お前も海兵! お前も海兵! 作:スカウトマニア
◎月◎日
黒炭オロチの圧政と金獅子海賊団の横暴で荒廃したワノ国を少しでも助けられればと、俺達はしばらく滞在して復興を手助けする事とした。海軍本部には金獅子の残党狩りと物資の補充、怪我人の手当ての為に滞在すると伝えてある。
こういう時、ピースメインの能力者達は役に立つ面子が揃っている。
食料関係で言えば飴を生み出すペロペロの実の能力者ペロスペロー、餅を生み出すモチモチの実の能力者カタクリ、ビスケットを生み出すビスビスの実のクラッカー、極めつけはあらゆる物質を食材に変えられるククククの実の能力者シュトロイゼン。
食料を提供するという観点に立ってみると、そこらの自然系の悪魔の実よりもはるかに役に立つ。
まだ覚醒の段階に至っていないにせよ、荒廃したワノ国で貴重な飴という甘味、保存がきいて軽く持ち運びやすいビスケットは作り出される端から次々と人々の手に渡ってゆく。
特に人々を笑顔にしたのはカタクリの餅だ。ワノ国の人々に親しみがあり、めでたい時の食べ物である餅は、オロチの支配から逃れ、正当なる後継者おでんが帰還したワノ国の人々にとって福音となる食べ物かもしれない。
最後にシュトロイゼン。能力者となって長く、舌の肥えたリンリンをこれまで満足させてきた彼の料理の腕は間違いなく本物である。
能力で作った食材は、リンリンからすればお腹にはたまるが美味しくはない、という評価だった。バレットやカイドウのような少年兵上がりからすれば、食べられるだけでも上等、リンリンが言うほどまずくはないという評価になる。
食べる側の舌の肥え具合や生い立ちで評価は変わる、と言ったところ。
俺はと言うとバレットらと同意見だった。栄養価第一の携行食料や保存食に慣れた舌だからな。それに軍の食事が美味いと補給が途絶えた時に粗食に対する耐性が落ちるという問題もある。
もちろんそうならないように補給線の確保は鉄則なのだが、こんな海だから何があるか分かったものではない。美食にばかり慣れているとそれはそれで問題に繋がるのだ。
さてシュトロイゼンだがリンリンからの美味しくないという評価に、料理人としての矜持が刺激されたのか、能力で生み出した食材で調理した料理はもちろん、食材そのものも美味になるように能力と調理技術を徹底的に鍛えて今日に至る。
能力で作り出す食材もある程度は制御が叶い、戦闘の余波や暴政で荒廃した家屋や瓦礫もシュトロイゼンの手に掛かれば、ワノ国の人々の食べ慣れたかつ美味なる食材へと変わり、料理に腕の覚えのある者達に次々と供給されて、ワノ国全土に回されている。
ペロスペローもカタクリもクラッカーもシュトロイゼンも、ほとんど不眠不休で食料を作り出してくれていて、その様子は金獅子海賊団との戦闘中よりも真剣かもしれない。
奴らとの戦いと違って、今、彼らが挑んでいるのは飢えている誰かのお腹と心を満たし、笑顔にする戦いだ。俺としてはこちらの戦いの方がはるかに誇らしい。ペロスペロー達もそう感じてくれていたら、どんなにいいだろうか。
さて食料関係の貢献はざっとこんなところ。いかんせん少数部隊の為、俺達の手持ちの食料ではわずかな人々の口に入る分しかないし、医療物資にしても似たようなものだ。
そうなると他には瓦礫の撤去や国土復興に備えたインフラの整備、治安維持あたりが俺達に出来る事となる。ワノ国各地の大名達や侠客もおでんの名の下に連携しているというし、どん底まで落ちた以上、後は這い上がるだけだ。
ここでカイドウやリンリンといった能力者も実は役に立っている。
リンリンのソルソルの実はこれまでとっ捕まえてきた海賊の寿命を消費して、無機物に仮初の命と人格を与える事が出来る。リンリンはそうして魂を与えた相手をホーミーズと呼び、忠実で陽気な小間使い代わりにしている。
直接、リンリン自身の寿命を消費して強力な個体を生み出す事も出来るが、現状、リンリンがそうして作り出した存在は、リスクが大きすぎる為に多くはない。
で、だ。このワノ国でも多くのホーミーズが生み出され、瓦礫自身が移動したりあるいは木材同士ががっつり肩を組み合って、即興の小屋になったり、あるいは炎や水に仮初の命を与えて火災や水害を事前に防ぐなどして、大いに人々の助けとなった。
特に兵器生産の為に著しく汚染された土壌の改善には、大きな活躍をした。土地や河川を汚した廃液や廃棄物に仮初の魂を与えて、自分の意思で汚染の原因そのものが土地から離れるのである。
魂を操り生命を生み出すその力を目にしたワノ国の民はリンリンを黄泉の女神と畏怖し、生み出した生命で大地の穢れを浄化する姿に地母神と畏敬の念を深めていた。
おお、お前、女神になったぞ、リンリン。
我が部隊の誇る二枚看板の残る片割れ、カイドウはというと、ウオウオの実の能力で変身した青龍姿の時は荷物と人の高速輸送を可能とするし、風雨を起こしてある程度の天候操作もできる。
その力を使って日照りの土地には雨を、長く続く雨に悩まされている土地があれば雨雲を散らして太陽の恵みを齎し、まさに天を支配する龍神のような活躍ぶり。
そのくせ、ごくたまにだが、青龍姿の頭や掌の上にワノ国の子供を乗せて飛んでやったりしているから、ウケがいい。随分と丸くなったもんだが、娘のヤマトの影響もあるな、あれ。
リンリンが冥府と大地の女神なら、こっちは天翔ける龍神だとさ。
そうそうあいつのことも忘れずに記しておこう。
バレットである。未だに海兵じゃないと駄々をこねるあいつだが、ワノ国の復興作業に関しては始める前は反論をいくつも重ねてきたが、いざ始まると黙々と割り振られた仕事をこなしている。
バレットの食べたガシャガシャの実は触れた無機物や、無機物同士を合体させる能力が得られる。合体人間というわけだな。バレットにはこの能力を使って、復興作業を阻む大量の瓦礫撤去と兵器工場の解体、兵器の押収に役立ってもらっている。
印象的なのはそのガシャガシャの実の能力で廃墟と瓦礫を巨大ロボットにして回収していた時、そのロボットに格好いいと目を光らせていた子供達が、能力を解除した後もついて回っていた時の事だった。
纏わりつく子供達を流石のバレットも殴って追い払えなかったのだが(よくぞここまで倫理観が育った!)、面倒くさそうに能力でそこらの廃材を組み合わせてロボット人形を作り、子供達にこれをあげたのだが……。
ロボット人形を貰った子供達と来たら、まあ、大喜び。バレットに満面の笑みでお礼を告げるものだから、バレットは変な表情のままその場で固まった。
戦場で勝利を称賛されることはあっても、子供におもちゃをプレゼントしてありがとう、なんてお礼を言われるのは生まれて初めての経験だろうさ。……書いていてちょっと悲しくなるな。
なんだか分からないが調子がおかしい、という顔で首を捻るバレットに近づき、そのごつい肩を叩きながら俺は俺なりに考えて声を掛けた。
誰よりも強くなれば世界最強、だが誰よりも多くの人々を助ければ世界最高になれる。世界最強と世界最高、好きな方になるといい。バレットは何も言わなかったが、あいつの心に少しでも響いてくれると嬉しい。
そうそう、再びガシャガシャの実の能力で廃材の巨大ロボットを作り出す時、子供達のリクエストに応えて八本の手足と前後に顔を持つデザインにしていた。ワノ国の昔話に出てくるリョウメンなんとかという鬼神だそうで、バレットは黒鉄の鬼神なんて呼ばれていた。
◎月◎日
オロチの政権転覆と金獅子海賊団の追放、ワノ国の復興の手助けと忙しかった俺達だが、そのお陰でおでんを始めとしたワノ国の人々とはかなり打ち解けられたと思う。
所詮、俺達は世界政府側の人間だが、立場と個人とを分けて接してくれたからだ。まあ、俺達としてもおでんとは白ひげ海賊団、ロジャー海賊団時代にちょっとした縁のある相手だ。まあ、元海賊の将軍なんてのが居てもおかしくない世の中か。
それでだ。色々と助力したお礼をしたいと言われたんだが、ワノ国の身分を貰うわけにはいかないし、これから本格的な復興が始まるのに金品を貰うわけにもいかない。
そう渋った俺達に対して、おでんがくれたのは土地だった。ワノ国本土から離れた海域に存在する、『鬼ヶ島』という角の生えた髑髏めいた山のある島をくれたのだ。
今後、俺達がワノ国で活動する時の拠点にすると良い、という話だったが、流石に無償提供はまずいということになり、あくまでも土地の賃借という形に落ち着いた。
かなりの大きさを誇る鬼ヶ島だが、残念ながら俺達ピースメインは人員が少ない事もあり、正規隊員を常駐させる人員の余裕がない。なので普段はワノ国の人々とホーミーズに管理を委ねる事にした。
いやあ、鎖国中のワノ国に非公式拠点の確保かあ。バレたらまた降格だ。もしそうなったら、これで何度目だ? 両手の指じゃ足りないか。ハッハッハッハ。
◎月◎日
独断でワノ国に吶喊したことを問題視され、二階級降格した。今日から晴れて少将から大佐だ! リンリンには副官の俺と階級が同じじゃ格好がつかねえな、と爆笑された。なお俺以外の隊員に階級の変化はなしだった。
◎月◎日
降格した翌日、シキは取り逃がしたが金獅子海賊団を壊滅に追い込んだ功績で一階級昇進した。これで大佐から准将だ! どうだ、とリンリンに顔を向けると呆れた顔をされた。
まあ、長い付き合いの中、俺が降格して、昇進してを繰り返しているのを傍で見て来たからな。いつものことだと呆れているのが見て取れた。
それよりもバレットに真顔で、あんたのそういうところは見習えねえな、マジで。と言われた。真顔で、言われた。心の軋む音が聞こえた。
◎月◎日
海賊王と誰もが認めるロジャーが世界政府に自首した。そのまま投獄され、厳重な警備の下で監視されているが、ガープがなにかロジャーと言葉を交わしたらしい。戻ってきたアイツの顔はこれまで見たことがないほど、険しいものだった。
ロジャーは病で余命いくばくもなく、病気でくたばるくらいならと考えたのかもしれんが、それが全ての理由の筈がない。ドデカい悪戯を企んでいる悪ガキの笑みを百億倍も厄介にした笑みを浮かべていたのだから。
◎月◎日
ロジャーの処刑まであと一週間となった日、シキの奴が単身マリンフォードに攻め込んできやがった。生憎とリンリンとカイドウは別件で出払っていた。カタクリやアルベル達を率いて、悪党共を片付けて回っている最中だ。
シキを相手に並みの佐官では話にもならない。中将以下では時間稼ぎが出来れば御の字と言っていいだろう。見聞色で感知したシキの侵入ルートを察した俺は、真っ先にそこでシキを待った。
愛刀二振りをひっさげ、フワフワの実の能力を利用してあっさりとマリンフォードに侵入したシキの表情は怒り狂っていた。
あれだけ自分を手こずらせたロジャーが自首した事が信じられず、認められないのだろう。決着を付けるのなら、自分の手で、か。男の子だねえ。
シキはすぐにでも俺に斬りかかってきそうな様子だったが、俺が用件は分かっていると告げて電伝虫を取り出すのを見ると、警戒して動きを止めた。俺をそれなりに厄介な相手だと知っているから、迂闊には動けんわな。
俺の持ってきた電伝虫は牢獄のロジャーと繋がっているものだ、と告げるとシキは目の色を変えた。
シキを相手に相討ち覚悟で突っ込めば、ここで仕留められるがまず俺は死ぬ。進んで死にたい性分でもないし、シキの足を止めるにもロジャーが一番の手だと判断し、無茶と無理を通して電伝虫を用意してもらったのだ。
俺が放り投げた電伝虫をシキは慌てて受け止めた。好きに話せ、とそれだけ告げて、俺はその場で直立不動。俺に仕掛けるつもりが欠片もない事を察すると、シキは青筋を浮かべながら電伝虫の向こうのロジャーに怒鳴るところから始めた。
支配のシキと自由のロジャー。二人の思想は根本からして相容れない。だが、強大なライバルの思いもかけない最期を認められないシキを相手に、ロジャーは面白がるように笑って答えている。
あと一週間で処刑される人間とは思えない陽気な声で話すロジャーに、シキは更に怒りを募らせ、顔を真っ赤にし、吠えるように言葉を叩きつける。結局何処までも相容れない二人だが、お互いに対等のライバルだった事実は変わらない。
ついに堪えきれなくなったシキが電伝虫の通信を切り、憤懣やるかたない顔で俺を睨みつけてくる。納得は行かんか。シキは俺の手でロジャーを殺してやる、と拗らせた発言をするが、俺も時間稼ぎは十分に終えていたからな。
そうしてバレットが俺とシキの間に降り立った。お互いにロジャーに対して思うところのある者同士だが、ロジャーの迎える結末にある程度、納得のいっているバレットと頑として認めないシキは鏡合わせのような存在だと思う。
どけ、小僧と吠えるシキを相手にバレットもまた頑固なロートルがよ! と吠え返して二人は真っ向からぶつかった。ロジャーの右腕“冥王”レイリーともタメを張る実力に成長したバレットとシキの戦いは一進一退だったが、結局シキは敗れて俺達に捕縛された。
俺とバレットが戦っている間にマリンフォードに居たガープとセンゴクが合流し、さしものシキも勝ち目はなく、俺達はなんとか施設の一部が破壊されただけに被害を留めて金獅子のシキという大物海賊を捕らえるのに成功したのだった。
海楼石の拘束具でガチガチに固めたシキはロジャーの隣に放り込んでおいた。好きなだけ喋るといいさ。それで少しはライバルとのしこりを小さくしておけよ?
◎月◎日
ロジャーの奴、やりがった! あんにゃろう、処刑される寸前、ひとつなぎの大秘宝について世界中に宣言しやがったのだ。この世の全てとか言うなって! 欲に駆られた馬鹿が山のように、いや、海を埋め尽くす勢いで出るぞ!?
◎月◎日
誰が言い出したのか、ロジャーの処刑後に迎えた新たな激動の時代を、大海賊時代と世間では呼び始めた。端的に言おう。俺としては大海賊時代はクソだ。これまでだったら一般市民で生涯を終えたような人間までもが欲と夢に駆られて、海賊となって海に出やがる。
ロジャーめ。カタギに手を出さないんなら海賊じゃなくって、冒険家を名乗ってくれてりゃよかった。そうすれば大海賊時代じゃなくって、大冒険時代とか呼ばれたろうし、市民への被害も今よりはマシだったんじゃないか。
お陰で新世界だけじゃない。東西南北、四方の海さえも新しい海賊たちが次々と産声を上げている。いいだろう。だったら俺も腹を括って、海兵としての役目をトコトンまで果たしてやるともさ!
◎鬼ヶ島を手に入れた。
◎大海賊時代が始まった。
◎バレットは「世界最強」or「世界最高」ルートが解放されました。
シュトロイゼンの食材についてはこのお話の中で、あのような解釈です。
次はロビン、テゾーロあたりまではやりたいところ。
あんまり長くやるとボロが出てくるし、サクッと終わらせたいですね。