Legend of Champion 拳の軌跡   作:ひげ根

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 今回で一区切り付きます。




第三話 伝説のアノ虫ですが、以外にも早く見つかりそうです。

 「えっと……あなたは?」

 

 赤い帽子を被った少女が、リョウに対して怪訝な表情を向けながら話しかけてきた。

 

 (一度整理するか)

 

 キリカからティータの家の場所を教えられたリョウは、彼女に言われた通りその場所へと向かったが、残念なことにティータ本人は留守だった。

 他に誰か居ないのか家の中を探してみると、二階に老人が一人居たが、その老人に何度か声をかけてみるものの、その老人は導力器に夢中で返事すらしてくれなかった。

 その後、一度出直そうと二階から一階へと降りた所で、三人の子ども達とばったり鉢合わせた。

 そして現在、リョウはその三人組からメチャンコに怪しまれていた。

 

 (うん。これって傍から見たらフツーに不審者じゃなかろうか?)

 

 この三人組がこの家に住んでいるのかは分からないが、少なくとも歓迎されている空気ではない。

 今にも飛び掛かってきそうな黒髪の男の子、何が起きているのかよく分かっていないであろう、ポカンとした表情のツインテールの女の子。

 赤い帽子の女の子に至っては、少し怖がっているようにも見える。

 

 リョウは彼らの警戒を取り除こうと、とりあえず軽い自己紹介から入ろうと思ったのだが。

 

 「貴方。誰ですか?」

 

 リョウが口を開こうとした瞬間、彼女達の後ろに立っていた黒髪の少年から語気を強めた言葉が発せられた。

 

 微量ではあるが殺気も感じ取れる。随分と警戒しているようだった。

 

 「いや、自分は決して怪しい者じゃなくて……」

 

 「逆に聞きますけど、自分から怪しいと名乗る人って居ると思います?」

 

 「いないね?」

 

 リョウはなんとかその場を凌ごうと当たり障りのない言葉で返答したつもりだったが、どうやら逆効果になってしまったようだ。

 少年は警戒の色を更に強め、誰の目から見てもはっきりと分かるくらい嫌悪感を露わにしている。

 

 このままでは危険人物と思われて戦闘になる可能性も否定出来ない。

 リョウはとにかく三人に対して、特に黒髪の少年に対して過度な刺激与えないよう話を進めることにした。

 

 「先ずは自己紹介をさせてくれ。僕はカルバード共和国からやって来た遊撃士のリョウ・スメラギだ。リベールにはとある依頼のためにやって来た」

 

 「……とある依頼……ですか?」

 

 そう言いながら遊撃士の紋章をみせると、少年の警戒心が少し和らいだ。

 

 「ああ。この家に入ったのもその依頼が原因でね。エルモ村にある温泉宿の女将さんと、ツァイス支部のキリカさんの紹介で、ここに住んでるティータって女の子を訪ねてきたんだ。君たち、なにか知ってるかな?」

 

 「あっ……」

 

 その時。一番最初にリョウへと話しかけてきた女の子が、ポツリと一言だけ声を発した。

 

 「えっと……もしかして、君がティータ?」

 

 「は、はい。ティータは私です……」

 

 少年がリョウの事を警戒しているのが原因だろうか。女の子はまだ少し警戒している様子だったが、小さな声でリョウの質問に答えてくれた。

 

 どうやらこの子が、あのエルモ村の老婆が言っていた例の女の子のようだ。

 赤い帽子がよく似合う。綺麗な長い金髪をした十二歳くらいの女の子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「いやぁーすまんかったのう! 作業に夢中で全然気付かんかったわい!」

 

 「ごめんなさいリョウさん。おじいちゃんが迷惑をかけちゃったみたいで」

 

 「いや、大丈夫だよ。むしろ君達が来てくれたおかげで助かったよ」

 

 自己紹介から数十分後、リョウは先程出会った三人とすっかり打ち解けていた。

 リョウが自己紹介と此処へ来た目的を告げた後に、彼女達三人も自己紹介と、ここへ来た目的をざっくりとではあるが話してくれたのだ。

 三人とも皆良い子達だった。

 

 赤い帽子を被った一番小さな女の子は、ティータ・ラッセル。茶髪のツインテールをした女の子は、エステル・ブライト。リョウに対して厳しい視線を向けていた黒髪の少年は、ヨシュア・ブライトという名前らしい。

 ティータは2階にいた老人のお孫さんで、エステルとヨシュアの二人は、リベールの準遊撃士だそうだ。

 この二人は血こそ繋がってはいないが姉弟らしい。

 二人とも、ついニヶ月前に遊撃士になったばかりの新人だという。

 

 現在、彼女達はとある事情で手に入れた謎の導力器を、二階に居た老人。伝説の三高弟の一人である、アルバート・ラッセル博士に調べてもらうよう頼みに来たらしい。

 

 (まさか()()()老人が伝説の三高弟の一人だったとは……まぁ、あんなに速い速度で導力器を組み上げていたところを見せられたら、納得出来なくもないが)

 

 リョウは老人の正体を知ったときは流石に驚いた。伝説の三高弟といえば、この大陸で知らぬものはいない程の有名人だ。S級の五人よりも名が知られているだろう。

 

 (まぁ、バカと天才は紙一重なんて諺もあるくらいだし)

 

 とてつもなく失礼な事を思いながらも、リョウと彼女達は、ここへ来た理由をお互いに説明しあうと、二階で導力器の開発と実験に夢中だった老人を、()()()()()()何とか下に引っ張り出し、現在に至るというわけだ。

 

 リョウは三人組と軽く談笑を交えていたが、その心境は他の所へと向けられていた。

 

 (三人が持ってきたこの導力器……随分と()()()代物かもしれないな)

 

 二人が取り出した謎の導力器を見た途端、リョウの心は謎の警鐘を鳴らしていた。

 

 リョウはどんな状況下であっても瞬時に危険を察知し、安全な場所へ移動出来る、天性の逃げカンといえるものを持っている。

 そして彼はその類稀な能力によって、自分の目の前に座る彼女達が抱え込んでいる、危険な空気を感じ取っていた。

 この能力があったからこそ、リョウはアマボクサーとして大成し、また史上最年少でA級に上り詰めることが出来たのだった。

 

 狭いリングの中で相手の距離(死地)を無意識に嗅ぎ取り、そこを避けつつ自分の距離に相手を引き込んで急所に一撃必殺のパンチを打ち込む超技術。

 

 幼い頃から鍛えられたその力は、大人になった現在、ありとあらゆる環境で対応出来るほどに成長している。

 

 その能力があったからこそ、彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 それは競技としてのボクシングや異種格闘技戦であっても、命のやり取り(遊撃士の仕事)でも変わることはない。

 

 そんな彼が感じ取った、危険な匂い。

 

 今の所は特殊な導力器としか聞かされていないが、何か裏にデカい問題を抱えているように思えた。

 

 (だけど、この件に関しては特に気にしなくても良いだろ。先ずは自分の依頼を片付ないと)

 

 リョウは黒い導力器に関してそう結論付けた。

 これはあくまでも彼女達が解決する事であり、自分が勝手に首を突っ込む必要は無い。

 第一、今のリョウには彼女達に協力出来る余裕はないのだ。

 

 「それで? リョウはティータに用事があったみたいだけど……一体どんな用事だったの?」

 

 その後、自分の受け持った依頼で、何故ティータに会いに来たのか、その理由をエステルが聞き出してきた。

 

 「今回僕が受けた依頼は、リベールに生息する伝説のアノ虫を捕獲するって依頼なんだけど……僕は虫取りをしたことがないから、その虫を知ってそうな人から情報を集めようと思ってね。さっきエルモの温泉宿に寄ったら、そこの女将さんからティータって子なら虫の事を知ってるかもって言われて来たんだけど……どうかな?」

 

 「えっと…………」

 

 リョウはティータの方へ顔を向けたが、彼女はリョウに対して気まずそうに苦笑いをしていた。

 

 「成程のう……リョウとか言ったかの? お前さんが此処へ来た理由は分かった。じゃが、儂もそうだがティータも大して力にはなれんと思うぞ?」

 

 難しい顔をしているティータに代わりラッセル博士がそう答えた。

 

 「そうですか。ティータちゃんはその虫の事は……知らないんだね?」 

 

 「うん……エルモのマオおばあちゃんには悪いけど、私、虫取りはやらないから」

 

 「そうか……いや、話してくれてありがとね」

 

 (結局振り出しに戻ったわけか……まぁ、ある程度は予測してた事だけど……そう簡単にはいかないよなぁ)

 

 情報が手に入りにくいことはリョウも分かってはいた。だが、そのことに関してはあまり考えないようにしていた。

 あまり気にしすぎると、情報が全く手に入らなかった時、自分のモチベーションを保つのが難しいからだ。

 

 「博士。リベールで虫に詳しい人を知っていたりしませんか? 例えば、博士のお知り合いの方とか……」

 

 「いや、機械工学に詳しい奴なら何人か知人はおるが、虫は完全に専門外じゃ」

 

 「そうですか……」

 

 (だとすると、これからは図書館や博物館でそのカブトムシの特徴を調べて)

 

 そんな感じで、これからのスケジュールを考え始めたリョウであったが、

 

 「あの〜ちょっといいかしら?」

 

 「?」

 

 ふと、聞こえてきた声の方へ顔を向けると、そこには何もといえない微妙なニヤケ顔をしたエステルが居た。

 

 「私、そのカブトムシ捕獲した事あるわよ?」

 

 「…………えっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「例の虫を探し始めて今日で三週間か……そろそろかかってもいいと思うんだが」

 

 ティータと出会ってから約一ヶ月後、リョウはリベール王国の地方都市、ロレント郊外にある森の中に居た。

 何故こんな場所にリョウが居るのだろうか。

 

 「にしても、まさかあの時偶然出会ったエステルが、目的の虫を知ってたなんてね」

 

 それは、今から約一ヶ月前まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「えっ!? その虫知ってるの!?」

 

 「フフン、モチのロンよ! 何だったら捕獲の仕方とかも教えてあげるわ!」

 

 「えっ? マジ!? 超助かるんだけど!!」

 

 あの日、ティータから伝説のカブトムシの情報を聞き出すため彼女の家に向かったリョウだったが、残念なことに彼女はそのカブトムシの事を知らなかった。

 それ自体は別に大きな問題ではなかった。

 リョウもそんな予感はしていたし、そもそも簡単に情報が見つかるはずがないと、そう思っていたのだが……

 

 「小さい頃に一度だけ捕まえた事があるの。本当に大変だったけど……でも、いい思い出ね」

 

 「そうだったのか……それじゃあ早速教えてくれないか?」

 

 「ええ、良いわよ」

 

 意外な場所から道が開けてきた事に、何やら運命的なものを感じとったリョウは早速エステルから、()()()()()()の捕獲方法を教えてもらうことになった。

 そして、エステルから準備と捕獲の方法を一通り教わると、彼女が伝説のアノ虫を捕まえたという森の中でずっと待機しているのだが、伝説のアノ虫は未だに捕獲出来ていない。

 ちなみにその間、リョウは一度も森の中から出てはいない。食事も全てこの森の中で行っているし、トイレも同様である。理由は「いい? 虫を捕まえるまで、森から出ないほうが良いわよ。そのほうがずっと集中できるから!」と、エステルに言われた事が原因である。

 

 「虫取りって命懸けだったんだな。俺、全然知らなかったよ」

 

 リョウは共和国から持ってきた煙草の最期の一本を吸いながら、随分と的はずれな感想を述べるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 数日後、リョウは早めの朝食(野うさぎ)を食べ終えると、魔獣の気配を感じ取りながらも、急いで罠を仕掛けた木の場所へ駆けつけた。

 

 (この森の魔獣は普通に強い。エステルもよくこんな場所で虫捕りが出来たな。しかも今よりもっと小さい頃の話だよな? あの子は将来大物になるかもな)

 

 この森は日中であっても薄暗く、遠くまで見渡せない。常に気を張っていなければ命に関わる。気を抜いていると、いつ後ろから魔獣に襲われてもおかしくない。

 例えば……虫取りに夢中になりすぎて周りが見えなくなった子供などは、ここの魔獣にとってはただの餌にすぎないのだ。

 

 「さてと、確かこの木に仕掛けたはず……あっ!!」

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とうとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「伝説のアノ虫だ!!!!!!!!」

 

 リベール王国へやってきて約一ヶ月。

 虫取り初心者であったリョウは、見事、目的の虫の捕獲に成功したのであった。





 ひげ根です。

 今回でFC編は終わりです。
 彼には今回虫取りの依頼がありましたので、そちらを優先してもらった結果、FC編が僅か3話で完結してしまう結果となりました。笑

 リョウが本編に関わるのは、次回(SC編)からになります。
 なお、次は少しだけオリジナルの短編が挟まり、その後SC編へと進んでいく予定です。
 ご了承ください。

 では、また次回。
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