【悲報】クソ馬鹿、藍染隊長になる 作:悲しいなぁ@silvie
去って行った藍染惣右介達を呆然と見送った護廷十三隊達。
その中で誰よりも早く動いた者が居た。
「アンタら…十刃落ちつったか?悪ぃけど通してくれ…
アンタらにも事情があるかも知らねぇが、こっちはアイツ連れてかれて頭に来てんだ!!」
自身の恩人である朽木ルキアが十刃の一人に連れて行かれ、何もできずにソレを見逃してしまった自身への不甲斐なさから来る怒りと共に叫ぶオレンジ髪の青年、黒崎一護。
しかし、その一護を後目に十刃落ち達は三人集まってヒソヒソと話していた。
「アイツ…?誰の事だ?」
「多分あの娘でしょ…ほら、アーロニーロが連れてきた。」
「ふむ、あの
合点がいったと一人の破面が一護に歩み寄る。
特徴的な口髭に鍛え抜かれた逞しい肉体を持つその破面の名はドルドーニ・アレッサンドロ・デル・ソカッチオ。
元第3十刃を務めた十刃落ちでも最強の破面である。
「そんなにもあの
「…あぁ、助けるって誓ったんだ」
「ほぅ、あの
「違ぇよ、ただ…俺のたまし───」
「おお!一護ではないか!貴様こんな所で何をしておる?」
「あらぁ!!?」
一護が自身の覚悟を口にしようとした瞬間、
「む!?な、何故護廷十三隊の隊長方が此処に…?
いや、なんだこの軍勢は!?」
状況をまるで呑み込めず驚愕するルキアを見てずっこけるのを必死に堪えた一護が叫ぶ。
「ルッ、ルキア!!お前…大丈夫だったのか!?」
「大丈夫かだと…?当たり前だ馬鹿者!というよりなんだこの大人数は?説明しろ一護。」
「いや…説明しろっつわれてもな…」
一護は空回りした覚悟に顔を赤くしながら首を触る。
しかし、眼の前のドルドーニは仕切り直しと言わんばかりに二人の会話に割って入った。
「感動の再会は終わったかね、
「…ああ、待たせちまったみてぇだな。」
一護も弛んだ気を締め直して斬月の柄に手をかける。
「構わんよ、
吾輩達は藍染様から
そう笑うドルドーニに一護は側に居たルキアを下がらせる。
卍解無しでは勝てない…否、気は進まないが虚化の必要すらある相手だと瞬時に判断したから。
「そりゃいいな…茶でも出してくれんのかよ。」
故に、少しでも時間を稼ぎルキアを安全な場所まで下がらせようと中身の無い話題を振る。
………そうしたつもりだった。
「ふふふ…勿論だとも!!」
まるで踊るような流麗な動きでポーズを決めたドルドーニは頭上でパチンと指を鳴らす。
すると背後から破面達が盆に茶菓子を乗せ走って来た。
ドルドーニは破面達から茶菓子が乗った盆と電気ケトルにカップを受け取ると満足そうに頷き下がらせる。
「………は?」
そして、一連の動作を見た一護は思わず斬月にかけていた手を放し放心した。
「分かっているとも
茶菓子は現世でも行列の絶えぬ有名洋菓子店のバウムクーヘン、そしてソレに合わせるのは吾輩のオリジナルブレンドコーヒー…
ふふふ、かのウルキオラすら驚かせた吾輩のオリジナルブレンドに最も合う甘味を合わせたこのセット…無論、コーヒー共々おかわりも有るぞ
自信たっぷりにカップにお湯を注ぐドルドーニ。
確かに、カップからは芳醇な素晴らしいコーヒーの匂いが辺りに漂ってはいた。
「………何言ってんだ?アンタ……」
「む?……ああ!これは吾輩とした事が…
角砂糖をつけておこう…おっと、ミルクは味がぼやけるから我慢だぞ
そそくさとソーサーの端に角砂糖を積むドルドーニ。
一護はわなわなと震えながら拳を握り締める。
「違ぇよ!!そういう事言ってんじゃねぇ!!」
「ん?………まさか、本当にチョコラテの方が良かったか…?
このバウムクーヘンは甘さ控えめではあるがチョコラテを合わすと少しくどいぞ?
「合わすかぁ!!んな聞いてるだけで胸焼けするようなも…ん……」
一護はそうキレ気味に言いかけて…後ろでショックを受けて固まった織姫を見て最後まで言わずに黙る。
「そ…そう、だよね……甘いのに甘いのは合わせないよね……」
「大丈夫だよ、嗜好は人それぞれさ井上さん。
……全く、人の趣味嗜好に文句を垂れるな黒崎!」
「俺か!?この流れで俺が悪いのか!!?」
わーわーと騒ぐ現世組を見兼ねてかドルドーニの肩に手を置き下がるように身振りする破面。
「アンタ…本当に分かってないわね。
後ろで見ときなさいドルドーニ…このチルッチ・サンダーウィッチの完璧な饗しをね!」
派手な化粧と身なりをしたチルッチは見定めるように現世組一行を見渡すとビシッとある人物を指差す。
「そこのアンタ…出てきなさい。」
「……僕をご指名かな?」
鋭い視線に再び緊張感を取り戻した雨竜は顔から笑みを消してゆっくりと前に出る。
「メガネ、アンタに見せてやるわ…アタシの全力をね!」
その言葉に石田が構えると…チルッチはパンパンと手を叩き再び破面達を呼び寄せた。
バタバタと寄ってきた破面に耳打ちするとすぐさま走って戻る破面。
「ちょっと待ってなさい…今作ってるから。」
「……作ってる?一体何を…」
雨竜の疑問に答えるように破面が盆を持って走って来る。
その盆の上には大きな丼が蓋付きで乗っていた。
チルッチはソレを受け取ると湯呑に缶からパッパッと粉を入れドルドーニから受け取ったケトルでお湯を注ぐ。
「待たせたわね…ホラ、泣いて喜びなさい!」
折り畳み式の簡易テーブルと椅子を組み立て走り去る破面を見送るとチルッチはそう言って机に盆と共に湯呑を置く。
「…………コレは…?」
「はぁ?見て分かんないワケ?
コレは───カツ丼よ!」
「カツ丼……」
言われた意味が分からず呆然とオウム返しする雨竜。
その雨竜にチルッチは自身満々といった風に語る。
「アンタらみたいな若いだけが取り柄のガキ共なんてとりあえず腹空かしてんだから掻き込みなさい!
箸とスプーンとレンゲ有るけどどれがいいかしら?」
雨竜はチルッチの説明に肩透かしを食らった気になるも、一縷の望みを賭けて慎重に丼の蓋を取る。
もしかしたらこの中身が破面の兵器的な何かであるかも知れないと大真面目にゆっくりと蓋を開けると──
湯気と共に素晴らしい出汁の香りが鼻腔を擽る。
卵の具合も程よく半熟のお手本のようなカツ丼であった。
「コレは………?」
「だからぁ!カツ丼って言ってんでしょ!?
………あぁ、わかったわ。全く、只のガキかと思えば…随分とマセてんじゃない?」
チルッチはそう言うと再び破面を呼び付け耳打ちする。
少しして破面が盆に小皿を乗せ走って来た。
「………コレは?」
何となく察しながらも一応惰性で聞く雨竜にチルッチは胸を張って答える。
「馬鹿ね、御新香とたくあんに決まってんでしょ!!
ったく、丼物には漬け物が無いと満足出来ないなんて本当にマセたガキね…ほら、さっさと食べなさい。
早くしないと卵に火が通っちゃうでしょ。」
言いたい事は星の数程あったがワンチャン毒入りである可能性に賭けてパキリと割り箸を割って丼から卵と共に米を掬う。
たっぷりと出汁を吸った卵とその水気でテラテラと光る白米に依然として微塵も嫌な予感がしないままではあったが頬張る。
瞬間、雨竜が膝から崩れた。
「ッ!?大丈夫か!石田ァ!!」
「なんて事だ───美味すぎる!!」
「……えぇ…」
「卵の絶妙な火入れに玉ねぎのシャキシャキ感と甘みのアクセント!そして口に入れた瞬間に暴力的なまでに香る出汁とその出汁を十二分に吸うために少し硬めに炊かれた白米!!
完璧な一杯だ…ッ!」
何故か少し悔しそうにそう言うと黙々と続きを食べ始める雨竜。
一護はツッコミが自分一人に成った事を悟り遠い目をしていた。
「…ッ!コレは…只のお茶じゃない!?」
「当たり前じゃない!虚天宮は藍染様の宮よ?なら…出されるお茶は全て!梅昆布茶に決まってんでしょ!!」
「クッ、カツ丼の香り高い出汁に負けない風味と旨味…
まさか…この漬け物も市販では──」
「ソレは東仙統括官が漬けたのを戴いたわ!」
なんて事だ!と悔し気に箸を握る雨竜を遠くに行ってしまったと悲しそうに見る一護。
「まっ、アタシにかかればこんなもんね!」
「へっ、なら俺はあそこの食べ盛りそうなのを──」
立派なアフロをした破面、ガンテンバインがそう言いながら自慢の一皿の準備をしようとしたその瞬間──
息をするにも苦しい程の圧が全員を呑み込んだ。
「茶番はもうよい──そこを退け、退かぬなら斬る」
山本元柳斎重國はそう言うと弛みに弛んだ場の空気を一気に張り詰めさせる。
……雨竜が未だに食事中ではあったが。
「はぁ?アンタ馬鹿でしょ…アタシらは藍染様からアンタらを饗すように言われてんのよ?
なら…アンタを通すワケ無いでしょ。」
チルッチはそう言うと元柳斎の前に立ち塞がる。
誰の目から見てもその実力差は瞭然であるにも関わらずなんの迷いも無しに凛然と立つチルッチに元柳斎は眉を顰めて問い掛ける。
「無意味な、退け破面。貴様では数秒と保たん」
「なら死ぬ気で数秒稼ぐわ。
藍染様の命令を果たせないぐらいなら死んででもアンタに噛み付いて一秒でも時間を稼いだ方がマシ。」
最強の死神を前に一歩も引かぬその様に目を閉じ静かに頷くと元柳斎は斬魄刀を振り上げる。
「成程、忠道見事…その意気に免じて一刀にて屠ろう。」
そう言うと目にも留まらぬ速度で斬魄刀を振り下ろ───
「おわぁ!!待った待った待ったァァァ!!」
「この爺さん滅茶苦茶気が早ぇ!!」
「もう更年期でボケてんじゃないの?正体みたりって感じだな」
「ソイポォォォン俺だァァァ!!結婚してくれェェ!!」
『隊長格って集まると此処まで凄いのか…』
「いざこうやって揃ってるの見ると壮観ジャン」
──す前に駆けて来た子供の姿をした破面に止められた。
「なんだ、あの破面達は…?」
元柳斎にしがみついたかと思えばカメラを持ってこちらに走ってくる者が居たり、そのカメラ持ちを羽交い締めにする者が居たり、叫びながら駆けて来る者が居たり、やっぱりソレを羽交い締めにする者が居たりとまるで統一感のない集団であった。
「お前らさぁ!!ちょっとは自制心とか無いのぉ!?」
「自制心で
「ソイポォォォン!!」
「巫山戯過ぎにも限度有り、しかしその執念誉れ高い」
『僕らが頑張らないとバッドエンド直行とか…魂消たなぁ…』
ギャーギャー騒ぐ破面達の中から一人の破面が元柳斎の前に歩み出る。
「悪いけど、この人達を斬る前に聞いて欲しい事が有るんだよ。
貴方の実力なら俺らを斬るぐらい簡単ジャン?別に罠でも無し…ちょっと聞いてくれるかい?」
「……良かろう」
その破面の言葉に偽り無しと判断したか元柳斎は静かに頷いた。
「藍染惣右介は今、瀞霊廷に攻め入ってるわけじゃない。
アイツが攻め入ったのは─
ユーハバッハが率いる滅却師の軍団って言えば貴方なら分かるかな。」
元柳斎はその言葉に目を見開くとすぐさま叫ぶ。
「護廷十三隊総員!帰還せよ!!」
叫ぶやいなや駆け出そうとする元柳斎に破面は続ける。
「許してやってよ…誰も巻き込まない為にあの馬鹿なりに考えたんだからさ。」
「阿呆!……巻き込むよりも前に頼るぐらいせんか、惣右介!」
怒りながらもハッキリとした安堵が見てとれるその目に破面は笑って呟いた。
「ホント仲良さそうで……イイジャン」