Legend of Champion 拳の軌跡   作:ひげ根

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 拳の軌跡(こぶしと読んで下さい)

 あのネタ入れたらちょっとだけ面白いかも? と思ったので、本当にちょびっとだけ入れてみました。

 なので、基本的には完全オリ主の小説だと思って読んでください。

 ちなみにリョウの見た目は出っ歯眼鏡ではありません。



序章・FC編
第一話 バカンスの消失


「シッ、シッ、フッ!」

 

『ドン!!』

『ドカン!!』

『ズバンッ!!!!』

 

「ハァ……どうして俺がこんな事しなきゃならないんだ?」

 

 リベール王国とカルバード共和国との国境付近。

 とある青年が魔獣を()()()()圧倒しつつ、一人愚痴を溢していた。

 青年の名前はリョウ・スメラギ。カルバード共和国出身の、共和国総支部所属の正遊撃士である。

 彼は今、とある依頼を受けて遠路はるばる共和国からリベールへと向かっている最中であった。

 その依頼とは。

 

「リベールにだけ生息する伝説のカブトムシを捕まえてほしいって……遊撃士協会じゃなくてペットショップに依頼しろよ。もしくはリベールの遊撃士に依頼すればいいじゃん。なんでわざわざ自国の! しかも遊撃士に頼むんだよ!!」

 

 彼が受けた依頼。それは、リベール王国にのみ生息する伝説のカブトムシ。もとい、伝説のアノ虫の捕獲であった。

 

「依頼中に怪我しちまったってのは同情するけどさぁ。それでも他に頼めそうな奴は居なかったのかよ!」

 

 付近に誰も居ない事を良いことに、リョウは顔も知らない依頼主。つまり、この依頼を本来受け持っていた相手に対して愚痴をこぼした。

 だがそれも無理はない。本来であればリョウはこんな魔獣ひしめく国境付近ではなく、魔獣など一匹も存在しない安心安全なリゾート地で、のんびりとバカンスを満喫しているはずだったのだ。

 

 事の起こりは三日前、とある遊撃士が魔獣退治の依頼中に不幸にも怪我をした所から始まった。 

 

 その遊撃士は共和国のバーゼル支部所属の遊撃士で、この虫採りの依頼以外にも複数の依頼を受け持っていたのだが、 一番最初に赴いた魔獣退治の依頼で現地に向かっていた最中、信号を無視した車にはねられて、全治半年の大怪我を負ってしまったのだ。

 奇跡的に一命は取り留めたものの、当然ながらこの状態では依頼を受けることはできない。

 そこで白羽の矢が立ったのが、暇を持て余していた(旅行の身支度をしていた)この男だった。

 

「人生で初めて確保できた長期休暇を返上して、一人寂しく虫取りの旅…………畜生ォォォォ!!」

 

 何故バーゼルの遊撃士の尻拭いを、首都の遊撃士がやらなければいけなくなったのか。その理由はいくつかあるのだが、一番の理由は、長期の依頼を緊急で受け持つことのできる遊撃士が、彼しかいなかったのだ。

 

 例の遊撃士が車にはねられた数時間後。リョウは自分が受け持っていた依頼を全て片付け、その後の予定が何も決まっていない状態であった。(無論それはお金を貯めてバカンスを満喫するためのスケジュールだったのだが)

 そんな幸運不幸な状態であったリョウは、人生初のバカンスを目一杯楽しもうと、貯まっていた貯金をウキウキと切り崩し、正遊撃士になってから初めての本格的な長期休暇に入ろうとしていた矢先、総支部の受付をしているヘイゼルによって、奈落の底へと叩き落される事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「リョウ。ちょっといいかな?」

 

「どうしたんですか? ヘイゼルさん。そんな渋い顔をして」

 

 総支部受付のヘイゼルから話を聞いていた当時のリョウの表情は、それはそれは澄んだ青空の如く清々しいものだったという。

 だが、ヘイゼルの一言により、彼は最高のバカンス気分から地獄の一丁目へと滑落していくことになる。

 

「実はね…………君に名指しの緊急依頼が届いたんだよ」

 

「そうですか、それはそれは結構ですゥぇぇえ!?!?」

 

「場所はリベール王国。そこにしか居ない伝説のカブトムシを捕獲してほしいとの事だ。申し訳ないが、緊急事態のため今すぐリベールへ行ってほしい」

 

「…………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 というわけで、リョウは休暇を返上して、不幸にも緊急任務へと挑むことになってしまったのだ。

 

(ちなみに、例の遊撃士を跳ねた車を運転していた男は、真っ昼間にも関わらず、大量の酒を飲んだ状態で運転していた事が発覚し、即逮捕された)

 

「“外国に行くんだから半分休暇みたいなものだよ”ってそんなわけねぇじゃん! そもそも伝説のカブトムシって一体どんな見た目してんだよ! 事前情報が無ぇから全然わかんねぇよ!!」

 

 ヘイゼルから話を聞かされ、半強制的に依頼を受けることになってしまった彼は、事前情報もなにもないままリベールへと来る羽目になり。事前に調べる余裕すら与えられなかったのだ。

 

(はぁ……泣きたい……グスン)

 

 ここまでの道中、怒りを飛び越して何度も涙が込み上げてきたリョウだったが、ウジウジしていても何も始まらない。

 

「まぁ、今回は諦めるしかないよな。うん! 何事も切り替えが肝心だ!」

 

 リョウはそう独り言を呟いた後、懐から煙草の箱を取り出した。

 

(コイツも残り半分か……後で買っておかないと)

 

 そんな事を思いながら、リョウは箱の中から煙草を一本取り出し、口に咥えた。

 

『チッボッ!』スゥッ…『ジリチリッ』……ハァー……」

 

 リョウは煙草の箱とは別に、ポケットから小さなマッチの箱を取り出し、それを使って煙草に火をつけた。

 他の遊撃士仲間からは“マッチじゃなくてライターの方が楽だぞ?”とよく言われるが、リョウはマッチを愛用している。

 マッチの火薬をヤスリで削る感覚が好きなのだ。

 リョウは、煙草の紫煙を軽く口の中に含めて転がすように味わうと、鼻と口の両方から煙を吐き出した。煙を肺に入れないのが彼のこだわりだ。

 昂ぶっていた感情が徐々に落ち着いてくる。

 

(正直気は乗らないけど、やるしかないよな。これも自分で選んだ道だ)

 

 彼は多少面倒臭がりな所があるが、基本的に受け持った依頼は必ず受ける性分だった。

 理由はただ一つ。困っている人がいるからだ。

 

 ()()()()()()()()()()

 

 それがリョウ・スメラギという遊撃士の掲げる、絶対的ルールであった。

 

 リョウは吸い終わった煙草の吸い殻を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、改めてリベールへと足を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「うん、通っていいよ」

 

「ありがとうございます」

 

 入国手続きが完了し、リョウは無事にリベール王国へと入国した。

 

「ようこそリベール王国へ! 失礼だけど、何しに来たんだい?」

 

 受付を担当していた門番が、そこそこフレンドリーな感じでリベールへ来た理由をリョウへ尋ねた。

 

 傍から見ればプライバシーの侵害に見えなくもないが、一応不審な人物なのか確認する為に行っている行為だ。

 長い時間受付に立っているだけの彼からすれば、そこで多少なりとも会話が成立すれば軽い気分転換にもなるし、実際に危険な人物と判断できれば、然るべき対応を取るだけであるため、この門番は旅人に対して積極的に話し掛けるようにしていた。

 ……というもっともらしい理由を付けてはいるが、入国早々自分の悪事を話す人物などまず居ない。普通に暇なだけだ。

 

「虫取りです」

 

「なるほど虫t……え? 虫取り!?」

 

「リベールにだけ生息する伝説のカブトムシを捕まえに来たんです」

 

「そ、そうなんだ……が、頑張ってね?」

 

 短い雑談を終えて街道へと去っていく後ろ姿を見つめる門番。

 

「虫取り……ね」

 

 その後ろ姿を見つめながら、彼は小さな声でポツリとそう呟いた。

 長年門番をやっていれば、当然いろんな人と接触する。その中には勿論リョウと同じように、リベールにのみ生息する虫を取りにやって来た者もいる。

 だが、彼はリョウが虫取りに来た事に対して、多少なりとも疑問を抱かざるを得なかった。

 

「網も籠も持たずに堂々と言われてもねぇ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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   リョウは虫取りをしたことが無かった。

 

 

 

 

 

 

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「まずは情報を集めないとな。えっと……取り敢えず虫なんだから森とか林とか、木が沢山ある場所を捜せばいいんだよな? いや、その前にどんな虫なのか、せめて形状だけでも分からないと始まらないな……うん。とにかく片っ端から調査するしかないか」

 

 根っからの都会っ子であるリョウは、これまでの人生で一度も虫取りなどしたことが無く、どのように捕まえれば良いのか全く分からなかった。

 虫籠や虫取り網といった道具すら持ってきていないのだ。

 

「誰かに聞けば……いや、普通の人に聞いてもあまり意味が無いだろうから、専門的な知識を持ってる人に聞かなきゃ駄目だろうな。とすると、学校の先生か博物館や図書館の人に聞けばいいか?」

 

 だが腐っても彼は正遊撃士。虫取りのノウハウは無くとも、これまで培ってきた遊撃士としての経験を活かし、どのような手順で依頼を達成していくのか道筋を立てるのだった。

 

「よし! まずは街に行って、それに詳しい人を探そう。それで見つからなかったら博物館とか図書館とか、詳しく調べられそうな場所で探すしかないか」

 

 リョウは共和国で購入したリベール王国の地図を片手に、ここから一番近い街を目指して歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 共和国から街道を歩いてリベールへと入国したリョウは、地図を頼りに共和国との国境から最も近い場所に存在する、とある村へと足を進めていた。

 本来であればもう少し大きな街へと向かうべきなのだろうが、こういった小さな行い(寄り道)が依頼達成に至る場合もある。

 そんな事を考えながらも、リョウは目的の村へと進んでいく。

 

「おっ、着いたみたいだな。んん? ここは……ま、まさか!?」

 

 村に無事到着したリョウは、そのままふらりと村の中へと入ろうとした。しかし、その瞬間リョウの眼の前には予想外のものが入ってきたのだった。

 

 モクモクと空へと伸びる白煙。鼻を突き刺すような硫黄の香り。

 リョウは急ぎ足で村の入口付近へとたどり着くと、そこには。

 

『温泉郷・エルモ村』

 

 そう書かれた大きな看板が、村の入口に立てられていた。

 

「お、温泉!?」

 

 そう。ここはリベールで唯一温泉のある村として、国内外から観光客が集まってくる、小さくとも立派な観光地なのだ。

 リョウは観光としてリベールに訪れた訳では無かった為、地図は購入してもガイドブックは購入していなかった。

 彼はこの村が温泉郷だという事を知らなかったのだ。

 

「……立ち寄らない理由は無いな」

 

 そして彼は()()()()()()()()()()()

 

 共和国にも龍来(ロンライ)という名前の温泉郷がある。共和国の最東端に位置するその温泉郷は、リョウのように首都に住む人々にとってはそう何度も行ける場所ではないが、リョウは仕事や用事で何度か龍来を訪れており、その際には必ず温泉に入っていた。

 

「この匂い、懐かしいな。最後に龍来に行ったのは3年前だっけ……まさかこんな所で温泉に入るなんて思いもしなかったな」

 

 村の入口に立っているだけでも、硫黄の匂いを感じ取れる。

 良質な湯が出ている証拠だった。

 

 村に入るとそこには数は少ないものの、様々な売店が建ち並んでいた。どうやら観光地としてそれなりに賑わっているようだ。

 売っているものは饅頭や温泉卵といった、龍来でもよく見かける土産が置いてある。

 その奥。村の中心部分には小さなスペースがあり、そこにはポンプで汲み上げられた源泉が大量に貯められていた。

 白い湯気が多く出ているところを見ると、水温が高い源泉なのだろう。

 

「やっぱり温泉と言ったら温泉卵だよな。さっそく……いや、今は()()()()()(←緊急依頼とは?)。温泉卵はその後だな」

 

 そう言うとリョウは軽々とした足取りで、跳ねるように村の奥にある温泉宿へと駆け込んだ。

 本来であれば虫の情報を聞き出すことが先なのだが、今のリョウの頭の中は温泉に支配されていた。

 

「いらっしゃい」

 

 建物の中に入ると、一人の老婆が出迎えてくれた。ふくよかな体格をしているが、背は低く、年齢は60後半といったところだろうか。可愛らしいお婆ちゃんという印象だ。

 

「えっと、ここって温泉ですよね? 自分リベールに来るのは初めてなんですけど」

 

「そうさ、ここは間違いなく温泉だよ。この場所は共和国に近いからね。皆この温泉で旅の疲れを癒やすのさ。あんたは共和国から来たのかい?」

 

「ええ、自分は共和国の遊撃士なんです。リベールには仕事で来ました」

 

「そうかい。若いのに随分と立派だね!」

 

「ハハ……そうでもないですよ」

 

 リョウは乾いた返事をしながら後頭部に手を置いた。

 

(立派呼ばわりされてもなぁ……正直反応に困る)

 

「それでどうする? 温泉入ってくかい?」

 

 やる気のない依頼を強制的に受けさせられて嫌々外国に来ただけなのに、立派と呼ばれて少し困っていると、老婆から温泉に入るのか問われた。

 カブトムシの情報を集めるのも重要なことではあるが、とにかく温泉に入りたかった彼は、その言葉に甘えることにした。

 

「そうですね……料金はいくらになりますか?」

 

「料金は休憩が200ミラ、宿泊が1000ミラだね。休憩は一回しか入浴出来ないけど、泊まるなら何度でも入れるよ。」

 

「それじゃあ休憩でお願いします」

 

(元は長期依頼って聞いたけど、今回は緊急の依頼だからな。なるべく早く達成した方が良いだろうし、ここは休憩だけにしておこう)

 

 この時のリョウはまだ知らなかった。

 緊急で受け持つこととなったこの依頼が、非常に高難易度な依頼だということを。

 

「まいど! ゆっくり寛いできな」

 

 しかし、すでに温泉のことで頭がいっぱいになってしまったリョウは、老婆の声を後にして早速温泉へと浸かりに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「フゥ〜〜…………やっぱり温泉はいいよなぁ…………」

 

 リョウは肩まで温泉に浸かりながら、ゆったりと旅の疲れを癒やしていた。

 

 お湯の温度は42度くらいだろうか。長旅で疲れたリョウの体をじんわりと温めてくれる。

 

「そういえば、この依頼って期限はいつまでなんだろう? ヘイゼルさんからは、“緊急の依頼だけど元は長期の依頼だからそんなに急がなくていい”って言われたけど……2週間くらいか?」

 

 リョウはそれまでの経験から、平均的な長期依頼の日数を推測してそう結論付けたが、実はこの依頼。2ヶ月ほどの期限が設けられている、それなりに時間のかかる依頼であった。

 当然ながらこの長い期間には理由がある。

 

 このカブトムシ。捕獲が非常に困難で、昆虫採集の達人であっても数年に一度捕まえられるかどうかというレベルなのだ。それ故、本来はベテランの昆虫採集能力を持った人物が受け持つ事が常なのだが、今回そのベテランは戦線を離脱してしまった。しかも、今回に限って離脱した遊撃士と同等の昆虫採集能力を持つ遊撃士は、既に他の依頼や仕事等に付いており、手が空いている者は一人として居なかったのだ。

 

 たとえ2ヶ月という長期間の依頼であっても、それは難易度の関係上設定された時間であり、代わりの者を探している時間は殆ど無いに等しかった。

 

 選択の余地は無かった。

 

 数ヶ月もの期間を有する依頼を担当でき、断る事無く受け持ってくれる人物で、なおかつ確実に依頼を達成してくれるであろう、有能な遊撃士。

 

 たとえ昆虫採集の能力等がなくとも、彼ならば何とかしてくれるだろう。と、考えさせてしまう存在感…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僅か21歳という驚愕の若さで、A級遊撃士へと上り詰めた人物。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “怪物”という二つ名を与えられた、唯一無二の超天才。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リョウ・スメラギという、共和国建国史上、最強の遊撃士に…………………………

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