あるトレーナーの話   作:撹拌された抹茶

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エピローグ

 

 

【超古代ポケモンを操った組織壊滅から1ヶ月、各地方の自然災害の被害は?】

 

そんな見出しの新聞を広げるナナカマドは、歳を重ねるとなかなかどうして時間の進みが早くなるなと考えながらコーヒーを啜った。

 

約一ヶ月前にどこか大人びた顔に成長して帰ってきた少女を空港に迎えに行って、なんと声を掛ければいいか分からずよく帰ってきたとしか言えなかった当時を思い出す。

シンオウ地方で傷を癒していくかと思えば、カロス地方に行ってきます!とポケモンたちを連れて元気よく出ていった少女に、子供らしく活発である安堵と、怪我や心の傷への心配の気持ちで翻弄されてしまったことはいい思い出だ。

人はそれまでに大切に抱えてきた目標を失うと、途端に惰性に生きるようになる。次の目標を見つけるのは難しく、感情を無くし無気力にただ生きる姿はブリキの玩具のようだ。

レックウザという大きな目標を失った少女も例外でなく、ナナカマドは少女がそうならないように力を注ぐつもりでいた。というのに、ナナカマドの心配を余所に少女は元気溌剌で何処かの栄養ドリンクを彷彿させほどだった。

 

「君のトレーナーは逞しいな。」

 

そう言葉を投げかけると、足元で小さなポケモンたちをお世話していたレントラーが返事を返す。

最近研究所に来たばかりの初心者用ポケモンたちは、探検と称して研究所を遊び場としていて、大切な資料を汚されたりしないようにレントラーがお守りを買って出てくれていた。

レントラーも事件の一件で疲れているはずだろうと、休んでいいと言ったのだがお世話をしたいと首を振ったので、お言葉に甘えさせてもらっている。

 

コンコン

 

扉をノックする音に小さなポケモンたちはなんだなんだと興味深そうに扉に近づき、レントラーも後を追いかける。

 

「どうぞ」

 

ナナカマドが返事をすると、失礼しますと若い青年の声がした。レントラーが耳をピクピクとさせて反応を示す。

ガチャりとドアを開けて入ってきた、青年の足元にポケモンたちが群がる。

 

「はは、可愛い子たちですね。

レントラー、久しぶりだね。元気そうで嬉しいよ。」

 

レントラーの目線に腰を落として頭を撫でる青年、ツワブキ・ダイゴにナナカマドは目を細めた。

 

「レントラーがそこまで懐くとは珍しい。余程、あの子と良い関係を築いてくれていたようだな。」

 

ゴロゴロと気持ちよさそうに喉を鳴らすレントラーは、自分や彼女のトレーナーである少女にしか見せない姿で少し驚いた。

 

「いえ、これも全てお嬢さんのお陰ですよ。そうだろう、メタグロス。」

 

取り出されたモンスターボールから色違いのメタグロスが現れる。

小さなポケモンたちは驚いてレントラーの後ろに隠れる。が、レントラーがメタグロスと鼻をくっつけて挨拶したことで少し警戒心を解いていく。怖くない?と恐る恐る近づくと、メタグロスは嫌な顔ひとつせず姿勢を低くして小さなポケモンたちと目線を合わせてくれた。

大きな格好いいポケモンを見た小さなポケモンたちはテンションが上がったのが、興奮気味で研究室を走り回った。

元気がいいのは喜ばしいが、大切な研究材料があり何よりポケモンたちが危ないのでレントラーに頼んでポケモンたちを研究室の外へ出してもらう。

レントラーはポケモンたちに着いていくようで、ダイゴたちに会釈をしてから室内を出ていった。

 

「して、今日はなんの用でシンオウまで来たのかね?」

 

「えぇ、実は」

 

ナナカマドとダイゴが向き合って話を始める。彼が途端に真剣な眼差しを向けたからか、珍しくナナカマドも居住まいを正して緊張を示した。

本来の目的を忘れないように、早速本題に入ろうとした時、バタン!!と大きな音を立てて誰かが研究室に入ってきた。

ナナカマドは深いため息をついて騒々しいと入口に視線を向け、ダイゴも何事かと振り向いた。

 

「お久しぶりですナナカマド博士!!」

 

そう元気よく入ってきたのは驚くことに先程ナナカマドが案じていた少女、その人だった。

ナナカマドもダイゴも目を丸くして少女を見る。少女も数秒ぽかんとして固まるが、直ぐに顔をパッと輝かせた。

 

「メタグロス、久しぶりだね!!」

 

何よりも先にメタグロスに飛びついた少女を、メタグロスは難なく受け止め嬉しそうに鳴いた。少女に反応したのかメタグロス以外のポケモンも勝手に出てきて、特にユレイドルなんかは少女に触手を巻き付けて甘え始めてしまった。ミシミシメリメリ変な音が聞こえるのは聞かなかったことにしよう。よしよしとダイゴのポケモンたちを撫でる少女の破面具合は素晴らしく、骨が宜しくない音を出しているようには思えないし、うん。

 

「お、お嬢さん、、、?」

(僕のポケモンたちって特性メロメロボディだったかな、、、?)

 

「ダイゴさん、お久しぶりです。お元気そうで何より。」

 

ぎこちなく少女を呼ぶダイゴとは反対に、少女は微笑みながら立ち上がって挨拶をした。ダイゴは元気だったよと少し苦々しく笑う。

そんな2人を遠目にしながらそう言えば帰ってくると連絡があったなとナナカマドは思い出していた。

少女がシンオウ地方に帰ってくると聞いたのは2日前。唐突な帰省にナナカマドは驚いたが、今度はどんな旅をしたのか話を聞こうと楽しみだった。だが、こんなに早く帰ってくるとは思っておらず完全に予想外だ。

 

「お嬢さんは何故ここに?」

 

いつもの調子を取り戻したダイゴは首を傾げながら、少女に質問する。少女はメタグロスを撫でながら、ダイゴの問いに答えた。

 

「ナナカマド博士にお伝えしたいことがあるんですが、、、まさかダイゴさんもこちらにいらしてたとは思いませんでしたよ。ダイゴさんこそ、どうして?」

 

「僕も同じようなものだよ。」

 

そうなんですね、と言いながらポケモンたちを撫で続ける少女にダイゴはふふっと笑みを零した。少女のポケモン好きが変わらないことに頬が緩んだようだ。ダイゴは少女の横に腰を降ろしてメタグロスたちを構い出す。

大変微笑ましい光景だが、本来の目的を忘れては行けないとナナカマドが口を開く。

 

「それで、君たち私に伝えたいこととは」

 

バタン!!

 

再び大きな音を立てる扉にナナカマドはいつか壊れるなと思いながら、騒々しいと入ってきた研究員に注意する。

研究員はすみません!と謝りながらもかなり焦っているようでナナカマドはどこか既視感を覚えた。

 

曰く、テンガン山で野生のポケモンたちの大移動が起こっているというもので、麓の野生のポケモンまでもテンガン山を登っているようで近隣の住民が動けなくなっているとか。野生のポケモンの誘導の影響でジュンサーさんやポケモンレンジャーの力がそちらに集中しており、またテンガン山の酷い吹雪で容易に近づけないらしい。

 

これがデジャブというやつかとナナカマドは思いながら、どうするかと悩ませる。

するとダイゴがナナカマドに助け舟を出した。

 

「僕がテンガン山で何が起きているか様子を見に行きましょうか?

お嬢さんも来てくれるかい?」

 

少女もナナカマドと同じことを思っていたのか、あははと笑いながらも快く頷いた。

 

「ふむ、、、他地方のチャンピオンに任せるのはどうかと思うが、、、致し方ない。頼みましたぞ。」

 

ナナカマドの言葉にダイゴは快諾した。

 

行ってきますとナナカマドに挨拶してから部屋を出る少女たちを見送りながら、ナナカマドは2人の無事を祈った。

 

 

 

………

 

 

吹雪で視界が悪い中、少女とダイゴはコートを着込んでテンガン山の山を登っていた。

 

「暖かそうだね。」

 

少女の一回り大きな登山用のアウターにはブースターが入っており、彼で温まる少女にダイゴは声掛けた。ブースターは当たり前だとぶっきらぼうに鳴き、少女は暖かいですよ嬉しそうに笑う。

ダイゴはそうかいと言うと、そこから長い沈黙が続いてしまう。

少女は何とも無さそうだが、ダイゴは気まずかったのか何か話題を作ろうと話し出す。

 

「カロスのチャンピオンリーグにまた挑戦したんだってね。」

 

突然投げられた言葉に少女はぽかんとして、ああそうですねと言った。よく頑張ったねというダイゴに少女はありがとうございますと返す。

ダイゴはなんとも言えない感覚に頭を抱えたくなった。

 

「四天王の一人が不在で、穴をどうするかで半月ぐらい掛かっちゃいましたけど、無事にカルネさんの所まで辿り着けました。

でも何でそれをダイゴさんが知っているんです?あぁ、ミクリさんですか?」

 

そう言う少女にダイゴは、はははと乾いた笑みを浮かべた。様子のおかしいダイゴを少女は心配そうに見上げる。

 

「、、、もしかして、応援に来なかったこと気にしてます?」

 

「うっ、、、」

 

図星を疲れたダイゴは、胸を抑える。

 

「き、気にしないでください!ダイゴさんお忙しかったんですから、仕方がないです、、、。」

 

「、、、でも、ミクリやシロナさんたちは来ていたんだろう?」

 

「そ、それは、、、」

 

ダイゴの言う通り、少女がカルネと対戦するときにどうしてかミクリやシロナ、デンジ、そして何故かシンオウ四天王のオーバが観戦しに来ていた。

ミクリやシロナたちが忙しくないという訳では決して無い。それにダイゴはスペース団や各地方の自然災害の後処理など、かなり多忙にしていた。カロス地方に来れないことなんて誰しもがわかることだ。

それに忙しくなくともそんなことを少女は気にしない。逆に来てくれたミクリたちに驚いたくらいだ。

それをダイゴも理解しているはずなのだが、やはり様子のおかしい彼のことが少女は心配でならなかった。寒さにおかしくなったかと思ってしまったほどに。

 

「すまなかったね。」

 

ダイゴはポツリと呟くような小さな声で言った。

少女の耳に彼の声は届いていたようで、少女は何を謝られているのかわからないと首を傾げた。

 

「事件が終わったあと、僕は君を放ったらかしにしただろう?」

 

申し訳無さそうに肩を落とす彼に少女は目をぱちくりさせる。

 

(あぁ、そういう事か。)

 

少女はダイゴの言葉に納得したように苦笑を零しながら頷いた。

 

各地で起きていた天変地異を収めるため、【べにいろのたま】と【あいいろのたま】を使い、グラードンとカイオーガをゲンシカイキを起こそうとした。強いエネルギーに呑まれそうになったが、【もえぎいろのたま】が少女を護り、超古代ポケモン2体を無事にゲンシカイキさせることに成功した。

ゲンシカイキした2体は天候を操り、各地方の自然災害を収め、世界は元に戻った。

その後、ダイゴは後処理に追われ少女とはそれ以降会うことは無かった。

少女とはというと、ミクリとともに【べにいろのたま】と【あいいろのたま】をおくりび山へと返還した。【もえぎいろのたま】もおくりび山に奉納するべきかと考えたが、おくりび山を守る老夫婦からそれは少女自身が持つようにと言われ、今この時も【もえぎいろのたま】は少女と共にある。

 

その事をダイゴはずっと申し訳なく思っていたのだろう。だから、あんな珍しい言動をしたのかと理解できた。

少女がふふと笑う。

 

「本当にいいんですよ。既に私はダイゴさんから大切なものをいっぱい貰っていますから。

それに放ったらかしにされたなんて思ってません。ダイゴさんが私の事を大切な仲間だって思ってくれてること、知ってます。」

 

そう言って屈託ない笑みを見せる少女に、今度はダイゴが目をぱちくりさせる番だった。

 

(敵わないなぁ、、、。)

 

へへと、得意げに少女が笑う。

 

杞憂だったねとダイゴが言うと少女が間髪入れずに、はい、と答えた。

あはは、と2人が笑う声が響く。

 

そうやって笑っていた少女だったが、ゆっくりと顔に影を落としていく。その変わりようにダイゴは察したように黙った。

 

「オトギリ、、、は見つかりましたか。」

 

首を横に振るダイゴ。少女はそうですかと顔を下に向けた。

 

あの日、自然災害が収まったことで島に来ることができなかった警察やポケモンレンジャーたちが一斉に集まってきて、シュオウやカマスミ、そしてスペース団の下っ端たちは全員御用となった。ただ一人、オトギリを除いて。

 

「倒壊したアジトの外に下っ端たちが山になって助け出されていた。僕たちや先に出ていたデンジくんにもそんな余裕はなかったから、きっと下っ端たち全員を助け出したのはオトギリだろう。」

 

「そうですね、、、。」

 

今思うとスペース団の構成員は全体的に少なかったが、一人一人のトレーナーとしての腕前はなかなかのものだった。少女含め、その場にいた者たちが強すぎただけで、下っ端たちのポケモンは決して弱いとは思えないほどのレベルだったことを覚えている。

恐らく彼らを鍛え上げたのはオトギリだ。今思い返すとアジトの廊下もどこでもバトルができる大きさになっていて、どこかの戦闘部隊のような設計になっていたのはきっとオトギリの進言があったからだろう。

そうやってオトギリに部下の育成を任せることで彼の戦闘欲を解消していたのだ。その結果、育て上げたことで多少に愛着があった部下を瓦礫の下からオトギリが助け出すまでに至った、ということかと少女は考えた。あの男は弱いものに容赦はないが、一度懐に入れたものには案外寛容だ。少女の考えをお綺麗事だと言いながらも、呆れたり怒ったせず、少女を諭していた。

本当に掴めない男である。

だが、シュオウはそんなオトギリを上手く扱っていたと思うと、彼には確かなカリスマ性があったのだろうと少女たちは思った。

 

「あ、ほら、お嬢さん。山頂が見えてきたよ。」

 

ダイゴが指さした方向は吹雪も収まっていて、陽だまりが見えた。ダイゴの言う通り山頂のようだ。

 

来た道に対して、山頂が晴れているなもあの日とそっくりだと思った。違うことろと言えば、隣にダイゴがいることだけ。

 

ブースターが少女の腕から離れ、崖の際まで走っていく。危ないよと言う少女の声は届いていないのか、ボスボスと雪に足を取られながら彼は走っていく。

しょうがないなぁとブースターを追いかける少女を、ダイゴは微笑ましそうにくすくすと笑った。

ブースターのところまで走って、崖の下を見た少女が振り向いてから手をぶんぶんと振ってダイゴの名前を呼ぶ。

出会った当初は少女があんな風に笑って自分を呼ぶなんて想像できなかったなとダイゴはしみじみと思いながら少女とブースターのところへ足早に近づいた。

少女は崖の下を指差して見てくださいと言うと、ダイゴは言われるがまま崖の下を覗き込んだ。

 

「凄いポケモンの数だね!」

 

わあ、と声を漏らすダイゴに今度は少女がくすくすと笑う。

ポンっと音を立ててボーマンダがモンスターボールから飛び出す。暖かい陽の光にボーマンダは機嫌よく空を飛び回り、少女たちのところに戻ってきてからダイゴに飛びついた。よろけたもののボーマンダが加減したことでダイゴは受け止めることができた。わしゃわしゃと顔を包み込みながら撫でると、ボーマンダは嬉しそうに甘えだす。

 

少女は目尻を下げて笑っていたのだが、だんだんと笑みに憂いが帯びていく。

再び暗い顔をする少女にダイゴはボーマンダを離してどうしたのと呼びかける。ボーマンダもダイゴから離れてブースターと共に2人の様子を見守った。

 

少女は何か思い詰めたように俯いてしまうが、直ぐに覚悟を決めたように顔を上げてダイゴを見た。

泣きそうな顔をする少女にダイゴはこれは只事ではないなと身構える。

 

 

「私、トレーナーを、辞めます。」

 

「、、、理由を、聞いてもいいかな?」

 

《辞めようと思います》ではなく《辞めます》。些細な言葉の違いだが、この少しの違いが大きな意味を宿していることは明らかだ。

こくりと少女が頷く。

 

 

「チャンピオンリーグの最後の四天王に勝った日の夜のことです。」

 

少女は訥々と語り出した。

 

その日、長く戦ってきたチャンピオンリーグの最後の四天王に勝利を収めた日の夜のこと、その日の疲れを癒すためにポケモンセンターで早めの食事を取り、気分転換に少しだけ森を散歩しようと歩き出した。しかしながら、少女が気づいた時には何故か森を抜けて海岸に出ていた。

前は深い海、後ろは森。更に濃霧に覆われて、引き返そうにも確実に遭難することが明瞭で身動きが取れなかった。空からなら抜けられるかとボーマンダを出した時、海から異様な気配を感じた。ボーマンダが素早く少女の盾になり、そんな彼女を止めるためにモンスターボールを出した時、彼らは現れた。

海の底から現れあのは超古代ポケモン。グラードンとカイオーガだった。

少女は腰が抜けるかと思った。

何故ここに2体がいるのか。まさか、彼らが私をここに呼んだのかと少女はぐるぐると思考を巡らせる。

と、その時、少女が肌身離さず持っていた【もえぎいろのたま】から二つの声が聞こえた。

声はこう言っていた。

 

――私たちを守って欲しい、と。

 

守って欲しい?

グラードンとカイオーガのような強大な力を持つ存在がどうしてだと驚愕した。逆に足手まといになるしそんなものが必要なのかと、何か困っていることがあるのかと少女が聞くが彼らは何も言わなかった。そうして少女は理解した。守るのはグラードンとカイオーガではなく、グラードンとカイオーガを取り巻いているものだと。

さしずめ、守るのはホウエンの神話、伝承といった類のもので、そこには【べにいろのたま】と【あいいろのたま】も含まれている。

 

『私にホウエン神話を守れと言うの?』

 

超古代ポケモンたちは頷いた。

そんなの無理だと少女は首を振った。ホウエン神話を守るということは、ホウエン地方に永住することになり旅は続けられなくなる。つまりはトレーナーを引退することだ。そうなれば、何よりボーマンダたちを苦しめることになる。それだけはしたくなかった。

自分のせいでポケモンバトルを思うようにさせてあげられなくなったその償いもできていないというのに。また、ポケモンたちを苦しめることになるなんて、少女は考えたくなかった。

 

そうして彼らは何時でも返事を待っていると少女に伝えると、海の彼方へ消えって行った。

その場に少女一人が立ち尽くして、突然襲ってきた隔絶感に苛まれた。

 

 

「ボーマンダたちを苦しめたくない。辛い思いを、させたくない。

 

でも、それでも、、、私はレックウザの代わりに、レックウザが守りたかったものを、何よりボーマンダたちが生きるこの世界を守りたい、そう思ったんです、、、思ってしまったんです、、、」

 

ポケモンたちと相談した。ギリギリまで何度も何度も話し合って、一匹一匹、ポケモンの思いを聞いて。言葉は分からなくても、時間をかけてじっくりと理解した。

 

少女はトレーナーを続けようと思っていた。

それでも少女の思いを尊重したのは、そうなっていいと言ったのは他でもないボーマンダたちだった。ポケモンたちの許しに少女は自分の情けなさを嘆きながら、トレーナーを終えることを決意した。

そうしてトレーナーとしての最後のバトル、チャンピオンカルネとのバトルを終えて少女は故郷であるシンオウ地方に帰ってきた。家族やナナカマドにお別れを言うために。

 

 

少女の話を聞いたダイゴは、ふーっと長く息を吐いて最後にはははと嬉しそうに笑った。

どこか涙声だったのは気のせいだろうか。

 

 

 

 

 

ダイゴは受け入れた。少女の苦悩を決意を、覚悟を。

ならば自分ももう一度覚悟を決めようかと眉を下げて微笑む。どこか救われたような晴れ渡る感情にダイゴは身を委ねた。

 

 

 

「そうか。きっとそこには幾度とない苦悩があっただろう。君のことだ、ポケモンたちと沢山話し合ったんだろう。それなら僕に口出しできることは何も無いね。

うん、、、うん。そうだ。そこには慰めや労りなんて要らないんだろう。だからこそ、君の短く、長かったひとつの人生の終わりに賞賛を、いや、祝福を述べよう。」

 

 

「おめでとう。君と君のポケモンはこれから新たな人生が始まる。

そして僕は知ったよ。これは、あの時の君への全ての報いだったんだと。」

 

 

儚げに揺れる銀の髪。澄んだ水色の瞳は今にも溶けて零れ落ちそうで、少女は湧き出る焦燥感のまま駆け寄ろうとする。

 

 

 

ゴオオオオオオオ

 

 

後ろを何かが通った。空を切り裂くような、そんな音。

 

 

(知っている。知っている、私は、この音を、この感覚を知っている。)

 

 

見上げた先、青い空が広がるそこにいたものに少女は唖然とした。

 

「君と別れたあと、砕けた隕石の一部の横で瀕死の彼を見つけてね。デボンコーポレーションでずっと治療してたんだ。

、、、身体が勝手に動いたよ。君と彼の出会いは正しく運命だったんだと、君と僕たちの出会いがやはり運命だったんだと、嬉しくなった。」

 

少女が嗚咽を漏らす。目からは止めどない涙が溢れ、ボタボタと零れ落ちると地面の雪を溶かしていく。

一歩、また一歩と少女が空を見上げながら歩いていく。

ずるりと肩からカバンが落ちるが、少女は気づかない。それだけ目の前の空に意識を奪われていた。

ボーマンダとブースターはダイゴの傍らに寄ると、大人しく少女の行き先をダイゴと共に見守った。

 

少女が手を伸ばす。遠い空に、届くはずのなかった空に、もう触れることなんてできないと思っていた空に。

 

涙とともに零れ落ちたその名を呼ぶ声は、今度こそ彼に届いた。

 

 

 

「レックウザ」

 

 

「レックウザ」

 

 

「レックウザ、、、!」

 

 

 

手が届いた。

幾度となく手を伸ばしながらも、決して届くことはなかったその手が、空を撫でた。

触れ合う皮膚から熱が伝わってくる。少し冷たい、けど暖かい。その熱は確かに生を宿していた。

信じられない思いだった。死んだと、思っていたのに。

そう言葉を出そうにも名を呼ぶのが精一杯で、あとは嗚咽が溢れるばかりだ。

そんな少女の涙を拭うように、レックウザが少女に近づき額をくっ付けた。

少女は涙を流しながらも、息を飲み込み嗚咽を抑える。何とか絞り出した声は震えていた。それでも、彼にどうしても伝えたかった。

 

あの時言うべきでなかった言葉の続きを。

後悔を残した少女の罪は、いま、成就したのだ。

 

 

 

「おかえり、なさい。」

 

 

 

 

レックウザは小さく唸ると、また少女の額に合わさった。

 

 

 

 

――ただいま

 

 

 

 

 

 

運命なんてとんだロマンチストだとダイゴは思う。己をよく知るものが見たらひっくり返えるかもしれない。いや、意外にも変人であるお前らしいと受け入れてくれるかもしれない。

 

 

(それでも、これは正しく運命だよ。

だって、こんなにも美しいのだから。)

 

 

人間なんてものはちっぽけな生き物だ。そんなちっぽけな生命があの日この場所で空を見上げたことがこの物語の始まりだった。

彼女はスクーンの石になった。投げ込まれた石は波紋を広げ、物語の結末に揺らぎを齎した。蹴られて転がり落とされても石は削れたところから輝きを増していき、多くのものと結びを作った。人とポケモン。人と人。ポケモンとポケモン。そして伝説と。

 

 

転げ落ちた新緑の玉は美しく光り輝いていた。

結びを象徴したもえぎは芽吹いをあらました。

 

 

 

そう。これは運命が繋いだ絆の物語。

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

燃え盛る炎の海。

 

煤にうもれた女性がそっと、厳重にロックされたカプセルを抱きしめる。

 

 

「ねぇ、レックウザ。

もし、私の愛しい人が、大切な人たちが道を外したその時は、どうか、どうか貴方の手で救ってください」

 

 

身勝手でごめんなさいね、そう優しく微笑む女性の頬を伝う雫は、地に零れ落ちるよりも早く炎にかき消されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【終わり】…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて少女と黒い龍は完結致しました。

短い間でしたが、拙い小説を最後まで読んでくださってありがとうございます。

これより先は全く書けなかった日常生活編や後日談、番外編なども書きたいなぁと思ってます。伏線(?)も回収していないものもありますので。
またこの続編として章を2つ書く予定です。書き溜めて投稿ですのでかなり遅くなりますが、その時はまたこの小説をお手に取って楽しんで貰えたら幸いです。

学業や就職関連で新章はかなり遅くなるかと思いますので、書き溜めが終わるまではこの作品は完結とさせていただきます。
新章に入る時にタイトルを変更する予定です。
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