Legend of Champion 拳の軌跡   作:ひげ根

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第二話 どうやら伝説のアノ虫は捕獲するのがメッチャ難しいみたいです

 温泉で十分くつろいだリョウは温泉から出た後。温泉卵を片手に持ちながら、先程の老婆に例のカブトムシに関して何か知っていないか確認していた。

 

 「えっ? リベールにだけ生息するカブトムシ?」

 

 「はい。実は、それが今回自分が受けた依頼でして……何かご存知ないでしょうか?」

 

 「さぁねぇ……私も虫採りをしてたのはずっと子供の頃の話だし、リベールに来てからは当然一度も無いからねぇ」

 

 老婆は腕を組みながら昔の記憶を辿っているが、どうやら知らないようだ。

 無論、リョウもいきなり情報が手に入るなどとは思ってはいない。虫取りの依頼など今まで受け持ったことが無いリョウは、地道な調査になることをそれなりに覚悟していた。

 

 当然ここ以外の場所でも情報を探すつもりだ。

 だが、情報とは意外な所に転がっているものだ。

 

 「そうですか。では、誰か知ってそうな人物とかはいませんか?」

 

 意外な所……そう。例えば虫そのものは知らなくとも、虫の情報を知っていそうな“人物”という情報であれば、この人も知っているかもしれない。

 質問の仕方を少し変えるだけで手に入る事もある。

 

 「う〜〜ん……そうだ! あの娘なら知ってるかも知れないね!」

 

 (ビンゴだな)

 

 リョウの思惑通り、老婆は思い当たる節があったのだろうか。一人の少女について話し始めた。

 

 「あの娘?」

 

 「この村を出て街道沿いに真っ直ぐ進むと、ツァイスっていう大きな街があるんだけど、そこに住んでるティータって女の子なら、もしかしたら知ってるかも知れないよ」

 

 (ツァイス……確かZCF(ツァイス中央工房)の本部がある都市だったか)

 

 ZCF……共和国のヴェルヌ社、帝国のラインフォルト社と肩を並べる、大陸有数の大企業だ。

 元は導力器を発明したエプスタイン博士の三高弟の一人、A・ラッセル博士が立ち上げた小さな町工房だったと聞いている。

 が、その後徐々に規模を拡大し、今では大陸中にその名を轟かせている。という訳だ。

 

 「その娘は街道に設置されてる魔物よけの導力器をこまめに交換してるからね。リベールの街道は森に囲まれてる事が多いから、そのカブトムシを見かけた可能性もゼロじゃあ無いと思うよ」

 

 「ツァイスのティータちゃんですか……分かりました! 早速ツァイスを訪ねてみます」

 

 「道中には魔獣が居るから気を付けてね。まぁ、遊撃士ならそんな心配は要らないと思うけどね」

 

 「ご忠告ありがとうございます」

 

 有益な情報を手に入れたリョウは老婆に一言お礼の言葉を告げると、急ぎツァイスへと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「ここがツァイスか……本当にデカい街だな」

 

 エルモ村の老婆が言っていた通り、ツァイスは非常に大きな街だった。

 規模としては共和国の工業都市であるバーゼル……いや、むしろこちらの方が発展しているように見える。

 

 「街の中心にそびえ立つ巨大なビル……その手前にある超巨大なエスカレーター。物凄い工業力だ…………」

 

 今から10年前。西のエレボニア帝国との間で発生した百日戦争において、帝国の大軍を蹴散らした世界最強の空軍を持つ国家。リベール王国。

 それを支える強力な導力技術の片鱗を間近で感じ取ったリョウだったが、すぐに気を取り直して目的の女の子であるティータを探し始めた。

 

 「街の人に聞くのも良いけど、一番手っ取り早いのは遊撃士支部へ行くことだな。あそこならある程度の情報は手に入るだろ」

 

 そう結論付けたリョウは、街の中心部の近くにある遊撃士支部へと足を運んだ。

 

 「いらっしゃい。何か用かしら?」

 

 ツァイスの遊撃士支部へ入ると、奥の受付には長い黒髪の美女が立っていた。

 年齢は自分からより四・五歳程上だろうか。リョウは早速例の女の子について聞いてみる事にした。

 

 「あの、少し聞きたいことがあるんですけど」

 

 「…………ええ、何かしら…………」

 

 (あれ? なんか凄い固まってる?)

 

 リョウが近づいて話しかけても、彼女はピクリともせず、気の抜けた返事を返すだけであった。

 例えるなら、“猛獣に睨まれている兎”といった所だろうか。

 

 「あ、あの……すみません。この街にティータという女の子が居ると聞いてきたんですけど……」

 

 リョウはできるだけ彼女を刺激しないよう、穏便に話しかけた。

 

 「ええ。確かにそんな名前の女の子は居るけど…………貴方、もしかして」

 

 「はい?」

 

 「もしかして……リョウ・スメラギ?」

 

 「え、ええ。確かに自分はリョウ・スメラギですが」

 

 すると彼女は、先程までピクリとも動かなかったのに、今度は自分の体をまじまじと見つめてきた。リョウは嫌な予感がした。

 

 (僕の体を見るその目付き……あぁ、()()()……)

 

 リョウは()()()()()()()と理解した。

 自分にとってこの様な状況はよくある事だが、何度見られても気持ちの良いものではない。

 

 「ごめんなさい。何でもないわ。少し驚いただけだから」

 

 しばらくして彼女は落ち着きを取り戻すと、リョウに対して謝りながらも()()()()()()述べてくれた。

 

 「いえ、全然大丈夫ですよ」

 

 (少し驚いた。か……フッ)

 

 リョウの目には薄っすらと涙が溜まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「私はこの支部を任されているキリカという者よ。貴方のことは共和国総支部のヘイゼルさんから聞いてるわ。何でも例のカブトムシを捕獲するんですってね?」

 

 彼女はその後、改めて自己紹介をしてくれた。

 彼女ことキリカは、ヘイゼルからリョウの事についてある程度の情報は聞かされていたらしい。

 

 (ある程度、ね……なんとなく想像はつくけど、ヘイゼルさんも人が悪い)

 

 恐らく先程彼女が驚いていた理由は、キリカ自身が想像していたのとは、全く違う姿をした人間が来たからだろう。

 

 (()()()()()()()()! ()()()()()()()()()()()!)

 

 とても大切な事なので二回言った。

 

 そう思いつつ、リョウは今回の依頼に関して、キリカを通して様々な情報を聞くことになる。

 リョウは、今回の依頼がどれ程大変な依頼なのかを理解した。

 

 「数年に一度見つかるかどうかの幻の昆虫!? そんなの聞いてないですよ!! しかも依頼期間が2ヶ月……バカンスが遠退いていく…………」

 

 今回の依頼がそれまで自分がこなしてきた、どんな依頼よりも高難易度、且つ長期間な依頼であるなどとは、リョウは思っても居なかったのだ。

 

 現実をぶつけられたリョウは、頭の中が真っ白になっていく感覚を覚えた。

 

 「フフッ。貴方もだいぶ苦労してるのね」

 

 「ここ半年でようやく落ち着いて来たと思いきや、その矢先にこんな依頼が舞い込んでくるなんて……また暫く休めそうに無いですね」

 

 「あの事件ね……確か貴方と警察が協力して解決したのよね? 私もあまり思い出したく無い事件だわ」

 

 リョウは今年の前半に、共和国内で発生したとある事件のことを回想していた。

 共和国首都で発生した連続誘拐事件。

 非常に惨く悲惨な結末となってしまった事件のことだ。

 

 「そんな事より、私に聞きたいことがあるんじゃないの?」

 

 「っとそうでした! すみません。こんな下らない愚痴に付き合ってもらって……」

 

 「別に構わないわ。貴方だって人間だもの。愚痴くらい言いたくなる時もあるわよ」

 

 少し話が脱線したリョウだったが、キリカの声で本来の目的を思い出すと、改めてティータに関する情報を聞き出すのだった。

 

 「ティータなら、街の外れにある小さな工房に住んでると思うわ」

 

 「小さな工房ですか?」

 

 「ええ。煙突が3つある建物の奥にあるから、すぐに分かると思うわよ」

 

 (思いのほか早く見つかるかもしれないな)

 

 「分かりました。早速向かいますね」

 

 「ちょっと待ちなさい!」

 

 キリカからティータの住んでいる場所の説明を受けたリョウはクルリと反転して支部から出ようとしたが、扉に手をかける直前にキリカから引き止められた。

 

 「なんですか?」

 

 「もう気付いてるかも知れないけど、昆虫採集には虫取り網と虫かごが必須になるわ。ちゃんと店で買っていきなさいよ?」

 

 キリカがリョウを引き止めた理由。それは、リョウが虫取りの装備を全く身に着けていなかったからだ。

 リョウには虫取りの経験が()()()()

 この時キリカが虫取り網と虫かごの重要性を説いていなければ、恐らく彼は一生かかってもカブトムシを捕まえることは出来なかっただろう。何故ならば………。

 

 「? 網と籠が必要なんですか?」

 

 「ハァ!?」

 

 「えっと……飛んでる所を素手で……こう、バシッ! っと捕まえる事は」

 

 「そんなこと出来るわけ無いでしょう!?」

 

 リョウは素手でカブトムシを捕まえようと、本気で考えていたのだ。

 それも当然。リョウは虫取りの道具という存在すら知らなかったのだ。

 リョウの頓珍漢な回答に思わずツッコミを入れてしまったキリカは、半分呆れながらも確認の為に恐る恐る聞いてみた。

 

 「貴方……もしかして虫取りをしたことがないの?」

 

 「はい。虫取り自体は今回が初めてですね」

 

 (何で虫取り初心者にこんな高難易度の依頼を?……何か引っ掛かるわね)

 

 特一級の任務である『伝説のアノ虫の捕獲』

 

 例えA級といえども、虫取り初心者がこの依頼を受け持つということは、それはもう一般人が武器も持たずに魔獣と戦うようなものである。

 

 (彼の類稀な才能を頼ってのことでしょうけど……それにしたって酷い人選だわ。後で上に聞いてみようかしら)

 

 キリカは今回の依頼をリョウに任せた協会本部に対して呆れつつも、仕事はしっかりと果たすべく、リョウに対して自分の知り得る情報を提供するのだった。

 

 「取り敢えず……そうね。やっぱり捕まえた事のある人と一緒に行動することをオススメするわ。その他には……そうね、私もそのカブトムシに関してはそんなに詳しくないから……」

 

 キリカも例のカブトムシが捕獲困難な事は知っていたが、捕まえたことのある人物には流石に会ったことはない。

 実際には彼にとって有益な情報を()()()()()のだが、この時のキリカは自覚していなかった。

 リョウがここへ来るつい1時間前に出会った少女が、アノ虫を捕獲する事に成功しているなんて、彼女は知らなかったのだ。

 

 よって、これ以上のアドバイスはキリカには不可能だった。

 

 「教えてくれてありがとう御座います。後は自分でなんとかしますから。大丈夫です。ついでに道具も買っておきますね」

 

 リョウは少しだけ笑みを浮かべながらそう答えた。

 

 「ごめんなさいね。あまり力になれなくて」

 

 「いえ、大丈夫です。では自分はこれで」

 

 リョウはキリカに礼を言うと、道具を買い揃えつつ、先程教えられたティータの家へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 (彼がリョウ・スメラギなのね。ヘイゼルさんも少し意地が悪い……否、これに関しては私のミスね)

 

 キリカは今さっき出て行った彼の事を考えていた。

 

 (黒髪黒目の短髪で、温泉と煙草が好きな22歳の男性。見た目はそれなりに筋骨隆々って言われたけれど、随分と()()()()()……二つ名が怪物なんて付いてるもんだから、流石に予想外過ぎたわ)

 

 先程キリカが驚いていた理由はそれだった。

 

 リョウの体格は彼女の予想を大きく下回るものだったのだ。

 

 身長は160くらいか、もっと低いかもしれない。

 決して恵まれているとはいえない体格だった。

 流石に鍛えているだけあって、服の上からでも引き締まった体格をしているのは理解出来たが、彼は本当に小さかったのだ。

 

 (ま、それも含めて“怪物”と呼ばれるんでしょうけど……ね)

 

 体格では恵まれていなくとも、それをものともしない実力があるからこそ、彼はA級に選ばれたのだ。

 その努力はおそらく想像を絶するものだっただろう。

 

 (さてと、それじゃあ早速本部に問い合わせてみましょうか)

 

 キリカは今回の人選に関して本部に問い合わせる為、一旦リョウに関しての考察を止めると、通信機の受話器を手に取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「煙突のある建物の奥……煙突の建物……ここか?」

 

 3つの煙突がある家から少し奥に進んだところに、いかにも工房という感じの建物が建っていた。

 

 「ごめんくださーい。何方かいらっしゃいますかー?」

 

 鍵がかかっていなかったのでそのまま入ってしまったが、返事がない。

 一階には誰も居ないようだ。

 

 (外から見た限りだと二階建てかな? 上に居るのかもしれない)

 

 リョウは二階へ上がっていくと、そこには一人の老人が机にしがみついて何かをブツブツと呟きながら、導力器と思われる小さな物体を必死に弄り(いじくり)回していた。

 

 「う〜〜ん……ここを、こうして……こうやって……」

 

 「あの〜…………」

 

 「むむっ! こうか!? いや、これは…………」

 

 「すみませ〜ん…………」

 

 「いや違う! これはこっちか? そうだこれだ!!」

 

 「…………」

 

 リョウの声が聞こえていないのか、その老人は目にも留まらぬスピードでカチャカチャと導力器を組み上げていく。

 

 (一度出直したほうがいいか?)

 

 ここまで無視を貫かれては、一度出直したほうが良いような気がしてきた。

 リョウは一旦下へ降りようと階段の手すりに手をかけた瞬間。

 

 『ブツブツ……ボソボソ

 

 何やら話し声のようなものが1階から聞こえてきた。

 

 (? 老人以外にも誰か居たのか? いや、家族の誰かが帰ってきたと考えるのが妥当か)

 

 そう思ったリョウは直ぐに一階に降りて行く。案の定、1階の玄関付近に三人の子供が立っていた。

 

 三人組のうち一人は男の子で綺麗な黒髪をしていた。年齢は十六歳くらいに見える。他の二人は女の子で、茶髪のツインテールの子と、赤い帽子を被った子だった。

 ツインテールの女の子は黒髪の男の子と同い年に見えたが、もう片方の赤い帽子の女の子は、二人より少し幼く見える。十二歳くらいだろうか。

 

 (さっきの老人の子供? いや、孫の可能性が高いか)

 

 リョウは彼女達を見ながらそう考えていると。

 

 「あなたは……誰ですか?」

 

 三人の中でも一番小さい十二歳くらいの女の子が、恐る恐るといった感じでリョウに話しかけてきた。

 

 「えっと……そうだな。どこから話せばいいのやら……」

 

 (構図だけ見れば明らかに不審者だな。俺)

 

 これが、エステル、ヨシュアの二人組。そしてティータとの初めての出会いであった。





 リョウのプロフィール。
 身長157
 体重60
 リーチ164
 足のサイズ24.5

 筋肉質な体格であるため、体重の割には太っている印象は一切なく、非常に引き締まった肉体をしている。
 ボクサーとしては珍しく下半身の筋肉量が多い。

 しかし、共和国における一般的な成人男性と比べると身長が圧倒的に低すぎるため、未成年と間違われて煙草やお酒を買えない事も多い。

 最近の悩み∶飲食店に立ち寄った際ほぼ確実に子供向けの飴を渡される事。

 ちなみに、共和国で発生した連続誘拐事件というのは私が考えた架空の事件です。
 原作には存在しない事件です。ご了承ください。
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