Legend of Champion 拳の軌跡   作:ひげ根

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第十話 二人っきりで秘密の特訓? を始めるみたいですよ

 

 リョウとデュバリィが出会ってから、早くも一週間が経過した。

 傷が多少癒えた二人は、何故か()()()()()()()()()()()()

 

 「いい湯……ですね」

 

 「そうですわね……」

 

 なぜ二人が一緒に入っているのか。その理由は昨日の夜にリョウがデュバリィに対して言い出したとある一言から始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「デュバリィさん。折角ですから、一緒に修行しませんか?」

 

 自称共和国出身のアマ拳闘士(ボクサー)、リョウ・スメラギがその提案を彼女にしてきたのは、彼が温泉の特効についてデュバリィに説明をした翌日のことであった。

 

 「なんですの? 急に」

 

 「いや、お互いに怪我も癒えましたし、そろそろ修行に入らないかなぁと思いまして」

 

 「そうですわね……って、どうして貴方と一緒に修行をしなきゃいけないんですの!?」

 

 リョウの提案はデュバリィに即刻却下された。

 

 「貴方と修行をする理由なんて、これっぽっちもありませんわ!」

 

 彼女はそう言いながら、人差し指と親指で紙一枚程の厚さの隙間をリョウに見せつけてくる。

 だが、今日のリョウは昨日のスノボーの時とは異なり、簡単に引くことはなかった。

 

 「そうですか? どうしても嫌ならいいですけど……でも僕と一緒に修行をしたほうが、デュバリィさんにとっても色々とプラスになると思うんですよね」

 

 「…………」

 

 「先日戦ったときに思ったんですけど……デュバリィさん。貴女、スピードに特化した練習ばかりやっていますね?」

 

 (っ!? この男、たった一度戦っただけで私の練習法を見抜いたのですか!?)

 

 リョウは、戦いの中や日常生活の中でも、危険を回避する能力に長けているのだが、それはつまり()()()()()()()()()()()という事である。

 自分以外の者の行動が、どういった影響を自分に与えてくるのか、対象を観察して安全圏へと逃れる。

 その能力は()()()()()()()相手のクセであったり特徴を見抜くことも出来る。

 無意識の状態では“何となく嫌な場所”として認識する程度だが、強く意識して使えば相手の()()()知り尽くす事も可能なのだ。

 

 だが、この能力を持ってしても()()()()()()()()()()()()

 例えば、自分に悪意を持っていない相手の思考を読む事は出来ない。

 彼はテレパシーを扱えるわけではないのだ。

 

 

 「勿論、スピードに特化した修行をするのも悪い事じゃあ無いですけど、それだけでは駄目ですね」

 

 「……一体何をすればいいんですの?」

 

 デュバリィは今まで、基本的に下半身の瞬発力を中心的に鍛えてきた。

 それによって組織の中でもずば抜けたスピードを手に入れることに成功しているのだが、今の彼女には圧倒的に足りていないものがある。

 

 その答えを知るため、デュバリィはリョウに話しかけたのだが…………

 

 「う~ん……でもなぁ、嫌がるデュバリィさんを無理して修行に誘うのも悪いしなぁ〜……どうしよっかなぁ~~ ww」

 

 リョウは明後日の方向を向いて口笛を吹いている。

 

 「このっ……!!」

 

 思わず手を上げようとしたデュバリィだったが、彼には2度負けているということもあり、怒りに身を任せるのではなく我慢することを選択した。

 

 (悔しいですが、彼がわたくしより優れているのは事実……ここは耐えなければっ!!)

 

 デュバリィは顔を赤く染めながらも、リョウに頭を下げるのだった。

 

 「……お願いします……」

 

 しっかりと頭を下げてリョウに懇願する姿は、彼女を知る人間が見れば仰天する事だろう。

 それ程までに()()()()()()()()()()一匹狼だったのだ。

 

 その行動は流石にリョウも予想外だったらしく。

 

 「いや、そんなに畏まらなくたって……いや、ちょっと悪ふざけが過ぎたね。ごめん」

 

 つい誤ってしまった。

 

 「なっ! っ、『プルプル……!』 謝るくらいなら最初から言わないで下さい!! さぁ! 山へ行きますわよ!」

 

 デュバリィはそうリョウに言い残すと、一人でスタスタと屋敷から出て行ってしまった。

 

 「また失敗しちゃったかな? ……まぁ、これで多少は距離を縮めることが出来れば良いんだけど」

 

 彼女と一緒に修行をする。当然ながらこれには理由がある。

 

 彼女にはスピードに関して天賦の才がある。

 それだけを徹底的に鍛えれば、いずれは達人の域にまで達することも可能だろう。

 むしろ、リョウのやろうとしている事は彼女にとってマイナスになる可能性もある。

 

 だが、それだけでは時間もかかるし、力負けする事もあるだろう。

 

 なにより、彼女と仲良くなるという目的がリョウにはあるのだ。

 

 「本当はあまり問題ないんだけど。でも、放っておけないんだよな」(殺人容疑の真相とは別にね)

 

 その真っ直ぐな性格が、やがて彼女を迷わせ、苦しめる可能性があるのならば、彼は彼女に関わろうとするだろう。

 

 「君の事は何もわからないけど……でも、これだけは言える」

 

 「君は、子供の頃の僕と同じ目をしているんだ。真実を知らないで、ただ一人で舞い上がっていた……あの頃の僕に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「はぁ、はぁ……」

 

 「フフッ、もうへばったのかい?」

 

 「まだ……まだですわ……!」

 

 リョウに挑発されたデュバリィは、先日彼と戦ったアイゼンガルド連峰の奥地にやって来ていた。

 そして二人は到着から現在に至るまで、約1時間にも及ぶ筋肉トレーニングを行っていた。

 

 「君は速い。それは間違い無い。だけど君には絶対的に足りないものがある」

 

 「はぁ、はぁ、それが……この修行ですか?」

 

 「そうだ! そして、それを鍛え抜いた時。君の技は数段上がる!」

 

 (本当にこれで強くなれるんですの? ……何だか騙された気分ですわ)

 

 二人が行っている筋肉トレーニング……それは体幹を鍛えるトレーニング。いわゆるプランクだった。

 

 (彼女は速い、技のキレも良い。だけど、連続して強力な攻撃が出せない……必殺技はスピードでカバーしているみたいだけど、それだけだといつか限界が来る。今のうちに体幹を同じくらい鍛えておけば、スピード上昇と共に強力な攻撃を連続して繰り出すことが出来るようになる……あと、腹部の防御力向上にも役立つ)

 

 スピードは年齢と共に落ちていくものだ。人間のピークは長く見積もっても30歳が最高値で、それ以降は緩やかに下がっていくのが通常だ。(中には例外もいるが)それ以降のポテンシャルは、若い時にどれだけ体を鍛え抜いたかで決まっていく。

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 (これ……見た目よりずっとキツいですわ……)

 

 10分のクランプと一分のインターバル。それを10セット……まさに地獄である。

 

 このトレーニングを初めて行うデュバリィは、全身から滝のように汗が流れ出て、地面に汗溜まりができている。

 

 だが、その隣で()()()()()()()()()男がいた。

 

 リョウである。

 

 彼にとってこの程度のトレーニングは、トレーニングのうちに入らない。 子供の頃には一日中クランプをやらされた事もある彼にとっては、この程度は朝飯前なのだ。

 

 「さて、そろそろ時間だけど……どうだい?」

 

 (よ、ようやく終わりですのね……やっと帰れ……いや! この男には負けたくないですわ!!)

 

 「ふ、ふん! この程度……なんでもないですわ!」

 

 正直に言ってデュバリィの体は限界に近かった。

 クランプを初めて一時間。間に一分間のインターバルがあるとはいえ、初心者に、しかも病み上がりの女性に対して行う行動ではない。

 だが、彼女は持ち前の()()()()でそれを乗り切ろうとしているのだ。

 そして、生まれながらの負けず嫌いな性格が、リョウに対する対抗心に火を付けた。彼が汗一つかいていない事も要因の一つだろう。

 

 (初心者ならとっくに限界なんだが……本当に凄い子だ)

 

 「分かった、それならあともう1()0()()()()()()しても構わないな!」

 

 「うえぇぇぇ!!? ちょ、それは流石に……」

 

 「ウソだよ! ……あと一分で終わりにしよう」

 

 (クッ!! この男は本当にっ!! ……いいえ、何だかこの男の事も、少しだけ分かってきた気がしますわね)

 

 その後、約束の一分が経過したのち、リョウとデュバリィはクランプを止めて、インターバルではなくしっかりとした休息をとり始めた。

 

 「さてと……なかなかキツかっただろ?」

 

 「ぜ、全然ですわ! この程度、いつもの修行に比べれば」

 

 「無理すんなって……僕だって最初は10分も出来なかった。デュバリィさんは凄いね」

 

 「ふぇ!?」

 

 「僕がこの特訓を始めたのは9歳の時だけどね。けれど、最初は5分が限界で……全然出来なかったよ」

 

 (…………)

 

 「それから少しづつ出来るようになって……今の状態に持ってこれたのは、正遊撃士になってからだから……3年前かな? 丁度今のデュバリィさんと同じくらいの時だね」

 

 「そうですか……」

 

 それを聞いたデュバリィは、隣に座っている男が自分とは別の次元に居るのだと認識した。

 

 (剣帝や刧炎……マスターと同じ領域にいるのかも知れませんわね……)

 

 遠い、あまりにも遠いその背中に、デュバリィは軽く嫉妬した。

 

 (もし、()()()()()()()()()()()()……そうしたら……)

 

 そうしたらきっと、()()()()()()()()()()()()()()()…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 家族を失って既に4年が経過した。失った当初は毎日のように考え続けていた。

 

 もしも、()()()()()()()()()()()()()。もしも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして……もしも、()()()()()()()()()()()()()()()()()。どれだけ楽なのだろうか……と。

 

 (駄目ですわ……もう、割り切ったと思ったのに……)

 

 家族を失って間もない頃、彼女はそうして一人で考えた後、誰も居ないところでひっそりと涙を流していた。

 そんな生活が一ヶ月程経った頃、彼女は結社に所属し、修行を開始した。

 もう二度と大切な者を失いたくないから。()()()()()()()()()()()()()

 

 その為に彼女は今日まで修行をしてきたのだ。

 マスターの役に立ちたいと思って修行をしたのも嘘偽りない本音だが、それよりももっと深い部分では、彼女は未だに自分自身を赦すことが出来ていないのだ。

 

 「さて、そろそろ帰え」

 

 「グス……ヒック……」

 

 「えっ!? ちょ……! 急にどうしたの!?」

 

 「な、なんでもな……ウウッ……ゥアアアア……!」

 

 失った家族への想い、命を救ってくれたマスターへの想い、そして、自分自身への想い……4年の時を経て積もり積もったその感情が爆発した彼女は、とうとう泣き出してしまった。

 

 「デュバリィさん……」

 

 「ごめんなさい……ヒック……ごめんなさい……ウワァァァァ……」

 

 突然泣き出したデュバリィに、リョウは戸惑い、どうすれば良いのかよく分からなかった。

 

 「何が何だかよく分からないけど……」

 

 『ポン』

 

 「ウゥ……?」

 

 何をすれば正解なのかは分からなかったが、()()()()()()()()()()瞬時に理解した。

 

 「君が何を思って泣いているのかは分からない。けれど……」

 

 かつての自分を思い出しながら。リョウはデュバリィの頭を優しく撫でると、そのまま胸で包み込んだ。

 

 「ウック……〃〃」(暖かい……なんだか、ポカポカしますわ……)

 

 「泣きたいときは、思いっ切り泣いたほうが良いと思うよ?」

 

 「ウゥゥッ……ウワァァァァァァ!!」

 

 二人は、暫くそのまま山の頂上で体を引き寄せあっていた。

 

 山中(さんちゅう)には、デュバリィの泣き声だけが響いていた…………

 





 う〜ん……今回はちょっと、一番上手く書き表せなかった気がします。

 次回はいよいよ(私の)お楽しみの温泉回です。

 ……本当に大丈夫かこの小説……
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