虹色の光から白銀のメタグロスが姿を現す。メガシンカしたメタグロスを見て少女は少し泣きそうになった。
(本当に、できるなんて、、、ありがとう、メタグロス。ありがとう、、、)
本来強い絆があってこそ可能になるメガシンカを少女とメタグロスが起こしたということは、それはもう自他ともに認めるしかない。
カマスミは不愉快そうに顔を顰めている。彼女にとってこの展開は非常に面白くなかった。
その傍にジュペッタの姿は見えず、また影に潜ったのだろう。影から出さないとどれほどメタグロスの攻撃力が高かろうと当たらなければ意味が無い。いくらメガシンカしたことで素早さが飛躍的に上昇しても、ジュペッタが影に入る方が早ければ能力の高さが発揮されない。
ならば、まず少女たちがするべきことは、
「メタグロス、先にジュペッタを引きずり出そう。サイコキネシスで蛍光灯を狙って!」
メタグロスが目を怪しく光らせ、室内の蛍光灯を割っていく。割れあ瞬間、光が強くなることで光が周辺をを照らした。
光の眩しさに一箇所だけ影が揺らぐ。ジュペッタの影だ。
「ラスターカノン!」
揺らぐ影へ鉄の光線を発射する。
「避けなさいジュペッタ。そのまま怪しい光!」
影から飛び出しラスターカノンを避けてから特性の悪戯心により、素早く怪しい光が打ち込まれる。
怪しい光が当たればまたメタグロスが混乱してしまう。今度は暴走することはないが、今この状況で混乱してしまうのは避けるべきだ。
「守るで防いで!そのまま、コメットパンチ!」
怪しい光を守るで防ぎ、4本の大きな足を前に突き出しジュペッタに突っ込む。
「ジュペッタ避けなさい!」
タイプの相性ではジュペッタが有利だが防御力が低いため、コメットパンチは大ダメージに繋がる。個としての強さはメタグロスが圧倒的だった。
故にジュペッタは影に入って避けに徹し、隙をついて攻撃するしかない。影に入れば姿が見えなくなるため、メタグロスの演算能力も機能しない。
「ゴーストダイブ!」
影に入り込み、姿を消すジュペッタ。
どこから仕掛けてくるか分からない技にメタグロスをきょろきょろと目を動かし探る。
ずるりとメタグロスの背後に現れるジュペッタ。鋭い爪がメタグロスを捉える。
「サイコキネシスで氷を浮かせて!」
メタグロスはサイコキネシスにより地面の氷を割り、浮かせるとジュペッタのゴーストダイブの障壁にする。氷塊をぶつけてジュペッタを吹き飛ばすが、ジュペッタの爪はメタグロスに届いていて掠めた所から大きな爆発を産む。
「メタグロス!」
メタグロスは吹き飛ぶカラダを床に爪を立てることで摩擦を起こして耐える。
(掠っただけであれほどの威力が出るのか、、、さすがメガジュペッタ。)
メガジュペッタはメガシンカポケモンの中でも物理攻撃の能力値はトップクラス。その攻撃力は目がメタグロスやメガボーマンダもを押さえつけるほどだ。
相性の有利や影に入ることができるアドバンテージを持っているという要因もあるが、メタグロスに意外にも果敢に攻めてくるの高い攻撃力を有しているからという理由も大いに関係している。メタグロスの物理防御が高くなければ、先ほどの一撃で倒されていてもなんら不思議ではなかった。
「呪い!」
「ラスターカノンで発動を防いで!」
ずるりと影に引っ込むジュペッタ。
「ふはは!守りに集中しすぎて動きが硬くなっているわよ。それじゃ、いつまで経ってもジュペッタは倒せないんではなくて?」
「ッ、、、!!」
カマスミの言う通りメタグロスは攻撃より防御していることの方が多かった。
その原因は呪いの存在だ。
混乱では直接ダメージを受けることは無いが、呪い状態は一定の時間経過で体力を削られてしまう。ジュペッタが影に入って逃げられ続けると呪いでメタグロスの体力を削りきられる。モンスターボールに戻す以外は呪いの解除は不可能、どれだけ回復薬があろうとただのいたちごっこになるだけだ。それに何よりも呪いを恐れているのは【守る】を使えないことだ。呪いは守るを貫通する効果を持つため、呪いの発動は何としてでも防がなければならない。
「そちらこそ、影に入ってばかりでは攻めに欠けるでしょう?」
「安っぽい煽りだこと、、、でも、そうね。ならお望み通り攻撃してあげる、ゴーストダイブ!」
「コメットパンチで迎え撃って!」
ゴーストダイブとコメットパンチが相殺される。
爆風が少女とカマスミの服をはためかせる。
「、、、ねぇ、あなたはどうして私の邪魔をするの?利益もなく、あの男たちに利用されていること分かっていて、なのに何故?
もしかして伝説のポケモンを助ければ、自分のものになるとでも思っているのかしら。
ああ、それともあの男たちのどちらかに惚れているの?」
少女睨めつけながら忌々しそうに言うカマスミ。
少女は眉を一瞬潜める。しかし、直ぐに深く息を吸って心を落ち着け、カマスミを見つめ返す。
少女の目にカマスミが居心地悪そうに顔を顰める。
「ダイゴさんたちは私の大事な仲間だよ。別に利用されてもそれとは比べ物にならないくらいに大事なものを貰ったの。それに、レックウザを手に入れたいとも思ってない。
私は、ただ、、、
レックウザがもう一度空を登る姿を見たい。」
カマスミが目を大きく見開いて固まる。
なんだその理由は。その姿を見てお前に何になる。
「なによ、それ。そんなことのためだけに私の邪魔をするというの?」
何故そんなに真っ直ぐに純粋な気持ちを持てるんだ。気持ち悪い。分かりえない。疎ましい。見たくない。それならばレックウザに恩を売って手に入れたいと言われた方がまだマシだ。あいつもこいつもどんな神経をしている、理解できない。
「あの時ポケモントレーナーとしても人間としても死んでいた私は、気高くも自由に空を登るレックウザに止まっていた心臓を動かされた。ポケモンたちと向き合えず、生きる道さえ別のものに縋ることしかできなかった愚かな私はレックウザとの出会い、ダイゴさんたちと出会ってまたこの世界に生き返ることができた。彼に生かされたというのなら、今度は私が彼の生を守らなければならない。
そしてもう一度彼が空を掛けられるように、私は戦う。」
生をレックウザに返す、それが少女の出した答えだった。
少女の言葉を聞き届けたカマスミは先程までの表情と打って変わって、その端正な顔をそのままに少女を見つめ返す。
(何とも高潔な意思ですこと、、、あなたのようなものを聖人と呼ぶのかしら。あいつも、同じような気持ちで、、、。
あぁ、、、恨めしい)
「そう、わかったわ。
その忌々しい想いと共にあなたを握りつぶしてあげます。
ジュペッタ、怪しい光」
「!」
影の中からジュペッタが姿を現したかと思うと怪しい光を放ち、また影に引っ込んでしまう。
少女ジュペッタの先程までとは全く違う素早い動きに驚く。だが、少女もチャンピオンリーグに挑戦できるほどに実力はある。自分の意志を通すためにもここで負けるわけにはいかない。
「メタグロス、サイコキネシスで弾き飛ばして!」
メタグロスは前方から飛んでくる怪しい光をサイコキネシスのパワーで弾き飛ばす。が、その瞬間背後の影が伸びメタグロスを襲う。ジュペッタの影打ちだ。
サイコキネシスを発動した瞬間に生まれた背後の隙を上手くついてきたのだ。影に入り込み、見えないところから技を仕掛けられる、それこそゴーストポケモンの強みだ。その特性を上手く利用したスピーディな戦法だった。
「ゴーストダイブ!」
「コメットパンチ!」
背後から現れるジュペッタのゴーストダイブと、その気配を素早く察知したメタグロスのコメットパンチがぶつかり合う。
やはり経験値の差から攻撃力の強さはメガメタグロスに軍杯が上がり、ジュペッタはその力に押される。
そのまま押し切れるかと思われたが、ジュペッタは上手くコメットパンチを受け流すと再び影に入り込む。
メタグロスのパワーならば一撃だけでも致命傷になれるはずなのだが、影に逃げ込むジュペッタにその一撃が届かない。
一方ジュペッタは自身の特性を活用し呪いや怪しい光を先制的に放ちながら、自身は影に入り込んで不意をつきながら攻撃を仕掛けてくる。トリッキーさではジュペッタが格段に上だった。
「影打ち!」
「ラスターカノンで防いで!」
伸びる影をラスターカノンが打ち消す。
ジュペッタの技をメタグロスが相殺する、先程から守りに徹していることに少女は苦々しく感じていた。本来のトレーナーとではないメガシンカによってメタグロスの動きが悪い、という訳では無い。バトルしているこの場所が狭いのだ。いくらスペース団のアジトの廊下が他よりも広く、バトルしやすくなっているとはいえ、メタグロスのような大きい体のポケモンには不向きだった。
少女の相棒であるボーマンダも他のボーマンダより大きいため、狭い環境でのバトルをすることを苦手としている訳では無いが、ジュペッタのようにゴーストポケモンである強みを最大限に活用して戦う者にあまり出会ってこなかった。カマスミ自身が強いトレーナーであるということだ。
「お困りのようね?ふふ、トレーナーが違えばチャンピオンのポケモンでもこの程度になるのかしら。」
少女はカマスミの言葉に何も言わなかった。
少女は知っていた。ポケモンたちだけでは本来の力を全て発揮することはできないこと。バトルができなくなってポケモンたちだけで戦えるように特訓を重ねていても、トレーナーとポケモンの繋がりの前には限界があった。少女のポケモンが弱い訳では無い。ポケモンの本来の力というものはトレーナーとの相互関係によって相乗効果が生まれ、莫大な力を発揮する。それには今までの経験や信頼、絆、多くの因果が関係している。
故に本当のトレーナーではないことでメタグロスの力が引き出せてない可能性は十分ある。少女はそこが気がかりであったのだ。チラつくのはメタグロスの本来の意味トレーナーであるダイゴの姿。
意識が別のところにあったのを、メタグロスが呼び戻す。はっとした少女がメタグロスの方を見ると、じっとこちらをみるメタグロスと目線があった。
――余所見をするな、余計なことを考えるな。
メタグロスはそう目で訴えっていた。
少女ははっとした。
(そうだ。本来のトレーナーじゃなくても、メタグロスはメガシンカしてくれた。なのに自分じゃだめかもなんて、メタグロスとの絆を私自身が否定することになる。)
ぐっと拳に力を入れると、スーハーと深呼吸をした。
「ごめん、メタグロス。そうだよね、今は私が貴方のパートナー、、、ポケモンの信頼に
メタグロス、ラスターカノンの光でジュペッタを炙り出して!」
メタグロスが回転しながら周囲にラスターカノンを放つ。光線によってジュペッタが影から飛び出した。
「ジュペッタ、ゴーストダイブで影に入りなさい !」
影わざわざに入らずともゴーストダイブで強制的に潜ってしまえばメタグロスの攻撃は届かない。届かなければ、どんな強い攻撃でも怖くは無いのだ。
ジュペッタが影に飛び込もうとする。
「メタグロス、自分の周囲にサイコキネシス!!この空間を歪ませて!!」
少女の指示によって、メタグロスが自身を中心にサイコキネシスを展開する。サイコキネシスが一帯を包み込んだ。
ゆらゆらと何も無いはずの空間が動いている。空間が歪んだことが視認できるほどに、強いサイコパワーで周囲が支配されたのだ。
平衡感覚すら分からなくなるほどのサイコパワーで、カマスミは目眩を起こすが倒れることなく踏ん張る。
「ジュペッタ、、、?!」
ジュペッタを見ると、影に入り込む直前だったジュペッタがその場で固まっていた。メタグロスのサイコキネシスで生み出された影が消え失せ、ジュペッタも動きを封じられていたのだ。
サイコキネシスを振り払おうと身体を動かそうとするが、更に身体が締め付けられてしまう。
「メタグロス、ジュペッタをそのまま空中に投げて!!」
ジュペッタが空中に放り投げられる。サイコキネシスから開放されるが、投げられた圧でジュペッタは無防備な状態だった。
「何してるの早く影に、
「カマスミ!!」
ッ?!」
カマスミが少女の気迫に怯む。
「私は私の願いのためにあなた達を倒す、あなた達の陰謀を止める、メタグロスとダイゴさんたちと共に!!
だから、これで貴女とはさよならよ!!
メタグロス、コメットパンチ!!」
少女の宣言と共に、メタグロスのコメットパンチが飛んで行く。先程のコメットパンチよりも威力が段違いだ。
空間に放り出され影に入ることができなかったらジュペッタにコメットパンチがぶつかる。ジュペッタも渾身の力でメタグロスを押し返そうとする。
「ジュペッタ、意地を見せなさい!
呪い!!」
特性悪戯心からの呪いをメタグロスに仕掛けるジュペッタ。バトルによって体力を消耗していたが、メタグロスへ最後の一撃を与えようと気合いで持ちこたえていた。
呪いが付与できればジュペッタが倒れたとしても、後にシュオウたちと戦闘になったときモンスターボールの無いメタグロスでは致命的になる。シュオウのために、メタグロスを倒す必要がある。
だがカマスミに意地があるように、少女にも、メタグロスにも自分の確固たる意志があるのだ。
「貫け、メタグロスーーーー!!」
メタグロスの目が怪しく光る。先程のサイコキネシスの残滓がメタグロスに集まり、身体がサイコエネルギーの膜で覆われる。
ジュペッタの呪いが弾かれる。
コメットパンチの威力が増し、ジュペッタを貫く。
弾かれたジュペッタから時間差で特大の爆発が起きる。
爆発が明けたとき、どさりと床にジュペッタが落ちる。メダシンカは解け、目をぐるぐると回していた。
少女とメタグロスの勝ちだ。
カマスミが膝から崩れ落ち、へたり込む。
「勝った、、、勝った、勝った勝ったよメタグロス!!!」
抱きついてくる少女をメタグロスは受け止めると、同じように嬉しそうに鳴き声を上げた。
ブースターが足を庇いながらメタグロスの上に乗り上げ、てしてしと労わるように肉球を押し当てて喜びを表す。レントラーは少女の腰に擦寄り、鳴き声を上げて喜ぶ。
少女はブースターたちをわしゃわしゃと撫で回していると、バチバチと痺れる痛みが身体を襲った。後ろから伸びてきた手によって少女は後ろに倒れることなく支えられる。
「大丈夫か?頑張ったな、いいバトルだったよ。」
「デンジさん! ありがとうございます。あはは、麻痺が残ってたの忘れてました、、、。
そんなことより!メタグロスが頑張ってくれたんです!ほんとに凄かった。」
少女が嬉しそうに笑うと、デンジも自然と口角を上げた。
「にしても、なんで呪いを弾けたんだ?」
「、、、私にもわかりません。でもサイコフィールドと同じ効果を生み出したんだと思います。」
サイコフィールドは不思議なサイコエネルギーがバトルフィールド全体を覆っている状態を差し、エスパータイプの技の威力が上がることはもちろん、先制的に行動できる技を無効化するという不思議な効果がある。つまりジュペッタの特性、悪戯心により呪いが先制的になったことでサイコフィールドの効果対象になり、呪いを無効化することができたということだ。
しかし、先程の闘いでサイコフィールドは展開されていなかった。通常、サイコフィールドを展開できるのは特性サイコメーカーや専用の技、またはダイマックス技であるダイサイコが発動したときのみだ。加えて、あの様子からサイコフィールドの力が働いていたのはメタグロスに限られていた。サイコフィールドが個体だけに展開されるなんて聞いたことがない。
メタグロスがゴツンと少女に当たってくる。少女はどうしたのかと首を傾げながらメタグロスを撫でる。
その様子を見ていたデンジはふっと笑った。
「まぁ、理由なんて分からなくてもいいだろう。ただひとつ言えることは、君とメタグロスの絆が起こした奇跡ということ。
誇れ、誰になんと言われようと君とメタグロスの絆は本物だ。」
デンジの言葉に少女とメタグロスはお互いを見合ってまた寄り添った。絆を確かめ合うように。
だがしかし、、悠長にしている時間はない。カマスミに勝ったとしても、まだシュオウとオトギリ、加えて超古代ポケモンたちが残っている。
少女はカマスミに近づくが、彼女はただ呆然としてピクリとも動かない。
「どうして、、、」
ポツリとカマスミが呟く。
少女の傍にレントラーたちが控え、カマスミの動きに警戒する。
「どうして、、、?やっと、やっと全て成就するはずだったのに、私は、またあなたに負けるの、、、?」
あなた、というのは少女のことを指すのか、はたまた別の誰かなのか。
カマスミの願い、それはシュオウの1番になること。彼女はずっと何十年もシュオウを見てきた。けれどシュオウには愛する人がいる。例えその人が帰らぬ人となったとしてもシュオウの心の中には彼の妻しかいない。彼女の思いは彼に届くことはない。だからこそ、彼女はそばで彼の計画を支え、共に最後を飾りたかった。それもジュペッタが少女に撃破された今、叶うことは無い。少女にあの女の影が重なる度に自分が惨めで仕方がない。
「カマスミ、私は貴女ともシュオウともわかり合うことは、、、一生ないと思う。
けど、何かを一途に思う気持ちは、わかるよ。」
「、、、なんの慰めにもならないわね。それはただの侮辱と知りなさい。
さっさと行きなさいな、ポケモンがいない私じゃあんたを止めれないわ。」
少女はそれ以上何も話すことなく、踵を返すとデンジたちと共に廊下をかけて行くのだった。
その後ろ姿をカマスミはただぼうっと見送った。