「初めまして。ナナカマド博士からポケモンの調査を命じられた者です。」
仕方なく、本当に仕方なく出口でいた不審な男性二人と合流した少女は、深々と頭を下げた。服装のことはさておき、彼らは一応年齢では目上の存在、形だけでも挨拶はしっかりとせねばならんだろう。あの伝説のポケモンの情報だけ聞き出して、さっさとシンオウ地方に戻ればいい。そう思って、簡潔に愛想も無い挨拶をした。
そんなふてぶてしい少女にも、目の前の男性たちは気にしていない様子で笑っていた。
「あぁ、驚かせて済まない。僕はツワブキ・ダイゴ、このホウエン地方のチャンピオンだ。こっちはミクリ、ルネシティの元ジムリーダーで今はコンテストマスターしている。君が珍しいポケモンを見たと聞いて少しばかり気分が上がっていてね。いつもは落ち着いているんだけど……」「いやぁ、本当にすまないね。何分、聞いた話が話だったから、つい心が踊ってしまったよ。」
空港ではかなり近寄り難い人だったが話してみると少しテンションが高いだけらしい。
にしてもチャンピオンと元ジムリーダーとは、何とも大層な重役が来てしまったようだ。
(ん、現チャンピオンと元ジムリーダー………?)
何だかきな臭くなってきた気がする。
確かに伝説のポケモンが関わっているなら知名な人物が出てきても可笑しくは無いだろう。だがしかし、そうなれば出てくるのはポケモン博士等の研究職の人物のはず。それなのに、チャンピオンとジムリーダーとは。
怪訝そうに見つめる少女に気づいたダイゴは肩を竦めた。
「まぁ、積もる話は後にしよう。これからよろしくね、お嬢さん。」
「お嬢さん……?」
「ナナカマド博士直々によろしく頼むと言われたからね。ナナカマド博士のお嬢さんと言ってもおかしくないだろう。だから、お嬢さんさ。」
「はぁ……そうですか。」
見た限り、そこまで年齢は離れていないはずだが、呼び方など失礼でなければ人の勝手だ。何と呼んでもらおうと構わない。少しキザったらしいのが少し鼻に付くくらいで。
「さぁ、話はハウスに着いてからにしよう。お嬢さんは空を飛べるポケモンをもっているかい?」
「あ、はい。います。」
少女はダイゴに促されるままにポケモンをモンスターボールから出す。
モンスターボールから出てきたのは通常よりも随分と大きいボーマンダだった。
「ワァオ!大きなボーマンダだね。そして、しっかり育てられている。」
ミクリが感心したようにボーマンダを見上げる。
そうだろう、そうだろう。何を隠そう、ボーマンダは自身のパートナーポケモンなのだ。7年間ずっと一緒に旅をしてきた、強く逞しく、愛らしく育ってくれた自慢のパートナー。そんなボーマンダを褒めてもらい、少女も鼻が高い。
「そう言えば、お嬢さんは多くの地方へ旅をしていたと聞いたよ。ポケモンリーグ優勝、チャンピオンリーグへの挑戦、なかなかの戦績だ。」
「なんと!それはwonderfulだね」
自慢気にボーマンダを撫でていた手が、止まる。
「……そこにはあまり触れないで頂けると嬉しいのですが。」
「……そうかい、ならば触れないでおこう。」
酷く低い声が出た。
不機嫌を隠そうともしない少女に、ダイゴは怒るでもなくただ頷いた。ミクリとダイゴが深追いして来ない人物で救われた。今はまだ人に話す気分になれない。少女はほっと息を着くと、ズシンとのしかかった不快感を消すように勢いよくボーマンダに跨った。
「ボーマンダ、新しい地方に来て早速で悪いけどよろしくね。」
ボーマンダは任せろと言わんばかりに鳴く。ボーマンダは少女の隣にいるダイゴたちに興味津々でウズウズしている様子だ。
ダイゴもボールからエアームドを出す。
「ミクリさん、如何されましたか?」
「いやぁ、実は飛行ポケモンを持っていなくてね。イッシュのスワンナを是非ゲットしたいと日頃思っているのだけれど、今のところ縁がなくて。申し訳ないけど、ボーマンダに乗せてくれるかい?」
どうやらここまで来る時にダイゴと共にエアームドに乗ってきたが、エアームドはふたり乗りするにはあまり適さなかったらしい。エアームドの身長は1.7メートル、いくらダイゴとミクリが細身であろうと成人男性ふたりは定員オーバーだ。
「承知しました。ボーマンダが良いならば構いませんが。」
少女がボーマンダにどうすると聞くと、ボーマンダは人懐こい性格のようで快く承諾し、ミクリへと頭を近づける。人に懐きにくいドラゴンタイプとしてはかなり珍しい。
「随分人懐こいボーマンダだね。」
「私のボーマンダはタツベイの時からですよ。」
「充分に愛情を注がれて育っているということだね。……さぁ、着いてきてくれるかい。ハウスまではここから少し遠いよ。」
ダイゴがそう言うと、エアームドは高く飛び上がった。それを合図に少女とミクリを載せたボーマンダも飛び立ち、エアームドの後を追うのだった。