お前も海兵! お前も海兵! 作:スカウトマニア
“俺”に対する呼び方
ガープ → アイツ
センゴク → 奴
つる → あの子
ゼファー → ?
“俺”についてこれまでの性別不明云々かんぬんを削除しました。
海軍本部マリンフォード。世界政府加盟国の一般市民と海の平和を守る海兵達の最後の砦、正義の本丸と呼ばれる巨大施設の一室で、マリンフォードの最高戦力に等しい面々が集まっていた。
仏のセンゴク、海軍の英雄ガープ、黒腕のゼファー、中将最高格の一人・つるの四名で、この四人が揃ったらそれこそロジャーや白ひげ、シキといった最高クラスの海賊でもなければ、逃げの一手を打つしかない。
部屋にはこの四人だけで、囲むテーブルの上に急須と人数分の湯飲み、せんべいやおかきを始めとした茶菓子が並べられて、プライベートな集まりらしい。
ボリボリと良い音を立ててせんべいを頬張るガープが、円卓を囲う同僚達に馬鹿みたいに笑いながら話しかけた。
「またアイツがやらかしたんだって? 今度はワノ国か! アイツはやる事成す事派手だな!」
ガープも神の谷事件をはじめ、海賊相手の数々の決戦の語り草の派手さでは負けていないが、当の本人は知ってか知らずか他人事のように笑ってばかり。もちろんアイツとはピースメイン隊長の“俺”少将である。
呑気に笑うガープに苦虫を噛み潰したような顔で応じたのはセンゴクだ。こっちはおかきをボリボリやりながら、まだ笑っているガープに冷ややかな眼差しを向けている。
「派手なのはまだいいが、奴のやることは影響が多すぎる。世界政府非加盟国というだけでも問題だが、それが八百年近く鎖国を続けるワノ国だ。侍という戦力以外にもなにかある国に、ほとんど独断で突っ込んだんだ。問題にならないわけがない」
現海軍元帥コングが執務机の上で頭を抱えている様子を目撃したセンゴクは、自分が元帥の立場にない事に心から安堵した。まあ、順当にいけばすぐにコングと同じ目に遭うわけだが。
二人のやり取りに耳を傾けていたつるは、大福を上品に昆布茶で飲み込んでから自分の見解を口にした。
「それが分かっているから、出来るだけの根回しをした上でワノ国に行ったのは分かっているだろう? 考え無しの突撃馬鹿じゃないのはここに居る全員が分かっているよ」
「だから、余計にコング元帥や政府の上層部も頭が痛い」
センゴクはおかきを纏めて握ると口の中に放り込み、またボリボリと音を立てる。のり塩とカレー、醤油の香りと味が口の中に広がる。
この中で“俺”を擁護する意見を口にしたのは、大きな恩のあるゼファーだ。それでも極力、私情を挟まないように客観的な意見を述べる。
「金獅子海賊団がワノ国の将軍と手を組んで戦力の再建を図っている可能性が高い、そう報告されれば海軍としてもいずれは動かざるを得ん。
ロジャーとの戦いでせっかく金獅子海賊団が壊滅規模の打撃を受けたんだ。それを建て直された時のことを考えれば、大きなリスクを払ってでもワノ国に向かう価値はあるだろう」
とはいえ自前の少数部隊だけで海軍本部にも世界政府にも一方的な報告だけを上げて、一国に突っ込むような真似は流石に擁護しきれるものではなく、話の後半の辺りではゼファーも眉根を寄せて困った表情を浮かべる始末。
どうにも問題児扱いをされている“俺”だが、四人共、嫌っている様子はなく問題のある部分も含めた上で人柄とその手腕を認めている節がある。ろくに知りもしない人間が風評だけで罵ったなら、睨みつけるくらいはするだろう。
「そこを踏まえた上で行動してのけるから、アイツは頭がいい。馬鹿だがな! それに味方なら頼もしい事この上ない。アイツほど昇進と降格を短期間で繰り返す海兵は他にはおらん。一カ月の間に何回昇進と降格を繰り返すのか、話のタネになるくらいだからな」
「ガープ、お前と同じくらいに扱いにくい奴がいたせいで、コング元帥ばかりか俺も頭が痛い。それに奴は相手が海賊だとしても、えり好みをする。暗に露骨に、表立っては屁理屈をこねて、それを正当化するときた」
「ふふふ、あの子は市民に被害が及ぶのを一番嫌うからね。戦力的にはロジャーや白ひげともやり合えるのに、ロックスの残党をはじめ特に凶悪な海賊共や不祥事を起こした海兵の身内の始末ばかりするわけさ」
つるの言う通り、ピースメイン結成以前から“俺”は主に海軍の内部監査や潜入捜査などの裏仕事や汚れ仕事を多くこなしてきており、リンリンとペアを組んで一気に戦力を増やしてからは、対峙する海賊をえり好みする我儘を理屈と武力で通すようになっている。
命令に全く従わないわけではないのだが、一般市民の安全よりも海軍や政府の面子を優先するような命令の場合、あの手この手で命令を反故にするか命令が届かなかった事にする名人だ。その手腕にはこの場に居る四人も時に助けられたこともある。
「まあいいじゃないか。海を平和にするには考えようによっちゃ、アイツのやり方が手っ取り早いのも確かだ。
それにやる時はやる奴だ。今のピースメイン隊の戦力を考えても見ろ。バスターコールを仕掛けても返り討ちにされるんじゃないか? 奴は攻め手には欠けるが、守る戦いや負けない戦いに関して言えば海軍随一だぞ?」
ガープの台詞にセンゴクやゼファーはつい反射的に、ピースメイン対バスターコールの戦闘を想像してしまった。
五名の中将と十隻の軍艦による徹底殲滅、冷酷非情なる破壊を齎すバスターコールに対し、準大将級とも称される“俺”に加え大将級のリンリン、カイドウ、準大将級のバレット、既に将官級の戦闘能力を持つとされるリンリンの子供達、カイドウ直々に鍛え上げられたキングことアルベル。
どちらも国家戦力規模だが、正面から戦ってどちらが勝つのかと聞かれたら……。
「ピースメインだな」
とセンゴクは大きな溜息と共に答える。普通、バスターコールは発動される側にとっては、絶望や死刑宣告に等しいのだが、ピースメインはそれを跳ねのける圧倒的武力を持っている。
ピースメインのトップ四人を同じ数で抑えるには、この場の四人でもないと今の海軍では不可能だろう。
「大将を二人以上組み込めばバスターコールでも勝ち目はあるが……」
通常編成のバスターコールでは勝ち目無し、と迂遠に応えたのがゼファーだ。
「考えるだけ無駄な事はおやめ。あの子は海軍を裏切らないよ。裏切るとしたら海軍と政府があの子を裏切った時さ。それに今となっちゃコング元帥だってあの子の扱いには、嫌っていうほど慎重を期すだろう?
ルナーリア族の子供を捕まえていた実験施設の件、神の谷事件もそう。ウォッカ王国やホーミング聖一家の移住の件と合わせて、表に出ない分も含めてあの子の功績と問題はどっちも大きいから」
「おつるさんの言う通り、奴がこれまで横紙破りスレスレのことをしても降格や謹慎、減俸程度で済んできたのは奴の功績が大きいからだ。
功績だけを見ればガープと同じく海軍の英雄と呼ばれてもおかしくはないし、ゼファーの家族が襲撃を受けた一件以来、海兵の家族への警備が見直されたから、上級将校の中にも奴を慕う者が増えた」
その慕う者の中でも一番の大物であるゼファーに、センゴクは意味ありげな視線を向けたが、別に非難する意図があったわけでも、なにか含むものがあったわけではない。
海兵の家族が襲われるばかりか、人質に取られてやむなく内通者に仕立て上げられるリスクを抑える為にも、家族の安全を確保するのは必要な事だ。もちろん相応のコストは発生するがリスクの方が大きいと海軍と政府の上層部は判断し、警備を厳重に固めている。
センゴクの視線を受けたからというわけではないが、ゼファーが更に“俺”が追放されたり投獄されたりしない最大の理由にして、特大の爆弾を口にした。
「それに今、海軍から追放しようものならリンリンとカイドウはどう引き留めても、一緒に着いて行くぞ。というよりもピースメインの全員が海軍から去るだろう」
「その通りだな。しかもアイツはエルバフとの関係も深い。羊の家に入り浸っていたからな。世界政府との関係が破綻するまではいかなくとも、悪化はするだろう。
ピースメインという大将数名分に匹敵する戦力の喪失に世界一の強国との関係悪化か! 胃に穴が開きそうだな!」
「笑い事じゃない! もしそんなことにでもなって見ろ! 海軍の中から第二、第三のロジャーや白ひげを出すようなものだ。奴の市民の安全を最優先するところは、海兵の模範にしてもいいくらいなんだが……」
「あまり真面目に考えすぎるものじゃないよ、センゴク。あんたやコング元帥が頭を抱えるのは可哀そうだけれど、それ以上にずっと多くの人々が救われて、海の悪党共と海軍の汚点が捕まっているんだから、我慢おし」
つるの言う事はもっともではあるのだが、次期元帥の地位を確実視されているセンゴクにとっては、コングよりもずっと長い期間、付き合わなければならないピースメインの事を考えると今から頭痛と胃痛がタッグを組んで襲い掛かってくる気持ちだった。
そんなセンゴクに追撃を加えるようにガープが湯呑を傾けて、玉露を一口味わってから、こんな未来予想を口にし始める。
「そうだな、どんな理由にしろアイツが海軍を離れるとして傭兵団か何かを作るのなら、まだマシだろう。政府と海軍の手綱から放れても、やることは今とあまり変わらん」
「それでもエルバフあたりに拠点を置いたとしたなら、世界一の強国に世界有数の傭兵団が籍を置くようなものだ。ますますエルバフとの関係には、配慮しなければならなくなる」
たとえ世界政府最高権力者“五老星”でも、頭が痛いだろうよ、とセンゴクが愚痴のように零すのを聞きながら、ガープは未来予想を続ける。
「だが、もし、アイツが死んだとしたらリンリンとカイドウは枷のない状況で好きにするだろうさ。
リンリンはひょっとしたら、羊の家を引き継いで大人しくするかもしれんぞ。そうしたら世界最強のマザーの誕生だな! リンリンの子供達がどうするかはわからんが、こっちは幸い、リンリンほどの怪物じゃない」
「運よくリンリンがマザーを引き継ぐとしても、カイドウがどうなるかが問題だね。カイドウが動けばキングは確実、バレットはついてゆくか独立するか半々かしらね。ゼファーはどう思う?」
「傭兵になるならまだマシだろう。ウォッカ王国に戻る可能性はまったくないが、最悪なのはカイドウが海賊団を結成して、政府と海軍に敵対する可能性だ。
リンリンとカイドウ本人達には政府への忠誠心はない。海軍にはかつての古巣ということで、少しは義理立てくれるかもしれないが、敵となったら容赦してくれる性格ではないからな。
先程のセンゴクではないが、あの二人は海賊になったら第二、第三のロジャーと白ひげになれる才覚の持ち主だ。そしてあの二人が今、海軍に所属しているのは……」
ゼファーの言わんとしている事は、センゴクも痛いほど理解している。センゴクばかりかコング元帥と政府上層部も。
「あくまで奴が海兵だから、だな。奴が海軍を離れたら、海軍に残る理由は消えてなくなる。最初はリンリンと二人きりだったのが、今となっては倍どころでは済まない戦力を持ったものだ」
「まあ、このまま海軍に所属し続けてくれるのが最良だろうけれど、あの子を含めリンリンもカイドウもバレットも、大将にはなりたがらないだろうね。その上、大将にしたらいけない子達だよ?」
分かるだろう? と目線で問いかけるつるに対して、ガープは笑って、センゴクは口をへの字に曲げて、ゼファーは我が身を振り返って、同じ言葉を口にした。
「あいつらは絶対に天竜人を殴る」
下手をしたら殺しかねない。それが海軍上層部共通の見解であった。
海軍本部大将ともなると厄介な事に天竜人直属の部下になってしまう。滅多な事で声が掛かるわけではないが、主に人身売買のオークションに参加したり、政府加盟国を来訪した天竜人が危害を加えられた時、大将はその報復の駒として使われる。
海軍の最高戦力でありながら、同時に世界で最も貴い血族とされる世界貴族“天竜人”の駒であるという事実は、現在、大将の地位に就いているセンゴクもゼファーも、そしてこれまで大将だった者達にとっても恥辱に等しい事実だろう。
しかし、“俺”率いるピースメインの面々は仮に大将になったとしても、躊躇せずに天竜人をぶん殴る。その光景がこの場に居る四人には、あまりにも簡単に想像できるのだった。
部隊名ピースメインはワンピースの前身にあたるロマンスドーンの中で語られた、無法者の海賊モーガニアを狩る海賊ピースメインから取っています。
“俺”について。
本話でガープに語ってもらいましたが、守る戦い、負けない戦いを大得意としています。その分、リンリンやカイドウのように異常なタフネスと異常な防御力と異常な回復力を兼ね備えた相手だと勝ちきれないタイプ。
時間稼ぎをしている間にリンリン、カイドウ、バレットが来るので、部隊で戦っている場合には問題にならない欠点です。
HP、DEF、DEX、LUCの値だけなら大将級。
また前回の後書きで水を差された気持ちになってしまった方々にはすみません。
ウケると思ってしたことが失敗すると、悲しいものですね。申し訳ない事をしてしまいました。
思い付きで既出の設定を変えるのは慎みます。