あるトレーナーの話   作:撹拌された抹茶

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GW、皆さんいかがお過ごしですか?私は仕事です。


知りたい、だから…

 

 ホウエン地方の名も無き森の中を進み、谷を超え、洞窟を抜け、地元の人間ですらそこの存在を知らないというような、そんな深い森の中。そんなひっそりとした森の中に、少年リベは住んでいた。

 

「ひぃ〜、(ひょう)のやつテンション上がったからって“吹雪”ぶつけてくるなよなぁ。夏だってのにさぶっ!!」

 

 リベはかちかちに凍った服を乾かすようにぱたぱたと揺らす。数十分太陽の下にいたおかげで雪も溶け、だいぶと服も乾いてきた気がする。これも全てポリゴン同士で遊んでいた(ひょう)が勢い余って“吹雪”を出したせいだ。おかげでこんな日の下まで出てくる羽目になった。妹のイリなんてかちこちになった兄を見て、ご愁傷さまなんて言い出す始末だ。

 氷漬けになったおかげで着替えの服を取りに行く余裕もなく、イリに頼もうにもポリゴンたちの世話があると家の奥に消えてしまった。

 はー、お日様さまさま!なんてリベは太陽に手を合わせたくなった。日の暖かさとはここまで偉大なのか。

 

(あんまり外、出たくないんだけどな。此処、見つかったら困るし。)

 

 この家はポリゴンたちと自身の家族が住む隠れ家。ホウエン地方の中でも不気味だと言われる森を通らなければたどり着けない此処は、今まで一度も見つけられたことの無い秘密の場所だ。加えて険しい谷と丘を越え無ければならないし、家なんてそもそも地中に埋まっているという特典付き。見つかるわけが無いが、リスク回避は基本中の基本。移動なんて専らゴビットが掘った穴を通る他ない。だからあまり外には出たくないというのだが。

 

「まぁ、許しちゃうんだけどさ!!!まったく!!」

「冬じゃなくて良かったね?」

「そーそー!ほんとそうだよ!冬だったら死んで……んぇ?」

 

 冬じゃなくて良かった、その言葉に同意しようと声を出して、はたと気づいた。声の主をイリだと思って返事はしたものの、イリはポリゴンたちと家の奥にいるはず。リベが外に出てきたのが10分前、テンションが爆上がりしているポリゴンたちを10分そこらで諌められるようには考えられない。

 

 では、今自分が返事をしたのは誰か。

 

 リベはギギギと首を後ろに捻る。

 

「久しぶり。今回は一週間ぶりくらいかな?」

「お、おネーサン…」

(ええええええ、此処見つけたの?マジで?嘘だろ、言ったそばからじゃん!)

 

 振り向いた先には木の木陰に佇む少女の姿。少年は生まれて17年、霊的な存在を信じたことは無かったが今この時ばかりは霊であって欲しかったと思った。

 

「おネーサン、げ、元気そうだね!あの後大丈夫だったんだ?!」

「うん、お陰様で。まぁ、二時間みっちり怒られたけど。」

「あははは…ごめんねぇ」(気まず!!)

 

 少年は少女と出会って初めて目に見えて焦りを見せていた。

 家が見つかったからか。いいや、違う。

 

 怒っている。馬鹿でもわかるほどに、怒っている。

 この間会った時でも怒っていることはわかっていた。でも、今回はその比ではない。

 きっと手榴弾を使ったことに対して怒っているのでは無い。もっと別の、彼女の逆鱗に触れるような何か。それだけはわかる。

 

(逃げないと)

 

 今の彼女にいつも通りの冗談は通じない。会話さえしてくれないかも。じゃあ逃げるしかないじゃないか。

 

「もしかして逃げようとしてる?駄目だよ。今回は絶対、逃がさないから。」

「っっ!!!」

 

 気づいた時にはもう少女のポケモンたちが自身の周囲を囲み、ご丁寧に臨戦態勢だ。

 

(やばい、囲まれた。てかいつの間に。いやそんなこと今はいい。此処から抜け出さないと。幸い隠れ家に続く扉の場所は気づかれていない。このまま後ろに後退して鍵さえ掛ければ)

 

 隠れ家に入るための扉は地面にあり、そこも草の装飾で分からなくなっている。今の少女でもさすがに扉を壊すなんて暴挙には出ないだろう。そう信じたい。

 リベは後ろにじりりと下がり、ポケモンたちが自分から少しでも目を離した隙に扉に飛び込める体勢を作る。目指すは扉。しかも有難いことに近くにいるのはまだ未進化のアローラサンド。ドダイトスや他に比べれば差程の驚異では無いだろう。

 

(もう少し、あともう少し。)

 

 ポケモンも人間と同じように瞬きをする。動けるとしたらその一瞬しかない。

 

 ぱちり。

 

 自身を囲むポケモンたちが同じタイミングで瞬いた。

 

(!!いまっ、【ドシン】、だ…?)

 

 

 あれ?と、思った。

 後ろを振り返り、扉目掛けて飛び込もうとしていたリベは、何故か後ろを振り向くことさえもままならないままに硬直した。

 

 後ろに、何かがいる。

 

 重い着地音と共に言いようのないプレッシャーが襲う。大きい影が自分のからだを飲み込んで、思うように身体が動かない。

 

(う、そ。何が、後ろに。)

 

 その存在を確認しようと、リベは動かない身体を鼓舞してどうにか後ろを見た。

 

 青の体躯に赤い翼。太い四足に、大蛇のような尾。

 このポケモンを見たことがないわけでない。特段珍しいポケモンというわけでもでない。だというのに、

 

(なんだよこいつ……デカすぎるだろ)

 

 リベの身長は165cm程。平均よりも低い身長だ。しかしそれは男性の中での話。一般的に低身長と分類されるわけでない。

 しかし目の前にいるこのポケモン、ボーマンダはそんな彼をいとも容易く飲み込めるほどの大きさだった。そんな規格外の大きさのボーマンダの前ではさしものリベでも蛇に睨まれた蛙同然。

 少女の怒りに呼応するかのようにボーマンダは文字通り怒髪天を超えていた。ボーマンダにとって彼は完璧に敵であり、一度どつかなければ気が済まない。それもこれも彼が手榴弾なんぞ使ったせいだ。

 

「……別に、危害を加えようなんて思ってないよ。」

「?」

 

 規格外のボーマンダに萎縮するリベに少女は予想外の発言をする。ボーマンダを出てきたところを鑑みると無理矢理にでもポリゴンたちを取り返しにきたと思ったのだが。

 少女はリベの隣を通り過ぎ、ボーマンダに近づくと怒らないで良いよと言うように彼女の首を撫でた。

 

「ポリゴンくんと、話がしたい。」

「俺と話?…え、それってまさか、告白 「違う」 うっす。」

 

 少女は、はぁとため息をついてダンバルとアローラサンド以外のポケモンをモンスターボールに戻した。

 

「あれ?ポケモン戻すの?」

「…戻さないと多くて入れないでしょ?それに、ボーマンダまで見て逃げられるなんて思わないだろうし。」

 

 少女はぴっとカモフラージュしているはずの扉を指さす。

 

(へへへへ、バレてらァ)

 

 リベはもう諦めた。実際、ボーマンダが出てきた時点で諦めていたが、秘密の扉まで知られているのらお手上げだ。へへへと鼻を擦ると、少女から何で照れてるのと若干引き気味の目で見られた。

 

「ふっふっふっ、バレてしまったのなら仕方ない。ならば特別に我が根城を案内して進ぜよう!!」

「通常運転になったのは何よりだけど、どうしてそんなに得意げになれるのかな。もういいけどさ。」

「よせやい」

「褒めてない」

 

 リベはてくてくと歩き出し、扉を開くための取っ掛りを探すために草の絨毯をさわさわしだした。

 

「てかよく此処がわかったよね?え、もしかしてストーカーでもしてた?うっそ!!恥ずかしぃ〜!」

「勝手に犯罪者にしないでもらえる?私まだ何も言ってないよね?

 …此処に辿り着けたのはポケモンたち全員で探し回ってもらったから。野生のポケモンたちも協力してくれたからすぐに見つけられただけだよ。」

 

 陸海空すべてをポケモンたち総出で探してもらい、現地で得た協力者ならぬ協力ポケモンたちの力も貸してもらいながら、ホウエン地方全土を探し回った。やはり自身のポケモンだけでは限界があるが、そこはさしもの野生。多くの情報を持っていた。後は当たりをつけたところを監視していればあら不思議、なんと一週間足らずでリベたちの拠点を突き止めることができたのだ。

 

「すんげぇ執念じゃん。」

「お陰様で。」

 

 淡々と返す少女を横目にリベは隠れ家へ繋がる扉の取っ手を見つけたようで、あったあったと軽快な口調で扉を開ける。

 中は薄暗く秘密の地下通路といって差し支えない雰囲気だ。

 

「足元気をつけてね。」

「うん。サンド、ひとりで降りられる?」

 

 少女はサンドをゆっくり地下通路に下ろし、続いてダンバルを抱いたまま自分もハシゴをつたって降りた。

 ぎりぎり大人ふたりが通れる通路には申し訳程度の電球の灯りがあるだけで、まるでいつかの洞窟を呼び起こされるようだ。

 ダンバルは少女の手を離れてサンドと共にきゃっきゃっと探検気分で通路を進み始める。危ないかと思ったが、二匹は少女の近くから離れる気は無いようで、少女を中心に1m以内を維持して遊び回っているところから少女は大丈夫だろうと判断した。賢い子たちだ。特にサンドは意識的にダンバルの面倒を見ながら少女の動向に合わせている。良い子だね、と少女はサンドを撫でた。

 

「でさ、俺と話したいってなんなわけ?」

 

 少女とサンドたちの様子を後ろで腕を頭の上で組んだリベが尋ねる。

 

「ポリゴンのことだよ。」

「ポリゴンのこと?やっぱり取り返しに来たってことね。」

「まぁ…それもあるけど。今日は、それだけじゃなくて、」

 

 少女の隣に着いたリベがふーん?と軽い調子で返した。

 

「この間はキミに逃げられたから、話せなかったけど、ある人にポリゴンについて色々教えて貰ってたの。」

「例えばー?」

「ポリゴンが電脳の世界に入れること、2回の進化を遂げること、人に造られたポケモンだってこと………その能力で色んな実験に関わってること、とか。」

 

 すっとリベの目が細められる。口角が上がったままで一見笑っているようにも見えるが目が笑っていない。いつもと違う雰囲気に以前の少女なら怯んでいたかもしれないが、今の彼女がそれに呑まれることはない。

 

「ポリゴンZはポリゴンの性能を向上させるために進化という過程によって生まれた存在。ポリゴン2までは上手く進化していたけど、ポリゴンZへの進化はそうはいかなかった。プログラムのミスって聞いたけど、そもそもポリゴンの進化事態が【進化】と呼べるものなのかさえ、存在の定義があやふや。だから、進化しても名前が変わることがない…」

「ほんと、色々教えてもらったんだ。その顔を見るとポリゴンたちの扱いも知ってるみたいだね。」

 

 リベの問いに少女は頷く。

 

 一か月前、少女はシュオウから教えられたことを思い返した。

 ポリゴンは人や他のポケモンが普段必要とする呼吸をしない。循環機能もあるのかも定かではなく、何を原動力に生きているのか不明である。だからこそ生物が生きられない環境でも生存が可能だと。このポリゴンの特徴に研究者たちは目をつけた。その最たる例が宇宙への打ち上げである。

 酸素のない宇宙空間において宇宙に生息しているポケモン以外は生存は不可能だが、呼吸を必要としないポリゴンは格好のターゲットとなった。人工衛星として宇宙への打ち上げを何度試みられている。

 

「サイバーセキュリティとして活躍している子もいるんだってね。」

「まぁ、それ以外もあるけどネ。今はいいや。ほら、そろそろ着くよ。」

「!」

 

 薄暗い通路を歩いた先には一枚の扉があった。無機質ながら、まるでその奥から別世界が広がっているぞと言わんばかりの雰囲気だった。

 

(あぁ、いいや…本当に別世界なんだ)

 

 扉を開けるとそこには地下とは考えられないほどに煌々と光が広がって、背は低いがいくつもの木が生えている。そこには勿論オレンの実やモモンの実などが生っていて、それをポリゴンたちが仲の良さげに分け合いながら食べている。

 まるで楽園、いいや、まさにポリゴンたちの幻想郷と言っていいほどにそこは確かに豊かだった。

 

「あれが、ポリゴンとポリゴン2(ツー)…」

 

 ポリゴンZとは違う姿。ポリゴンはその名前の通り体躯が角張っていて、多面体のパーツで構成されている。かわってポリゴン2は身体の形はそのままに、多面体から表面がつるりとしたフォルムになり、くりくりとしたつぶらな瞳も相まって全く違う印象を受けるポケモンだった。

 

(すごい、初めた見た)

(身体がかくかくしてる)

(鋼ポケモンにも見えるけど、どちらかと言えば岩ポケモンが近い?でもノーマル単タイプなんだよね)

(ロトムとは全く姿が似てない。でもポリゴン2から凄くからだが滑らかになって少し似てる?)

(ポリゴンZは攻撃力が高いって思ったけど、ポリゴンを見ると耐久面も申し分ないのかも)

(ポリゴンZはポリゴン2の身体を入れ替えただけ?)

(可愛い)

 

 溢れ出す気持ち、思い。まるで旅をしていたころの感覚にそっくりだ。

 

「へへ、凄いでしょ?…ようこそ、ポリゴンの楽園へ。俺たちはおネーサンを歓迎するよ。」

 

 そう言って少年が細く微笑んだのを気付かない程に、少女は目の前のポリゴンに釘付けだった。

 

 またこれが己の岐路になるとこなど、露とも思わずに。

 

 

 

 

 

 

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