声が聞こえた
驚嘆の声でも
悲嘆の声でも
ましてや祈りの声でもなく
何かに向けられた感謝の言葉
『世界を治めたレックウザ、世界を救ったレックウザ
私たちはあなたへ感謝とともにこの珠を捧げます
あなたは私達の希望です』
『美しいあなた
尊いあなた
どうかいつまでも永遠に』
少女は微睡みの中でその光景を見ていた。
脳が正常に働かない。ただ流れる情景をスクリーン越しで呆然としながら見ているかのような感覚だった。
ただ、ひとつわかることと言えばあの珠が【もえぎいろのたま】であることだけだった。
村人たちはグラードン、カイオーガを収めたレックウザに【もえぎいろのたま】を捧げたのだ。
ここで分かったこと、それは【もえぎいろのたま】は巨石から生み出されたこと。
だが、そこに悪意は無かった。存在したのは純粋なレックウザへの深謝のみ。
村人たちは【もえぎいろのたま】と巨石を祭壇に祭り、毎日祈りと感謝を捧げていた。
レックウザとの絆を象徴したそれは、より神聖なものとして村人に何年、何十年、何百年と大切に大切にされてきた。
それを悪用する者が現れるまでは。
何百年も大人しく眠っていた超古代ポケモンたちが目覚め、剩えゲンシカイキの姿で再び天地を揺るがしていた。
襲う天変地異に村人たちは逃げ惑い、巨石に祈りを捧げても龍神は舞い降りない。
『どうして超古代ポケモンたちが再び目覚めて、、、』
『レックウザ!!なぜ龍神様は来て下さらないの!!』
『おい見ろ、巨石が輝いているぞ!!』
『あの宝玉はなんだ、、、?』
『そんなあれはまるで、、、龍神様の珠じゃないか』
巨石から溢れ出るエネルギーが2つの珠を形作り、その力は超古代ポケモンに注がれていた。
【あいいろのたま】と【べにいろのたま】だ。
それを天に掲げながら、狂った様子の者と、それを唖然としながら見ているだけの者たちがいた。
『お前たちなんて事をしてくれたんだ!!
巨石の力を使うなどと、、、!!』
『カイオーガとグラードンを目覚めさせた挙句に、新たな珠を作り出すなんて、、、』
長老と思わしき老人を中心とした大人たちが怒鳴り声を上げていた。
大人たちに取り囲まれていたのは20歳ほどの青年たちで、己がしでかしたことへの絶望や、罵詈雑言を浴びせられていることへの怒りを見せていた。
『あの珠があれば大地と海を自由自在に操れる!!即ち、自然を手に入れたことと同義だ!!』
『御先祖様だって、巨石から珠を作り出したじゃないか!!龍神を操れるなら、あの2体だって、、、!!』
彼らは超古代ポケモンたちを操るために、巨石の力を用いて珠を作り出した。それを使った者は悪しき心に侵され、珠に取り込まれてしまったようだ。
珠に取り込まれた者は長く珠に触れていたことで、自我が崩壊し廃人と化してしまった。
だと言うのに、青年たちの無茶苦茶な言い分に、母親と思われる女性たちは肩を震わせて涙を零し、父親たちは血管を浮かべて今にも殴りかかりそうなほどに怒りで満ちていた。
『大馬鹿者たちめがっ!!!
あの珠は龍神様を讃え、感謝を伝えるために作り出したものじゃ!!!』
長老の怒号に青年たちは肩を震わせ怯えを見せる。
『そんな、、、』
『超古代ポケモンたちを統べる力なぞ、我々人間が持ち合わせているはずがないのだ、、、!』
私たちはなんということを、、、
絶望する青年たちに、大人たちは顔を下に向けて深く考え込む。
まさか、レックウザの珠を基に別の珠を作り出し、それを超古代ポケモンたちを使役するために使おうとするとは思っていなかった。
レックウザの珠は繋がりを表すためのもの、そこに力など宿していない。
村人がどうするべきか思考を巡らしている間も超古代ポケモンたちの暴走は止まらず、珠に触れていた者は発狂し続けた。
農作物は育たず、山すらも枯れ、海にはポケモン1匹も見当たらない。
『世界の終わりだ』
誰かが呟いた言葉を否定する者はいなかった。
『グラードンとカイオーガが苦しんでいる』
『彼らは争いなぞ望んではいない』
彼らはないていた。響く咆哮は哀色に染まり、海と大地は戦慄いた。
長老は難しい顔を見せ、致し方ないと言葉を漏らす。
『グラードンとカイオーガの力を珠に封印しよう、、、。我々の行いによって彼らを苦しめたのならば、その罪は我々自身が償わねば。
人というものはなんと罪深い、、、。』
そして村人たちは暴走するグラードンとカイオーガの力を巨石の力を使って彼らのゲンシカイキの力を珠に封印し、荒ぶる彼らを収めた。
は自分たちが暴走したあとの世界を見たことで、この世界の秩序を守るため、お互いに干渉せず、またどちらかが暴走したときは片方がそれを止めるということを誓った。
村人たちはこれを戒めとして【あいいろのたま】と【べにいろのたま】をおくりび山にて祀ることとし、もう二度と巨石が悪用されないために巨石を守る神殿を作り上げた。
そして、何の力も持たない珠は繋がりを汚されまいと【もえぎいろのたま】は誰も知らない洞窟へと安置された。それは村人たち、いや、古代のホウエンに生きる全ての人の願いだった。
どこにも記されることはなかった。
少女は全てを見届けたあと、眩い光に照らされて目を開けていることがままならず、その光に従って目を閉じた。
(あぁ。そうか、そういう事だったんだね。レックウザ、あなたはずっと彼らを、、、)
………
暗闇の中で少女の瞼がピクリと動き、ゆっくり瞼が開いていく。
朧気な視界がだんだんクリアになっていくと、そこには沢山の瓦礫で覆い尽くされていて、少女ら自分が瓦礫の下敷きになっている事が分かった。
幸い瓦礫に身体がつぶされていることはなかったが、やはり瓦礫の雨を避けることはできなかったのか身体のあちこちが痛い。
ガラガラ
バタンッ
瓦礫の動く音と共に眩しい光が少女を照らした。突然入ってきた光の眩しさに、少女は目を瞑る。
光の先に誰かがいるが、逆光になっていて分からない。
(誰、、、?ミクリさん?それともダイゴさん?)
明暗順応によって光が差し込む先に焦点が合ってきた。
だんだんクリアになる視界に、男性の体格がダイゴたちのものではないことがわかる。
「オト、ギリ、、、?!」
少女はだらんとしていた身体を瞬時に起き上がらせ、腰のポーチに手を伸ばす。そんな少女の様子を見てオトギリは機嫌よく笑うが、少女にとっては堪ったものではない。オトギリの行動一つ一つが少女には警戒の対象だ。だがオトギリはそんなもの知ったことではない。何故か突然ずいっと腕を伸ばし、少女の目の前で手のひらを見せた。
少女はオトギリの行動に目を白黒させる。
何のつもりだとオトギリを見上げる。
「ハハ!そんな警戒すんな、何もしねェからよォ。
それともなんだァ?そこで虫みたいに縮こまってんのがお望みかァ?」
「そんなことあるわけ、、、!」
「ならさっさと捕まれェ」
急かされるまま、おずおずと手を差し出すとオトギリは焦れったいと言わんばかりに少女の腕を掴み、力任せに少女を瓦礫の中から引きずり出した。
少女は突然襲ってきた引っ張られる力とその後にやってきた浮遊感、そして腕の痛みに心臓がバクバクした。そのままオトギリを睨みつける。
「出してくれたことには感謝しますけど、どうして私を助けたの。」
少女の問にオトギリは楽しそうに笑って見せた。
「なんでってよォ、そんなの良い奴に死なれたら困るからだろうがァ。」
「だから、どうして」
「ははッ!簡単な話だァ、あのボーマンダとまた戦いてェからなァ。次はあのチャンピオンじゃなくて良い奴とでなァ。」
実にオトギリらしい理由。
この男はシュオウやカマスミより、いやこの場の誰よりも随分わかりやすい性格の人間だ。彼の中にあるのはバトルバトルバトル。もはや彼のバトルは暴力だ。暴力的な性格とバトルスタイル。戦いを好み、そこでしか楽を感じられない。扱いやすそうで扱いにくく、そして扱いやすい。それがオトギリだ。
少女自身、一度オトギリとバトルを交えただけでも彼の人間性を理解できていた。
横でどしんどしんと重い足音を立てながら、ニドキングがやってきた。その手には【もえぎいろのたま】が抱えられていた。
少女はしまったと焦りモンスターボールに手をかけようとした時、ニドキングがずいっと少女の目の前に【もえぎいろのたま】を差し出した。
行動の意図が理解できない少女は困惑するが、ニドキングが早く取れと催促したので、少女はニドキングにお礼を言いながら珠を受け取った。
「どうして【もえぎいろのたま】を、、、?」
唐突にオトギリの考えがわからなくなった少女は、頭を混乱させながらオトギリに問いかける。
オトギリは晩御飯の内容を聞かれたかのように軽く答えた。
「俺には必要ねェもんだからなァ。俺は強ェ奴と戦いたいだけで強ェポケモンが欲しいわけじゃねェんだよ。
その石ころは良い奴に渡した方が俺のためになるからなァ。」
強いやつと戦いだけ。
これまたオトギリらしい答えに少女は何も言えなかった。
「どうして、そこまでして戦うことに固執するの?
バトルが好きなら普通のトレーナーとして生きるのはだめなの?そこまでの強さがあるのに、、、。その方が、ニドキングたちだって幸せなんじゃ、、、」
少女の言う通り、オトギリの強さがあればポケモンリーグの優勝だって楽々だろう。それにその強さを利用すれば、ポケモンGメンやレンジャーにだって引っ張りだこだろうに。なぜ獣道を自ら選ぶのか。
オトギリは笑いながら首を横に振った。
「そいつァ、お綺麗事ってやつじゃァねェか?」
オトギリの言葉に少女が黙る。
「いいか、良い奴よォ。人にはなァ、そこでしか生きられねェやつがいんだよ。俺もそうだァ、戦いの中でしか生きられねェ。だが、それが俺にとっての幸せだァ。人だけじゃねェポケモンの幸せっつうのはなァ、他人がとやかく言えるようなもんじゃねェんだよ。それは自己満足、ってやつだなァ。
だからよォ、良い奴の考えるもんと他人が考えるもんが一緒だって考えるのは間違ってんぜ?」
少女は唖然としながら固まったままだった。
オトギリは大口を開けて笑うと、少女に背中を向けて歩き出した。ニドキングは少女向けて最後に鳴くと彼を追う。
「どこに」
行くの、少女はそう続けようとした言葉を飲み込んで只じっとオトギリの背中を見つめた。
オトギリは振り向くことなかった。
「オニゴーリが負けちまったからなァ、俺は俺の住む世界に帰るぜェ。俺は良い奴みたいな世界じゃ生きらんねェんでなァ。
それにな、俺ばっかに気を取られちゃダメだぜェ?おら、周りをよく見て見な。」
そう言ったオトギリの言葉の意味が分からず、少女は足を一歩踏み出そうとした。まだ、知りたいことが少女にはあったのだ。だが、それは大きな影によって叶うことはなかった。
ザバアと海が大きく動く音ともに少女の頭上を何かが通り過ぎる。
「ゲンシカイオーガ、、、?!」
カイオーガは少女に一瞥もくれず、また海の中に消えていく。その時に上がった水飛沫が少女へ降り注いだ。
なぜゲンシカイオーガがいる。宝玉は無力化したはずなのに。デンジが宝玉を無力化したことは確認した。
いや、もうそれは関係ないのかもしれない。空を見れば雨が強く降ったり、日が照りつけたりと大混乱している。これで言うならグラードンも復活していることが考えられる。周りを見ろと彼が言ったのはこのことだろうか。
ハッとした少女はオトギリを探すが、そこには影も形も既になかった。少女は彼を探すことはせずに踵を返す。彼を探すよりも先にしなければならないことがあるから。
キョロキョロと周りを見渡しても、見えるのは全て瓦礫。ダイゴとミクリの姿が見えない。ということは瓦礫の下だろう。だが彼らはメタグロスが守っているはずだと考えると、少女は首のチョーカーに触れる。キーストーンからメタグロスとボーマンダの存在が感じられる。2匹とまだ繋がっていることにほっと安心すると、キーストーンから流れてくるメタグロスの存在を直感を頼りに瓦礫の海を歩いていく。
瓦礫の中を何とか歩いていくと、一段と瓦礫が盛り上がったところからメタグロスの存在を強く感じる。
「メタグロス!!」
瓦礫の隙間から中へ呼びかける。メタグロスと共にダイゴたちがいることを期待しながら。
《お嬢さん!》
「ミクリさん!良かった、やっぱりメタグロスといたんですね。無事ですか?」
《あぁ私はね!だが、ダイゴが、、、。》
かなり下にいるのか、小さい声だが中からミクリの声が聞こえる。予想通りメタグロスと一緒にいたようだが、どうやら別の問題が発生したらしい。恐らくメタグロスがいても瓦礫から出れなかったのはダイゴに何かがあったからだろう。更に少女と距離が離れてしまったためメガシンカが不安定になったのもひとつの原因かもしれない。それならばボーマンダも危険な状態であることが考えられる。超古代ポケモン2体がいるなら、余計に早急にどうにかしなければならない。
兎にも角にも、瓦礫を退かさねば何も始まらないため、メタグロスの状態を先に解決しようと少女は考えた。
少女が瓦礫の隙間からモンスターボールを1つ下に入れる。続いてモンスターボールを2つ、空中に投げる。中からラプラスとレントラーが飛び出す。ラプラスはカマスミとのバトルで疲弊しきっているが、呪い状態が解除されているため少しだけ体力が回復したようだ。
《お嬢さん、このモンスターボールは?》
「ブースターのモンスターボールです!中から出してあげてください。今からちょっと寒くなるので、ブースターで暖まっててくださいね。」
《?あ、あぁ、わかった。》
(恐らく瓦礫を少しでも動かせば当たり一体が崩落する。メタグロスが動けなかったことがその証明、、、)
メタグロスが持つ優れた演算能力によって瓦礫が崩壊することが予測され、碌に動けなかったのだろう。
瓦礫の中でポンッとモンスターボールが開く音がした。ミクリがブースターを出した音だ。
「よし、、、じゃぁ、ラプラス、レントラー頼んだよ。
ラプラス、瓦礫全体にハイドロポンプ!」
瓦礫を動かさない程度の弱いハイドロポンプを全体にかける。隙間に入り込んだ水が瓦礫全体を濡らしていく。
「ラプラスはフリーズドライ、レントラーは氷の牙!」
水浸しになった瓦礫がガチガチに凍って行く。これで瓦礫を動かしても崩壊する危険はないだろう。
「メタグロス、ラスターカノンで瓦礫を退かして!」
メタグロスのラスターカノンが柱を作る。できた穴からメタグロスが、ミクリたちをサイコキネシスで浮かしながら現れた。
ゆっくりと地面に降ろされたミクリはダイゴを抱えており、少女と共に瓦礫の海から脱出する。ミクリが、少女が持っていた上着を枕にした上にダイゴを降ろした。
ダイゴはぐったりとしていて目を開けようとしない。頭からも血が垂れていた。
「瓦礫で頭を強打したようなんだ、、、」
ミクリは辛そうに顔を俯けてしまう。ミクリとダイゴは旧来からの仲だ。お互いを大切にしていることは少女は痛いほど知っている。
少女が呼びかけてもやはり目を覚ます様子はない。呼吸はあるため、心肺蘇生の必要性はないだろう。脳震盪による気絶か、また別の状態にあるのかは少女とミクリでは判断できない。
ダイゴのポケモンたちがモンスターボールから現れ、ダイゴを囲む。ポケモンたちがダイゴを呼ぶが、彼の瞼は持ち上がらない。
どうすればとミクリが呟く。
少女もじっとダイゴを見るばかりで、どうすればいいかわからない。ブースターやレントラーも心配そうな様子でダイゴを見つめていた。ミミッキュもモンスターボールから出てくると少女に腕にしがみつき、辛そうに鳴き声を上げる。
少女のポケモンであるブースターたちでさえダイゴの状態に心を痛めている、それは少女自身なら尚更だ。
少女にとってダイゴは恩人だ。自分に諦めていた少女が前を向けるようになり、今ここに少女がいるのはダイゴの存在があったからだといえる。
(私はまだ何も返せていないのに)
少女の目に涙が溜まる。
ゴンッ
少女の背中に何かが体当たりする。痛みはないが、衝撃で少女は前に倒れかける。
後ろを見るとダイゴのポケモンで紅一点のユレイドルだ。ユレイドルは少女に触手絡ませると、ぐわんぐわんと少女を揺さぶった。少女は身体が好き勝手に揺さぶられても何も抵抗しなかった。ラプラスとブースターはユレイドルに今にも攻撃をしようと言うかのように威嚇するが、少女が2匹を待ったをかけた。
ユレイドルは少女に何かを伝えようとして必死に鳴いていたからだ。
少女はユレイドルが自分に怒っているものだと思ったが直ぐにそれが違うことに気づいた。ユレイドルの触手に痛みがなかったのだ。助けて欲しい、そう訴えられているように感じた。
ポケモンの声はわからない、何を考えているのかが聞こえるわけじゃない。でも察することはできる。
他のポケモンたちも少女を囲み、必死に訴えた。
少女は自分に何ができるのだろうと思う。こういうとき、自分は酷く無力だと思う。傷ついたポケモンに対しても回復薬で対処はできるが、最終的にはポケモンセンターに駆け込むしかない。人間のことなんてポケモン以上に分からない。
でも何かをしなければならない。故に今は無力を嘆いている場合ではない。ポケモンたちのために、ミクリのために。
その時、メタグロスが少女を呼ぶ。
少女たちはどうしたのかとメタグロスを見ると、彼はダイゴの胸を見ていた。
「胸、、、?あっ」
少女がはっとして、唐突に首のメガチョーカーを外した。
ミクリもポケモンたちもメタグロス以外は何をするのかわからなかった。ただじっと黙って2人を見守もった。
少女がメガチョーカーをゆっくりと、ダイゴの胸に近づける。
そしてダイゴの胸のメガラペルピンへ押し当てた。
少女とダイゴのキーストーンが淡く輝き、命の灯火のように揺らめいた。
――ダイゴさん
少女が呼びかける。
覗き込んでも、終ぞ彼の美しい水色の瞳を見ることができなかった。
「やっぱり、、、だめ、だった?」
キーストーンの光が収まる。それでも目覚めないダイゴに、視界がぼやけてくる。絶望の色に染まって、ダイゴのキーストーンから自身のキーストーンを離した。
否、離そうとした。
「だめ、なんかじゃないよ」
その声とともにキーストーンを持つ少女の手に別の手が被さった。
少女は唖然としながらキーストーンからゆっくりとダイゴへ目を動かす。
ダイゴの水色の瞳と少女の瞳が合わさった。
「ダイゴ、さん?」
「ふふ、幽霊を見たような顔だね。
大丈夫、ちゃんと僕はツワブキ・ダイゴだよ、お嬢さん。」
自分を呼んでくれるいつもの声に少女はへたり込む。
ミクリも手をついて深く息を着いた。満足に吸えなかった空気が肺に入ってくる。
ダイゴにポケモンたちが群がる。良かった、良かったと全身で表現するポケモンたちに、彼はは心配をかけたねと笑った。全く笑いごとじゃないよと悪態をつきたかったミクリだが、友が目覚めた安堵で何も言えなかった。
ミミッキュやレントラーたちも鳴き声を上げて喜んでいた。
全員がダイゴの目覚めに喜んでいると、彼から離れたユレイドルが少女に近づいた。
少女はどうしたのかと首を傾げると、ユレイドルは上から少女に覆いかぶさった。少女は何が起こったのかと頭を混乱させるが、ユレイドルの触手が身体に巻き付いていることがわかった。そう、少女はユレイドルに抱きしめられていた。ぎゅぅっと痛いほど抱き締められた触手からはユレイドルの気持ちがじんわり流れ混んでくるようで、少女はその暖かさに涙が零れるのを我慢しながら彼女の背中に腕を回した。
(ダイゴさんが大好きなんだねユレイドル。よかった、ユレイドルたちが大事なトレーナーをなくさずにすんで、、、本当によかった。)
「驚いたな、ユレイドルがそこまで懐くなんて。」
ダイゴが感心しながらゆっくり起き上がるものだからユレイドルは慌てて少女を離すと、彼女の意図を汲んだ少女がダイゴを支える。ミクリも何してるんだとダイゴに怒るが、彼は軽く笑っていなした。
少女もミクリもダイゴの身体を案じているためか、それ以上は何も言えないことを知っていてなんとも狡い。
だが、ダイゴが目覚めてそれで終わりではない。超古代ポケモンたちの存在が気になる。レックウザがどうなったのか、何よりそれを追いかけてくれたボーマンダの安否も心配だ。それに、意識を取り戻したとはいえ、額の傷が治った訳ではない。脳に強い衝撃が及んでいるのならば、無闇に身体を動かしてはならない。
ダイゴは無理矢理に立とうとするが、支えている少女に抑えられて今は座ったままだ。
もう一度寝かせた方がいいかと言うと、それならば先に安全なところに運んだ方がいいでしょうと声が上がり、大丈夫だよと言う呑気な声に2つの声が大丈夫なものかと却下した。
もうメタグロスにこのまま運んでもらおうとミクリが思い立ったとき、林の方からポケモン3匹が近寄ってきた。恐らく野生のポケモンだろう。何か助けを求めに来たのかと思ったが、どうやら違うらしい。
先頭で近寄ってきたのはフラワーポケモンのキレイハナ、その後ろには荊棘ポケモンのロゼリア、きもちポケモンのラルトスがいた。
キレイハナを見た瞬間、少女の腕に納まっていたミミッキュが嬉しそうに手を振る。キレイハナもふわりと上品に笑って手を振り返した。少女はその様子に首を傾げる。
キレイハナはロゼリアとラルトスに何かを伝えると、2匹はダイゴに向けて光を送った。
「アロマセラピーと癒しの波動、、、?」
身体の痛みが無くなる感覚にダイゴは技の正体を分析した。頭部の傷も塞がっている。
状態異常を治すアロマセラピーと、体力を回復させる癒しの波動は今のダイゴにはとても効果的だった。
野生のポケモンが助けてくれたことにダイゴたちは驚きを隠せなかった。やはり超古代ポケモンを止めて欲しいという事なのだろうか。野生のポケモンが人を頼るということは余っ程のことだからだ。
ロゼリアとラルトスはダイゴに技を掛け終わると、林に戻っていく。
キレイハナも2匹について行くが、途中で立ち止まると振り返り、ぺこりと丁寧にお辞儀をする。ダイゴたちもお礼を伝えると、3匹は林の中に消えていった。
「驚きだよ。野生のポケモンに助けてもらったのは初めてだ。」
「ダイゴさん急に立っちゃダメですよ。ゆっくり、ゆっくり立ちましょうね。」
「あれ?僕、介護されてる?」
ダイゴは身体の痛みが取れたことを確認して立ち上がる。転ぶ危険を考慮して少女はダイゴの手を取りながら一緒に立ち上がる。立ち上がったあともふらつく様子も無く、ダイゴは以前より軽くなった身体に少し感激した。
ダイゴが無理をしていないことを確認した少女とミクリはお互いを見合ってほっとした。
少女とダイゴはメタグロス以外のポケモンたちをモンスターボールに戻す。
「さて、これからだけど、、、どうやら超古代ポケモンたちを解放できたわけじゃ無さそうだね。」
空を見上げながらダイゴが険しい表現を作る。
ミクリもダイゴの言葉に頷いた。
「そのことなんですが、少しいいですか?」
ダイゴとミクリが少女の方へ振り向く。
少女は夢の中で見たもの全てを2人に話した。
……
「なるほど。つまり、宝玉に封じられたエネルギーが放出され続けたことで彼らは暴走状態になっている、ということかな。」
「あぁ、その考えでいいだろうね。
カナズミシティでの一件も、巨石から溢れ出したエネルギーによってゲンシカイキを起こしていたと言うのなら、夢の話とも辻褄があう。」
「しかし、まさか2つの宝玉が巨石から作り出されていたとはね。ダイゴすらも知らないということは、昔の人はそのことを余程隠し通したかったのだろう。」
ミクリの言葉に2人が頷く。
「それにしても、僕が巨石の封印を解かなければグラードンとカイオーガは争うことはなかったのか、、、2体には申し訳ないことをしてしまった。
なら今度は僕たちの手で彼らを助けなければ。」
「はい。レックウザもグラードンとカイオーガを助けるために今までずっと行動していたようですし。
人間がしでかしたことなら同じ人間である私たちが責任を取らないといけませんから。、、、レックウザに協力を得るのは免れませんが。」
グラードンとカイオーガが争いを望んでいないことは事実だろう。でなければ、自身の本来のエネルギーを封じている宝玉を、力の解放のためでなく、世界を守るために宝玉を壊すことはしない。だからこそ、その決断をしたグラードンとカイオーガを尊重したレックウザは2体を救うために少女に助けを求めたのだ。
それにも関わらず過去ダイゴたちが巨石の封印を解いたことで、溢れ出た自然エネルギーにグラードンとカイオーガは暴走状態に陥らせた。それを止めるためにレックウザはダイゴたちに激怒し、グラードンとカイオーガを止めるため救うためにあの時、二度も地上に降臨したのだ。
二度も人の過ちにより2体を苦しめた。その責任を取らなければと3人は強く思った。だが、そのためにレックウザの借りることになるであろうことにも何ともやるせない思いでいっぱいだ。
「まずはデンジさんや他の方たちと合流しましょう。」
少女たちはメタグロスの上に乗ると、シロナたちがいるであろう方向へ飛んでいく。
(結局自分たちだけじゃどうにもできないなんて、本当に人間という生き物は)
「なんて身勝手な生き物なんだろうね」