出せない。ボーマンダはジバコイルを羽に挟んだまま、海上へと飛び出した。

海上では、超古代ポケモン3体が死闘を繰り広げている。

カイオーガの水の光線が飛び交い、レックウザが生み出す暴風が雨と混じって酷い暴風雨を作り上げている。海中からも岩の剣が生えている。完全な危険地帯と化していた。ジバコイルを空中散歩に誘ったは良いものの、これではボーマンダも巻き添えを食らってしまう。

否、それこそが少女の狙いだった。

 

海の底から突き出る岩の剣。グラードンだけが使える断崖の剣は地面技。この、断崖の剣こそが少女が欲していたものだった。

 

「ボーマンダ、龍の舞!ジバコイルをぶつけてあげて!」

 

ひらひら、くるくると回ることで遠心力をつけたボーマンダが羽の間に挟まっているジバコイルだけを断崖の剣の切っ先に激突させた。

龍の舞の効果で上昇させた素早さを駆使して、爆発する前に緊急離脱するボーマンダ。

 

「電気と鋼の複合タイプであるジバコイルには、地面技はかなり効くでしょう?」

 

海面にぷかぷかと目を回しながら浮くジバコイルを見ながら少女は笑った。

シュオウはジバコイルをモンスターボールに戻して、態とらしく手を叩く。

 

「ああ、いいバトルセンスを持っているようだね。

だが、余興はここまでにしよう。」

 

「!」

 

不遜な空気を出したシュオウを警戒する。パチンと指を入れ鳴らした瞬間に根源の波動、断崖の剣がレックウザを襲った。

メガシンカをしていないレックウザでは、ゲンシカイキした2体を相手取るのは苦行だった。疲弊しきったレックウザに攻撃が直撃する。

 

「レックウザ!!」

 

少女の叫びも虚しく、2体の攻撃をまともに食らってしまったレックウザは海へ墜ちてしまう。

墜ちたレックウザにあの機体が近づいていき、檻にレックウザを閉じ込めた。レックウザを閉じ込めた機体はそのまま浮かび上がり此方へ近づいてくる。

 

「残念だったね。レックウザは頂いていくよ。」

 

「お見事ですわ、シュオウ様。

オトギリ、行くわよ。」

 

シュオウは幹部2人を引き連れて飛行物体から降ってきた浮遊機に乗り込む。

レックウザが捕らえられた時点で超古代ポケモン2体は、戦意を喪失したかのように大人しくなり機体に続くように歩みを進めた。

 

「待って!」

 

「はは、遊んであげられなくてすまないね。部下を置いて行くからその者達に遊んでもらってくれ。」

 

そう笑うシュオウに少女はかァっと頭に血が上るのがわかった。

 

「レックウザを離せ!!」

 

シュオウたちを中に入れて飛び去っていこうとする機体に、少女は急いでボーマンダを呼ぶ。どうやら乗り込む気らしい。

だが、シュオウたちが置いていった下っ端たちがそうはさせまいと邪魔をする。

 

「邪魔、どいて、、、!!」

 

「はぁ?ボスからの命令なんだぞ、はいそうですかって行くわけねぇんだよ!行きたいなら俺らを倒してから行け!」

 

下っ端の1人がそう息巻く。オトギリとカマスミがいなくなったことで開放されたダイゴとミクリが少女の横へ来る。

 

「お嬢さん、落ち着いて。」

 

「あぁ、こういう時こそ華麗に美しく行こう。」

 

怒りに呑まれれば、理性的な判断ができなくなる。それでは、守れるものも守れなくなる。急がば回れという言葉があるように、焦る時ほど落ち着いて行動するべきだ。

ダイゴが少女の肩を叩くと、少女素直には唇を噛んだ後静かに深呼吸する。幾分か落ち着いたようだ。

 

「さぁ、レックウザを取り返しに行こう。」

 

「だから早くこの下っ端くん達を倒さなければね。」

 

「、、、少々手荒になってしまいますが、一気に片ずける方法があります。良いですか?」

 

「うん、それはいいね。」

 

少女の提案にニコリと笑う2人に少女は頷く。

3人の会話を他所に下っ端たちは手持ちのポケモン全てを出てきた。

 

「ミクリさん、私たち以外、ここら一帯水浸しにして貰えますか。」

 

「あぁ、わかった。ミロカロス、地面に向かってハイドロポンプ!」

 

「手伝ってラプラス!」

 

2匹のハイドロポンプによって少女たちを除く辺り一体が水浸しになる。下っ端たちとそのポケモンたちの足元にも水が浸っているが、それがどうしたと下っ端たちは笑う。

頭がおかしくなったかと、少女を貶し始めた。

 

「どこに向けて技打ってんだよ!」

「何がしてぇんだ?」

「なんでもいいじゃねぇか。やっちまおうぜ!」

「それもそうだ!行け、ポケモンたち!」

 

下っ端たちに指示されたポケモンたちが襲いかかってくる。少女に動く気配はない。

それなら好都合だと下っ端たちは技の指示を出した。

 

「少し手荒だけどごめんなさい。あとで溶かしてあげますから、、、。」

 

そうしてゆっくりと少女はただ冷たくその一言を言い放った。

 

「ラプラス、

 

 

 

 

 

 

絶対零度」

 

ラプラスの口から放たれたマイナス273度の冷気の光線が下っ端たちのポケモンを包んだ。

一瞬でカチンコチンに固まった自身のポケモンたちに下っ端たちは口をあんぐりさせた。

 

「これまたお見事。」

 

「強烈な絶対零度だね。とってもgloriousだ。」

 

「ふふ、どうも。、、、ボーマンダ!」

 

少女はラプラスをモンスターボールへ戻しボーマンダを呼ぶとその背中に乗り上げた。ミクリも少女の手をとってボーマンダに乗ると、あの飛行物体へ飛び立つ。ダイゴはそのままメタグロスの上に乗って飛ぶ。

 

「おい待て!!」

「あんな一撃で、、、。」

「卑怯だろ!」

「ちょっと待てよ、俺らの足も凍ってんじゃねぇか!」

 

そう、少女が辺りを水浸しにしたことで濡れたところに立っていたものは全て絶対零度で凍っており、下っ端たちの足も氷によってくるぶしの下が完全に凍って動けなくなっていた。

卑怯やら鬼畜やら下っ端たちは吠えているが、無視して少女たちは飛行物体を追いかける。

 

(レックウザ、絶対助けるから、、、待っていて。)

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