お久しぶりです。
年が明ける前になんとか投稿できました。
注意)今回は六話と七話で語られた内容が含まれています。
読まなくても大きな問題はありませんが、多少ネタバレを含みます。強制はしませんが、リョウの過去編である六話と七話を読んでいただけると、より面白く読めると思います。
翌日、リョウとデュバリィの姿は食堂にあった。四人が座れる程度の大きさのテーブルに、お互いが向かい合うようにして座っている。
リョウはパリッと焼き上がった出来たてのフランスパン数枚にベリーやヨーグルトのジャムを乗せ、お供には
しかし、同じテーブルで食事を取っているのに、二人の間には一切会話が無かった。食事を始めてから既に十五分。二人はずっと無言だった。
食堂では彼らの他にも何人かの宿泊客が朝食をとっていた。そのうちの数人はリョウとデュバリィの様子を見て『昨晩喧嘩したカップル』『男に無理やり迫られた』などと、心にも無い言葉を呟き、馬鹿にする者も居た。が、当の本人たちは特に気にすることなく、黙々と(片方はモリモリと)朝食を食べていた。
「……昨夜は、大変失礼いたしました」
「……」
やがてデュバリィがその沈黙を破る形で一言謝った。
そして彼女は、昨夜の会話でリョウに伝えきれなかった事を話し出した。
「例の遊撃士協会の件ですが、別にそうと決まったわけではありませんわ」
「……モグモグ」
リョウはデュバリィの話を真面目に聞いているのか、それとも完全無視を決め込んでいるのか。ただ黙ったまま、無表情で食事を口に運んでいる。
「昨日貴方にお伝えした内容はあくまでもわたくしの想像です。明確な証拠もありません。あの手紙を読んだ際にわたくしがその様に解釈したに過ぎませんわ」
『ピタッ』「…………パクパク……モグモグ…………」
しかし、昨日の発言が“自分の想像”だと言うデュバリィの発言を聞いた瞬間、リョウの動きが一瞬だけピタリと止まった。
暫くして一口、二口とパンを口に運んだ後、リョウは食べかけのパンを皿の上に戻すと、少しだけ悲しそうな表情で、顔を下に向けた。
「…………」
(リョウ?)
リョウはその状態で黙り込んで暫く動かなかったが、一分ほど経過した辺だろうか、小さく口を開けながら絞り出すような感じでボソボソと話し始めた。
「……以前から」
「はい?」
「以前から、遅かれ早かれ協会には嫌われるだろうとは思っていたんだ」
「…………」
リョウはコーヒーを一口啜り、自分の右手側にある窓ガラスへと顔を向けた。空は雲一つない快晴で、小鳥が数匹舞っていた。
リベールはゼムリア大陸でも南方に位置する国家だ。帝国北部のユミルと違い十一月でも比較的温暖な気候で、雪もあまり降らない。
そんな暖かい日差しが、彼の顔を明るく染めた。
「昔、僕の親族がちょっと大きな事件を犯しちゃってね……多分それがバレたんだと思う」
「……」
リョウは、その状態のままデュバリィに視線を合わせず、ボソボソと小さい声で話し続けた。
そんな中、デュバリィは親族に犯罪者がいた際の遊撃士協会の対応というものが、どのようなものになるのか彼女なりに考えていた。
(親族に犯罪者がいる……その程度のことで印象を悪く持つなど遊撃士協会はしないと思いますが……まぁ、事件の内容にもよるでしょうが)
例えば、連続殺人事件の犯人や長年強盗を続けている盗人が親族にいる場合、遊撃士にはなれない可能性がある。地域の平和と民間人の保護を目的とする遊撃士にとって、親族に犯罪者が居る者に遊撃士の資格を与えると、世間からの風当りが強くなるからだ。
だが、リョウは遊撃士として活動している。上記の事は彼には当てはまらないだろう。しかも彼はA級だ。
A級ともなれば、当然昇級の際に行われるだろう調査は非常に厳しいものとなる。
そして彼は現にそれをクリアしたから、その地位にいる訳だ。
今更彼の言う理由だけが原因とは、デュバリィは考えづらかった。
(まだ何か隠しているのか、それとも彼も知らない大きな理由があるのか。ですが、今彼から事情を聞き出すのはちょっと心が咎めますわ)
デュバリィの脳裏には、昨夜の彼の表情が深くこびりついている。
この件に関して深く聞き出すのは、彼にとっても非常に心苦しい事だろう。
でなければ、あそこまで苦しそうな表情はしない。
だが、果してそれで良いのだろうか?
(リョウはわたくしの身の上話を黙って聞いて下さりました。ですが、わたくしは逆に彼の過去に関して何も知らない。不公平ではありますが……)
デュバリィはその問答を何度も自分の頭の中で繰り返した。
向こうは知っているのに自分が知らないのは不公平。だが、無理に聞き出そうとしても彼を深く傷つけるだろう。
結局彼女は自問自答するだけで、キチンと答えを出せなかった。
そんなデュバリィを他所に、リョウは食事を再開していた。
一口サイズに手でちぎったパンを口に運び、苦いトマトスープで胃に流し込んでいる。
(駄目ですわ。どうしても昨夜見たリョウの顔が頭に浮かんでしまいます。私は一体どうすれば……)
勝手に自分の中で答えを出せないデュバリィ。
このままズルズルと時間だけが過ぎ去り、食事が終わってしまうのだろうか。
そう彼女が思った矢先だった。
「別に、話しても構わないよ?」
「……えっ?」
リョウは食事をしていた手を止め、デュバリィの方へと顔を向けた。
「僕の過去の話……気になって仕方ないんでしょ?」
相当顔に出ていたのだろうか。予想外にも、リョウの方から自分の過去の事を話すと言われてしまったのだ。
「……はい」
(また私は……ダメですわね……)
ユミルの時同様、結局自分から言い出す事が出来なかったデュバリィは、そんな自分に対して嫌な感情を抱きつつも、リョウの過去に何があったのか、彼の話に耳を傾けるのだった。
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「事件を起こしたのは僕の父親さ……義理のね」
「義理の父上ですか」
「ああ。僕は実の父親について何も知らない。顔も覚えてない。母親も同様にね」
「……」
「今から六年前、僕は遊撃士になるかプロになるかで迷っていた。最初はプロになるつもりだったんだ……あの事件が発覚するまではね」
「……その事件とは何ですの?」
「賭博だよ」
「賭博……? ギャンブルですか?」
「勿論ただの賭博じゃない。僕の父は……僕の試合を使って大量のミラを掻き集めていたんだ」
「それは……」
「プロだったら問題なかったんだけどね……流石にアマチュアでやるのはマズい」
リョウはそこで一旦話を切ると、当時の事を懐かしむように話し出した。
「もう十五年も前の事さ。僕はある日、父と一緒に買物に出かけたんだけど、そこで偶然にも
「十五年前と言いますと……リョウは何歳の時に拳闘術を?」
「拳闘術を始めたのは七歳の時だね。今は二十二で、来年の四月で二十三になる」
「そんな幼い頃から……納得ですわ」
リョウは七歳から拳闘術を始め、自分は十四歳から剣術を始めた。
力量に差があるのも納得だ。
「僕はそれまで習い事とかには興味が無かったんだけど、初めて見た拳闘術に見惚れちゃって。父に我儘を言って通わしてもらって。それから毎日拳闘術の特訓を続けて。道場の人達も驚くほど速いスピードで上達して……」
自分の過去について語りだしたリョウはデュバリィの方へ顔を向ける事は無かったが、その目はキラキラと輝いていた。
「父は僕に拳闘術の才能があると分かった途端、どんどん僕に話しかけてくれるようになってね。正直な話……凄く嬉しかったんだ。それまでの父は結構冷たかったから……本人から直接言われた事は無かったけど、“余計なもん拾っちまった”って感情は、幼いながらも感じ取っていたからね」
リョウの頰が薄っすらと笑みを浮かべている。その時の事は、彼にとって本当に嬉しい出来事だったのだろう。
「初めて出場した首都の大会で優勝した日。僕は初めて父に頭を撫でてもらったんだ。あの瞬間は本当に嬉しかった……でも、そこまでだった」
突然、リョウの顔から笑みが消えた。
そして、リョウは自分の父が犯していた罪を話し始めた。
「二度目の大会はアルタイル市で行われた。父は
「……」
「その大会以降、父は複数回に渡って
「……」
「僕が事の真相に気が付いたのは、家に突然警察が押し寄せて来た時だった。警察から手錠を掛けられた父は最後までニヤけ顔で叫んでいたよ……
「でも、リョウはその事に関して何も知らなかったのでしょう? 当然被害者ということになるのでは?」
「うん。僕は確かに警察から被害者として片付けられた。だけど、流石に無理があると自分でも思うんだ」
「無理……とは?」
リョウは残っていたコーヒーを一気に飲み干すと、デュバリィと目線を合わせず、無表情で下を向きながら最後にこう締め括った。
「十歳から十六歳までの六年間、その間出場した大会の数は大小含めて二十は超える……最初の一回は省いてもその他の大会は違法なミラが何万と賭けられていた。それを渦中の真っ只中に居続けた人間が
「……」
ここで一つ、ゼムリア大陸における拳闘術の賭博について説明しておこう。
まず前提として、拳闘術では賭博が
二人の選手が拳をぶつけ合って戦う競技である以上、勝敗の予測を立てて金銭を賭ける行為が発生するのは、寧ろ当然の事だといえる。実際プロの世界戦ともなれば一人で数十万、数百万ものミラを賭ける者も居る。
だが、それはプロに限った話だ。
アマチュアはお金の為では無く
純粋にその競技やスポーツを楽しむ為に行うのがアマチュアであり、金銭を少しでも受け取ってしまったら、それはもう名誉のためにスポーツをするのでは無く、お金の為にスポーツをする事に変わってしまう。
どんな理由があったとしても、アマチュアは一ミラたりとも受け取ってはならないし、利益を発生させる事も出来ないのだ。大会で優勝しても賞金が発生することは一切ない。
「と、まぁそういうことがあったんだよ。僕は眼の前で行われていた犯罪行為に気付かず、六年も犯罪に加担し続けた男なのさ。高い才能と実力があっても、一番身近な所で起きていた犯罪に気が付かない奴を、協会が簡単に信用してくれると思う?」
「……」
「A級にはなれたけど、今頃本部じゃ僕の処遇に対して議論が進んでるんじゃないかな? 降格か追放か、最悪除籍って可能性もありうるかもね」
「それは……流石に考え過ぎだと思いますが」
「どうかな……」
リョウはあまりデュバリィの慰め言葉を真に受けている様子ではなかった。彼としても、協会本部に自分の事をよく思わない者が居るのだろうという事は、常に頭の片隅にあり続けたのだろう。
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「さてと……食事も終わった事だし、僕は食器を片付けてくるよ。デュバリィさんはこの後なにか予定でも?」
リョウは食器を重ねて両手で持ちながら席を立ち、デュバリィに対してこの後の予定について確認した。
「いえ、特に予定はありませんわ。リョウがここに来る三日間も、精々腕が鈍らないよう街道で魔獣を狩っていただけですし」
この三日間、デュバリィは街道から少し離れた場所で、一人魔獣と戦う日々を過ごしていた。
己を高める為に魔獣を狩る。という建前を掲げてはいるが、本心は当然別だ。
(本当は貴方に対するイライラを解消していただけですけど)
自分より先に出立しておきながら、後から来た者が先に現地に到着するなど、普通に考えれば有り得ない話だ。
(ですがその事はもう解決致しましたし、これ以上考えても無駄ですわね……非常識な事ではありましたが)
非常識。そう、非常識である。一体何をどう考えれば、自転車でゼムリア大陸を移動しようなどと考え付くのだろうか?
導力革命以前ならいざ知れず、現代においてそんな事をする人など普通は居ない。
(男の道楽というものでしょうか? 全く理解出来ませんわ)
デュバリィには到底理解出来ない世界であった。
そして、そんな風に自分が評価されている事を微塵も感じ取っていないリョウは、せっせと自分とデュバリィの食器を重ねていた。
そしてリョウも、デュバリィに対してある意味理解出来ない、非常識な現実に目を向けていた。
(あの量のパスタとサラダが……消えている?)
ここへ来たときにデュバリィが取ってきた大量のパスタとサラダが、お皿の上から綺麗さっぱりと消え去っていたのだ。
(う、嘘だろ? ……目算で二十リジュは積み上がってたんだぞ!?)
最初、彼女がこの席に座ったとき、皿に載っていた料理は彼女の胸元まであったのだ。
自分が話に夢中になっていた時、一体どれ程のスピードで料理が彼女の胃袋に吸い込まれていったのだろうか。
今となってはそれを確かめる術はない。
(た、確か粥を渡したときも一瞬で消えた様な……ひ、非常識過ぎる食欲だ……!)
「? 何か?」
「あっ、いや、何でもないよ! うん」
自分の世界に没頭して、彼女の食事風景を見ていなかった自分に少し後悔しながらも、リョウは彼女の食欲に関して無理に突っ込む事はせず、そのまま食器を手にして立ち上がった。
(ま、まぁ、食事に関しては一旦置いとくとして……うん。やっぱり誘ったほうが良いよな?)
椅子から立ち上がったリョウは、食器を片付ける前に、彼女に対してとある願い事を頼んできた。
「デュバリィさん、一つお願い事があるのですが」
「何ですの」
「僕はこの街に来たことが無いし、出来れば街や街道の案内をしてくれると有り難いんだけど……ダメかな?」
リョウのお願い。それはこの街を一緒に散策する事だった。
リョウ程の実力があれば、別に一緒に散策しなくても一切問題は無いのだが、彼は
彼女は自分が危機に陥っていると理解し、颯爽とユミルから駆け付けてくれた。
それなのに、勝手に彼女と別れて一人プラプラと旅する訳にはいかないだろう。
側にいれば、少なくとも彼女は安心してくれるはず。リョウはそう思いつつ、このような提案を出したのだが……勿論それは表向きの理由だ。
真の理由は別にある。
純粋に嬉しかったのだ。彼女が駆け付けてくれた事が。
「ええ、その程度であれば問題ありませんわ」
そしてデュバリィは、そんなリョウの願いを快く? 受けいれてくれた。
「よかった……それじゃあ、僕は一足先にホテルの入口前で待ってるから。またね」
リョウはそう言い残すと、スタスタと食堂から退出して行った。
そしてデュバリィは彼の後ろ姿を見ながら、リョウとはまた違った感情を抱いていた。
(結社の者と一緒に街を歩く事はありましたが、この様な形で誘われたのは初めてですわね。これはもしや……デ、デートのお誘いですの!?)
残念ながら、リョウとしてはそんな気は一切ないのだが、デュバリィはリョウからのお誘いが、世間一般的にいうデートに含まれるのではないのか? と一瞬考えてしまった。
しかし、デュバリィはそんな自分の考えを、結局は一刀両断で切り捨てた。
(いえ、多分違いますわ……彼はあくまでもこの街を知るために私を頼ったに過ぎません。取り敢えず、急いで支度をしなければいけませんわね)
所詮リョウとは出会ってまだ間もない
(そう、私と彼は敵同士。遊撃士と結社は犬猿の仲です。こうしてメンバーに内緒で彼と接触している事こそ危険な行為ですし……第一、私にはマスターという偉大な御方がいらっしゃいますわ!)
そう結論づけたデュバリィは
しかし、食堂から去っていくその後ろ姿は、どこか嬉しそうな雰囲気であった。
どうも、ひげ根です。
なんとか年を越す前に一話投稿出来たので、少し落ち着いています。
本音を言えばもう一話くらい投稿したいのですが、流石にそれは難しそうですかね。
ではまた次回。
おまけ・行方不明になった料理たち
「二度目の大会はアルタイル市で行われた。父は
「……」『ガツガツ! ムシャムシャ!』
「その大会以降、父は複数回に渡って
「……」『バクバク! ゴクッゴクッ!』
「と、まぁそういうことがあったんだよ。僕は眼の前で行われていた犯罪行為に気付かず、六年も犯罪に加担し続けた男なのさ。高い才能と実力があっても、一番身近な所で起きていた犯罪に気が付かない奴を、協会が簡単に信用してくれると思う?」
「……」『……ップ』
拳で抵抗する男という設定。増やしてほしい? 減らしてほしい?
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もっと多く!
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今のままで良いよ
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減らして欲しい。
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消して欲しい。