Legend of Champion 拳の軌跡   作:ひげ根

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 今回から複数回に分けて本編とは別の短編を投稿します。



間章・温泉郷での一時
第四話 ボクサー対騎士


 

 七曜暦1202年10月。

 

 伝説のアノ虫の捕獲から一週間後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 帝国領、アイゼンガルド連峰奥地。

 

 『ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン…………』

 

 標高三千アージュを超える帝国の高山地帯で、一人の男が一時間以上も縄跳びをしていた。

 

 男の名前はリョウ・スメラギ。一週間前までリベールの森の中で虫取りをしていた男である。

 

 何故彼はこんな場所に居るのか? その理由は至極簡単である。

 

 …………休暇だ。

 

 あの後、リョウは飛行船を使ってツァイスまで戻り、そこである乗り物に乗って、共和国まで帰国した。

 本来は徒歩で帰る予定だったのだが、せっかく外国に来たのだから、記念になにか購入しようと思い立ち、たまたまツァイスで立ち寄った店である乗り物に目を奪われ、思い切って購入して、それに乗って帰ってきたのだ。その乗り物とは。

 

 「自転車か……」

 

 そう、自転車である。

 

 別に自転車自体はそんなに珍しい物ではない。共和国にも当然自転車はある。

 いつもだったら特に気にもとめないのだが、今回は違った。

 リョウがこの自転車に興味を持った理由。それは。

 

 「ロードバイクって奴か……意外とカッコいいな! コレ!」

 

 意外とカッコよかったからである。

 

 そんなわけで、見た目のカッコよさに惹かれて購入したロードバイクをかっ飛ばし、バーゼル支部へ例の虫を届け終えると、(元はバーゼルの依頼であるため、総支部では無くバーゼルで報告を行ったのだ)その足で二日ほどかけて首都へと戻り、総支部のヘイゼルに帰ってきた事を報告したのであった。

 

 およそ一ヶ月半もの依頼を終えたリョウは、今度こそ、真のバカンスを満喫するため、()()()(名前はチャーリィにした)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 無論、ただここでトレーニングをすることだけが、休暇ではない。

 このあと一通り練習を終えたら、登ってきた方角とは別の方角へと下山し、共和国の龍来と並ぶ名湯、帝国のユミルへと向かう予定なのだ。

 

 「よし、次はシャドーだ。鏡がないのが難点だけど、山籠りに贅沢は言ってられないか」

 

 『シッ! シッ! シュッ!!』

 

 パンチを繰り出すたびに、短く息を吐くリョウ。

 

 『タッ! タッ! タタッ! フッ! タタタッ!! フッ!!』

 

 華麗なフットワークで、パンチを打ち込む瞬間に踏み込み、打った後はダッキングで相手のパンチを避ける。

 

 そんな練習を更に30分以上続けていると、ふと何処からか謎の視線を感じ取った。

 

 (誰だ? あまり敵意は感じない……けど、微かに鋭い視線を感じる……魔獣じゃないな)

 

 (まぁ、放って置くか……いや、ちょっとだけからかってやろうかなw)

 

 リョウはこの視線を最初は無視するつもりだったが、女神の悪戯か、もしくは悪魔の囁やきか……ほんの少しの悪戯心が芽生えてしまったのだ。

 

 しかし、この時のリョウはまだ知らなかった。

 

 この出会いが、後にリョウの運命を大きく変える事になって行くということを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「さてと、この辺りなら誰も居ないでしょう……あの剣帝に追い付くためにも、特に予定のない今のうちに鍛錬を……あら?」

 

 リョウがシャドーの練習を始めた頃、その場所から数十アージュ離れた場所で、鋼の鎧に身を包み、身の丈ほどの大剣を所持した騎士が立っていた。

 髪は茶髪で、後頭部に二つの団子を結んでいる。

 

 「わたくしの他にもこんな場所で修行を行う者がいたとは……一体誰でしょうか」

 

 リョウがパンチを繰り出す度に発する吐息が彼女の居る所まで聞こえてきたのだろう。

 

 その騎士は気配を消しながら、声の聞こえた方へと向かっていく。

 そして、丁度相手の視線から死角になる場所の岩の陰から、その姿をこっそりと覗き込んだ。

 

 (あれは……カルバードの武術家でしょうか? 月華流? いえ、それにしては突きばかり……成程、拳闘術(ボクシング)というものでしょうか)

 

 そこには、()()()()から見てもそれなりに速いと言えるスピードで、動き回りながら突きの練習を行う小柄な男性が居た。

 

 (中々のスピードですわね。ですが……剣帝はおろか、わたくしにも遠く及ばないでしょうけど)

 

 彼女はその後、もう数秒彼を見ていたが。

 

 (はぁ、どんな猛者かと思えば……あわよくば手合わせを願おうと思っていましたが、この程度では精々準備運動がいいところですわね。期待外れですわ)

 

 期待が外れたのか、そのまま後ろを振り返り立ち去ろうとしたその時。

 

 「なぁ、其処のあんた。さっきからずっと僕のこと見てるけど……何か用?」

 

 (なっ!? 最初から気付かれていた!? 気配は消していた筈なのに!!)

 

 彼女は急いで岩陰に姿を隠したが、すでに居場所はバレている。

 

 「悪いけど、僕は半径三十アージュくらいだったら、大体のことは分かる。君、気配を消すのはあまり上手い方じゃないよ?」

 

 (ッ!?、黙っていれば勝手にベラベラと……!)

 

 その言葉が頭にきたのか、彼女は岩陰から飛び出すと、リョウの前へと姿を現した。

 

 (女の子だったのか……ちょっと言い方が悪かったかな?)

 

 リョウも、まさか相手が女性であった事は予想外だったらしく、先程の自分の言動を反省した。

 

 「フン! 何処の馬の骨かは知りませんが、その程度の腕前でわたくしに楯突いたこと……思い知らせてやりますわ!」

 

 (アレ? 結構怒ってる!?)

 

 「行きますわよ。我が神速の剣。とくと味わいやがれですわ!!」

 

 その女性は突然怒り出したと思ったら、所持していた大剣で、リョウへと斬りかかってきた。

 

 (速い!!)

 

 リョウが気が付いたときには、すでにその女性の剣先は、リョウの顔面へと迫っていた。

 

 (ヤベぇ!!??)

 

 『ザシュッ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「グッっ……」

 

 「ふん、どうやら間一髪で避けたようですね」

 

 「ハァ! ハァ! クソ、てめぇ……今完全に殺す気だったろ!?」

 

 リョウは何とか避けることに成功したが、その額には斜めに大きな傷が走っており、流れ出た血がリョウの視界を遮り始めた。

 幸い奥までは達していなかったが、その傷は決して浅くはなく、傷の奥に薄っすらと白いモノも見えている。

 

 「フン! 死ぬなら結構。死んだら所詮その程度の実力しかないということです」

 

 (ハァ、ハァ、何者だ? コイツ)

 

 「わたくしを怒らせた事、あの世で後悔させてやりますわ。 無駄な抵抗は止めておいた方が身のためですわよ?」

 

 そう言いながら大剣をリョウへと向ける謎の女騎士。

 だが、彼女は知らなかった。

 自分が喧嘩を売った相手が、史上最強の拳闘術士(ボクサー)だということを。

 

 「ふざけんなよ……」

 

 「あら?」

 

 「ようやく……本当にようやく捕まえた休暇なんだ……それを……それをっ!!!!……わけ分かんねぇ理由でポンポン破壊されてたまるかってんだよぉぉぉぉ!!!!!!!!」

 

 (なっ!? 先程とは比べ物にならない闘志! まさか、先程は全く本気を出していなかった!?)

 

 「抵抗するなだと? ……ふざけんじゃねぇ!!」

 

 『バシッ!』

 

 リョウは音を立てながら両拳を力強くぶつけると、その拳を顔の前へと持ち上げながら、彼女に対して大声で宣言した。

 

 「もちろんおれは抵抗するで?」

 

「拳で!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「シュッ」『ボッ!!』

 

 「なぁぁあ!??」

 

 リョウはそう宣言した後に、すぐさま彼女の懐へ入り込みながら強烈なジャブを繰り出した。

 そのあまりのスピードに彼女は避ける事も出来ず、ただ後ろに尻餅をつく事しか出来なかった。

 そのまま通り過ぎていったリョウの拳は、彼女のいた場所の空気を斬り裂いた。

 もしも尻餅すらつく事が出来なければ、間違い無く彼女は巨大な()()を負っていただろう。

 

 (流石に剣帝とまではいきませんが……この男、間違いなく()()()()()()()()ですわ!)

 

 怒りに身を任せて相手の実力を見誤ってしまった。彼女は自身の奢りを恥じたが全ては後の祭りである。

 自分から攻撃した以上、手前勝手に降参するということも出来ない。

 相手のスピードを対処しきれない現状で、逃げるという選択肢も取れなくなった彼女は、()()()闘気を纏って対応するしかなかった。

 

 「いいでしょう……この神速の剣、ご覧に入れて差し上げますわ!」

 

 「ハァァァァァァ!!!!!!」

 

 その闘気は凄まじく、この険しい岩山の表面をガリガリと削っていくのが目にみえて分かる。

 

 「さぁ、ここからが本番ですわよ……いざ、尋常に勝負!!」

 

 突如リョウに斬りかかってきた謎の女騎士。

 その二人の闘気がぶつかり合い、火花を散らしている。

 

 「行きますわよ、プリズムキャリバー!!!!」

 

 (なっ!? 分身だと!?)

 

 目の前の女騎士が突然三人に分かれた。

 高速移動で分かれているように見えるのだろうが、どれが本物なのかわからない程、精巧に表現されている。

 

 (目で追うな。空気の流れと俺の鍛え上げたカンを信じるんだ!!)

 

 リョウは目を瞑り、精神を統一させる。外界からの情報を聴覚・嗅覚・触覚の三点に絞り込むのだ。リョウ本人も上手く言葉にして説明することが出来ないのだが、こうすることで自ら鍛えたカンがよく冴えるのだ。

 

 その光景を見た女騎士は短く鼻で笑った。

 

 (ふん! この技を切り抜けられたのは未だかつて剣帝のみ! その剣帝でも全てを回避するのは不可能! 何をしたって無駄ですわ!!)

 

 数年前、自身をどん底から救い上げてくれたとある女性がいた。

 その女性はまさに天下無双の実力で、どんな者が相手であっても圧倒的な強さで勝利してきた。

 

 巨大な槍を振るい、自身を救ってくれたその恩人に報いるため、彼女は日々血の滲むような努力を重ねてきた。

 そうして手に入れた神速の剣は、すでに()()の中でもずば抜けていると自負している。

 

 彼女はすでに勝利を確信していた。

 

 「これで終わりです!」

 

 (来るか!)

 

 精神統一を完了させたリョウは、両目を開いてデュバリィの攻撃に身構える。

 この状態のリョウであれば、大抵の攻撃は完全に避ける事が可能であった。そう、()()()だ。

 

 『ズバッ!!!!』

 

 「グッッ!!」

 

 三人に分身した女騎士によって繰り出された剣筋は、リョウの左腕スレスレの所を通過した。

 

 (一瞬でも反応が遅れたら()()()()()()()()()()()()()……外れた。いや、意図的に避けられるよう攻撃したのか?)

 

 彼女の攻撃はまさに()()だった。

 

 「さぁ! まだまだこれからですわ!!」

 

 彼女の攻撃は更に加速していく。

 

 『ジュバッ!!!!』「フッ!!」

 

 『ザンッ!!!!』「チィッ!!」

 

 『スパッ!!』「クソっ!!」

 

 一撃、二撃、三撃…………彼女の繰り出す攻撃は、その回数を重ねていく度に強く、速く、そして斬れ味鋭くなっていく。

 その剣撃のスピードは凄まじく、彼女の剣筋には一閃の稲妻を纏っていた。

 

 (なんてスピードだ! こりゃあ()()()避けきれないな!!)

 

 迫りくる攻撃を全て避けることは不可能と判断したリョウは、大きなダメージを負うだろうと思われる攻撃にのみ集中することにした。とにかくこの死の渦から抜け出すことを第一の目的としたのだ。

 

 (三人に別れたように見えるだけで元は一人だ。つまり、この攻撃の三分の二は彼女の高速移動によって発生した残像!!)

 

 リョウはそう判断すると、デュバリィの攻撃に対して殺気があるものと無いものの判別に入った。虚と実を見分ける為だ。

 

 (大丈夫だ。どんなに速くても人間には一定のクセやリズムがある。そこさえ掴んでしまえば!!)

 

 そして。

 

 「これで終わりです!!!!」

 

 (先程から避けてばかりで反撃の仕草すら見せませんわね。このまま押し切ってしまえば!)

 

 (!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「そこだァァァァァ!!!!!!!!!!」

 

 『ドスン!!!!!!!!!!!!』

 

 「ゴフッ…………ありえません…………わ………」『ドサ……』

 

 最後、止めの一撃と思われる攻撃に対して、リョウの強烈なボディーストレートのカウンターがきまり、女騎士はそのまま前のめりに倒れて気絶した。

 

 (あ、危なかった……完全に運が味方してくれたな……)

 

 最後の一撃。今まで防戦一方だったリョウの様子を見て反撃出来ないと判断した彼女は、最後の最後で大きな隙をリョウに見せてしまったのだ。

 大振りで単調な攻撃でも仕留められると勘違いした彼女の読みは大きく外れ、逆に自ら相手の懐に入り込む形になったのだ……いや、リョウが()()()()()という方が正しいかもしれない。いずれにせよ勝敗は既についた。

 

 リョウは額から流れ出る血液を右手で軽く拭うと、地面に仰向けで倒れ込む少女の顔を覗き込んだ。

 

 「それにしても……この子誰だろう?」

 

 シャドーをしていた時にコソコソと覗きを行い、出てきたと思ったらいきなり斬りかかってきた。

 男だったら強姦者と間違われてもおかしくないが、実際にそれを行ったのは、()()()()と思われる女の子。

 

 だが、その実力は凄まじかった。

 もしもこの子と同い年の時に戦ったら、間違いなく瞬殺されているだろう。

 

 「ここに置いていくわけにもいかないし……しかたない」

 

 懐から煙草を一本取り出したリョウは、彼女から大分離れた場所で口に咥えて火を付けた。

 

 「スッ『ジリジリッ』……フゥ…」

 

 煙草を一口吸い込んだリョウは、そのまま自転車(チャーリィ)のところまで戻っていく。

 

 「取り敢えず麓のユミルまで運んでいくしかないな。こんな所で自転車を盗む奴なんていやしないだろうけど…念の為鎖も付けとくか」

 

 自転車に鍵とチェーンを取り付けたリョウは、煙草を吸い殻入れに捨てると、額の傷口に布を巻き付け、急いで彼女の元へと戻った。

 

 「死んでは…いないな。よし、急がないと!」

 

 リョウは彼女をその背中に担いで素早く下山していくのだった。





 やっぱり拳の男には自転車が似合いますねぇ!
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