あるトレーナーの話   作:撹拌された抹茶

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取引しようか

 

 ごうごうと雲を切り裂くように飛ぶボーマンダとエアームド。ボーマンダはエアームドの後ろをピッタリとくっついて飛んでいた。流石はチャンピオンのポケモン、中々の速さだ。普通のポケモンではまず追いつけないだろう。

 

「ダイゴのエアームドについていけるとはね!驚きだよ。」

「ありがとうございます。」

 

 少女は自慢げに応える。ボーマンダは一般的にも素早さは高いポケモンだ。しかし少女とミクリを乗せ、それでも余裕を持ってチャンピオンのエアームドと同じスピードを保てるのはそれだけ育てられているということ。

 

 少女はボーマンダの背中に乗りながら当たりを見渡す。飛行機中からも少し見ていたがホウエン地方は大地と海の割合が半分半分という面白い地形をしている。アローラ地方も4つの島で出来ているが、あそこは人とポケモンが暮らす自然がかなり密接だ。1つ1つの島によって生態も違う。初めて訪れた時はその雄大さに感服したものだ。

 対してホウエン地方は一番大きな本土となる島とその他多くの小島で出来ている。本土の北西の所には大きな活火山がある。火山自体の大きさはテンガン山には及ばないが、その存在感は他の地方の火山とは比にならないほどの自然の力強さが伝わってくる。

 

「凄いですね、ホウエン地方。今まで旅してきたどの地方より大地と海の存在感を強く感じます。」

「あぁ、そうだろうとも。神話ではある2体のポケモンが争いあって今のホウエン地方になったと言われているからね。」

「大地の化身グラードンと海の化身カイオーガですね。飛行機の中で調べましたので、存じております。」

 

 その昔、ホウエンに強大な力を持った2体のポケモンが現れた。それがグラードンとカイオーガ。グラードンは大地を広げ、カイオーガが海を広げた。2体は争い合い、深い眠りについたのだとか。

 まぁ、神話は神話でしかない。大昔に本当に争いあったのか。ただ人がそう作り話を作っただけなのか。それは分からない。

 

(そう、神話は神話でしかない。それでも、私はギラティナに…)

「さぁ、そろそろハウスに着くよ。」

 

 前で飛んでいたダイゴの声に顔を上げ、ボーマンダに降下してもらう。

 降下して行った先は驚くほど白い山の真ん中にぽっかりと穴が空いている所だった。カルデラだ。ダイゴとエアームドを追いかけて行くと街が見えた。雨が降ってできたのであろう湖があり、その周りに白い家が建っている。なんとも美しい街だった。

 少女はその美しさに魅入られる。無意識に口が開き、感嘆の声が洩れた。そんな少女はミクリは笑う。

 

「ここに来るためには海を潜るか今のように空を飛んでくるしかなく、天然の壁によって閉鎖された、青い湖が美しい街。人はこの街を水の都と呼ぶ。

 

ここの元ジムリーダーとして歓迎するよ。ようこそルネシティへ!」

 

 

─────

 

 

 

 

 少女はルネシティの端の方に建てられている大変立派な家の前に降り立つ。ボーマンダをお礼を込めて撫で回したあと、お互い向き合った。

 

「ちゃんと着いて来れててよかったよ。ここが僕たちが活動の拠点しているハウスだ。これからは君もここの一員だよ。」

 

 ダイゴは手招きをして、少女をハウスに誘導してくれた。家の大きさに少し萎縮してしまうが、それを気にも止めない大人ふたりは家の中に入っていく。金銭感覚が違うのだろう。気が重たいがここまで来たら仕方ない、少女も意を決してドアを潜った。

 広い玄関を抜け、これまた広い廊下を通ると、当然のようにリビングも驚くほどに広くて、少女は思わず目を細めてしまう。備え付けられたソファもテーブルも、ラグも観葉植物でさえも素人でもわかるほどの質の良い物で、明らかに高級品だ。

 

(セレブ……)

「まずは長旅ご苦労さま。そこのソファに座るといいよ。」

 

 ダイゴは少女に労いの言葉をかけソファに座るよう進める。少女はお礼を言うと、萎縮しながらも素直にソファに腰掛けた。想像以上に沈むソファにこれはもしや底なしが無いのでは無いかと少女は少しパニックになった。そんなことは露知らず、ミクリとダイゴは少女とは反対のソファに座り息を着く暇もなく、ダイゴが調査について話し始めた。少女は正直少し落ち着かせて欲しいと思いながらも、一刻も早くここから帰りたいのでダイゴの話に耳を傾けた。

 

「早速だが、調査について話を進めよう。

お嬢さんはホウエン地方の神話については知っているかい?」

「はい。大まかにですが、調べました。」

「そうか。では、レックウザというポケモンは?」

「えぇ、存じております。たしか、グラードンとカイオーガの争いによって世界が滅びかけたたときに空の彼方からやってきて2体の争い鎮めたポケモン、と。」

 

 ホウエン地方における、伝説のポケモン。余りにも有名な言い伝えだ。

 

「うん、あっているよ。」

「そのレックウザが何か?」

「僕らが考えるに、君が見た黒いポケモンはそのレックウザだ。」

「レックウザ……」

 

 ダイゴの言葉に少女はポケモンの名前を眉を潜めながら反芻する。少女はどこか腑に落ちないようだ。

 確かにあの威圧感は伝説のポケモン、レックウザと言われても不思議ではないが、あのポケモンが仮にレックウザだとしても、ひとつおかしなことがある。

 

「あのポケモンがレックウザだと言われててもあの力強さを考えるに納得はできます。しかし、レックウザは黒い体ではなく緑のはずではありませんか?」

 

 そう、レックウザというポケモンは本来の体色は緑だ。だが、テンガン山で出会ったレックウザの体色は黒だった。

 

「あぁ、そうだね。レックウザは緑色が基本だ。僕も前にレックウザを見た事があるが、その個体も緑の体色だった。だから、君が見たレックウザは普通のレックウザではなく、色違いだと推測される。」

「色違い!?」

「あぁ、実は黒いレックウザの目撃例が1件だけある。カロス地方のデセルシティで黒いレックウザが暴れ回る数多くの伝説のポケモンと戦っていたと。残念なことに多くの伝説のポケモンが暴れ回っていたせいでしっかりとその様子を見た人はいないんだけどね。それでもレックウザが黒かったことは確からしい。写真もあるよ。」

 

 ダイゴが懐から一枚の写真を出す。パニック状態になった人達が逃げている様子の後ろ、はっきりと写ってはいないものの、そこに映っていたのはたしかに黒いあのポケモンだった。

 

「君が見たポケモンはこれではないかい?」

 

 少女はその写真から目を離せない。

 テンガン山の山頂で見たあのポケモンで間違いがないなかった。少女が見たのはレックウザで、しかも色違いだったようだ。

 そもそも伝説のポケモンを見ることが自体が奇跡に等しいのに、その上色違いなんて……どんな豪運だ。

 

「それで、君がここに来た理由なんだが、この黒いレックウザがとある組織に狙われていることが分かった。」

「は、はぁ……それで、私に何をさせようと?」

 

 なんだか嫌な予感がするなぁと少女は思った。

 

「うん、君にはね。その組織を壊滅させるために協力して欲しいんだ。」

「……………………………………はぁ???」

 

 酷く素っ頓狂な声が出たと思う。

 

(あれ??これ、もしかしてもしかしなくても嵌められた???)

「伝説のポケモンが関わっているし、危険なミッションだから信頼できて実力のあるトレーナーにメンバーが欲しくて探していたんだ。僕たち2人だけでは人手が足りなさすぎる。」

「無理です。」

「君のトレーナーとしての実力は申し分ない。あのボーマンダを見ただけでもわかるさ。」

「無理です。」

「君ならこのミッションを達成できるよ。」

「絶対無理です。」

 

 少女は頑なに拒否した。無理なものは無理だ。なんでこの人は諦めないんだと目の前の男性に悪態をつきそうになっま。

 

「何故そんなに拒否するんだい?何か理由が?」

「逆にお聞きしたいのですが、なぜ私なんでしょう。他にも実力派のトレーナーなら沢山いると存じます。それに……私はポケモンバトルが……できません。」

「バトルができない?」

「正確に言うと対人のバトルができません。」

「それは何故。」

「……愚にもつかない理由ですよ。」

 

 苦虫を噛み潰したような表情を見せる少女にダイゴは肩を竦めた。これは意地でも話す気はなさそうだな。人間、一度意固地になるとそう簡単には折れない。少し面倒だなと思った。

 

「そう。でも、キミはナナカマド博士の条件を飲んでここにいるんだろう?いいのかい?君の望みは叶えて貰えないかもしれないよ。」

「そもそも、ナナカマド博士から言われた調査はあのポケモンがなんというポケモンなのかを見つけるだけのはず。 それがレックウザだとわかった今、その組織の壊滅に私が協力するメリットも道理もありません。それにナナカマド博士を約束を破るような人ではございません。」

「たしかにね、しかし、ナナカマド博士が君の望みを叶えることができるかどうかは別だ。聞いたところによると、君はギラティナに会いたいようだね?それを叶えるために、ギラティナの極秘調査隊に参加したいと。参加できればギラティナに出会える可能性も高くからね。」

「何が言いたいのでしょう?」

 

 少女はダイゴの挑発するかのような口調に不快な気持ちを隠しきれず、顔を顰めた。

 

「君は少し前にシンオウ地方で起きたことは知っているかい?ギンガ団という組織がシンオウ神話における2体のポケモンを使って新世界を作り出そうとした事件だ。その事件以来、シンオウ神話の調査は極秘で行われるようになり、調査隊に参加するのも信頼のおける人物だと見なされる必要がある。シンオウ地方を代表するナナカマド博士であっても彼一人の推薦だけじゃ絶対に参加できるとは限らないと思うよ。」

 

 ダイゴの言う通りナナカマドは推薦すると言っただけで、参加させるとは断言してはいなかった。少女もシンオウ地方で起きた事件のことも、それにより調査体制が厳しく取り締められるようになったことも全て知っていた。

 図星をつかれた少女は、ダイゴから視線を逸らす。

 

「君がこのミッションに協力してくれるなら僕とミクリからも推薦してあげられるけど。どうかな?」

 

 ホウエン地方のチャンピオンとコンテストマスターからの推薦も加われば調査隊へ参加はほぼ確実だろう。加えて悪の組織の壊滅に一役買ったとなればより信頼度は増す。

 このチャンスを逃すべきではない。しかもこの2人が一緒ならばバトルする必要も無いかもしれない。万が一そうなったとしてもポケモンは指示なしでバトルしてくれるはずだ。少女は対人戦が出来なくなってから、ポケモンだけでも戦えるように育てた。ボーマンダなどその地方では生息しないポケモンだとハンターに狙われる危険もあったからだ。

 それに危険と判断したら離脱させてもらおう、そう考えた少女は一つため息をついてダイゴに視線を戻した。

 

「私は対人とのバトルはできません。できるのは情報収集くらいだとお考え下さい。それでも、構わないのであればご協力致します。」

「あぁ、よろしく頼むよ。」

 

 ダイゴはニコリと微笑む。少女はその顔に少し苛立ちを覚えた。

 

「ナナカマド博士に連絡してきます。……失礼します。」

 

 少女は立ち上がりリビングを出ていく。

 少女が出ていくと今まで黙っていたミクリが口を開く。

 

「珍しいね。基本人に対して紳士的な君が、あの子には少し厳しいようだ。」

「そうかな。頼まれているからねナナカマド博士に、彼女のことを。……それに人手不足は事実だ。また新しい人を探す時間はないからね」

 

 淡々と答えるだけダイゴに、ミクリは重々しくため息をついた。

 

 

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