お前も海兵! お前も海兵!   作:スカウトマニア

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とある海兵の日記 一人目の海兵

●月×日

 海軍本部の命令で巨人族の暮らす戦士の村、世界一の強国エルバフに向かう事となった。目的はエルバフに暮らす聖母カルメルが引き取った子供を確認する為だ。たったそれだけの為に、海軍本部少佐の俺を駆り出すってんだからただの子供じゃない。

 

 報告ではたった五歳で生まれ故郷の街を滅茶苦茶にしたっていう怪物だ。手を焼いた両親がその子供をカルメルに預けたわけだが、あのばあさんのところには追放された王族だとか、重犯罪者の身内だとか、表の世界じゃ生きにくい素性の子供らが集められている。

 世間じゃ聖母なんて呼ばれているあの婆さん、実は強い兵隊やエージェントになりそうな素質のある子供を世界政府に売り渡す人身売買に手を染めているのだ。

 その子供、シャーロット・リンリンは婆さん曰く将来は大将・元帥になれる素質があるって話だ。話半分にしてもこれが本当なら、俺も足を運ぶ価値がある。

 

●月×日

 ようやく到着したエルバフでまずは巨人族の英雄、滝ひげのヨルル殿と山ひげのヤルル殿に挨拶に出向く。

 カルメルの活躍で世界政府と巨人族の間で交流が持たれるようになったとはいえ、まだまだ両者の溝は深い。正規の海兵である俺が筋を通すのを疎かにするのはまずい。

 俺が乗ってきた軍艦には手土産用のお酒と食べ物を大量に積んである。カルメルの経営している羊の家という孤児院用のお土産もある。

 

 そしてカルメルのところに行くと、五メートルはある巨人じみた子供がいた。五歳児でコレかよ。ただ、初めて会う俺にも朗らかに挨拶してくるし、そう悪い子ではなさそうだ。ただ報告の通りだと規格外の怪力の所為で、善意の行為が悲劇に繋がっちまっている。

 カルメルから詳しく今日までの出来事を聞く必要がありそうだ。上手く海軍に取り込めればいいが、制御の出来ない怪物が欲しいわけじゃないんだ。しばらくは俺も羊の家に滞在するが、これじゃ気を抜けないな。

 

●月×日

 リンリンがやりやがった! 食いわずらいとかいう発作があるとは聞いていた。リンリンの怪物ぶりも聞いていたが、なんだあの強さ!?

 巨人族の「冬至祭」に向けて、十二日間の断食に入ったその七日目に、リンリンが発作を起こして、最後に食べたセムラを求めて暴れ回ろうとした。

 巨人族達は断食中だし、リンリンが暴れ出したのが夜中とあって、もしリンリンが巨人達の村に到着していたら、えらい被害になっていたところだ。

 

 俺は頑張った。とても頑張った。隠し持っていた保存食を食い、武装色の覇気と見聞色の覇気を全開にし、六式のあらゆる技を総動員してどうにかこうにか、羊の家を少し出たところで止める事に成功したのだ。

 俺が時間稼ぎをしている間にカルメルが巨人達に事情を説明し、セムラを分けてもらう事でどうにかリンリンの食いわずらいを鎮め、被害は俺が重傷を負うだけで済んだ。

 今もベッドの上でこの日記を書いているが、確かに五歳であの強さなら将来は大将か元帥、CP0のトップエージェントにだってなれる。とりあえず巨人族に被害が出なかったのを海兵として喜ぼう。世界政府との交流にひびが入ったら、シャレにならないからな。

 

●月×日

 要約すると本部からそのままリンリンの面倒を見ろ、という命令が来た。ええ……。

 

●月×日

 流石にリンリンに付きっきりというわけではなく、巨人族相手に海軍や政府の講義、たまに訓練をして過ごす事になった。リンリンの食いわずらいの発生する期間が読めないから、日を跨ぐほど遠い場所にはいけない。

 それにしても羊の家で過ごしてみて分かったが、カルメルは大したもんだ。子供達は間違いなく愛情たっぷりに育てられているように見えるし、リンリンを含め素性に問題を抱えている子供達は、心から彼女を慕っている。

 

 政府に斡旋されなかった子供達を送り出す時には、普通に真っ当な家庭に送り出しているし、かつて送り出した子達からの便りもしょっちゅう来る。

 海軍や政府に送られた子達も素質があったからというのもあるが、就職先では真面目に働き、今もカルメルを母親同然に慕って仕事に励んでいるらしい。

 政府からの斡旋の謝礼も孤児院の経営と子育てに忙しくて、使う暇もないだろう。というか運営費とトントンだと俺は見ている。いつか羊の家の経営を止めて隠居したとしても、お金の使い道が分からないんじゃないかと思う。

 

●月×日

 日々、カルメルに優しく諭され、羊の家の子供達と仲良く暮らしている様子から、このままゆっくりと時間をかければ、リンリンの倫理観は真っ当に育つだろう。俺の巨人族達の交流もまあまあ順調で、海兵に興味を持つ若いのもちらほらいる。

 このままいけば、良い具合にリンリンをスカウトできる。そう思っていた時期が俺にもありました。問題が起きたのはリンリンの六歳の誕生日だ。

 

 あの子の好きな食べ物がテーブル一杯に並べられ、俺もコネを使って彼女の故郷の人気のお菓子なんかを取り寄せて精一杯祝ったのだが、どうも食いわずらいを発症してしまったらしい。

 セムラで作ったクロカンブッシュを食べたあたりから、滝のような涙を流して手当たり次第にテーブルの上の料理を口に放り込み始め、そのまま自分の近くに座っていた子供を掴みとろうとしていた。

 これを見てヤバいと察したのは俺とカルメルだけだったろう。この時ほど、剃を習得していてよかったと思った瞬間はない。俺はあの冬至祭前の死闘を思い出して古傷が傷んだが、やるしかねえと気合を入れてリンリンの鎮圧に乗り出した。すごい嫌だったけど。

 

 幸い、以前とは違ってお腹いっぱい元気いっぱいの巨人達とカルメルが鎮圧に協力してくれたため、一番の被害は俺の重傷だった。鉄塊使ったのに……。

 ただ収穫はあった。以前よりもリンリンの食いわずらいが早めに収まったのだ。料理をすべて食べさせたのが良かったのか、俺達の抵抗で消耗が早かったのかは分からんが、これを繰り返していけばリンリンが食いわずらいを発症しても理性を保てる日が来るかもしれない。来るか? 来るといいな……。

 

●月×日

 俺が羊の家を拠点としつつ、時々、自分が海兵だと忘れそうになる日々を過ごして十年あまり。リンリンの食いわずらいはおおむね一年に一度、どでかいのを引き起こし、その度に俺が半死半生になりながら、彼女を引き留めて大きな被害を出さずに済んでいる。

 巨人族達も人間の幼女に負けてはいられないと奮起して、なんだか不定期に開催される戦いの祭りみたいな扱いになっていた。いや、負けたら死ぬか、最悪食われかねないんだから、もっと緊張感持とうよ。

 俺もかなり覇気が鍛えられたし、何度も生死の境をさ迷って強くなった自負はあるけどさあ……。

 

 まあ、過ぎた事を言っても仕方がない。実のところ、リンリンは六歳の誕生日の時に海軍に引き渡される予定だったらしい。後で俺には知らされていなかったのはどういう事だと文句を言っておいた。

 ただ食いわずらいの齎す被害とそれを抑えるのに六歳時点でも中将クラスが数名は必要な事、リンリンの今後の成長を考えると大将を投入しなければならない可能性も伝え、引き続き俺の監視とカルメルの元で養育するのが決まり、今日に至る。

 

 シャーロット・リンリン十六歳、身長は更に伸びたが何よりもその体形が骨格レベルで変わっていた。

 すらりと長い手足に出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるのは、十年の間にリンリンが遊びと勘違いして俺と巨人との訓練に混ざり、彼女にとっては適度な運動によって程よく脂肪が落ちて、健康的な体格になったってわけだ。

 

 いよいよリンリンは俺の元で見習いとして海軍に就職する。ついで俺も任務が変わり、これからはリンリンを連れて新世界の海を飛び回る日々だ。

 そうそう見送りには隠居したカルメルも居る。もう九十かそこらになる老婆だが、相変わらず元気だ。流石にタバコは止めたけどな。

 結局、カルメルは隠居した後も羊の家に関わっており、引き継いだ二代目マザーを手厳しく指導した。隠居してもお金の使い道のない、孤児を育てるばかりで他の娯楽も趣味もない人生だったわけだな。案外、子育てはあの婆さんの天職だと思うけどね。

 カルメルや他の子供達と涙を流して別れを惜しむリンリンを伴い、俺は長い事過ごしたエルバフを後にした。折を見て立ち寄るから、と慰めてもリンリンはしばらく泣き止まなかった。




○シャーロット・リンリンが海兵になった!



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