あるトレーナーの話   作:撹拌された抹茶

42 / 51
昨日は普通に投稿忘れました。今日2話分投稿します。


敵、それとも

 

 

 ザッザッザッと草木を踏みしめ、時折パキッ、パキッと細木を降りながら、少年は森を掛けていた。

 彼の後方では絶え間なくドゴン、ドゴンと爆発音を鳴り響いている。

 

「見境なしかよ!」

 

 木々が倒れ、ポケモンの技によって所々草木が燃えている。このままでは山火事になるだろう。しかし、後ろをびったりついてくるトラックはそんな事はお構い無しに森の中を走り回っている。

 ざわざわと森がどよめいてここに住んでいるポケモンたちがみんなパニックになっていることは容易に想像が着いた。

 

「おいおい!いつまで追いかけっこしてるつもりだ?!このままじゃここのポケモンごと蒸し焼きになっちうぞ!!」

 

 ぎゃはははと下品な笑い声を上げる男はこの世の汚を煮詰めたような劣悪な風貌で、少年は吐き気がした。

 

(人間版3Kじゃん)

 

 少年は男の挑発にも目もくれず、ただ前を向いて走り続けた。

 しかし相手は車。ポケモンも3匹と、多勢に無勢とはこの事だ。それに加え、

 

「おら、さっさとポリゴンを出しやがれ!!ブーバー、“火炎放射”!!」

 

 ポリゴン狙いと来た。これではポリゴンZたちを出したくても無理だ。飛んで火に入る何とやらにはポリゴンZをさせられない。

 とはいえこのままでは本当に蒸し焼きにでもなってしまう。

 

「出すわけねぇだろうが、このクソオヤジ!巫山戯んのは顔面だけにしてろよ!!」

「ああ゛?!調子乗んなよクソガキ、おいお前らやっちまえ!!」

 

 見た目通りに性格は短気なようだ。こんなやっすい挑発に乗る奴なんて今どきいないぞ、なんて悪態をついた。

 相手のポケモンはブーバー、フリージオそしてローブシン。全員鈍足だが、今の彼にとっては面倒な相手でしかない。特にあのローブシン、コンクリートに掠りでもすれば簡単に骨はボッキリ折れるだろう。

 

「うおあーっぶね!!!」

 

 ローブシンのコンクリートが頭の上を通り過ぎる。

 

(殺意高すぎ高杉くんじゃん!)

 

 いやいやそんな冗談言ってる場合では無い。これはまずい。非常にまずい。

 ローブシンのコンクリートが頭の上を過ぎたということは、もう敵の攻撃レンジまで入ってしまっているということ。移動手段もない、攻撃手段もない少年に取ってこの状況は絶体絶命と言って差し支えなかった。

 

「‪✕‬○□△───!!」

「待て(すい)!!」

 

 ポリゴンZが勝手に飛び出してしまう。少年の静止が届いていないのかポリゴンZはそのまま敵陣へ突っ込んで行ってしまった。

 ローブシンがコンクリートを振り上げている。

 

「飛んで火に入る夏の虫だなぁ!!」

(すい)ーーー!!!」

 

 ポリゴンZは“ソーラービーム”を撃とうと構えるが、“ソーラービーム”は溜めを要する技。直ぐには撃てない。これは大きな隙だ。

 与えられた隙を見逃すわけもなく、ローブシンの“アームハンマー”が振り下ろされる。ノーマルタイプであるポリゴンZにとって格闘技は効果抜群。

 

 少年は駆け出す。近づくコンクリートにも目もくれず、ただ必死に手を伸ばした。

 

「ドダイトス、“ハードプラント”」

 

 どこからともなく現れた巨大な樹木がトラックごとローブシンたちを飲み込んでいく。

 ポリゴンZは目の前から消えたローブシンたちにキョトンとしてカラカラと四肢を動かした。

 

(すい)、大丈夫か?!」

 

 ポリゴンZを抱きしめて何処にも怪我がないか確認する。相も変わらず不思議な動きだが、同時にそれが愛くるしいと感じる。どうやら怪我はないらしい。

 

「それにしても、この巨樹は…」

 

 あの至近距離だったにも関わらず、ポリゴンZだけを避けてローブシンたちだけに技を当てる高度なコントロール。

 まさか、と思った。そう、そのまさか。

 

「無事みたいで良かった。」

 

 樹木が現れた方向の上。太陽の逆光に遮られた人の影。大陸を思わせるポケモンを引き連れて、巨木の上を歩きながら彼女は現れた。

 

「はは…三週間ぶりだね、おネーサン」

 

 たらりと少年の頬を流れる汗に少女は目を細めた。

 あれだけおちゃらけていた彼が冷や汗をかいているとは。

 

「三週間、ホウエンの至る所を探して…やっと見つけたと思えば、ポケモンハンターに追われている、なんてね。」

「面目ないです…」

「…先にハンターをどうにかするから下がって。

 その後じっくり話をさせてもらうからね、逃げないでね、ポリゴンくん?」

 

 はーい!と少年から返事が帰ってくる。返事だけは良いな。

 念の為の見張り役兼ボディガードとしてモスノウを少年の近くに待機してもらうことにしよう。

 

「わぁ、モスノウ、久しぶりだね〜」

 

 普通に和まないで欲しい。

 

 ボゥ、バキバキと少し離れたところで巨木が破壊される音がする。

 案外早かったなと思いながら音の出処へ目を向けるとローブシンとブーバーが木を引き裂いて姿を現した。ドダイトスの“ハードプラント”を壊すとはなかなかの強さみたいだ。だからどうということは無いが。

 

「くっそいってぇ…!!突然襲ってきやがって、親にどんな躾されたんだよゴミカスがよ!!あーーイライラする!!ガキはガキらしくしてりゃいいんだよ!!」

 

「誰よりも子どもみたいな貴方に言われたくないですよ。」

「そーだそーだ!」

「そこ黙る」

 

 地団駄を踏む成人男性は見るに堪えない。

 主人の怒りに反応したローブシンたちがそれぞれ襲ってくるが、ドダイトス相手に気をつけるべき相手はフリージオのみ。ローブシンが“アームハンマー”を出してきているが、彼の高い攻撃力を加味してもドダイトスの耐久を考えれば特に驚異にはならない。

 それに今バトルフィールドと化しているこの森は彼らが暴れ回ったせいで木々は倒れ足場が悪い。

 

(体勢を崩すのは…簡単か)

「ドダイトス、“地震”」

「はっ!!バカかよ!フリージオの特性は“浮遊”だぞ!横槍入れるなら先に勉強してこい!」

 

 男のにやついた顔も声もこちらを侮辱するそれだ。

 

「自分で自分の首を絞めている貴方には言われたくないですよ。」

「あ?」

 

 元々安定しない足場に“地震”が加わり、ローブシンとブーバーが体勢を保てず後ろに倒れる。フリージオは特性により“地震”の影響を受けていないが、既に彼の脅威は別のところから振り下ろされていた。

 このとき、フリージオはローブシンの後ろにいた。倒れたローブシンに潰されまいと後ろに後退したまでは良かった。しかし、それが一番の仇になってしまった。

 

「足場の悪いこの森で、ローブシンがコンクリートの柱を振り上げている状態で“地震”なんて起きれば体勢が崩れるのは誰でも分かること。

 それに鈍足なローブシンが一番前に出ているということは、三匹の中で一番レベルが高いのは彼だとすぐにわかる。後ろの二匹はまだ未熟、その証拠にほら。フリージオ、逃げきれてないじゃないですか。」

 

「なっ!」

 

 倒れてきたローブシンを避けたフリージオ。潰されなかったことにホッとしているが、気を抜くのはまだまだ早かった。

 振り上げられたコンクリートの柱は降ろされないままにローブシン共に後ろに倒れ、咄嗟のことで“アームハンマー”は解除されていない。それに気づかず、気を弛めたフリージオがコンクリートの柱を避けることはできるのかと言われれば、まぁ、少女の想像通りだった。

 

 物の見事に“アームハンマー”の威力を持ったコンクリートはフリージオの頭部に激突し、フリージオごと地面に落ちてしまう。ローブシンが持つコンクリートは人間が作るものよりも丈夫だと云われている。丈夫なコンクリートはフリージオにとっては可哀想なことに砕けることなく、フリージオを地面と挟むことになってしまった。

 

 フリージオの災難はこれだけに留まらなかった。

 ローブシンが後ろに倒れるのが思ったよりも早かったおかげで、ドダイトスの“地震”は未だ発動している。そう、コンクリートが上に乗っているフリージオは逃げ場もなく“地震”を見事に喰らってしまったのだ。

 レベル差もある中で効果抜群の格闘技と追い討ちの“地震”を喰らったのだ。フリージオは耐えられずにそのまま目を回してしまった。当然、効果抜群の地面技を受けたブーバーも遠いところで撃沈している。

 

 “地震”などの攻撃レンジが広い技は広くなればなるほど威力は下がる。だがしかし今のようなレベル差があり、敵がトレーナーとしてバトル慣れしていない場合、ポケモンたちは技を避けることは難しい。特にポケモンハンターは強いポケモンを所持していることは多いが、トレーナーとしての腕前は二流が大半だと聞いたことがあった。

 

「まだ育ちきれていない子を二匹も出せばこうなります。ポケモンを何匹も出す前に貴方はポケモンバトルを勉強しては?」

「ヒュー!おネーサンカッコイー!」

「キミは黙ってて!!」

 

 睨みつけるとこわーい!なんて言葉が帰ってくるが知ったことでは無い。

 驚異にはならないとはいえ、ローブシンは残っているのだ。一応は倒しておかないと。

 

「くそったれ!こんな奴が出てくるなんて聞いてねぇ!情報にもなかったのに!」

「情報…?まって、情報ってどういうこと、」

「もういい!ローブシンずらかるぞ!」

「え!?」

 

 ローブシンをモンスターボールに戻した男は背負っていたジェットパックを起動させて、空へ飛んでしまう。まずいこのままでは逃げられる。

 

「モスノウ!“吹雪”で落として!」

「は?!くっそ!」

「あいつさっきからくそばっか言ってるぞ!」

「どうでもいいよそんなこと!!もうほんとに黙ってて!!」

 

 モスノウが空へ飛び上がり男へ弱めの“吹雪”を放つ。男は“吹雪”から逃れようとしたが、運悪く“吹雪”がジェットパックに当たり凍てついてしまう。

 このまま降りてきてくれればいいのだが。

 

「くそがああああああああぁぁぁ!!!人のこと舐め腐りやがって!!頭に来たぜ糞ガキ共が!!諸共吹き飛びやがれ!!」

 

 本当にくそしか言わないなあの人。いやそうでなくて。

 男は懐からリモコンのような何かを取りだし、そのスイッチを押した。

 

「スイッチ…?一体何の」

「おネーサン、トラック!!」

「トラック?」

 

 男が乗っていたトラックに目をやると、フロントガラス越しに何やら四角い機会のようなものが赤いランプを点滅させているのが見える。

 ピッピッピッピッと軽快な音を出し、モスノウとドダイトスが少し焦っていることからどうやら良くない物らしい。

 

 良くないもの、敵が、どうしようもなくなった時に作動させるもの。うん、それって多分。

 

「爆弾!!」

 

(やっぱり!!)

「ドダイトス!!!」

 

 点滅していた赤いランプがピー!の音ともに赤く光ったままになる。

 

 あーまずい。

 

 少年は爆弾に背を向けて(すい)の頭がお腹に来るように抱き込むと身体を丸める。モンスターボールも懐に入れて壊れないように抱えた。これは皮膚が焦げるだけじゃ済まないな、なんて思いながら目を閉じる。そもそもこの近さじゃ即死でもおかしくないだろう。

 

(すまんな妹よ。)

 

どぉぉおおおん!!

 

 轟音と爆発が起きる。熱風が木々を通り抜けて、火が森を焼いていく。火が木から木へと移り、山火事の二次被害になる。

 

 そうなる、はずだった。

 

「あれ…?」

 

 爆発は起きたというのにいつまでも伝わってこない衝撃と熱に少年は狼狽えた。恐る恐る目を開けてみると、辺りは真っ暗で、もしかしてやっぱり死んでる?と思ったが、見えない何かがうごうごと動いてるのは何となくわかるので自分が生きていることが何となくわかった。

 

「う、わ、眩し」

 

 見えない何かが大きく動くと、隙間から光がとたんに入り込んで目が沁みる。

 目を細めて白飛びしていた視界が次第に順応するのを待っていると、明けた視界から先程まで動いていた物の正体が見えるようになった。

 

「あ、これ」

 

「一番最初に見せたでしょ?それより、無事?」

 

 ドダイトスの“ハードプラント”。蠢いていたのは巨大な樹木で、どうやらあの一瞬で自分たちを守ってくれたらしい。

 少女も樹木の中から姿を見せ、奥には発生源であるドダイトスがいる。どちらも煤ひとつ着いておらず、無傷のようだ。さらにその奥を見ると自分たちよりも厳重に蔓で覆われている何かがあり、それが爆弾が乗っていたトラックだと気づいたのはすぐだった。一応確認してみたが、やっぱり森の木にも火は届いておらず、あの蔓の頑丈さが見てわかった。

 

「はは、すーっご…うん、俺たちは無事だよ。ありがとうね、おネーサン。」

「助けたのはドダイトスだよ。…まぁ、あの男の人には逃げられちゃったけどね。」

「あはは!おネーサンこの前から逃げられっぱなしだね!」

「ははは、キミには言われたくないんだけど?」

 

 じとりと見つめる目から目を逸らして口笛を吹いて誤魔化してみる。

 

 はぁとため息が出た。ちらりと見た(すい)は元気に動いていて、どこも怪我はないようだ。

 

「おネーサン、なんで俺の事ポリゴンくんって呼ぶの?」

「君が名乗らなかったから、分かりやすくて。名前を教えてくれたら変えるけど」

「やだ」

「やだって」

「だって気に入ったもん」

「気に入ったんだ…」

「その代わりに」

「?」

 

「顔、見せてあげるよ」

 

 男に追い掛けられ、ポケモンたちの技でボロボロになったポリゴンのお面を壊さないように丁寧に持ち上げて、やっぱり彼は笑っていた。

 

 癖の強いアッシュグレーの短髪に、ライトブルーの瞳。タレた瞳は優し気で、少女は彼が普通の少年のように見えていた。

 

「改めましておネーサン、俺はリベ。よろしくね。」

 

 人懐っこく笑う少年は、本当にどこにでもいる普通の男の子で、少女は呆気に取られてしまう。

 

(そんな風に、笑うんだ。)

「名前、名乗ってるけど。」

「あ、やべ」

 

 謎の少年、リベ。

 何を考えているのか分からないが、恐らく自身とは正反対の、似た人間。

 

(私は彼を知りたい、いや、きっと知らなければならない。)

 

 気の抜ける笑みを振りまく彼を見ながら、少女は腹の中をかきみだすような焦燥感に苛まれた。

 

 

 

 きっとその先が、暗闇であっても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。