じりじりと照りつける太陽。大地を表した彼のポケモンを思い浮かべながら、だらだらと絶え間なく吹き出る汗を拭う。
見かねたモスノウがモンスターボールから現れると、頭に止まって冷気を出し始めた。
「ありがとう、モスノウ。涼しいよ。」
彼女を頭に乗せたまま、太陽の下を歩く。モスノウが暑さに強くてよかったなんて思いながら、目の前に見える背の高いビルを見上げた。
ここはカナズミシティ。ダイゴの父が経営する超大手企業、デボンコーポレーションがある。
そう、今日の目的地はそのデボンコーポレーションなのだ。
「やっぱりおっきいなぁ…ここは。」
自動ドアを抜けた先は空調の冷房が効いていて涼しい。モスノウにお礼を言ってモンスターボールに戻そうとしたが、頭の上で落ち着かれたのでそのままにしておくことに決めた。
「出ておいでダンバル。」
暑さが苦手なダンバルを炎天下の中に出すこと憚られたが、室内なら問題ない。外の世界に慣れてもらうためにも、積極的に出て貰わねば。
ダンバルを腕に抱いて、エントランスの受付嬢に入館証を貰う。顔見知りの受付嬢は生まれたばかりのダンバルを一頻り撫でると、気をつけねと見送ってくれた。
目的の部屋に行くまでも社員や研究員から話しかけられ、皆ダンバルとモスノウを可愛がってくれたのは少女たちにとって喜ばしいことだ。
「ここの人たちは皆んな優しいね。」
そんなことを話しながら、気づくと大きな扉の前に立っていた。案外早かったな、なんて思いながら扉をノックする。どうぞと扉の向こうから返ってくる声は低い男性のもの。
「失礼します。」
「お嬢さん、来てくれてありがとう。元気そうで良かったよ。」
「はい、ムクゲさんもお元気そうで何よりです。と言っても1か月前に会ったばかりですけどね。」
ムクゲの笑い声が社長室に響く。ダイゴより少し大胆で、それでも朗らかなところは変わらない彼の姿に少女は安心感を覚える。
1か月と言っても壮健であることに越したことはない。それに彼が自分のことを気にかけてくれていることが嬉しかった。
「頭の子がモスノウで、腕の子がこの前生まれた子かな?」
「そうなんです。ダイゴさんから貰ったタマゴから無事に孵ってくれて…タマゴを孵すのは7年振りだったので、少し緊張しました。」
「君は大切にその子を温めていたからね、こんなに元気で可愛いのも頷ける。ダイゴのメタグロスがダンバルだった頃を思い出すよ。」
彼に促されるままソファに座ると頭にいたモスノウが少女の頭からムクゲの方へ移る。ひらひらと羽を動かしてご機嫌な様子を見ると頬がゆむるのは自然の摂理だ。
「それでムクゲさん、私に依頼したいことって…」
「あぁ、驚かせてすまない。」
ことの始まりは1時間前、通常連絡なんて来ないはずのムクゲから着信が入った時には何か事件でもあったのかと疑ってしまった。何かの助けが必要ならばダイゴに連絡が行くはず、そもそもムクゲからの連絡は基本ダイゴから聞かされることが多かったこともあって自分に直接連絡あること自体が異常なのだ。内容としては何かの依頼で、電話では話しづらいことであるため申し訳ないがデボンコーポレーションに来てくれないか、というものだった。
依頼と畏まって言われたものだから、少し萎縮していることに気遣われしまい居た堪れない。
「実は私のところにダイゴ宛の依頼が来てね…だが、最近あいつは忙しそうにしているだろう?断っても良かったが、君になら頼めるかと思ったんだ。」
「だ、ダイゴさんの依頼を私に、ですか?」
「無理に受け入れることは無い。さっきも言ったように断ることもできるからね」
似ている。ダイゴと初めて出会った時のことを思い出す。こちらに選択肢があるようで実際は無い。
今ここで断ってデボンコーポレーション、ひいてはダイゴに不利益が生じては困る。今の少女の優先順位は1と2がポケモンで3がダイゴとミクリなのだ。そうなればここで出す答えは、
「わかりました、引き受けます。」
「本当かい!それは有難い、感謝するよ!」
「あはは、頑張ります。」
握手されたままぶんぶんと振られて、やってしまったかもしれないな、なんて思うがムクゲの笑った顔を見るとまぁいいかとつられて笑みがこぼれてしまう。この親子の笑った顔につくづく弱い。
(親子って凄いなぁ…)
「早速で悪いが、依頼主に会ってくれるかな?」
「随分と性急ですね。」
「はは、すまない。依頼の詳細を聞くのが今日だからね。」
「え、今日ですか?先方は私が代わりに引き受けること知りませんよね?」
「ダイゴだと思っているだろうね。」
「ムクゲさん?!」
これは確実に引き受けてもらうことを前提にしていたな。どうにかこうにか首を縦に振らせるつもりだったことが嫌でもわかった。
それにしても今日が初の対面とは、引き受けることもたった今決まったばかりというのに唐突過ぎる。少々軽率だったかもしれないと後悔してももう遅い。
私は上手くやれるだろうか、役に立てるだろうか、ダイゴさんに迷惑をかけないだろうか。そんな一抹の不安を抱きながらムクゲを見ると、彼は大丈夫だと言わんばかりにウインクして見せた。
ノック音が聞こえる。慌てて立ち上がると共に自然と背筋が伸びる。肩にムクゲの手が置かれ、その暖かさに有難く思いながらもダンバルを抱きしめる腕に力が入る。
「失礼します」
扉が開かれる。
(ああ、ダイゴさんどうか私に力を貸してください!!)