あるトレーナーの話   作:撹拌された抹茶

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少女の願い

 

 少女はひとり立っていた。

 

 目の前にはお城のような大きな家、庭園にガゼボがあって周りにはピンクや白の可愛らしい花が植えられている。その中に小さい女の子が泣いているのを見つけた。

 

「どうして泣いているの?」

 

 女の子の横に腰を下ろし、まろい頭を撫でた。

 

「ヒクッ…おかあさまに…グス…あいたい…わたしだけ、おかあさまがいないの」

 

 女の子は生まれた時から母親がいなかった。産まれたばかりの赤ん坊はその体の弱さを理由に母親に捨てられた。

 母親は子を孕む事が難しい身体であり、永らく不妊治療を続けていたが、それでも子宝に恵まれなかった。夫も夫の義両親も彼女を責めることはしなかった。一番辛いのは彼女自身であると知っていたから。しかし、彼女を石女と罵る人間は少なからず存在し、何より自分自身昔から子どもを授かることを夢見ていたこともあって、彼女は苦渋の数年を過ごした。そんな中、やっと授かり産まれた子どもは一年生きられるかわからないほどに脆弱な女の子。彼女の心を壊すのは容易だった。

 

 小さな女の子は帰ってこない母親を待ち続け、まだ見ぬ母親に会うことを夢見ている。どれだけ優しい父がいようとも、子どもの母親を求める心は埋まらない。

 

「さびしいよ…あいたいよぅ…」

 

 ボロボロと泣く女の子を少女は抱きしめる事しかでかなかった。

 

 どうか、この女の子に、幸せな未来が来ることを願って。

 

 

…………

 

 

「ん…んん…」

 

 重い瞼が上がる。たちまち眩い光が差し込んで、反射で目を細めてしまう。

 すぐそばで何かが倒れるような、ガタッとした音がした。

 

「……さん?!お…ょ…さん!!」

 

 視界に誰かが入り込んでいることはわかるが、白ボケていてその人物が誰なのかはわからない。しかし、自分を必死に呼んでいることは分かる。

 誰の声なのだろう。…そんなことよりも頭が痛い。ずっと鈍器で殴られているような痛みがして、頭が上手く働かなかった。

 

「お嬢さん!!」

 

 じっと痛みに耐えながら待っていると、一番早く正常な機能を取り戻した聴覚が、その人の声を拾い上げた。

 男性の声だ。

 それがわかると、次第に視界も開け、誰がそばにいるのかわかった。

 

「ダイ、ゴさん」

「良かった!目を覚ましたんだね。」

 

 酷く安心した顔をして、冷や汗をかいている。

 彼が汗をかくなんて珍しい。いや、洞窟ではいつも汗水流しながら石を探してるし、そんなことも無いか。なんて、くだらない事が頭に浮かんで、流石にこれを言えば最初に言うことがそれか!と怒られそうなので口には出さない。

 

「どうして…ダイゴさんが、ここに…?お仕事は…大丈夫なんですか?」

「最初に言うことが僕の仕事の心配か!!キミが病院に運ばれたと聞いて飛んできたんだよ!!」

 

 結局怒られた…思考が纏まらない頭でもくだらないことはすぐに浮かんでくる。それが何だかあの少年のようで、少し嫌な気分になった。

 

「キミ、三日も目を覚まさなかったんだよ。」

「三日…?!ダイゴさん、お仕事…!!」

「大丈夫だってば!今日は元々親父のところに顔を出す予定だったんだ。それがあんな事件が起きたから、急遽休みになったの。」

 

 だから動かないの。と半分起き上がっていた身体をダイゴに無理矢理ベッドに戻される。ダイゴはやれやれと言わんばかりにため息を着ついた。

 よく見れば、自分の身体には心電図のシールや、酸素量を図るシールが指に着いている。勿論点滴も刺され、下半身に意識を持っていくと、股の間に何やら管が通っているのがわかった。考えないようにしよう。そうしないと羞恥心で多分死ぬ。

 

 少女が自分の醜態に目を遠くしていると、病室の入口付近でドサッと何かが床に落ちたような音がした。二人は入口に目を向けると、そこにはワナワナと震えるミクリの姿。

 

「み、ミクリさ…」

「起きたなら!!!ナースコール!!!!!」

「「あっ……」」

 

 その後、ナースコールに呼ばれて駆けつけた看護師にも目覚めたことを驚かれつつ、あれよあれよと身体検査が始まった。

 MRIや採血も行い、聴覚や視覚の検査もされたが、全てに異常はみられなかった。

 

「普通、昏睡という状態は脳細胞の機能不全によって起こるものですが…貴女の場合、こちらへ搬送された時から検査上何も異常は見られませんでした。勿論、今回の検査でも異常はなく、綺麗な数値、画像でしたよ。救急隊からの情報ではポケモンたちが回復技で貴女を癒していたと聞きましたが、それが要因だというエビデンスはありません。まぁ何はともあれ、目が覚めてよかったですね。」

 

 大事をとって入院は続くが、順調に行けばすぐ退院はできるだろうと、医師はそう言って病室を出ていった。

 

「先生が言った通り、本当に何も悪いところ無かったんですよ。もう驚きです。あ、管の方は明日抜けますからね。歩行訓練も明日からです。この後飲水テストがありますので、問題なければ夕食からご飯食べれますよ。重湯ですけどね」

 

 担当の看護師もそう言うと病室を出ていく。病室に残ったのは少女と、説明を一緒に聞いていたダイゴのみ。

 

 少し気まずそうにダイゴをちらりと見る。

 

「ん?どうしたんだい?…あぁ、ミクリのこと?コンテスト関係で仕事があるから帰ったよ。また明日来るってさ」

「……あの」

「あ、キミの御両親にも目覚めたことは連絡しておいた。昨日まで居たんだけど、今日は外せない用事があるから一旦帰ってるよ。タイミング合わなくて残念だったね。」

「えっと」

「ボーマンダもモスノウたちも心配してたよ。ダンバルとサンドなんて泣いていたからね。それで言ったら、ミクリも酷い顔をしていたな。彼、キミが怪我するの嫌いだからなぁ」

「………」

「話によると特に頭の損傷が酷くて、肉が見えていたそうだよ。ポケモンたちが回復技を掛けてくれていたと言っても、あの状態で脳が正常に機能していたことが奇跡だよ。以前も思ったけど、キミ、レックウザの加護でもあるんじゃないのかい?」

 

 冗談めかして、軽口をいうようにダイゴは話す。それとは反対に少女の顔はどんどんと暗くなり、最後には俯いてしまった。

 怒ってる。怒ってるぞ、これは…

 

「………怒ってるよ。もう目を覚まさないかと思った。」

「…ごめんなさい…」

「たまたま居た森の近くで爆発が起き、救助に向かったキミが危篤状態になるなんて。空いた口が塞がらないとはこのことだね。………本当に、本当に心配したんだよ」

 

 今日、会った全ての医療従事者の人たちは口を揃えて【奇跡】だといった。それくらいに自分は重体だったのだろう。両親は遠い土地から飛行機を使ってホウエン地方(ここ)まで来た。仕事で忙しいダイゴとミクリまで合間を縫ってまで病院に駆けつけてくれた。全部医者や看護師から聞いた話だ。

 両親は心臓が止まる思いだったのだろうか。ダイゴたちには沢山の迷惑を掛けてしまった。ポケモンたちは…ポケモンたちは、死の瀬戸際にいるトレーナーに何を思っただろう。不安、恐怖を覚えさせてしまったのかもしれない。いや、きっとそんな言葉では足りないくらいに心が潰されそうな思いだっただろう。

 トレーナーから突然離されたポケモンの存在を、少女は身をもって知っている。保護施設で、自身に縋りついてきたポケモンたちの震えも、やせ細った身体も、全部知っている。それをボーマンダたちにも、味わわせるつもりだったのか。

 少女の全身から冷や汗が流れる。布団を握る手が震える。

 

 怖い。恐ろしい。ボーマンダたちを置いて消えてしまうことが。彼らに会えなくなることが。

 

「っ……」

 

 泣きたいのは私じゃない。そうわかっていても、涙は止まらない。

 

「目を覚ましてくれて、ありがとう」

 

 そう言った彼の声も、震えていた。

 

…………

 

 翌日、早朝から点滴以外の管は抜け、歩行訓練が始まった。

 三日以上ベッド生活だった身体は鉛のようで、簡単なリハビリでも汗が出てきた。早く退院したいの一心で自主的にも病棟内を歩き続けた。看護師さんたちは「そんなに頑張るなんて偉いわねぇ」と褒めてくれた。

 ダイゴさんからお叱りを受けたあと、しっかりミクリさんからも電話越しに怒られた。翌日の面会時にも怒られた。両親にも怒られるだろうなぁ、と憂鬱になりながら電話をかけると、意外にも両親はケロッとしていた。

 

「まぁ、トレーナーなんて職業柄無茶は付き物よ。特にあなたは昔からポケモンが関わると自分のことなんて気にしないから…私たちはボマちゃんたちの方が心労で倒れないか心配だわ。おじいちゃんもおばあちゃんも、お母さんたちも無茶ばっかりしてきたから、あなたに偉そうなこと言えないけれど…自分を心配して心を痛めてくれる存在がいること、知りなさいね。」

 

 母はそれ以上何も言わなかった。父からも心配のメッセージが届いていたが、それだけだ。淡白というか、放任主義というかわからないが、拍子抜けであったのは確かだった。

 

(【自分を心配して心を痛めてくれる存在がいること、知りなさいね】かぁ…)

 

 なんとも耳の痛い話だ。以前の事件で分かっていたはずなのに、身を犠牲することであの子たちがどう思うかなんて。

 

(怒られるかな、泣かせてしまうかな)

 

 まだボーマンダたちには会えていない。今はダイゴのところで預かってもらっている。ポケモンとの面会が制限されているわけでないが、まだ病棟内安静で、外に出る許可が降りない。これではボーマンダたち大きな子たちが会えないので、退院までお預けというわけだ。小さい子だけ会うという選択肢はもとよりない。

 

(ごめんね…)

 

 また目から涙がこぼれる。ぼふっとベッドに身体を預け、窓から空を見た。

 もうすぐ夜の帳が降りる。何だかそれがとても恐ろしいものに見えて、少女は目をそらすように顔を枕に埋めたのだった。

 

…………

 

 そのまた翌日、早朝の診察を終えると、医師から明日には退院できるだろうと伝えられた。「本来はもう少し入院すべきなんですよ。どこにも異常が認められないので転院も無理ですし、必要ないことは医療ではできませんので…」そういった医師の顔には何も起きないでくれよと、ありありと書いていた。まぁ、頭がほぼ割れた状態で昏睡していた人間にどこも異常がありません。なんてありえない話だ。少女だって意識を飛ばす瞬間は観念の臍を固めた程だ。

 

「ということで、明日には退院できることになりました。あと先生が退院前にもう一度病状説明を保護者にしたいと…」

『そうか。明日なら何時でも迎えに行けるよ。そうだな…朝の10時くらいに病院に行くよ。』

 

 分かりましたと返事をしてダイゴとの通話を切る。ホウエン地方に移住するためには、まだ17歳である少女には身元引受け人が必要だった。ふたつ返事でダイゴが頷いてくれたときは驚いたが、もとよりそのつもりだったらしい。

 この世界は10歳で成人、と判断されるが、地方や職が絡む手続きにはまだ保護者が必要であり、20歳未満で他地方に移住する時は移住先での身元引受け人が必要になる。20歳未満用の後見人制度もあるが、後見人は身元引受け人はなれないため、今回のように入院になった際は結構面倒臭いらしい。

 

コンコン

「はい、お入りください。」

 

 ガチャりと扉を開け病室に入ってきた人を見る。看護師さんかな?とカーテンを開かれるのを待った。

 

「やぁ、お嬢さん。元気そうでよかった。」

「エゴムさん!それにネリアさんも」

 

 まさか彼らが訪ねてきてくれるとは思わず、少女は思いがけない来客に驚きを隠せなかった。何よりエゴムは手や頬に不織布が貼付されているが、皮膚色も悪くなく、目立った腫れもない。

 

「エゴムさん、ご無事だったんですね…」

「ははは、お嬢さん比べれば可愛いものだよ。…本当に感謝してもしきれないよ。社員も、中にはまだ高次的な治療が必要な者もいるが、全員命に別状は無い。」

 

 全員無事、という訳にはいかなかったが最悪の結果は免れたようだ。救助中、助からないかもしれないと思った人は数人いた。損傷が激しい人や一酸化炭素中毒の可能性がある人。しかしひとりひとりに処置を施せるほど、少女は知識を有していないし時間の猶予もなかった。死人が出なかったのは奇跡だ。それもこれも野生のポケモンたちと共に駆けつけてくれたネリアのお陰だ。

 

「ネリアさんが、ドダイトスたちと一緒にポケモンたちを研究所の方へ連れてきてくれたんですよね?ありがとうございます、ネリアさんたちのおかげで私も社員の人たちも助かることができました。」

「………」

「ネリアさん?」

「こらネリア、返事をしなさい。」

 

 背を真っ直ぐ伸ばし美しい姿勢を保っているが、首は項垂れ、前で緩く組まれているはずの手はきつく結ばれカタカタを震えている。

 大好きな父の呼び声にすら反応を示さないネリアに、2人は何かあったのかと覗き込む。

 

「……つき……」

「え?」

「うそ、つき…嘘つき!!」

 

 少女を嘘つきと咎めると同時に顔をあげたネリアは、泣いていた。

 桃色の瞳から大粒の涙がぼたぼたと音を立ててこぼれ落ちるものだから、少女とエゴムはビシりと固まった。確かに無茶をした自覚はあるので、ミクリやダイゴのようにお怒りの言葉を浴びせられることは予想していた。まさか泣かれるとは思っていなかった少女は口をぽかんと開けてしまった。

 

「ね、ネリアさん」

「ネリア…どうしたんだい、」

「嫌!!触らないで!!お父様もよ!!」

 

 ネリアの涙を拭うために伸ばされた少女の手はパシリと彼女自身に払い落とされてしまった。嫌だ嫌だ泣くネリアは子どもそのもので、絶えず少女たちを撥無するように声を上げる。

 

「そばにいるって言ったじゃないッ!死んだら傍にいれないのに、もう会えないのに!わたくしに許可なく死のうとした!」

「し、死のうとなんてしてな…」

「そういう問題じゃありません!」

 

 そういう問題では無いのか…少女は口を噤む。何か言う度に怒られそうだからだ。ミクリも少女が怪我の言い訳をする度に「だからなんだい?」と一蹴されるが、まだ一理あると認められれば聞くだけはしてくれる。聞くだけだが。しかし、今のネリアは何を言っても聞く耳を持たないだろう。言い訳紛いなことを言おうものなら更に泣いて怒ってくる。

 

 こういう時、どうすればいいのだろう。

 今まで人付き合いは人並にあった。旅した地方には友達だって少なからずいたし。ただ、ポケモンたちを優先させすぎておざなりになっていただけで。でも、その中でこんなふうに自分に対して爆発した感情を向ける人はいなかった。

 落ち着くまで待つべきか。駄々を捏ねて拗ねて泣くポケモンたちも時間が経てば落ち着いくことが多いかった。…いや、違う。多分、それではこの女の子の心を晴らすことは、できない。

 

「ネリアさん」

「嫌よ!何も聞きたくないわ…ッ!!」

 

 ネリアが少女の手がはらうが早いか、少女は彼女を抱きしめた。あの泣いていた幼子を抱き締めたときのように。

 

「ごめんなさい。あの時は、ああするしか、無かったんです。」

「だから、わたくしとの約束を破っても良いと…!?」

「そうじゃ無いんです。…約束を破りそうになったことは、謝ります、ごめんなさい。あの時、自分とエゴムさんを天秤にかけたとき、エゴムさんを守るべきだと、思ったんです。そうしなきゃ、ネリアさんがひとりぼっちになると思ったから。」

「わたくしが…?」

 

 物心が着く前から父親しか家族が居ない彼女が、もし、父親さえも無くしてしまったら。

 

(私が、あの子たち( チラチーノたち)のなかでそんな存在とは思わないけど…)

 

 それでも、ネリアをポケモンたちに重ねたとき、自分が消えた後のことを考えると、怖くなった。自分とエゴムを天秤にかけたとき、()()()()()のは自分だと判断し、エゴムを守った。ただそれだけだ。

 

「ネリアさんには、エゴムさんが必要だから…でも、今度はちゃんと約束します。私は、ネリアさんが望む限り、ネリアさんの傍にいます。」

「…本当?」

 

 ネリアの伺うような弱い問いかけに、少女は頷く。

 

「本当?本当ね?」

 

 ネリアは何度も確認した。少女も何度も頷いた。約束すると。

 

「約束……ですからね。破ったら許しませんわ。」

「はい、約束、ですね」

 

 ネリアは満足気に笑い、少女の背中に腕を回した。嬉しかったのだ。

 

 ネリアは母の愛情を知らず、多くのポケモンに愛を捧げた少女は恐らく母性が強かった。それが偶然なのか、必然なのかはわからない。少女はネリアにポケモンと変わらぬ庇護をみせたことで、ネリアは少女を自分を無償で受け入れてくれる存在だと認識した。

 

 ネリアの長らくぽっかりと空いていた心は、少女という存在により満たされた。

 

(わたくし、お母様を待つことはやめるわ。だって、わたくしはもう、お父様とこの方さえいれば…)

 

 ネリアは笑う。長らく探していた大切な宝物を、ようやく見つけたと言わんばかりに。

 

 エゴムはふたりの抱擁を見守ることしか、できなかった。

 

 

…………

 

 

「短い間、お世話になりました。」

「いいえ、お大事になさってくださいね。あと、無茶は程々に、ね?」

「あははは…頑張ります。」

 

 看護師の注意に少女は頬をかいた。病棟の出口まで見送りに来てくれた看護師に少女とダイゴは頭を下げ、エレベーターに乗り込む。

 

「退院、思ったより早くてよかったよ。これ以上入院が続けばボーマンダたちがストレスで倒れそうで心配だったからね。」

「ご迷惑をおかけしました…」

「掛けたのは迷惑じゃなくて心配だよ。これに懲りたら無茶はやめるんだ。」

「はい…」

 

 ダイゴのお叱りの言葉にしょんもりしつつ、少女は久々に会えるパートナーたちに心を踊らせていた。多分最初は怒られるか泣かれるかのどちらかだろうが、甘んじて受け入れよう。

 ボーマンダに乗って空を飛ぶことは次の診察までダメだと医師に告げられたので、潜るか飛んで行くしかないルネシティには帰れない。当分はトクサネシティのダイゴの家にお邪魔することになっていた。ポケモン全員にはさすがに会えないかと肩を落としていると、ダイゴが既に家まで連れてきていると教えてくれたそうだ。ダイゴ様々である。

 

「ブースターがフレアドライブ撃つ気満々だったけど、全快まで待ってもらうように言っておいたよ。」

「撃つことには変わりないんですね。」

 

 ブースターが怒っているということはレントラーも怒っているんだろうな。ヤだな。

 

 明後日の方向を見ながら病院のフロントへ足を踏み入れる。フロントには来院者たちが飲食ができるように、コンビニや小さなカフェが入っており、中央には大きなテレビもあった。テレビではニュースが流れており、少女がふと目を向けるとそこにはエゴムとムクゲが映っていた。少女の脚が止まる。

 

「二度の火事でイム・エネゼータは大きなダメージを負い、一番の大元だった本社が機能停止に追いやられたことで、着手するはずだった新たなエネルギー開発が難しくなったんだ。そこで親父がエネルギー開発の成果の大半をデボンコーポレーションに渡す代わりに、全面的支援を申し出たんだよ。」

「そう、だったんですか」

 

 経営やビジネスのことは少女はさっぱりわからない。そうすることによる利益やどのように損得が生じるのか。

 

 あの日、ネリアが居なくなった病室でエゴムは少女に依頼の終了を申し出た。

 二度の爆破。同じ手口による犯行は、リベを最早看過できない存在にさせた。本格的に警察へ届け出をすることとなった本事件は、少女の手には余るとして少女としては打ち切り、という状態で幕を閉じた。

 リベはエゴムを故意に亡き者にしようとした。この目で見たことだ。リベが幾らポリゴンを救うという大義名分を掲げていようと、超えてはいけない一線というものがある。

 

(ポリゴンくんは、敵。)

 

 きっともう会うことは無い。もし、会ったそのときは…対話もなく、慈悲もなく、その正義諸共、少女は少年を潰すだろう。

 

「そろそろ行こうか。」

 

 ダイゴに促されるまま少女はテレビに背を向けて歩き出した。

 

 

 

 テレビは少女たちが去った後もエゴムを映し出したままだった。

 

 

「我々が日々使っているエネルギーは無限ではありません。何十年先、何百年先、何千年先、今と同じようなエネルギーを使い続けられる保証は無いのです。」

「だからこそ、私は、今を生きる人たちだけではなく、子どもたちが大人になった後も、その子どもたちが大人になった後の子どもたちも、変わらない生活を送れるようにしたいのです。」

「何十年、何百年、何千年…いや、何万年先も続くエネルギーを我々は開発します!それを私は、こう呼びます…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (むげんだい)エナジー、と。」

 

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