あるトレーナーの話   作:撹拌された抹茶

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ポケパークカントーに行きたいんですけどチケットが一向に当たらないんですよね……


少女とポケモン

 

「にしてもよく俺の場所がわかったね。」

「あぁ、ポリゴンくんがいるのは知らなかったんだけど、森のポケモンたちが逃げ惑ってたから、向こうでなにかあったんだろうなって。流れに逆らって進んだところにポリゴンくんたちがいただけだよ。」

 

 なるほどなぁ、とリベは足をばたつかせた。

 

 今ふたりはドダイトスが出した巨樹に座っている。

 リベは(すい)をお腹の上で抱え、足を揺らしてリラックス状態。少女もダンバルをモンスターボールから出して膝の上で抱えている。モスノウはドダイトスの上に乗って二匹で日向ぼっこ中だ。

 

 ハンターの男が暴れ回ったせいで少し木々が倒れているが、炎も鎮火して森の中は本来の静けさを取り戻していた。

 

「森、少し焼けちゃった。もう少し早ければ守れたのに…」

「だいじょーぶ、燃えたとしても森は燃えたところからまた再生する。自然の力があるからね。」

「そう、なんだ。」

 

 粗方の片付けをしている間にリベに逃げられるかと思っていたが、モスノウ、特にドダイトスの強さを知っているからか彼は抵抗も見せずに大人しく片付けを手伝っていた。今も尚逃げる様子は見せていない。

 

 最初に出会った日から一週間、ダイゴに怪しまれないようにしながら昼夜問わずリベを探していた。しかしリベを見つけるのは難しく、人に変なお面を付けた少年を見たかと聞いても、誰一人として彼を見た人はいなかった。あの日、なぜ運良く彼に出会えたのか少女には不思議に思えたくらいだ。

 それが、今は真横でポリゴンZをだっこして森林浴されているとは。急展開だな、とリベと(すい)を見ながら少女は思った。

 

「キミのこと、ある人から聞いた。」

「んー?」

「まぁ、それが本当にキミとは限らないけどさ」

「うん?」

 

 少年は少女の方を見ることなく木と、そこに止まりにくる鳥ポケモンたちを眺めている。

 

「他の地方でもポリゴンたちを盗み出してるんだって?」

 

 リベがきょとんとした顔で少女の顔を見た。彼と目が合った少女は、反対に目を逸らして、まるで他人事を語るかのように話し始めた。

 

「研究所だったり、宇宙センターだったり、どこかの開発企業だったりさ。色んなところで、ポリゴンが盗まれる事件が起きてるんだって。

 ニュースにはならないけど、同業者の中では、少し噂になってるらしい。」

 

 リベは目を逸らさなかった。きょとんとしか顔のままじっと少女を見て、何を考えているのか分からない。

 自分の行いがバレているのが驚きなのか、それをどうはぐらかそうか思案しているのか、ただなんの話しをされているのかわからないだけなのか。彼の表情からは読み取れない。

 

「お姉さんは」

「?」

「お姉さんは、どう思う?」

 

 のっそりと開かれた口からこれまたのっそりと放たれた言葉は、以外な言葉だった。

 否定か、はぐらかされると思ったのだけれど。

 

「私は、キミが悪い人だとは、思えない。」

 

 初めて出会った時から、そう思っていた。疑問だった。彼は本当に悪人なのだろうかと。研究所に火を放つほど、非情な人間には思えないのに。

 

(だって、君は)

 

「まぁ、教えてあげないけどね!」

 

 ずる、蔓の上から落ちかける。さすがにダンバルを膝に乗せたまま落ちることは出来ないので、何とか持ちこたえた。

 くそ、別に彼が本当に犯人でも絶対教えてはくれないだろうとは思っていたけど、思ってはいたけど!それでも、本当に言われるのとは違うじゃないか。

 ダンバルを撫でて落ち着いてみる。ゴツゴツひんやりとした肌触りが気持ち良くてついつい癖になりそうだ。撫でる手に擦り寄る姿がなんとも可愛い。

 

「お姉さん、本当にポケモンが好きなんだね。」

「うん。どうして?」

「いや、なんでもー!!」

 

 リベは(すい)を抱き上げてくるくると回り始めた。

 

「そういえば、あのポケモンハンター、ポリゴンのこと知ってたよね。」

「あー、それね。俺も気になってたよ。」

 

 何度も言うが世間一般的にポリゴンは存在すら知られることがない存在。あの男がどこかの研究員や会社員をしていたようには見えないし、どこかの誰かからポリゴンの情報を得たとしか考えられない。

 ではいったい誰が?何のために?

 もしポリゴンZを盗んだ犯人がリベであったとして、取り返しに来た、またはそれを依頼された可能性もある。

 いやだがしかし、ポケモンハンターに依頼するのはリスクが大きすぎる。依頼が完了した際、ハンター側に弱味を握られる可能性があるからだ。リターン部分が大きい以外では、あの存在は爆弾にしかなり得ないはずなのに。

 

「相手も切羽詰まってるってことかな…」

「何が?」

「ん?あぁ、ほら、これ的にさ」

 

 親指と人差し指をくっつけて輪っかを作るリベに、あぁなるほど、と納得する。いやだが何だか別の含みがある言い方に少女は少ししこりが残った。

 

「まぁ、それはともかく、そろそろポリゴンZたちは返してもらうよ。」

「うげ!!嘘でしょ、このタイミングで?!今和やかに話してたじゃん!!」

「それはそれ、これはこれ。抵抗するならもう一度バトルするよ?」

「あれだけの強さ見せつけられてバトルしようとは思わないって!!」

 

 無理無理と首を振るリベにモスノウとドダイトスを呼んで、じりじりと躙り寄る。今度こそ逃がさない。でなければあの男を見逃した意味が無いのだ。

 ドダイトスたちの強さを見せれば素直に返してくれるかと考えたのだが、やはり彼は簡単には折れてくれない。とはいえ折れてくれなければ困る。いや、もういっその事へし折るか。バトル慣れしていないのはハンターもリベも同じ。こちらにはまだ見せていない彼の相棒がいるのだ。ダメ押しでレントラーとブースターを連れてくることも厭わないぞ。

 

「まじかぁ…お姉さんと仲良くなったと思ったのになぁ」

「残念だったね。」

 

 (すい)を抱えたまましょもしょもと肩を落とす彼に少し罪悪感に似た感情を覚えるが、ここで気を許せば以前の二の舞になる。何のために一週間必死に探し回ったと思っている。ポリゴンZを取り返すためだろう。

 

「翠たちは戦いたいって言うだろうけど…でも、残念だなぁ。」

「残念?」

「お迎え、来ちゃった」

「え?」

 

 ゴゴゴゴ…

 

 ドダイトスの“地震”より小さいが、地中の中を何かが移動している揺れがある。

 あの時は空からだったが、今度は地中からというわけか。

 

「兄さん、遅くなってごめん。」

「いいよぉ〜。お姉さん、まだ紹介してなかったよね?俺の妹のイリ、宜しくしてあげて。」

「…兄さん」

「ごめんごめん、そう照れるなって」

「そういう事じゃ…いやもう、早く乗って。」

 

 先日と同じくゴビットに乗った彼の妹であるイリが地中から飛び出してきた。

 妹を紹介するリベの間にイリと少女は温度差を感じるが今はそんなにことを言っている場合では無い。やっと見つけたのだ、このまま逃げられては困る。

 モスノウがイリとリベの間に割って入り、羽を震わせて威嚇している。羽から氷の鱗粉が出ていて、触れれば一瞬で凍てつきそうな冷気が出ていた。

 

(ここら一帯雪山になってもおかしくねぇな、あれは。)

「うえぇ…さっき仲良くなったじゃぁん!わたしとは遊びだったのモスちゃぁん!!」

「モスノウに変な絡み方しないで!!」

 

 握った両手を口元に当ててわざとらしく目を潤ませるリベ。誰から見ても下手な演技に少女のみならず、彼の妹であるイリさえも若干引いている。さてはこいつ余裕なんじゃないかと思うが、その実、リベはしっかりちゃんと焦っていた。

 

(モスちゃん攻撃したら多分赤モスちゃんが出てくるだろーし。モスちゃんズもヤベーけどもっとヤベーのが後ろにいるしなぁ。)

 

 少女の腰で揺れているモンスターボールに、攻撃態勢ではないもののこちらから目を離さないドダイトス。いや、あのうっすらと緑色に光っているのは攻撃態勢だろうか。

 幾らポリゴンZたちが強いと言えど、森というフィールドの中で大陸の名を冠するドダイトスに勝てるかと言われればレベル差が無かろうと不利だ。

 

「しゃーないか。イリ、アレ持ってきてくれた?」

「もちろん。」

 

 イリがリベに筒状の何かを手渡した。

 

「何をして 「お姉さん、俺ね」 …?」

 

 少女の言葉に被せるように発せられたリベの声。その声があまりにも穏やかで、少女はつい狼狽えた。

 

「お姉さんのこと嫌いじゃないんだよね。翠を助けて貰えたしさ。だからさ、俺個人としてはあんまりお姉さんとは戦いたくないんだよね。」

「…それは無理だよ。ポリゴンくんがポリゴンZたちを連れ去った犯人なら、私はその子たちを取り返さなきゃいけないから。」

「そーだよね。ま、俺が本当に犯人なのかどうかはさておき、お姉さんにはお礼しなきゃいけないからさ、ひとつだけ、教えてあげる。」

「教えてあげるって…」

 

 リベは終始穏やかな顔で口調で、真剣に話している。イリから渡されたものに着いていた輪っかの部分を持って、クイッと引っ張った。

 

「俺ね…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実はおネーサンと同い年なんだよ!!!!!」

 

 

「…は?」

 

「せいやァ!!!」

 

 リベはピンを抜いたそれを空に蹴り上げて、イリと共にゴビットにしがみつく。目はギュッと瞑られていて、まるで何かに備えるかのようだ。もちろんしっかり(すい)を抱えた状態で。

 

「まさか爆弾?!」

「正解!!1ポイント!!」

「それさっきハンターがしてたやつ!!!」

 

 普通、あれだけ追いかけ回されていた敵の手法を真似するか。それもこんな短時間で。

 

「閃光手榴弾だから、失明しないように気をつけてね!じゃ、またね、お姉さん!」

 

 目を瞑ったままこちらに手を振るリベ。(すい)も四肢をからからを回してこちらに手を振っている。

 

(可愛い!…じゃなくて!)

 

 (すい)の可愛さにつられては行けない。

 素早くモスノウとドダイトスをモンスターボールに戻して、ドダイトスが作った蔓の影に隠れた。

 

 閃光弾がピカッと光ったと同時にきーんとした酷い耳鳴りのような痛みに襲われる。目を瞑っているというのに瞼の裏でさえ視界が真っ白で、転んで頭をぶつけた時のように何がどうなっているか分からなくなる。頭まで真っ白だ。

 いくらリベが蹴り上げたと言えど、比較的近くで爆発した閃光弾によって少女は簡易的に意識を飛ばされ、そのまま地面に頭を打ち付けてしまう。

 

 閃光弾が爆発しておよそ数十秒。永遠にも思えた時間が過ぎ去って、少女は吐き気と頭の痛みを抑えながら蔓を支えに立ち上がる。

 リベたちの姿を確認するが、やはりそこにあるのは地面にぽっかりと空いた穴のみ。混乱した脳でも逃げられたことを理解するのは難しいことではなかった。

 

「また、逃げられた…」

 

 嘔吐感に苛まれるなかで、二度も逃げられた(しかもハンターをも逃がしてしまっている)状況に気分は最高潮に最悪だった。自分は何をしているのだろうと、自虐的になってくる。

 しかし、最悪の気分に少女はへこむどころか、段々と腹が立ってきた。

 

(というか、最後の同じ歳でしたとかいう情報、もう本当に)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(心の底からどうでもいいよ!!!!!!)

 

 

 ダン!!!

 

 包丁が勢い良くまな板に当たる音が出る。

 

 ここはルネシティにあるハウスのキッチン。つまりが少女が住む家ということで、延いてはダイゴが所有主であるというわけで。いつも忙しいダイゴとミクリがこの家に帰ってくることはそうないのだが、今日は不運にもダイゴたちが帰ってくる日であり、憤り野菜を可哀想なくらいの力で切る少女をリビングから心配げな様子で見ていた。

 

 リベと遭遇したのは今から四時間前。閃光弾の光で眩んだ目が元に戻ったのが、今から二時間前。当たりはすっかり暗くなっていて、少女を心配したボーマンダたちが傍でずっと見守ってくれていた。

 なんとかハウスにたどり着いたときにはダイゴもミクリも帰宅しており、酷い顔色に問い詰められそうになった。何とかはぐらかしたはいいものの、明らかに不自然だし、なにより大丈夫ですの一点張りでは彼らは納得してくれない。

 

(包丁、刃こぼれしたかな…)

 

 引越し祝いとして母に買ってもらった良い包丁だと言うのに、引越しそうそう八つ当たりで壊してしまうなど目も当てられない。刃が掛けていないか確認するために、包丁を持ち上げる。左の親指で歯をなぞってみるが、どうやら刃こぼれはしていないようだ。

 

「私、本当に何しているんだろう」

 

 少女は包丁をまな板に寝かせ、その場で膝を抱えてしゃがみこんだ。エプロンも巻き込んで膝に顔を埋めると、水で濡れたエプロンが湿ったくて気持ちが悪かった。

 それが何故か情けないようで、ハンターもリベも取り逃してしまった自分の不甲斐なさが身に染みるようだった。リベなんて二度目だ。なんて酷い有様だろうか。

 

「お嬢さん?何かあった?」

 

 いつの間にか近づいていたミクリが少女の背中を撫でながら、できる限り優しい声で問いかける。その優しさが嬉しいはずのに、今の少女にとって毒でしかなく、胸がずきりと傷んだ。

 

 このまま隠す意味なんてあるのだろうか。今の自分がリベに辿り着ける気がしない。ハンターまで逃がした。

 

(だって、今の私は誰の、何の役にも立ってない…)

 

「お嬢さん?」

 

 先程よりもさらに優しく、心配気な声に顔を上げる。やっと顔を見せたことほっとしているミクリたちに少女は眉を下げて笑った。

 

「何でもありませんよ。ただタマネギがいつも以上に目にしみてしまって…品種の問題でしょうか。」

「たま、ねぎ?」

「はい、タマネギです。ほら、」

 

 少女が指さす方向には、先程勢いよく少女の包丁によって真っ二つにされたタマネギがまな板の上でころんと転がっている。

 ミクリも、その後ろに佇んでいたダイゴでさえも拍子抜け、といった言葉がぴったり当てはまる顔でタマネギと少女を交互に見ている。

 

「そ、そうか。いや、何もないなら良いんだ。何か手伝うことはあるかい?」

「そうですね…では、ミクリさんはサラダの準備をしてもらってもいいですか?あ、ダイゴさんは調味料を合わせていただいても?」

「あぁ、任せてくれ。」

 

 ダイゴはにこやかに頷いてワイシャツの袖を捲り上げる。ミクリは未だ心配げにこちらをちらちら見ているが、大丈夫だと言うように笑って見せると彼も諦めてサラダに取り掛かった。

 

(何でもないように、彼らに怪しまれないように、心配をかけないように、いつも通りにするんだ。)

 

 彼らに見えないようにグッと握りしめた手は、爪がくい込んで痛かった。

 

「ところで、その額の傷は何かな?」

「あっ」

 

……………

 

 

「みんなー、ご飯だよ〜。レントラー、遠くにいる子たち連れてきてくれる?」

 

 ご飯の呼び声に野生含めポケモンたちがわらわらと集まってくる。

 

 そらのはしらの管理、守護を任されてから野生のポケモンたちの世話も少女の仕事のひとつになった。

 

 スペース団の一件後、二度にわたって悪用された二つの宝玉にポケモン協会含め、各機関がホウエンの伝承に関わる遺跡等を重要文化財として設定した。重要文化財となったそらのはしらや石の洞窟、おくりび山はその保存のためにいくつかの制約がつくはずだった。

 そう、つくはずだった。

 それらが重要文化財に位置づけられたことによって、余計な勢力が口を出てきたのだ。重要文化財として遺跡たちを後世に伝えられるように現状維持を訴えるもの、宝玉やそらのはしらの存在に遺跡への立ち入りを制限し一切の責任、権利を寄越すように訴えるものの二つの勢力がぶつかることになった。このとき、余計な勢力というのは言わずもがな後者である。

 少女はそこらの大人の話はダイゴから軽くしか聞かされていないが、とにかく後者の勢力はもともと宝玉やそらのはしらの存在に目をつけ、このごたごたに便乗してそれら一切を手に入れようという魂胆らしい。

 結局のところ、ポケモン協会やホウエン地方の文化審議会、そしてスペース団の一件に大きく関わったとしてダイゴを代表とするデボンコーポレーションによって遺跡たちは現状維持という方向になり、そのための守護護衛、管理に第三者の少女が役目を預かる、という結果になった。後者勢力は難色を示したが、なにより野生のポケモンたちが少女に懐いたことが決定打となり事態は終息したのだった。

 

(まさか、自分たちのためにここに住んでいる野生のポケモンたちを追い出す、なんて言い……出すとは思わなかったなぁ。まぁ、それでポケモン協会がこっち側につくことになったんだけど…)

 

 そのことはもういいだろう。今は目の前のポケモンたちに集中しよう。

 タイプ別でご飯の味を分け、体の大きさ、活動量を加味して食事量を調節していく。人工のポケモンフードは栄養価が高いせいで、野生のポケモンたちは突然多く与えられると肥満になってしまう子もいるため注意が必要だ。捕まえたばかりのポケモンはフードと木の実をブレンドして徐々に慣らしていくトレーナーもいるらしい。一概にポケモンフードと言ってもただ栄養があるだけでなく、コンテストポケモン用、 バトルポケモン用、または健康に気を使う必要がある老ポケモン用、はたまたポケモンのなつき度をあげるためのフードなどなど、その多用性に応じたポケモンフードがどんどんと開発されている。タイプ別ポケモンフードが発売されたのが遠い昔に思えるほどに今は多くのフードがあるほどで、専門店にいけばその種類の多さに腰を抜かすだろう。

(トレーナー時代に使わなかった大会の賞金がこんなところで役に立つなんて思わなかったな。)

 

 ポケモンたちと共に研鑽のためと各地の大会に片っ端から出場していた少女は、ダイゴとミクリが関心するほど貯金がたまっていた。ここの保全のためと降りている補助金は案外微々たるもので驚きはしたが、おかげてポケモンたちの生活には困らない。それに加えデボンコーポレーションからも援助金が送られてきているのも、少女がここの維持に困らない要因のひとつだった。

 

「あ、まってクチート、ヤミラミを噛むのは駄目だよ。まってまって、それ技出てるから。いや、ちょ、力強い!凄い!さすが!ヤミラミは煽らないの!!助けてレントラー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと落ち着いてくれた…仕舞いにはゴルバットがクロバットに進化した時はびっくりしたな。本当にびっくりしたな。」

 

 クチートもヤミラミも、ゴルバットもここの野生のポケモンだ。最初はだいぶ警戒されたが、根気強く毎日会いに行けば今はすっかり懐いてくれた。少女のポケモンたちとも友好的にしてくれ、有難いことこの上ない。

 

 フードを食べるポケモンたちを眺めていると、ちょいちょいと裾を誰かに引っ張られる。

 

「やぁ、フーディン、キレイハナ。ピクシーも元気そうだね。」

 

 キレイハナを抱き上げるフーディンとその傍らでふよふよと浮かんでいるピクシー。かつての敵、シュオウのポケモンたち。敵だった少女にも好意的に接してくれるポケモンたち。

 

「ネンドールとジバコイルは…ご飯か。」

 

 意外にも食いしん坊だったネンドールとジバコイルは野生のポケモンたちと並んで食事中だ。フーディンたちも他のポケモンたちとちゃんと交流はあるようだが、少女が来ると決まって彼女の傍らに寄ってくる。この間、シュオウに会ったことを話してやると大層喜んでいた。

 

 ご飯は食べた?と聞きながら撫でると、三匹は心地良さそうな顔をしながら肯定の声を上げた。かわいい〜、なんて頬が緩みきった少女をピクシーが徐ろに引っ張る。どうやら屋上に連れていきたいらしい。

 

「あぁ、あの子たち屋上に居るんだね?」

 

 フーディンがこくりと頷いたので、抵抗する理由もなくピクシーに手を引かれたまま屋上へ登ることにした。

 

 

 

「やっぱり、ここからの景色は圧巻だね。」

 

 このホウエン地方で最も空に近いここは、海と空が生み出す地平線が美しく、自然の力を強く感じる。太陽は西に傾いて、もう少しで夕暮れ時だ。ここから見る日の入りは壮観な眺めだろう。

 

 そんなそらのはしらの屋上の隅っこには、4匹のポケモンたちが可哀想なくらいに身を寄せあっていた。こちらの存在には気づいているだろうが全くの反応を示さずに、ただ静かに海の向こう側を眺めている。

 

「チラチーノ、カバルドン、ジュペッタ、ご飯の時間だよ。バイバニラはここに長くいたら溶けちゃうから、せめて日陰に入って。」

 

 数ヶ月前にここでバトルがあった時の瓦礫をそのままにしているため、そこの影に隠れるようにバイバニラたちに伝えようと近づくが彼女たちは頑なに動こうとしない。

 予想通りの反応に少女は苦笑を浮かべて、どうしたものかと考えあぐねた。彼女たちは許可を取っていないもののカマスミから(本人の同意は得ていないが)預かり受けた大切なポケモン。体調を崩させるわけにはいかない。だからといって強引にもできない。どうしたものか。

 

 フーディンたちとそらのはしらに来てから彼女たちは場所は違うものの、常に4匹でかたまり動こうとしない。少女はここに来てから彼女たちがどこかに移動する姿すら見ていなかった。鳴き声をあげる姿さえも。ただ、最近になってやっと少しフードを食べるところを見ただけだった。

 食事と水は大切だ。特に水は。人間だって水さえあれば数日は生きられるという。生命維持に水は必需品。それだけでも口にしているだけで御の字と言えばいいのだろうか。もう少し食事も摂取して欲しいのだが。

 

「どうしたものかな。ダイゴさんからは焦らなくていいって言われてるけど、もう夏も本格に始まっているし…」

 

 時間がこの溝を解決してくれることもあることは理解している。だがしかし、彼女たちを見ているとそれだけではどうにもならないのでは無いかと、焦燥感を覚える時があることは事実だ。

 

 彼女たちはカマスミを待っている。ずっと、保護施設にいた頃から、微かでもカマスミの匂いがすれば彼女を探し回るほどに。

 

「キミたちが悪いわけじゃないのに、どうして苦しむのはいつもキミたちなんだろうね。」

 

 少女には彼女たちが自分を信じてくれるまで、待つしかない。それでも、彼女たちに今すぐ何かしてあげたいと強く望んでしまう。その寂しさが、苦しみが、少しでも埋まるように。

 

(どんなことがあっても人の道に背くことはしちゃ駄目なんだ。だから、私は、彼を認めるわけにはいかない。……でも……でも、どうして、彼は、)

 

 少女は沈む太陽をただ見つめる彼女たちの背を見ながら、ポケモンを守るという、自分の信念を新たにする。彼女たちのようなポケモンを増やさないために。

 

 

(どうしてキミは……ポリゴンたちを見る目が、そんなにも、優しいの)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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