【凍結中】海兵になったルフィとウタが後に酷い目に遭う話 作:黒のエレメンタル
エンジェル島から離れた場所に人目を避けるように作られた集落がある。
400年前に故郷を追い出された『シャンディア』という民族が住む雲隠れの村。
その村に向かって腰掛けカバンをぶら下げた少女が歩いていく。
『誰も見てないよね』
キョロキョロと周囲を見渡して誰も見ていないのを確認してからこっそりと村に侵入した。
それは、誰かに見つからないようにというよりは、村から出たように見せないようだった。
「アイサ、どこに行っていたんだ?」
「うわ!?」
テントの物陰で短剣を磨いていたモヒカン頭のカマキリに話しかけられた少女は転んだ。
カバンには見た目以上に重い物が入っているようで島雲に深く減り込んだ。
「また“
「べろべろべぇ!いつまでもエネルに震えている臆病者とは違うんだい!」
「オイ待て!!」
カマキリが立ち上がるとアイサは集落の中心部へと逃げて行った。
少し体勢を崩して走っているのを見ると、またしてもカバンに持ち帰って来たのだろう。
溜息を吐いて追おうとすると、代わりに黒髪をなびかせる女戦士がすれ違いで遭遇した。
「ラキ!お前の妹分がまたやらかしたぞ!!」
「ゴメン、あたしが無力のせいで…」
「いいか、あいつのやってる事は村全体を危険に合わせるんだぞ!?」
「分かってる!!分かってるさ…」
女戦士ラキは自分たちが無力のせいで妹分を止めらないのを実感していた。
400年間という歴史は、彼女達に“
しかし、連続でやらかしたアイサの行動がワイパーにバレれば追放処分されてしまう。
咎めている戦士達も少女を庇っているせいで強く言えない事情があった。
「それで何の用だ?」
「ワイパーが青海人に遭遇して交戦したみたいなんだ」
「いつもの事じゃないか。わざわざここで報告することか?」
「なんかいつもと違うんだよ。あいつらしくないって感じでさ」
青海人も空の住民もシャンディアからすれば全て敵であった。
故郷を奪われるという屈辱から400年間という歴史は、彼らの意志を団結させた。
それと同時に血の繋がった民族以外は全て敵と言う選民思想を生み出していた。
「これから偵察部隊に逢いに行くけど…」
「気を付けろよ。いつ神兵がここを特定するか分からんからな」
「ありがとう」
カマキリが大戦士の子孫であるワイパーの住居を見る。
それは武骨で物々しく同じ戦士視点から見てもおっかない感じがした。
「“
「それは好都合だ!今なら神官は縄張りから出ない以上、【神の社】は手薄だな」
「エネルが見逃すとは思えん。我々を嵌める罠では?」
シャンディアの戦士達は、今すぐにでも武力行使をしようとしていた。
ただ、目標は決まっていても戦士の足並みが揃わないせいで動けなかった。
「おいワイパー聴いているのか?」
「大戦士カルガラは言った!『シャンドラの灯をともせ』と!それ以外ない」
フードを被ったブラハムに指摘されたワイパーは力強く自分の想いを告げた。
大戦士の子孫が変わらずに力説するのを見て戦士一同は口角を釣り上げた。
「ところでワイパー…青海人に手当をされたのか?」
「ん?」
同志ゲンドウに指摘されたワイパーは自分の身体を見た。
彼の胸部と左腕には、空島に存在しない包帯が巻かれていた。
戦利品を持ち帰る事はあっても、戦士の傷は誇りとしている彼は自分から手当てをしない。
そういう男だと分かっているからこそ、彼は確認の為に訊いた。
「ああ、これはな…」
「大変だよ!!」
大戦士の子孫が同志たちに告げようとすると慌ただしくラキがテントに飛び込んできた。
ただならぬ緊急事態を感じ取った武器を手に取り、戦士達は固唾を吞んで彼女の発言を待つ。
「神兵7名と神官が討ち取られたんだ!!」
「青海人の海賊共、意外とやるな。このまま同士討ちすればいいが…!」
「違うんだよ!!とてつもなく大きな船に乗った連中がやったんだ!!」
ラキの話を聞いてワイパーはその船に心当たりがあった。
「それって船首と側面に大砲が3つもくっついている巨大な船じゃないだろうな?」
「良く分かったね!珍しい大砲だったから偵察部隊も印象に残ってるよ」
「勝手に潰し合ってくれるなら相手は誰だっていい」
シャンディア以外は全て敵である以上、敵の敵は味方と言えない。
むしろ、敵同士で戦力を潰し合ってくれればいいというのが戦士達の総意だった。
「しかもエンジェル島で反逆者が出たんだよ。エネルが君臨して初めての事さ」
「それがどうした?」
「ガン・フォールがその娘を“裁き”から救った。今まで直接対峙しなかったのに…」
「くだらん!」
「エネルはそれによって先代の“神”すらも裁く理由を得た」
更にラキが言葉を続けようとするとワイパーに睨まれて黙り込んだ。
あまりの剣幕っぷりに同志である戦士達ですら冷や汗を流す。
「つまりなんだ!ガン・フォールは敵じゃないとでも言うのか!?」
「少なくとも彼は私達に危害を加えずに交渉しようとした」
「人は共通の敵がいると隣人が味方だと錯覚する!!」
「でも…」
「迷いがあるなら戦いに出るな!!ラキ!!邪魔なだけだ!!」
戦士ラキに対してワイパーは戦力外宣告を行なった。
女だからというわけでなく迷いがあればすぐに死ぬと分かっているからだ。
先祖の誓いを果たすには、屍の山を築いてでもやらなければ達成できない。
だが、彼は覚悟がない者まで強制をさせる戦士ではなかった!
「ワイパー……」
「神官が落ちた今、これが最初で最後のチャンスだ!」
ワイパーは分かっていた。
これが勝ち目のある戦いではないと。
【神】の強さを知っているからこそ、血気盛んの同志達を止めて来た。
だが、これで全てを終わらせる。
「ついにやるのか!?」
「ああ!この機会を逃せば二度は無いだろう!!」
「俺は、いや俺たちは覚悟はできている!あとはあんたの号令だけだ!」
「仲間を踏み越えて前に進む者だけついてこい!!行くぞ!!」
「「「「おう!!」」」」
大戦士の子孫の号令でシャンディアの戦士達は1つにまとまった!
全ては奪われた物を奪還する為に最後まで戦うつもりだ。
背水の陣どころか特攻隊にすら見える同胞たちにラキは不安を隠せなかった。
「1~~~~2~~~3、4!」
ところでチームがリーダーのおかげで団結するところもあれば破綻するところもある。
雲隠れの村からそう離れていない白々海に浮かぶボートがそうである。
「1~~~~2~~~3、4!…そこ!手を休めない!」
「ふざけんじゃねーよ!何で海兵の指示に従わないといけないんだよ!!」
女海兵に号令通りにオールを漕ぐように言われたフォクシーは仕事を放棄した。
仲間を助けたいのは本心だが、偉そうに口だけ動かしている奴に反抗していた。
「ねぇ!もうじき日が暮れるのにまだ目的地まで半分すら到達してないよ?分かってんの?」
「漕げる状況じゃねぇって事くらい分かってんだろう!?」
フォクシーの渾身の叫びに反応するかのように水面ならぬ雲面から空魚が飛び出してきた!
全長20m級でヒルのような歯が鋭く細長い化け物がボートに襲撃しようする!
「“猿殴り”!!」
「マシラさん!ありがとう!!」
「さすがにキリがねぇな…」
マシラの放った渾身の拳が空魚の頬に命中して殴り倒されて元の居た場所へと沈んでいく。
ボートの後方には、おびただしい数の気絶した空魚が隙間を埋めるほど浮かんでいる。
これだけの数が襲撃してきた以上、ボートで“
だからといって帰ろうとしても軍艦は居ないので、無理やり作戦を続行していた。
「いやん、もう限界……」
「ポルチェちゃんをここまで働かせて何か思わないのか!?この紅白饅頭!!」
「はあ?割れ頭のせいで巻き込まれたのは私達なのよ!むしろ見捨てないのを感謝しなさい」
フォクシーとウタは相性が悪いようで口論からの音で空魚が飛び出すコンボが決まっていた。
おかげで猿山連合軍も襲撃してくる敵の対応に精一杯でオールで漕ぐことができなかった。
「なんか同じところをくるくる回っているような気がする」
ルフィだけがウタの指示に従ってオールで漕いでいるが片方だけなので意味がない。
むしろ空魚に衝突して島に前進するどころか後退していた。
「だったらお前も漕げよ!!歌姫だかなんだか知らんが苦労してねぇ奴に指図されたくねぇ!!」
みんなのアイドルが疲労で倒れ込んだのを見てフォクシーがウタに向かって本音を告げた。
何も苦労してないから他者の気持ちや限界を知らずに偉そうに口だけ出せる。
そう言いたかった。
「そこまで言うなら私が漕いであげる。途中下船は許さないからね…!!」
「ん?」
「ルフィ!!2人で一緒に漕ぐけど準備は良い?」
「いいぞ!!」
ここでフォクシーは、彼女と初めて逢った時の事を思い出していた。
島の住民から隠せるほどの距離に大型の軍艦を停泊させて彼女は1人でボートを漕いでいた。
それは彼自身が確認しており、海軍との接点もそこで始まったので忘れるわけがなかった。
そう、屈強な肉体を持つ部下を誰も連れずに遥か遠くの港町まで彼女は1人で漕いでいた。
『女の手だけであそこまで漕げるか……?』
ジャヤ島のモックタウンの港付近まで部下を誰も連れずにボートを漕いでいた。
これが意味するのは、1人で充分と思える確信と自信があったということだ。
何故か海兵の2名はボートの後ろに陣取って揃って座り込んで笑顔でオールを握り締めた。
ここで6名と1羽の背筋に凍り付くような冷気が肌を触った感じがした。
「生命帰還“部位解除”」
本気でオールを漕ぐつもりのウタは、自身の身体を『ボートレース』仕様に戻した。
さきほどよりも上半身が一回り大きくなっており、軍人といえる体格。
つまり歌姫としてやっていく上で不要な筋肉を露出させた。
「久しぶりにやるな……合同ボートレース」
「うん、海兵になってからやってないもんね」
“麦わらのルフィ”は問題児であるのは、少しでも関わった人物なら誰もが思うだろう。
だが、それを看過しており、むしろ放置しているウタは更に狂っているとは思いもしないだろう。
准将という階級と、歌姫というイメージのせいで縛られていただけで彼女の方が狂っていた。
「みんな!ボートの縁にしっかりと捕まってね!振り落されても知らないよ!」
「はあ?」
「ウタ!ペースはどんな感じにやるんだ?」
「1.2.1.2.1.2のペースでやるつもり!」
「分かった!!」
彼らは知らなかった。
2人とも能力者であるにもかかわらずフーシャ村でボートレース対決をしていた事を。
コンマ1秒を狙って何十回もボートから身を投げ出されて海に落下したおバカコンビ。
そんなこんなで500回以上の勝負の中で100回近くがボートレースをやっていた。
そして、その腕前が世界チャンピオンをとっくの昔に凌駕している事など分かるわけがない!
「よーい…スタート!!」
「「1.2.1.2.1.2.1.2.1.2.1.2.1.2.1.2!!」」
「「「「ぎゃああああああああああ!?」」」」
「ジョオオオオオオオオオオッ!?」
それは突然だった。
2人が漕ぎだした瞬間までは普通だった。
すぐに船内は阿鼻叫喚となり、逃げられない牢獄となった!
「「「「浮いてるううううう!?」」」」
猿山連合軍もフォクシー海賊団も必死に船にしがみついた!
水面ならぬ雲面から船首が鋭角20°くらい離れて雲を滑るようにボートが吹っ飛んだからだ!
「待ててってええええ!?」
「ぎゃああああああああ!?」
「速いいいいいいい!?」
「ジョオオオオオオオオ!?ジョオオオオオッ!?」
10年以上も切磋琢磨して培ってきた幼馴染のコンビネーションは凄かった!
凄すぎてボートが、加速した自転車の前輪が地面から離れるウィリー状態のような状況になった。
船首が雲面から離れて船尾が凄まじい勢いで雲飛沫を噴き出しながら加速していく。
その加速度は、試作された海列車“ロケットマン”を彷彿させるものだった。
そんな列車に乗った経験がない海賊6名とサウスバードには地獄としか言いようがなかった。