落下するメタグロスと少女。飛行船から飛び出したメタグロスはあの後すぐに少女の下へ飛んでいき何とか受け止めたは良いものの、ダイゴと距離が随分離れてしまったためメガシンカが解けていた。加えて超古代ポケモン2体の影響で乱気流も起こっておりメタグロスは風に抵抗することができずに落下し、少女はメタグロスにしがみつくしかなかった。
「メタグロス、、、!」
下に見えるは黒い海のみ。メタグロスも普通の天気ならば簡単に体勢を整えられるだろうが、今は伝説2体によって天候が最悪であるため体勢が安定しない。しかし刻一刻と海までの距離は縮まっている。
(海に落ちると言ってもかなりの高度から落されたから海面にぶち当たったらただじゃ済まない、、、最悪死ぬ。そうなることだけは絶対避けなきゃ。私はやるべき事があるんだ。こんな所で死にたくない。)
海面まであと数百メートルの高さになる。
「メタグロス、海面の方へ守る!少しでも衝撃を和らげて!」
指示通りメタグロスは技を展開し、衝撃を受け流す体制に入る。少女はできるだけ海面との接触面積を最小限に衝撃でメタグロスと離れないようにより体にしがみつく。
ドボンッッッッ!!
海の中へ落下の勢いのまま凄まじい音と水飛沫を上げて入水する。
メタグロスの守るがクッションとなって入水時の衝撃は軽減できたが、カイオーガの影響で海が荒れているせいで海流の流れが早く、冷たく暗い。
メタグロスと離れた瞬間、少女は殆ど死んだと同じようなものになるだろう。
それを少女は理解しており、何がなんでもメタグロスから手を離さないように懇親の力でしがみつく。しかし、少女にしがみついていられる程の力はもう既になく、酸欠ですぐにでも意識が飛びそうになっていた。
海流に飲まれてから1分も経たないうちに少女の意識が薄れていく。だんだんと力が抜けていき、遂にメタグロスから手が離れる。
(レックウザ、、、ボーマンダ、、ダイゴさん、
、ミクリさん、、、)
薄れていく意識の中で少女が思ったのは組織に捕らえられ苦しむレックウザと残してきてしまったもの達の姿だった。
……
シンオウ地方、最も東に位置するナギサシティのジムリーダーをしているデンジは早朝から海岸を歩いていた。いつもの如く趣味である電気関係の物の改造をしていたのだが、昨日の夕方から始めたものが気づいたら日付も超え、丑三つ時も超え、日が登りかけていた。流石の眠気を感じていたが、日が登る時間に起きることは滅多にないので久しぶりに朝日でも拝んでみるかと外へ出てきていた。
まだ薄暗い時間のおかげで自分以外誰も客がいなかったのでポケモンたちも散歩させてやろうとモンスターボールから出してやる。
ボールから出てきたポケモンたちはそれぞれ伸びをしたり、ポケモン同士で競走したり好きなように動いた。すると競走していたレントラー、サンダースから自分を呼ぶような声が聞こえた。何かあったのかとデンジが声の方へ進んでいくと、そこには白銀のメタグロスがぐったりと倒れていた。
何か唯ならぬ事情を察したデンジは一先ずポケモンセンターに連れていこうとメタグロスに近づく。
「!!」
人が近づく気配に目を覚ましたメタグロスがデンジを威嚇するように足を踏み鳴らすと、彼のポケモンたちは間に割って入り同じ様に威嚇する。
じっと見ていたデンジはハッと色違いのメタグロスを使っている人を記憶から呼び起こす。
「君、もしかして」
言葉を続けようとしたが、たまたまメタグロスの足元に人が倒れているのを見つけ息を飲む。それと同時にメタグロスがその人物を守っていることがわかった。
メタグロスは賢いポケモンだ。攻撃を仕掛けない限りは襲ってこないが、警戒も解いてはくれない。
デンジはポケモンたちを下がらせて、メタグロスに傷つけるつもりは無い事を伝えようと一歩踏み出す。
その時メタグロスが音を立てて倒れた。
「かなり体力が削られているな、誰かと戦った形跡もある、、、もうとっくに限界だったんだろう。」
限界を迎えながら人を守ろうとしたメタグロスを労るためにひと撫でし、倒れている人の方へ目を向ける。
体つきから女であることに気づいていたデンジは最小限触らぬよう顔にかかった髪を避けていく。
「女の子か、というかなんだこの背中の傷は、、、?!酷い打撲痕、、、これは凍傷、、、?」
デンジは倒れている女の子の首に手を当て、微弱ながらも感じ取れる脈に一先ず安心する。しかし背中の傷は酷く、変色した打撲痕の周りに霜がついていて多い所には水疱ができている。どう考えても溺れただけでは付かない傷に顔を顰める。
デンジはポケモンにメタグロスを運んでもらい、自身は少女を抱えるとポケモンセンターの方へ早足で向かった。
……
白い世界。人もポケモンもいない世界。
その世界にいるのは一人の少女と、黒い龍だけが存在していた。
お互いをじっと見つめている。
少女が龍に手を伸ばす。
しかし少女の手は龍に届くことはなく、龍の姿が崩れていく。
そんな、嫌だ、消えないで。
少女の手は空を掠めた。
………
「レックウザ!!!!」
ハッと目が覚めた少女。目の前には全く知らない天井があった。
「ここは、、、?」
何故自分がこんな所にいるのか分からない。ボーマンダをバイバニラたちから庇った辺りから記憶がない。
起き上がろうと体を起こすが、鉛のように重く、攻撃を受けていた背中が痛い。やっとの思いで起き上がることができたが、歩けそう他もないほどの疲労感に襲われた。
「ねぇ、ボーマンダ、、、あっ。」
思い出した、呼べば出てくるはずのボーマンダがいないことを、シュオウによって飛行船から落とされたこと、ボーマンダだけでなくダイゴたちとも離れてしまったこと、メタグロスが自分を助けてくれたこと。
今まで起きたことを思い出してベッドの上で呆然とする。と、その時ドアがノックされガチャりと音を立てて男性が入ってきた。
「?!」
「!良かった。目が覚めたんだね。」
「あ、貴方はどちら様でしょうか、、、」
見覚えのない青年に警戒した少女はベッドの上で膝を立て逃げる姿勢を取る。
「俺はナギサシティのジムリーダーをしているデンジだ。怖がらせてすまない、怪しい者じゃないから安心してくれ。」
デンジが近づきながら、落ち着かせようとする。しかし、警戒を解かない少女に近づくことを諦めデンジは部屋に備え付けられた椅子に腰掛けた。
「ナギサシティ、ということはここはシンオウ、、、ですか。」
不要に近づいてこないことに少しだけ警戒を解いた少女は、ベッドに座り直す。逃げる体勢を解いた少女にデンジは少しほっとする。
「その通り。海岸に漂着してた所を拾ったんだ。
傷ついたポケモンもいたから一緒にこのポケモンセンターに運ばせてもらったよ。君といたメタグロスは今ジョーイさんに、、、」
「メタグロスがどうかしたんですか?!っ!!」
「あ?!待つんだ!!」
少女はいても経ってもいられなくなって、勢いよく立ち上がると同時に走り出し、ドアを開けて廊下に飛び出す。背中に受けたデンジの制止なんて耳に入っていなかった。
不思議にも勝手知ったるかのように廊下を駆け抜け、一番大きな扉を音を立てて開けた。
「メタグロス!!」
名前を叫んで開けた扉の向こうにはジョーイさんの治療を受けたのであろう傷ひとつなく、いつも通りの輝きを放つメタグロスがいた。
メタグロスも少女に気づき、嬉しそうにひと鳴きすると少女は深い安堵感を覚え、全身の力が抜けそうになる。
「よかった、よかったメタグロス、本当に。」
少女はメタグロスに近づき、目の前でへたり込み彼を優しく撫でた。メタグロスはその手を受け入れた。
「ちょっと待てと言ってるだろう!というかどんな速さで走ってるんだ、目を覚ましたばかりなのに!!」
そう叫びながらデンジが少女と同じように音を立ててやってきた。
そのまま彼は少女の目の前にズンズンと進んでいき、上から少女を叱りつける。
「さっきの言葉聞いてなかったのか!溺れていたんだぞ!なのに、目が覚めてすぐに全力疾走するなんて、、、怪我もしているというのに。
元気になったのは結構だけど、少し落ち着きを覚えるべきだ。」
デンジの言葉に少女は素直にごめんなさい、と返す。その様子にデンジもため息をつき、君を助けたのはメタグロスで漂着したあとも君を守ってくれていたよ、と言葉を続けた。
「ありがとう、メタグロス。」
メタグロスを再度撫でる。
「それでなんで海に流されたんだ?あと、そのメタグロスは君のポケモンか?」
デンジの質問に少女はなんとも言えない顔をする。反応からデンジは聞いても良かったのだろうかと内心焦るが、少女の口がゆっくりと開かれる。
「、、、実は」
少女はデンジにスペース団という組織がレックウザの力でブラックホールを作り宇宙を全て飲み込もうとしていること、古代ポケモン2体を目覚めさせ暴走させて操っていること、自分がその組織の計画を潰すためのミッションに参加していたこと、メタグロスが別のトレーナーのポケモンであること、これまでの経緯を全て話した。
「すみません、、、信じてくれませんよね、、、。」
少女は不安げな様子で、眉を下げデンジの視線から逃げるように目をそらす。話したは言いものの、どこの誰だか分からない小娘にそんな信じ難い話をされても困るだろうと後悔する。
そんな少女の思いに気づいたのからデンジは先程と打って変わって、厳しい目つきで少女をみた。
「君は何が言いたいんだ?」
「え?」
デンジの言葉に少女が固まる。
「な、なにが、、、とは、、、。」
少女の困惑する様子にデンジがため息をつく。少女は肩をビクつかせ、どこか親に責められているような気持ちになった。嘘だと思われただろうか、頭がおかしい娘だと思われただろうか、少女は少し泣きそうになる。ダイゴとミクリが少女の奇妙な話でも簡単に信じてくれたから、普通の反応だと分かっていても逆に困ってしまう。
「俺にその話をわざわざしたのにも関わらず、信じてもらえないと諦めている。最初から期待していないなら何故話した。君は何が言いたいんだ。」
少女はデンジの言葉に、下を向く。
(私は、何を言いたかったんだろう、、、。)
少女は誰かに頼るということがわからなかった。別に幼少に厳しく育てられたとかそういう訳では無い。親も近所の大人も、旅の道中に会う大人も優しい人ばかりだった。しかし、ずっと一人旅だったせいなのか、一度ワイルドエリアで引きこもりをしていたせいなのか、少女は人への頼り方がわからなくなってしまった。
例外としてナナカマドやダイゴ、ミクリが少女に気遣ってくれていたおかげで話しやすかった。
デンジが悪いという訳では決して無く、しかしどうしても歯に衣着せない言葉に詰まってしまう。
「下を向くな。」
「!」
叱責する声に顔を上げると、デンジの真剣な目とカチリと合った。少女はどうしてかデンジから目を逸らせない。
それは彼が少女に怒っているわけでも、呆れているわけでもないことがわかったからだ。
「下を向いてどうする。君は何かをしたいから、俺にして欲しい何かがあるから話したんじゃないのか。自分の思いを話す時に下を向けと、君を助けてくれたダイゴさんとミクリさんとやらは言ったのか。違うだろう。望みがあるなら言え、口に出せ。望みは、想いは口に出さないと何も始まらない、人に伝わらない。」
(私の望み、、、こんな絵空事のような話を信じてくれるのだろうか。)
ダイゴたちがいない今、自分が頑張るしかない。
例え虚実だと言われようとも、頭のおかしいやつだと思われようと自分ができることをするしかない。
(もう弱い人間じゃいられない。私が、何とかしなければいけないんだ。なら、私は、)
「レックウザを助けたい。できることなら、すぐに飛んでいって奴らを追いかけたい。でも、今の私にはそれができない。一人じゃ、できない。だから、デンジさんに手を貸して欲しい!私は私の大切なものを助けたい!」
デンジに乞うように自身の思いをぶつける。手は胸の前できつく結ばれている。無意識に爪を立てているのだろう、皮膚にくい込んで血が滲んでいる。
デンジは少女の言葉を聞くと、目を伏せふっと笑う。
「、、、うん。良いだろう、手を貸そう。
よく言えたな。」
デンジが少女の肩をポンポンと叩き、少女の血が滲んだ掌を開く。そしてにかりと歯を見せて笑った。
少女は拍子抜けしたようにぽかんと口が開いた。
「はは、なんだその顔。実はその古代ポケモンたちが目覚めたと思われる時からここシンオウでもホウエン程ではないが天変地異が至る所で起きている。
ナギサシティも昨日は酷い悪天候だったよ。超古代ポケモンが引き起こしたことなら説明がつく。」
「そう、だったんですか。」
ホウエン地方だけでなくシンオウ地方まで影響を及ぼすとは、流石伝説のポケモンとしか言いようがない。この様子じゃシンオウ地方だけじゃない他地方も同じように天変地異が起こっていると考えても不思議じゃない。
早くシュオウを止めなければと少女は新たに決心する。
「しかし、、、そうなると俺だけの力では力不足だ。応援を呼ぶ必要があるな。」
「応援?」
首を傾げる少女にデンジは今度は少し不敵な笑みを見せた。
「ああ。最強の助っ人がな。」
---
数時間後、デンジがどこかと連絡を取るとナギサシティの北の海から一機の大きな輸送ヘリが飛んでくるとヘリの中から1人の女性が姿を現した。
「お待たせしてごめんなさい。それと、連絡どうもありがとうデンジくん。」
「いや、来て貰えて助かります。チャンピオンが一緒なら心強い。」
「ふふ、そう言って貰えると嬉しいわ。」
デンジと軽く挨拶を交わした女性はこのシンオウ地方が誇る最強のポケモントレーナー、チャンピオンシロナだ。
「貴女がデンジくんが言ってた女の子ね?、、、あら、貴女、数年前シンオウリーグで優勝してた子よね?ボーマンダ使いの。」
「え!?え、いや、あ、そうです、、、?」
唐突な質問にたじろぐ少女。シンオウ出身ならシロナの存在を知らぬものはいない、少なくとも少女はシロナの存在を勿論知っており、また憧れの女性の1人であった。そんなシロナに突如過去に参加したシンオウリーグの話を振られ、ボーマンダを使っていたことも知られている。少女は焦りとシロナに己の存在を知られていたことの驚きで死にそうであった。
「見かけによらない面白いバトルスタイルだったからチャンピオンリーグに挑戦しに来るの楽しみにしてたんだけど、結局来なかったから残念だったのを覚えていたの。」
「あ、あ、えっと。すみません、リーグ後すぐにカロスへ向かったので、、、。」
「カロスに?」
「は、はい、もっと強くなりたくて、留学というか異文化交流と言いますか、あは、あははは、、、。」
少女はもういたたまれなかった。シロナはそう少女が慌てふためくのを微笑んで眺めていると後ろに異様なプレッシャーを放つポケモンを見つける。
「あら?そのメタグロスは?」
「!、、、このメタグロスはホウエンチャンピオンのツワブキ・ダイゴさんのパートナーポケモンです。」
シロナの質問に、ピタリと少女は止まり、メタグロスに目を向けると先程とは打って変わって落ち着いた様子で答えを返した。
「そう。ミッションで一緒に行動していたのよね。」
「はい、ダイゴさんは私を助けるためにメタグロスを、、、。そのままダイゴさんはミクリさんと一緒に敵組織と消えてしまい、私たちは乱気流に飲まれてバラバラになってしまって。」
「そう、、、。パートナーポケモンがいないのは心配ね。」
シロナの言葉に少女は目を少し見張ったが、すぐにくすりと笑って見せた。
「はい。でも、きっとダイゴさんは大丈夫だと思います。」
「??」
シロナとデンジが少女の発言に首を傾げる。
「だってダイゴさんは、あのホウエンで一番強くて凄い人だから、、、ミクリさんも強い。絶対、大丈夫です。」
(それに、あの子たちも、、、)
少女とダイゴとの付き合いは短い。それこそミクリや他の四天王、ジムリーダーの誰より短い関わりしかない。
しかし、彼は少女の悩みを軽んじなかった、少女とレックウザの関係を否定せず信じてくれた、人としてトレーナーとして導いてくれたその事実が少女のダイゴに対する信頼を確立させた。ミクリだってそうだ、元ジムリーダーは伊達じゃない。
彼らが少女を信頼していなくとも、少女は彼らを心の底から信じている。
一番心配なボーマンダもきっと彼らが助けてくれる、こっそり何かあった時のための保険だって準備しておいた。少女は彼らを信じている。
根拠の無い信頼、少女のその姿にシロナは笑った。
「それもそうね。それで、これからどうしましょうか。」
「確かに、組織が消えたあとの手がかりは今はない。」
デンジとシロナが腕を組んで、考え込む。合流はしたものの、突然の事でプランがない。
「あの、奴らは超古代ポケモンを操っていました。カイオーガとグラードンの動向で分かったりしませんか?」
「それも勿論考えたんだけど、、、。昨日から2体の行方がわからなくなっちゃって、追うに追えないのよね。」
「そうですか、、、。」
シロナの答えに少女は肩を落とす。とその時、少女は何かを思い出したかのようにあっ、と声を漏らした。
「巨石、、宝玉、、、。」
「?巨石と宝玉って?」
少女の呟きにデンジがオウム返しをする。
ハッとした少女は大人2人を勢いよく見上げる。
「超古代ポケモンのエネルギー源を辿ることってできますか、、、?!」
少女は鬼気迫る表情でシロナに詰め寄り、その気迫にシロナでさえも圧倒されかける。
「え、ええ。エネルギーのデータさえあれば可能だと思うわ。」
「なら、今すぐカロスに向かいましょう。」
「カロス?どうして?」
「カロスに組織を追う方法があるはずです。
シロナさん、デンジさん私をカロスに連れていってください。」
……
シンオウ地方から遠く、カロス地方の真ん中に位置するミアレシティのジムに少女の姿はあった。
「突然の訪問、申し訳ありません。そして、突然の要望にも関わらず迅速に参集して頂きありがとうございます。」
シロナの威厳ある声がジムに響き渡る。
「いいえ、世界の危機ですもの、こういう時こそ我々は手を取り合いこの危機をいち早く脱却するべく尽力するべきです。お互い様ですわ。」
そんなシロナと相対するのはカロスチャンピオンであるカルネだった。
カルネの後ろにはミアレシティジムリーダーのシトロン、カロスを代表するポケモン博士のプラターヌがいた。
カルネはシロナとの挨拶もそこそこに後ろに控える少女に目を向け、懐かしそうに微笑んだ。
「久しぶりね。お元気そうで良かったわ。」
カルネの声は優しく、2年前と変わらない様子で少女に話しかける。少女はそれに安心して緊張が少し解れる。
「はい、その節は本当にお世話になりました。カルネさんにまた会えて凄く嬉しいです。」
少女はカルネにはにかみながら彼女との再会を噛み締めるかのように言葉を返した。
カルネは少女のその姿に目を見張り、最後は安堵の表情を見せる。
そうして少女はカルネと軽い再会の挨拶を交わしたあと、ニコリとした表情を引き締め早速本題へ入る。
「今日ここに集まって頂いた理由は、皆さんに事前にお話した通り、悪の組織スペース団の野望を止めるためです。
時間が無いので単刀直入に申し上げます。数ヶ月前このカロスを襲った大事件、その大元のエネルギーになった巨石のデータを貰えませんか。」
少女の言葉に3人は目を見開く。
「理由を伺っても?」
カルネが少女に問いに少女は頷く
「組織のアジトを特定するためです。」
少女は更に言葉を続ける。
「今回、古代ポケモンがゲンシカイキをしたエネルギー源を【あいいろのたま】と【べにいろのたま】だと私と共に組織を追っていたホウエンチャンピオン、ツワブキ・ダイゴが仮定しました。しかしそれが本当に宝玉による現象であることの証拠がありません。その照明のために巨石のデータと照合しなければならないと彼は言いました。
私は彼の代わりにそれを行うため、ここに来ました。エネルギーが同じことが分かればそれによって宝玉の場所を特定できる可能性があります。きっと、そこにレックウザがいるんです。私は、レックウザを助けたい!
だから、お願いします。」
頭を下げた少女に3人は何も言わない。難しいだろうかと冷や汗をかく。
カルネがふふ、と笑った。
「分かりました。データをお渡しします。」
まさかのカルネは二つ返事。
少女はビックリして顔を上げる。
「いいんですか!?き、機密事項じゃ…」
「ふふ、さっき協力し合いましょうって言ったばかりでしょう?」
「あ、、、」
恥ずかしい。カルネは最初から協力すると言っていたのに、完全に少女の杞憂だったようだ。
「それに、連絡が入った時から協力するつもりだったのよ。プラターヌ博士とシトロンくんがいることが証拠です。」
「、、、?あっ、ダイゴさんが言っていた信頼のできる博士とジムリーダーって、、、。」
少女の言葉にカルネは大きく頷いた。
「そう。私たちはエネルギーのデータを厳重にロックし、データ事態をプラターヌ博士に、データを扱うための機械、システムはシトロンが作ったものに限った。つまり、2人が揃わないとデータは扱えない。エネルギーのことを知っている人も限られているわ。」
更なる悲劇を産まないため、関係者さえも限定し人物による二重ロックを敷いた。つまり、2人のどちらかがいなくなった場合データは完全に闇に葬られるのことになるということだ。それほど、巨石のエネルギーは世界を揺るがすということだ。
「でも、データの照合といっても宝玉のデータはあるの?」
「あ、はい。それなら。」
少女はポケットからあのUSBメモリを出し、カルネに渡す。すると横から今まで黙っていたデンジが眉を動かした。
「それ水没してないか?お前溺れてたじゃないか。」
「あ、、、。あ、いや、でも、ダイゴさんが渡してきたやつだから防水対策はされて、、ある、、、はず、、?」
少女の声がだんだん小さくなっていく。
するとデンジと同じように黙っていたプラターヌが話に入ってくる。彼はメガシンカについての研究をしているポケモン博士であり、ちなみに少女にメガシンカの存在を教えたのも彼である。
閑話休題。
「もし故障していても大丈夫さ!だってここにはカロスいちの発明家とシンオウいちの改造マニアがいるんだ!」
「「!!!」」
プラターヌの言葉にデンジと空気と一体化しかけていたシトロンが目を輝かせた。
「あぁ、勿論どんなに故障していたとしても俺が直してやるよ。」
「僕もです!照合もお任せ下さい!!こんな時のためのメカも発明済みなので!今こそサイエンスが未来を切り開く時、ですよ!!」
「ふふ、本当に頼もしいわね。」
「えぇ、全くだわ。」
デンジとシトロンがUSBの状態を診た結果、USBは壊れておらず、しっかり防水加工か施されていた。流石、天下のデボンコーポレーション、発明品に余念が無い。(余談だがインカムはバイバニラとチラチーノの攻撃で壊れていた。)
デボンクオリティによって出番のなかった修理用のシトロニックギアだったが、データの照合に大いに大活躍を見せてくれた。途中、エネルギーの質が膨大であったため1度故障する事故があったがデンジの介入もあったため迅速な修理と改良が行われた。
プラターヌもデータの照合を行うため、2人について行った。
「データの照合、完了しました!!」
別室で待っていた少女たちの所に少々興奮気味のシトロンが飛び込んできた。後にデンジとプラターヌも続いて入ってくる。
「それで、結果は?」
「はい、それではこちらをご覧下さい。」
シトロンがメカを操作し、パソコンの画面にデータを映し出した。シトロンが照合の結果を伝える。
「照合の結果、巨石のエネルギーと宝玉のエネルギーは同じものではありませんでした。」
シトロンの言葉に絶句する少女。
(やっぱり宝玉はミスリードで別の何か?もしそうなら、奴らを探し出せない、、?)
「だが」
少女が絶望しかけたその時、デンジが口を開いた。その声は絶望するには早いぞ、と言うかのようだった。
「それは全く同じエネルギーではないというだけだ。プラターヌ博士が巨石のエネルギーにはメガストーンと同じエネルギーが含まれていることを教えてくれた。そこで、メガシンカのエネルギーを巨石のエネルギーから取り除いみたら、だ。」
「見事に宝玉のエネルギーとマッチしたと言うわけさ。」
それが3人の答えだった。
ということは、今2体をゲンシカイキさせているのは巨石のエネルギーと同質のエネルギーを持つ宝玉である可能性が非常に高いと言える。ダイゴの見立ては正しかったのだ。
「それは本当!?」
「素晴らしいわ!!」
シロナ、カルネはそれぞれの歓喜の声を上げる。
「えぇ、本当ですよ!」
シトロンが自信を持って答える。
「最初データが合わなかった時は焦ったけどな。プラターヌ博士がいなければ危なかった。」
「いえ、僕だけじゃこの短時間で行うことはできなかった。メカの発明、修理、改善。シトロンくんとデンジくんがいなければこうは行かなかっただろう。」
「皆がお互いに協力したお陰で素晴らしい結果になったのよ。」
それぞれ謙遜したあっていたが、シロナの言葉に深く頷いた。
そんな大人たちを他所に少女は呆然と立ちすくんでいた。それに気づいたデンジは少女に近づく。
「どうした。嬉しくないのか?」
少女はデンジの言葉に首を振る。
「嬉しいです、嬉しいですよ。当たり前です。」
「そうか。
、、、これで組織を追えるな。」
「はい、ありがとうございます。皆さんのお陰です。」
「レックウザ、助けに行けるぞ。」
「はい、すぐにでも行きたいですよ。」
「チャンピオンたちもな。」
「ダイゴさん達なら大丈夫です。」
「、、、まだ、始まったばかりだ。今は泣くなよ。」
「、、、勿論ですよ。」
少女は目に涙をためている、それが零れないように手をきつく握りながら。
「それじゃぁ、早速組織を追いましょう!」
「えぇ、そうですね。」
シロナの言葉にカルネを始めた全員が賛同した。
少女も同じように意気込んでると、たまたま待機室のテレビで流れていたニュースが目に入った。
それは初めてそらのはしらに行ったあの日のニュースと同じで、どこかの山で発掘された緑の宝石の話だった。今回のニュースはその宝玉がもしかしたら何かしらのポケモンに関わる宝石かもしれないという研究結果が出たらしく、ポケモン研究の第一人者であるオーキド博士の元へ渡ったというものだった。
画面が切り替わり件の宝石が映し出された。
宝石は緑と言っても深緑のような濃い緑色で、その形は丸く、宝石と言うより宝玉というのが正しい形をしていた。
その宝石を食い入るように眺める少女に、ビリビリと何かが走った。
「緑の宝石、レックウザ、、緑、、、」
「どうかした?」
少女がテレビを見ながらブツブツを何かを言い出したのをシロナが心配そうに覗き込んだ。
「あの、シロナさん。元々レックウザって何色でしたっけ?」
「レックウザ?レックウザは、緑色の体をしてるんじゃなかったかしら?」
「宝石も緑、、、レックウザも緑。」
少女の様子にシロナは頭にクエスチョンマークしか出ず、他の者も何かあったのかと様子を伺う。
そんな周りの心配など露知らず、少女はある可能性が出てきたことに対して頭がいっぱいいっぱいであった。
そして、またシロナへ顔を向ける。その顔には少しの期待と興奮があった。意を決したように少女は口を開く。
「シロナさん、、、これは私の勘違いかも知れないんですけど、、。」
………
カントー地方、始まりの街、マサラタウン。来たことの無い場所のはずのそこにどこか懐かしい匂いを少女は感じていた。
しかし自分はここに重大な目的を持って来たのだと、気を新たに引き締める。
少女の目的はマサラタウンにあるオーキド研究へ向かい、かの有名なオーキド博士に会う事だった。
後ろにはカロス地方だけではなくカントー地方にも着いてきてくれたナギサシティのジムリーダーのデンジ、我らがシンオウチャンピオンのシロナがいる。
そして、カロス地方では飛行機の中で待ってもらっていたメタグロスは今回は横に居てくれている。
カロス地方で巨石のエネルギーの一部と宝玉のエネルギーの質が同じであることを知った少女は飛行機に乗り込むなりメタグロスにその事を嬉しそうに伝えた。メタグロスも分かってくれたようで嬉しそうにする姿に少女は更に踊り出しそうなほどの喜びを感じたのだ。
そんな1人と1匹の様子を遠目に見ていたシロナとデンジはまだ、全部解決した訳じゃないんだぞと思いながらもそんな野暮なことは言えなかった。
そうしてカロスメンバーと別行動という形を取って、一行はオオキドに会うべくカントー地方に赴いていた。
カルネ、シトロン、プラターヌはスペース団の本拠地を調べるべくカロスに残り、また、他の地方へ組織の情報を流すという役目も買って出てくれたので、最終組織の本拠地で合流になるだろうという話になった。
閑話休題。
一行は長い階段登り終えオーキド研究所の入口にたどり着いた。チャイムを鳴らすと扉の向こうから1人の少年が現れる。
「はいはーーい。どちら様ー?」
「お電話させて頂いたシロナです。」
「あ、はい!シロナさんですね!僕はオーキド博士の助手をしています、ケンジです。どうぞこちらへ、メタグロスはきっと通れないから、庭から回って入りましょう。」
ケンジはにこやかに少女らを研究所内に招き入れ、オオキドの元へ案内してくれるようだ。
オオキド研究所の庭はとても広く森も隣接しており、トレーナーが預けたのであろう多くのポケモンたちがバトルの特訓をしたり、日向ぼっこをしたり、一部ではケンタロスの大群が走っていて、のびのびと過ごしていることがわかった。旅で出会った少女のポケモンもここと同じようにナナカマド研究所で預かってもらっている。少女ら無性にあの子たちに会いたいなと思うと同時に、バトルを繰り広げるポケモンたちを見てあの子たちと戦ってみたいなんてことを考える。
メタグロスの速さに合わせているためゆっくりと庭を見ながら進んでいく。ケンジを先頭に後ろに少女とメタグロス、そのまた後ろにシロナとデンジが並んで歩いていたためケンジが後ろをチラリと見ると少女と必然的に目が合う。ケンジは少女にニコリと微笑むと歳が近いことに気づいたのか砕けた口調で話しかけてきた。
「君、僕と同い年くらいだよね、よろしく!ねぇ、そのメタグロスの君のポケモン?モンタボールに入れないの?あ!別に責めてるわけじゃないから!僕の友達にもピカチュウを肩に乗せたまま旅してる子がいるからさ。でもメタグロスみたいな大きいポケモンは珍しくて。」
「へ?あ、あぁ。いや、この子は私のメタグロスじゃないよ。」
ケンジのマシンガントーク気味に若干驚いたが、少女は嫌な顔はせずケンジ質問に答える。
「えぇ?!そうなの?預かってるとか?」
「んー、、、預かってるというか、託されているというか?」
ケンジの質問に首を捻りながら、曖昧な答えを出す少女にケンジは頭にハテナを浮かべる。
「んん?まぁ、でもそんなにしっかり愛情込めて育てたポケモンを人に預けるなんて信頼されてるだね。」
少女はケンジの発言に面食らってしまった。そんなことを言われるなんて思ってもみなかったからだ。
「え!?あ、いやぁ、そうなった経緯も突然の事だったし、不可抗力だと思うけど、、、いや、でもそうだね。ふふ、、信頼してくれてるなら、嬉しいなぁ。」
そう、今メタグロスがダイゴではなく自分自身の所にいるのは不可抗力と言えるだろう。ダイゴはチャンピオンであるため、大人として、人の上に立つものとして少女を助けるのを優先したのは至極当然のことだと言える。
しかし、もし少女を信頼してメタグロスに指示を出したのなら少女にとってそれはとても嬉しい事だった。
(少しは役に立てたのかな。)
信頼している人に信頼してもらえること、それは簡単なことでは無いのだと少女は理解している。だからこそ、少しでも信じてもらえるようになったのかもしれないと思うと少女は無意識に顔を綻ばせてしまう。
「そっかぁ。そりゃ大事な人に信頼されると嬉しいよね。」
「うん、、、弱い私にまた前を向かせてくれた恩人。あの人がいなかったら私は弱いままで、今ここにいることは無かったかもしれない。それだけの理由じゃ無いけど、私にとってとても大事な人だよ。」
はは、恥ずかしいですねと笑う少女。少女は横にいるメタグロスに視線を向ける。
「勿論メタグロスも大事だよ。ミクリさんも、私のポケモンたちも凄く大事な私の仲間。全部私の大事な人達、ポケモン達。」
そうメタグロスに笑いかけると彼はありがとう、と言うように鳴く。
少女とメタグロスがお互いに見つめあっている後ろでシロナとデンジがその様子を眺めていた。
「、、、なぁ、」
「デンジくんにひとつ言っておくけど、あれは敬愛よ。」
「、、、そうか。」
変な詮索は大人の悪い所である。シロナがスパっと否定してくれたおかげで少女にもダイゴにも誤解が生まれずに済んだ。しかし、打って変わって少女を見るシロナの目は憂いを帯びていた。
……
廊下を進んで行くと研究室らしい所に案内された少女たちはケンジに促されるまま扉をノックする。
「オーキド博士、失礼しても宜しいでしょうか。」
少女の声は震えていた。それもそのはずオーキド博士という人物はポケモン界の大物中の大物。緊張しない方がおかしいのだ。
すると扉の向こうから声が掛る。
「おぉ、大丈夫じゃぞ。入ってきなさい。」
そう扉を開ける許可を貰い、ゆっくりと開ける。開けた先には白衣を着た中老の男性が立っており、ゆっくりとこちらへ振り返る。
「やぁ、遠路遥々よく来たのぉ。」
そう言ってこちらに話しかけてきた、この人こそがポケモン研究の第一人者と名高いオーキド博士だったのだ。
ナナカマド博士の強面に慣れていた少女はオーキド博士の優しそうな顔を見てほっとしながら、部屋の中へ進む。
全員が中に入るとオーキドはすぐに本題に入ってきた。
「お主らがここにやってきた訳は、この宝石じゃな?」
オーキドは少女らの目の前にニュースで放送されていた件の宝石を出した。
そう、少女らがカントー地方のマサラタウンへ来た目的は他でもないこの宝石のためだった。
「はい、それです。」
少女は宝石をじっと見つめる、宝石からはどこかレックウザと似たオーラを少女は感じていた。
オーキドはそんな少女をじぃっと見る。
「この宝石がどうしたんじゃ?」
「ニュースでこれを見た時に感じました。この宝石、恐らくレックウザに関係するものだと。」
「ほぉ、レックウザとな。」
少女の言葉にオーキドは興味深そうに反応する。
「数日前、ホウエン神話に関わる石碑が発見されました。そこに書かれていたのは虹色の石を前に人々がレックウザに祈りを捧げたことでレックウザが新たな姿に変化したことでした。ダイゴさんと虹色の石が巨石に当たると言いました。実際、数が月前のホウエンでレックウザがメガシンカした時、巨石の力を使っていたそうです。
それと、カロス地方のシトロンという方が、デセルシティで黒いレックウザがメガシンカしていたことを教えてくれました。その方によると一部始終は見てはいなかったけど、レックウザは人の味方であったと言っていたんです。その時は巨石はなかったらしいですが、、、。」
「つまり、どういうことなんじゃ?」
「私が思うにデセルシティでの現象は、その場にいた住民たちの救われたい思いに共鳴したんだと思います。これらのことからレックウザのメガシンカには巨石のエネルギーか人々の祈り、、、つまり願いが必要になるんじゃないかと思ったんです。
そしてもうひとつ、これは勝手な私の想像です。ホウエン神話に語り継がれるカイオーガとグラードンにはそれぞれに纏わる宝玉が存在しています。実際、今回の彼らのゲンシカイキは宝玉による力の解放である可用性が高いと、デンジさんとシトロンさん、プラターヌ博士が証明しました。
私はずっと神話においてカイオーガとグラードンと肩を並べるレックウザに何故、彼の宝玉がないのか疑惑だったでした。そして今回この宝石が見つかって、これをニュースで見た時思ったんです。これが、レックウザの宝玉なんじゃないかって。これがあればレックウザはメガシンカできる。レックウザはカイオーガとグラードンを止めようとしていました。レックウザが復活してメガシンカできれば、超古代ポケモンたちを止められます。
きっと彼は今もこの世界の、、、いえ、宇宙救うために私に助けを求めているんです。レックウザのことも宝玉のことも私の勝手な想像です、、、。でも、少しでも可能性があるなら私は賭けたいんです。」
少女が乞うようにオーキドに詰め寄った。ダイゴやミクリのように上手く話すことはできなかったが、確かに自分の思いと願いを伝える事はできたはずだ。
「わかった。宝玉を渡そう。」
「いいんですか!?」
オーキドの二つ返事にまた驚く。それもそのはず、オーキドもポケモン博士としてこの危機に協力しないという選択肢はシロナから連絡が入った時点で持ち合わせていなかった。
これでも何十年も研究者として働き、今では第一人者とまで言われるようになった人だ。研究者として常に堅実であるが、時には柔軟に物ごとを考えている。そうでなければ未知の生物であるポケモンの博士など務まらない。
だがしかし、オーキドは言葉とは逆に顔を顰めて少女を見ていた。
「しかし、渡すのはいいんじゃが、、、君はここに残りなさい。」
「へ?」
オーキドは突然少女にここに残れと、組織の本拠地に行くとこを止めてきた。ここまで来て、実に突然のオーキドの言葉に何を言われたのか分からない少女は呆気に取られた。
「ど、どうしてですか。ここまで来て、、、私は元々組織を壊滅させるためのミッションに参加していました。今更そんな、、、」
少女の酷く混乱するが、オーキドも当然意図がなく言った訳では無い。
「貴女が参加する前は組織があれだけ危険なことを実行できるほどの力があるとは分かっていなかった。そもそも、伝説のポケモンを操ることなんてできないはずなのにスペース団はその綿密な計画の末に超古代ポケモン二体を操り、レックウザの力でブラックホールを作れるほどの技量を得てしまった。」
後で黙っていたシロナが徐に話し出す。
「ダイゴくんもミクリくんも、ナナカマド博士もこれ程までになるなんて思っていなかったのよ。」
「奴らと戦うならば君もただではすまんじゃろう。大きな怪我をするかもやしれん、、、。」
オーキドだけではなく、シロナの口ぶりから彼女も少女が組織と戦うことを押し止めようとしていることがはっきりわかる。
「シロナさんもどうして、、、。」
「おい、ここまできて今更何を言ってるだ。」
様子を伺っていたデンジも話に入ってくる。
「こいつがあの2人から離れて1人になってもどうにかしようと俺たちに助けを求めたんだ。そしてカロスにもカントーにも来た。レックウザを助けるため、組織を追うために。だと言うのに土壇場でそれはないだろ。」
デンジの言葉にシロナとオーキドは暗い顔をする。
「デンジくんの言いたいことも分かるわ。でもこの子はジムリーダーや四天王でも無ければチャンピオンでもない。ポケモンGメンでもポケモンレンジャーでもなく、ただの一般のトレーナーで子どもなのよ。」
「ワシらはそういうトレーナー達を支えるために存在しているのじゃ。加えて大人として子どもたちを守らねばならん。水際であっても、守れるものは守るのが大人の責任というものじゃ。」
「メタグロスをダイゴくんの元へ返すのも、レックウザに宝玉を届けるのは彼女じゃなくても、、、」
シロナとオーキドは大人として責任あるものとして少女を守ること選んだ。可能ならば少女を尊重したい、しかし、それを出来るほどの状況ではない。それはデンジも十分理解している。だからこそデンジも納得できないのだ。
「大人たちがこいつを巻き込んだのに、大人たちの事情で除け者にするのか。」
デンジは2人を責めるように睨みつける。
オーキドとシロナは少女に目を向ける。少女は俯き表現が見えなくなっていた。そんな少女にオーキドが声をかける。
「お嬢さんや、きみはこのミッションを受ける時ギラティナの調査団の推薦をしてもらうことを条件に参加したんじゃろ。もしこのまま組織へ乗り込んだら酷い怪我をして、推薦してもらったとしても参加できない状態になるかもしれんぞ。それでは本末転倒じゃろうて。」
オーキドは少女の元々の目的のためにここで無茶をする必要は無いという。
「それにここで離脱しても誰も貴女を責めないわ。ダイゴくんもミクリくんも、ナナカマド博士だって約束を果たしてくれるでしょう。私からも推薦を出すわ。だから、何の心配も無いのよ。」
シロナは少女の手を取り優しく少女に語り掛ける、少女が抱いているであろう不安を払拭するために。
ずっと俯いて床を見ていた少女はメタグロス方へ目線だけを動かす。するとすぐに彼と目があった。彼はずっと少女を見ていたのだ。この研究室に入ってからずっと少女しか見ていなかった。熱意の籠った目で見つめていたのだ。
(大丈夫だよ、覚悟はもう決めてある。)
少女はシロナとオーキドに顔を向けて、柔らかく、それでいて強い意志を持って笑った。
「ありがとうございます、御二方。私を、心配してくれて、、、。
でも、だめです。
このミッションに参加することを決めたのは私です。ダイゴさんでもミクリさんでも、まして、ナナカマド博士でもなくて、巻き込まれたなんて、そんなことと一切ないんです。誰にも強要なんてされていない、私がそう決めたことです。
確かにここで私が離脱しても誰も怒らないでしょう。でも、私が許せ無くなります。ダイゴさんは私を助けるためにメタグロスを私のもとに向かわせてくれました。あの危険な状況で私を信じてくださったんです。だから、私はそれに応えたい。メタグロスは私がダイゴさんへ返します。その責任があるから。」
「それに、私はこのミッションの中で何度もレックウザに助けられました。そして今、そのレックウザが私に助けを求めているんです、他でもない私に。それを誰かに押し付けるなんてこと絶対したくありません。たとえ、調査団への推薦を破談にされても私は行きます。行かなきゃいけない理由があるんです。レックウザを助けられるなら私は推薦なんて要りません!!
スペース団を倒すためなら、危険だって厭わない。覚悟ならもうとっくにできてます!!」
ダイゴたちを信じて利用される覚悟、そして自分の全てを持ってスペース団打倒を成す覚悟を少女はもう既に心に宿していた。
少女はシロナとオーキドへ一度も目線をそらさず自分の決意を言い切った。その目は一切の迷いも無い。
少女のその剣幕にシロナとオーキドは圧倒されると同時にその姿に、一人の少年を重ねる。
シロナはふふっと笑い、オーキドも顔を緩め穏やかな表現で少女を見た。
「その心意義やよし!!お主がそう決めたのならば好きにせい。ワシらは可能な限りサポートしよう。」
シロナもオーキドの言葉に頷き、少女の意思を尊重する姿勢を取った。
それに少女はほっとした顔で頷いた。
「デンジさんもありがとうございます。」
「気にするな。お前の話を聞いた時からお前のやることに手を貸すことは決めていた。最後まで面倒は見るよ。」
少女はデンジに感謝の言葉を述べ、デンジも少女を最後までサポートすることを約束してくれた。
デンジと少女のやり取りを見ながらシロナはオーキドに話しかける。
「できる限り大人として未来ある子どもは守るべきだと、大人がやるべきことに子どもは巻き込んではならないと思っていたのですが、、、簡単には守らせてはくれませんね。」
シロナは少し悲しそうに呟く。
シロナたちは少女を子どもだからと遠くに追いやりたい訳ではなかったし、ここまでの努力を蔑ろにするつもりもなかった。ただ、大人としてこんな世界の闇のような大人の企みにできるだけ遠ざけてやりたかっただけなのだ。まだ少女には無限大の未来がある。もし、今回最後まで関わってしまったら未来ある子どもの将来を縛ることになるのではないか。そんな危険な縁を結んでしまわないか、シロナはナギサシティで少女に会った時から心配であった。
シンオウ地方でギンガ団の野望を打ち砕くために協力してくれた少年たちも危険を顧みず組織と戦ってくれた。と言っても、もう引き返せない所まで巻き込まれていたので仕方なかった部分はあるが、それでもたまに舞い込んでくるピカチュウを連れた少年が他地方でも事件に巻き込まれているのを耳にすると胸がざわつくのだ。
「そうじゃのぉ、、、子どもというのは未知数じゃ、幾つもの可能性を宿す秘石と言えるじゃろう。そういう所はポケモンと似ていると言える。
だからポケモンと子どもは心を通わせるのが上手いのかもしれんなぁ、、、。
はぁ、、、庇護することは大人として大事な責任だと思っておった。しかし、やはり庇護することだけが大人の役目ではないのぉ。
子どもが決めたことを受け止め、支える。大人の使命感で子どもの可能性を潰すことがあってはならん。」
「えぇ。今回のことで痛感しました。それにしても、子どもは一度こうと決めると断固としてその決断を揺るがすことはありませんから、そういうところは、大人より頑固ですね。ふふ。」
シロナとオーキドは苦笑しながらも1つ大きなため息を着くと少女を呼ぶ。
「お嬢さんや、君は先程この宝石がレックウザに由来するものだと言ったの。」
「はい。といっても確証は全く無いですが、、、。」
少女はオーキドの言葉に申し訳なさそうにしながら肯定する。
「そうか。しかし、恐らくその臆説は正しいだろう。」
「え、、どうしてですか?」
「お主はレックウザと心を通わせた。そのお主がこれはレックウザの宝玉だと言うのならそうなんじゃろう。」
少女はポカンとオーキドを見る。あのポケモン研究の第一人者であるオーキドがただの憶測を肯定することは思わなかったからだ。そんな少女にオーキドは笑みを浮かべ、宝玉をケースから取り出すと少女へ差し出す。
「この宝玉の名は【もえぎいろのたま】じゃ。」
「【もえぎいろのたま】、、、。」
少女はオーキドの手からしっかりと宝玉を受け取る。宝玉から手を伝って如何でかレックウザの気配を感じた。
「もえぎいろというのは春に萌え出る草の芽を表す色じゃ。ワシはそれをお主とレックウザの関係のように感じた。その意味を込めて、僭越ながらその名を宝玉に付けさせてもらった。お主とレックウザを結ぶ宝じゃ、その手でレックウザに渡してやって欲しい。」
少女とレックウザの縁はまだ結ばれたばかり、それは冬が終わり新たな命が始まり、新たな出会いがある春に現れる新芽のようだ。しかし、少女はこれからレックウザとの繋がりをより強固に、深い絆を結ぶだろう。そして遂には花を咲かせる。オーキドはそんな可能性を少女とレックウザに感じたのだ。きっと少女とレックウザは花を咲かせるだろう。それはオーキドの予測より随分早いかもしれないし、ゆっくりかもしれない。
少女はオーキドの言葉に涙腺が緩みながら、涙が流れるのをグッと堪える。
「ありがとう、、、ございます。もえぎいろのたま、絶対に私の手でレックウザの元へ届けます。」
少女は【もえぎいろのたま】を胸に抱き締めると、少女の胸の中で緑の珠が淡く輝いた気がした。
…………
どこかの海の上、一機の輸送ヘリが飛んでいた。その中にはシンオウ地方チャンピオンであるシロナと、同じくシンオウ地方電気タイプのジムリーダーのデンジ、そして、世にも珍しい銀鉱石の輝きをもつメタグロスとその傍に少女の姿が見られた。
数時間前カントー地方のマサラタウンにあるオーキド研究所にいた少女たちの元にスペース団の本拠地を特定できたという一報が入った。団の本拠地はやはり発端のホウエン地方であり、ホウエン地方の中でも一際末端にある名もない孤島であったらしい。少女たちは直ぐ様迎えに来てくれていたヘリに乗り込みホウエン地方へ一直線に向かっていた。
場所の特定と他地方への伝達も済ませたカロスメンバーも同じく輸送ヘリに飛び乗りホウエン地方に向かっている。予定通り目的地での合流になるだろうという連絡も先程届いている。メンバーは、少女、デンジ、シロナ、カルネ、シトロン、プラターヌというかなり少ない人数であるが、プラターヌたちによると他地方では酷い天変地異に見舞われ市民だけでなく、付近の町、ポケモンたちの安全確保の為にジムリーダーや四天王たちが駆けずり回っているらしく増援は見込めない。シンオウやカロスでも天災が降り掛かっているが、それを現地の仲間の協力のおかげでデンジたちはここに居てくれている。そのため、この数人のメンバーでスペース団と決着を付けることになった。
丁度外は逢魔が時で、太陽は刻一刻と海の向こうへ消えていこうとしている。それを窓から眺めていた少女は胸がざわめいているのがわかった。その原因は、数時間前にオーキドによって知らされた話で、その胸の内を食い破るように少女を蝕んでいた。
……
1時間前、それはオーキド研究でのこと。
「おぉ、そう言えば、お前さんに教えておきたいことがあったんじゃ。」
少女が受け取ったもえぎいろをケースを戻し、自身のバッグに入れているとオーキドが話しかけてきた。少女が不思議そうにオーキドに目を向けるとオーキドがあるが1枚を写真を差し出した。少女はそれを受け取り、写真を見る。どうやら何かの集合写真のようで、白衣を着た男女数人が写っていた。その中にはオーキドの姿もある。
「オーキド博士、これは?」
「これは専門的に宇宙の研究をすると言った知人の研究施設建設記念の時に撮った写真で、ホウエン地方で撮ったものなんじゃ。」
「へぇ、宇宙の、、、。」
少女はオーキドの意図がいまいち掴めずにいた。
オーキドは眉に皺を寄せながら、写真をじっと見る。
「写真の真ん中の2人を見てくれんかの。」
「?、、はい。」
少女は促されるまま写真の真ん中にいる2人を見た。写真の中央の2人は1人が短髪で恥ずかしそう微笑む男性と髪をひとつに結んだ優しい顔で笑う女性が立っていた。2人の足元にはピッピとナゾノクサが2人に寄り添うにように写っている。
「その男はシュオウ。女性の方はシュオウの奥さんじゃ。」
「シュオウと奥さん!?あの人既婚者だったんですか!?」
少女は信じられないという顔をして写真を食い入るように見る。
悪の組織を作る人なのに既婚者だったとは思いもしなかったし、写真の彼には今の面影はややありながらそれでも優しい表情をしている。
「実はのぉ、奥さんは5年前に亡くなっているんじゃよ。不良の事故じゃった。」
オーキドはその当時のこと悔やみながら語った。
5年前、ホウエン地方のある街でシュオウの奥さんは研究者仲間と宇宙謎を解き明かすために新たな研究施設を立ち上げた。奥さんは宇宙に関係するポケモンが大好きで、特にオゾン層に住むレックウザが好きであった。同じ宇宙好きであったシュオウとも毎日楽しそうに研究に勤しみ、彼女の前では形無しであったという。
ある日レックウザの身体の一部だと思われる物が研究所に運び込まれた。それから研究所はそれを使った研究に没頭することになった。そしてシュオウをあのようにした運命の日、研究所は炎に包まれた。発火場所は資料の保管庫、件のレックウザの身体の一部もそこに保管されていた。その日、研究所には誰も居らず、研究所の責任者だったシュオウは急な出張で不在、気づいた時には火の手は研究所全体に周りかけていた。誰もがもう無理だと、手遅れだと諦めだが、シュオウの奥さんだけはせめてレックウザの一部だけは燃やす訳には行かないと燃え盛る研究所に飛び込んだ。その場にいた全員がもう研究資料もなにもかも既に燃えていると静止したがその言葉は彼女に届かなかった。レックウザの身体の一部は他の資料よりも厳重に保管している、まだ一時間も経っていないから間に合うと主張したのだ。誰も彼女を止めることが出来ず、出張中であったシュオウが研究所に到着したのは奥さんが研究に入って行って数十分後だった。その時は既に研究所全体に火の手は周り、到着した消防隊ですらも立ち入ることは叶わなかった。消防隊が到着してからすぐ火は消し止められたが施設は全焼、資料を守るために中に入った奥さんは丸焦げになってしまった。その体の下には1つのケースがあったという。
オーキドが話している間、少女は床に視線を落としながら耳を傾け、その顔は何処か憂いを帯びていた。
「そう、だったんですね。」
話を聞いた後もシュオウの企みは全く理解できない、聞いた限りシュオウが今していることは逆恨みである。火事については全くレックウザは関係ない事で、レックウザを憎み宇宙を壊そうとすることもお門違いにもほどがある。だが少女は愛した女性が亡くなったことに対する悲嘆は理解できる。どれだけの絶望がシュオウを襲っただろうか。だからこそあんな馬鹿げたことな止めないといけない。シュオウのためにも。
少女は再び写真を見入と、あることに気づいた。
「オーキド博士、この2人の斜め後ろにいる女性は誰ですか?どこかで見たよな気がするんですけど。」
オーキドもどれどれと写真をのぞき込む。少女はこの人です、と1人の女性を指さす。
「おぉ、この人か、、う〜む、なんという名前だったかのぅ。確かこの人は研究所を立ち上げる前からシュオウと懇意にしていた人のはずじゃ。研究所では保管庫の管理をしていたのぉ。」
オーキドの話と写真の女性に何かの妙な引っ掛かりを感じる少女は小首を傾げた。
少女の様子を不思議そうに見ていたオーキドは何かを思い出したように手をポンと叩いた。
「そう言えば火事があったのは5年前の今日じゃ。」
「5年前の今日、、、??ということは、今日がシュオウの奥さんの命日ですか?」
少女の問いにオーキドは首を振と、苦々しく笑った。
「そう、実は事故が起きたのは日付が跨ぐ少し前でのぉ。シュオウの奥さんが亡くなったのは日付が跨いだ後じゃったんじゃ。」
「日付が跨いだ後、、なら、奥さんの命日は明日?」
「そういうことになるのぉ。」
オーキドが答えた瞬間、少女の顔が真っ青になる。その時少女は自分の唇が震えるのを感じた。
……
オーキド研究所での会話の中で明日がシュオウの奥さんの命日だと知った少女はひとつの確信があった。シュオウは今日が終わる頃に計画を最終段階まで進め、日付が変わったと同時に決行する。そして、奥さんの命日、奥さんが亡くなったと思われる時刻に全てを終わらせるつもりなのだと。
今のシュオウにあるのはレックウザと宇宙に対する憎しみと亡き妻への思慕のみ、それはひとつの執着と少女は感じた。だから、彼が今日に事を動かす確信があるのだ。
少女は今から対峙する巨悪に自分がどれだけ対抗できるのかという不安を積もらせ、沈んだ表情を見せていた。少女はシュオウを止めるという不退転な決意がある、それは今後とも揺らぐことはない。
しかし、少女は悪の組織という物に立ち向かうことも初めてであり、まだ17歳という若さから大人のドロドロとした沼のような感情とどう向き合えばいいのか分からないのだ。それに加え、今のシュオウには憎しみという感情しかない。計画を実行するためにどんな手段も厭わないであろう。それこそ、今回で本当にシュオウは少女の命を直接奪いに来るかもしれない。オーキドや他の大人たちに啖呵のようなものを切ったのはいいものの、やはり恐怖心がないと言えば嘘になる。
そんな少女の顔を見たメタグロスが呼び掛けるようにひとつ鳴いた。
「どうしたの、メタグロス。」
少女は座席から立ち上がりメタグロスの目の前に腰を下ろすと、メタグロスのクロス部分の横、人間で言うと頬にあたるであろう所を撫でる。嫌がる素振りはせず、ただじっと少女を見ていた。メタグロスの目に少女は少し居心地悪そうにし、ごめん。と謝った。
「ごめんね、私、いきなりわからなくなったんだ。
奥さんを無くしてシュオウはきっと壊れてしまった。そんな人に私は何ができるんだろうって。倒すことだけを考えていたけど、彼には彼の苦しみがある。それを目の当たりにして、私は彼をただの敵として倒せない。
そう思うと、髪が、喉が、背中がどうしてか痛むの。、、ごめん、ごめんね、情けなくて。」
背中の傷はともかく、髪と喉なんて痛むはずなんてないのに。痛い、苦しい、息を吸いにくい。少女が自分の体を抱き込むようにして震えを止めようとする。
これからの戦いはただの悪意と戦うんじゃない、人の想いと戦うことになる。
(私は向き合えるのだろうか。)
その時、唐突にメタグロスが自身の右脚を振り上げた。
少女はギョッとしてメタグロスに待って待ってと静止を掛ける。
「待って待って、メタグロス!突然、どうしたの?私がなにかダメなことしちゃった?謝るからドッスンしないで墜落しちゃう〜!」
少女はメタグロスの手にしがみつき何とかメタグロスが脚を振り下ろさないように阻止する。
メタグロスは少女がさっきの暗い顔と打って変わって焦りの表情を見せているのを視認したあと、やれやれと言うかのように鳴き、振り上げていた脚を戻した。少女はキョトンと間の抜けた顔をさせる。メタグロスの意図がわからない。
「メタグロスは貴女の恐怖心を和らげたかったんじゃない?」
2人のやり取りを静観していたシロナが声を掛けてくる。
少女はメタグロスにそうなの?と聞くとメタグロスはそうだと言うように鳴き声をあげた。確かに先程まで心を埋めつくしていた不安や恐怖は薄れている。
(私、それだけ酷い顔してたんだ、、、)
「ありがとう、メタグロス。」
少女はメタグロスに手を伸ばすと、彼は受け入れて大人しく撫でさせてくれた。メタグロスの優しさに泣きそうになる。
「きっと、メタグロスは貴女がひとりで戦おうとしているのが嫌なんじゃないかしら。」
「え?」
「今回のミッションで貴女は不可欠の存在だし、プレッシャーもあるでしょう。なにより、シュオウへの戸惑いがある。
彼を悪だと認めながら、彼の苦しみを理解し一人の人間として思い向き合おうとしている。それはとても難しいことよ。貴女は優しくて、誠実な人なのね。
そんな貴女だからこそ、メタグロスはひとりで戦って欲しくないのよ。自分がいる、ポケモンたちがいる。貴女はひとりじゃないってね。」
メタグロスはそう貴女に言いたかったんじゃないかしら、とシロナは言う。少女はメタグロスを見ると、メタグロスの自身に訴えかける目と視線が会う。
「メタグロス、ありがとう、、、。そうだね、私はひとりじゃなくて沢山の仲間がいる。あなたがいる。
気づかせてくれてありがとう。私ずっとメタグロスに助けられちゃってるね。」
助けられているばかりでは、レックウザばかりかダイゴたちと会うことなんてできやしないというのに、なんて不甲斐ない。
「ダイゴさん達を、レックウザを助けたい、、、。
ねぇ、メタグロス、その時まで私に力を貸してくれる?」
少女は乞うようにメタグロスに訊く。メタグロスは少女の目を真っ直ぐ見ると今までで一番力強く鳴いた。
ありがとうと、少女はメタグロスに額を当てた。
シロナが少女の肩を優しく抱く。
「貴女は貴女らしく戦えばいいのよ。そして、シュオウたちと真っ直ぐに向き合えばいい。」
「、、、はい」
少女はシロナに身体を預けて、沈む夕日を見た。
ーーーー
一方、スペース団アジト、人気のないアジトの端の端にある一室にダイゴとミクリは腕を柱に縛り付けられ身動きが取れない状態にいた。
少女が空から落ちたあと、シュオウたちから逃れるためエアームドを出そうとするが、デスバーンの黒い眼差しによりミクリと同じようにチラチーノに痺れさせられ、抵抗虚しくミクリ共々気絶させられこの部屋に放り込また。ポケモンたちが入ったモンスターボールも取られてしまっている。
放り込まれて数時間後、目を覚ました2人は未だ痺れる身体を奮い立たせどうにかこうにか脱出を試みるも柱はビクともせず、余計な労力だと判断した2人は今は大人しく座り、少女とダイゴが幹部と交戦中既に殆ど気絶していたミクリに【あいいろのたま】と【べにいろのたま】のことも含めて一部始終を語った。
「と、いうことがあってね。お嬢さんはシュオウの手で飛行船から堕とされた。メタグロスに助けに行かせたんだけど、あの子たちがどうなったか分からない。」
「、、、そうか。」
ダイゴから事の一部始終を聞いたミクリは酷く顔を顰めた。その表情は少女がオトギリに首を絞められて帰ってきた日と同じで、少女への心配と自身への怒り、そしてまだ子どもである子がまた死の淵に立たせてしまったという恐怖を抱いている顔だった。
「また、私たちはあの子を守れなかったのか、、、!やはりあの子をあの時、、、」
シンオウに帰すべきだったんじゃないか。そうミクリは苦痛に耐えるように言葉を漏らす。しかし、ダイゴは首を振った。
「違う。それは違うミクリ。」
「違うって、なんだい。」
ダイゴの発言にミクリは眉を顰める。彼からは怒りの感情がひしひしと伝わり、珍しく感情的になっていることにダイゴは苦笑を漏らした。
「あの子は僕たちに守られることなんて望んでない。」
「望んでない、、、?違うだろダイゴ、私たちは大人だ。例えお嬢さんが望んでいなくても、大人としてまだ子どもであるあの子を守る義務がある、そうだろう。」
「それこそがあの子を一番苦しめることでも?」
「苦しめる、、、?」
何を言っているのかわからないという顔をするミクリにダイゴは眉を下げて笑った。その微笑みが何処か悲しみにような物が孕んでいてミクリは目を見張る。
「あの子はね、強い子だよ。僕たちの誰より。
あの子はあの日のルネの夜、僕に言ったんだ『ツワブキさんとミクリさんとポケモンたちと、一緒に戦わせてください。』って。その時からあの子は、お嬢さんは、僕たちと一緒に戦うことを望んでいた。僕たちに守られることなんて一切考えていなかった、、、。」
「私たちと戦う、、、」
「あの子は自分にできることを模索していた。ポケモンとバトルの練習をしたり、僕たちのサポートをしたり、、、それは守られる立場である自分が僕たちの足を引っ張らないようにするためじゃない。あの子の中でそれは僕とミクリと同じようにスペース団と戦っているという認識だったんだ。
それに、お嬢さんを僕たちが自分を利用していることに気づいていた。僕たちがお嬢さんを仲間だと思っていないこともね。気づいた上で僕たちに利用されることを許容し、仲間だと信じ続けていてくれたんだ。」
ミクリが息を飲んだ。
(知っていた、だって?知った上で利用されて、自分だけ仲間だと信じ通すことを自らの意思で選んだというのか?そんなの、、、あんまりだ。)
「利用する代わりに僕たちがお嬢さんを守ると決めていたのに、本当に守られていたのは僕たちだ。なぁ、ミクリ、そんな子に僕たちに何ができると思う?」
ダイゴはそういうが、彼らは確かに少女を守っていた。できる限り脅威から遠ざけていたし、少女の意志を尊重していた。少女はまだ子どもで、できることなんてダイゴたちに比べたら猫の手程度だろう。だから、誰がどう見ても少女は彼らに守られていたと言える。
だが、少女はそれを理解し受け入れ自分ができることをやり通そうとしていたのは、子どもにとって苦行といえる。中でも少女の年齢は自分の価値というものにデリケートな時期だ。自分のアイデンティティを見つける年齢にも関わらず、少女は自分の価値をダイゴとミクリに決められていた。その任務で必要な存在、それだけだと、そこに少女自身の人間性なんて重要ではなく、少女のトラウマの克服もただの副産物に過ぎない。そう、価値づけられた。それを少女は受け入れた。ダイゴたちの中の自分の価値を良しとし、そうであろうと努力した。少女と同じ年齢の子どもからすれば、そんなのただの拷問だ。
ダイゴたちは誰がどう見ても少女を守っていた、しかし、誰も気付かないうちに少女の決意と覚悟がダイゴたちの深い罪の意識に蓋をしていた。
「ミクリ、、、僕は、今度こそあの子の仲間になりたい。僕たちと一緒に戦ってくれるあの子の道行を見届け、あの子がこの先に見る景色を仲間として共に見たい。」
今更虫が良すぎると言われても仕方ない。それでも、ダイゴは少女の信じる仲間になりたいと思った。
「、、、そうか、そうだね。恐れながらも伝説2体に突っ込んで行こうとしてた子が守るだけの子どもなわけないか、、、。ふふ、、なんて困った子だ。
あの子が私たちに対してそう思ってくれているならば、私たちもそれに応えなければ美しくない、そうだねダイゴ。」
「あぁ、その通りだね。」
ミクリが困ったように笑うと、ダイゴも同じように笑う。今2人が思うのは、自分たちと日々強かになって行く1人の少女のことだった。
よし、と決心が着いたミクリが気持ちを切り替えてダイゴと顔を見合わせる。
「それじゃ、これからどうしようか。宝玉も調べるとなると、まずスペース団のアジトから脱出する必要があるな。」
「いや、それはいい。」
「どうしてだい?」
「宝玉のデータはお嬢さんも持っている。あの子はきっとあの宝玉の正体を突き止めて、このアジトへやってくるよ。僕たちとレックウザを助け出すために。」
ダイゴがそう言いきったことに、ミクリは驚く。なぜそんなにも確信がもてるのか、ミクリがダイゴに聞くと彼は少しキョトンとしたような顔を見せる。
「どうして、かぁ。んー、、何となくかな。」
「何となくって、君ねぇ、、、。」
ミクリが怪訝そうな顔でダイゴを見る。
「はは、そんな顔しないでくれよ、そう思うんだから仕方ないだろう?
来るよ、絶対、、、誰になんと言われてもあの子の意思でね。そう思ったからメタグロスをあの子に任せたんだ。」
ダイゴは困り顔で笑うが、目は確信に満ちていて少女に対する強い信頼があるように見える。少女もダイゴも理由はなくとも強い信頼関係をこの1ヶ月で築いていた。
「君はお嬢さんのことをよくわかっているようだね。」
「はは、何言っているんだ、わかるわけないだろう。僕とお嬢さんは別の人間なんだから。
でも、あの子が強い人だということはわかる。それをこのたった一ヶ月で示してくれた。僕はあの子
信じるだけだよ。」
「ふふ、そうかい。信じるか、、、この状況でパートナーポケモンを他人に任せられるほどの信頼。
その点で言ったら僕はまだあの子を信じてあげられていなかったのかもしれない。」
ミクリはそう言って肩をすくめるとダイゴは少し申し訳無さそうに笑う。そんなダイゴにミクリは肘鉄を入れたいと思ったが、腕を縛られている状態では自由に動かすことはできないため諦めることになった。
「まぁ、兎にも角にも、この柱から抜け出さないと、、、。あぁ、くそ、まだ体が痺れて上手く動けないな。」
「私たちのポケモンも奴らに取られてしまったからね、、、。」
再び括り付けられている縄からどうにか抜け出そうと藻掻くが時間と体力を消費するのみで全く抜け出せる様子はない。部屋の窓から少し空を見ると先程まで西日が空を赤く染めていたのにも関わらず、今はもう薄暗い。早く抜け出さなければと焦るが、全くビクともしない。
「、、、?ダイゴ。」
「なんだい?」
「扉の向こう、何かの気配がする。」
ミクリに言われるままに扉の向こうに意識を向けると、ダイゴは何かの気配があるのがわかった。スペース団の下っ端だろうか、それとも幹部だろうか、2人は柱に繋げられたまま身構える。
ゆっくりとドアノブが回される。ガチャッと小さめの音を立て、これまたゆっくりと扉が開いていく。ダイゴとミクリは生唾を飲み込み、それが開かれていくのを見る。少し開いたところで、扉と壁の隙間からそれは姿を現した。小さな既視感のあるポケモンの布を被って。
「ミミッキュ!」
そう呼んだのはミクリだった。
ダイゴはミクリがミミッキュの存在を知っていたことに些か驚く。ダイゴは飛行船の中で初めてミミッキュの存在を知った。まさかミクリが既に知っていたなんて思っていなかった。
だが、それ以上に気になることがある。
何故ここに少女のミミッキュがいるのだろうか。
あのパソコンがずらりと並んだ制御室のようなところで下っ端達を制圧するために一役買ってくれた少女のミミッキュ。ミクリに危険が迫っていることがわかった時、少女はミミッキュをモンスターボールに戻していたはずだし、それは目の片隅でダイゴは見ている。しかし少女のミミッキュがここに居るということはそういうことなのだろう。
ミミッキュはミクリはもちろんのこと、少女と一緒にいたダイゴを覚えているようで、ダイゴたちに近づくと布の下から黒い手のようなものを出すと2人を縛り付けていた縄を切り裂き解放した。
ダイゴとミクリはいきなり自由になった身体に驚きつつも、縛られ続けたせいでガチガチに固まった身体を伸ばす。2人は解放してくれたミミッキュに膝を着いてお礼を言うと、ミミッキュは布の中をゴソゴソしだし今度は木の実を取り出してダイゴに渡した。
「これはラムの実だね。助かった、これで麻痺が治る。何から何までありがとう、ミミッキュ。」
ダイゴに続いてミクリもミミッキュにお礼を言うと、ミミッキュは恥ずかしそうに少しモジモジする。その様子に微笑ましく思っていると、ミミッキュが突然ダイゴの肩に飛び乗った。2人は不思議そうにミミッキュを見ると、ミミッキュは黒い手で廊下を指しす。どうやら着いてこいということらしい、ダイゴに肩に乗っているが。
「着いてこい、と言っているようだね。行こうか、ダイゴ。」
「あぁ、そうだね。」
2人は大人しく貰ったラムの実を齧りながらミミッキュの指示通り廊下を進んで行った。
ちょっとシュールである。
……
スペース団の本拠地あるそこはいつの間に作ったんだと思うほどだだっ広く、ダイゴたちが囚われていた部屋はアジトの端の端だったことで下っ端さえ見当たらない。
「有難いけど、これ程下っ端のような人さえ見ないと少し胸騒ぎがするね。」
「きっと、奴らの宇宙を壊すっていう計画がそろそろ実行されるんじゃないか?レックウザも捕まえて、ボディガードには超古代ポケモン2体、これ程豪華なことは無いね。」
冷静に分析するダイゴとミクリだが、内心は焦りを抱いている。しかし、今焦ったところでポケモンたちもいない現状では下っ端たちに見つかればすぐに先程の部屋に戻ることになるだろう。先程までダイゴとミクリの肩を行き来していたミミッキュは今はミクリの髪に興味を示し遊んでいる。ボーマンダといい、このミミッキュといい、少女のポケモンは人懐っこいことこの上ない。
チャンピオンリーグに挑戦するトレーナーのポケモンと言うこともあり、かなり育てあげられていることはわかるが、流石に多勢に無勢はこのミミッキュでは難しいところがある。早くポケモンたちが入ったモンスターボールを探さなければ。するとミクリの髪で遊びながらもナビを続けてくれていたミミッキュが1つの扉の前でミクリの肩から飛び降り、ここだと言うようにくるくる回り出した。
「ミミッキュ、ここに何かあるんだね?」
ミクリがそう聞くとミミッキュはコクコクと頷く。ミクリは扉を開けようとするが、鍵が閉まっている。体当たりでこじ開けるしかないか、とダイゴとミクリが悩むと先程まで足元にいたミミッキュが突然いなくなった。突然いなくなったミミッキュにダイゴとミクリは慌てふためく。さっきまでいたのに、ミミッキュに何かあったらお嬢さんに合わせる顔がないとダイゴとミクリはミミッキュ捜索のため廊下を駆けずり回ろうとしとき、鍵が閉まっていた扉が開いた。扉の向こうからミミッキュがこちらを不思議そうに覗き込んでいた。
「、、、ミクリ、もしかしてミミッキュってゴーストタイプかい?」
「、、、あぁ、そうだよ。ミミッキュはゴースト、フェアリータイプ。私も驚きで忘れていたよ。」
ダイゴはパソコン室でミミッキュを見てビビり倒す下っ端を思い出し苦笑いを浮かべる。あの怖がりようでは納得するしかない。
ダイゴたちが捕まっていた時、態々扉を開けたのはダイゴたちを驚かさないようにするためだろう。優しい子だ。
ミミッキュがまたミクリの肩に飛び乗ると、ミクリは再びお礼を言いながら撫でた。ミミッキュは恥ずかしそうにしながらも撫でられるのが嬉しいのかミクリの手にすり寄る。
ダイゴはミミッキュが開けてくれた扉から部屋に入ると、そこには大きな台が数台あり上には幹部との戦闘で倒れたミクリのミロカロスとギャラドス、少女のボーマンダが繋がれていた。
「ミロカロス、ギャラドス!!」
「ボーマンダ!!」
2人はそれぞれポケモンの傍に駆け寄るが、ポケモンたちは薄いドームのようなもので覆われており触れることができない。
ダイゴが台を操作してドームを解除することに成功すると、2人はポケモンたちを労わるように触れる。ポケモンたちは繋がれていたものの酷いことはされていないようで息は正常にされている。それにほっと安堵するが、回復していないポケモンたちを運び出すことはできないことにどうするべきか悩む。ミロカロスもギャラドスもボーマンダもそれぞれ100キロ越えのポケモンである。
回復の薬を探しに行こうと、ダイゴとミクリだったがそれをミミッキュが止める。ミミッキュはボーマンダの前に降りるとまた布の中をゴソゴソし出す。次は何が出てくるんだろうかと2人はミミッキュを見ると、ミミッキュがある物を取り出し渡す。元気の塊だ。元気の塊はポケモンたちの体力を全て回復してくれるアイテムである。
「ミミッキュ、君にはどう感謝したらいいのかわからないよ。本当にありがとう。」
ミクリがミミッキュにお礼を言うと、先程からお礼をいっぱい言われたことでミミッキュは顔から火を噴出しそうであった。
ミミッキュから貰った元気の塊もポケモンたちに与えてやるとポケモンたちはすぐ元気になりミロカロスとギャラドスはミクリに擦り寄り、ボーマンダはきょろきょろと辺りを見回すが仲間のミミッキュはいるのにも関わらずトレーナーである少女がいないことに焦る。起き上がりすぐ飛び立とうとするボーマンダをダイゴが抱き締めた。ボーマンダは、ばさばさと羽を動かして抵抗する。
「すまないボーマンダ。僕たちが不甲斐ないばかりに君の大事なトレーナーを危険に晒してしまった。君に怒られても何も言えないけど、今は落ち着いておくれ。お嬢さんは大丈夫、僕のメタグロスも着いている。あの子は絶対ここに来る、僕はあの子を信じている。君も信じてくれ。」
ダイゴが暴れるボーマンダを抱きしめたまま優しく言葉を告げる。少女と似た優しい手つきにボーマンダは不思議と落ち着きを取り戻す。
ポケモンたちが落ち着いたのを確認すると、その間部屋を物色していたミミッキュがダイゴとミクリにモンスターボールを渡した。それは2人のポケモンたちが入ったモンスターボールで、感極まったダイゴとミクリはもうミミッキュを抱きしめるしか無かった。
ミクリはミロカロスとギャラドスをモンスターボールに戻し、ダイゴはボーマンダが台から降りるのを手伝い廊下まで誘導する。廊下は十分な広さがあったため大きなボーマンダが居ても余裕がある。
通常よりも倍ほど大きなボーマンダが居ても余裕ということは、このアジトは全ての場所でポケモンバトルができるように作られているのだろう。。幹部のカマスミもオトギリも腕の立つトレーナーであった。下っ端もボーマンダに吹き飛ばされていたが、よく育てられていた。下っ端でも並のトレーナーではかなり苦戦を強いられるほどには訓練されている。つまり、スペース団は軍事力も備えた組織であると言える。ブラックホールを生み出せる技術があるのも加えて末恐ろしい。
「さてダイゴ、これからどうする?」
「ポケモンたちも手元に戻ってきたし、勿論、スペース団の野望を阻止しに行くしかないね。力を貸してくれるかい、ボーマンダ、ミミッキュ。」
ミミッキュとボーマンダは任せろと言わんばかりに鳴く。ミミッキュはミクリの肩に乗り、2人はボーマンダの背中に乗ると、ボーマンダは大きな翼を羽ばたかせてスペース団アジトの廊下を滑空した。