チート『命の交換』を手に入れた   作:嘘吐き

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pandora box

 

 

 やあ、僕だよ。

 早速なんだが、アディショナル女子からめちゃくちゃ視線が飛んでくるんだよ。不用意に呟いてしまった言葉に心当たりがあるようで、何故それを知っていると一瞬警戒の顔を見せたら今度は笑ってきやがった。怖い。

 

 ……やばい、誰か助けて。

 

 

「ねえ君。名前は?」

「田中太郎です」

「うははー流れるように偽名使ったー!」

 

 

 可愛い店員さんからのナンパみたいな行動に普通ならときめいて連絡先を交換するくらいはするのかもしれない。名前を知られると後が怖い。偽名もあっさりバレた。まあ、あれだとバレない方がおかしいか。

 

 

「店長、ブレンドコーヒーと三色団子」

「はいよ」

 

 

 店から出て帰りたいが、外にはバイクがある。

 バイクのナンバープレートは誤魔化せないし、逃げようとしても間違いなくその情報だけはバレる。八年前の相打ち事件からこの街にはヤベぇ実態がある事を知っているから無用心に情報を明かしたくはない。

 

 

「––––で、どうしてあんな質問したの?」

 

 

 今度ははぐらかさないで、と告げているようで頭に手を当ててため息を吐く。ああくそ、絶対に殺される。直感に過ぎないが、僕はこの女の子に勝てない。この手の勘は外した事ないから嫌なのだ。

 

 

「……自分の才能が怖いな」

「急に自画自賛!?」

「そう、怖いな。怖過ぎて笑えない」

 

 

 才能というのなら僕のはギフトに過ぎないのだけれど、このギフトが正確だからこそ怖いのだ。アディショナルタイムに突入する人間なんて見た事がない。

 

 死は平等だ。

 この目で見た死の記録は間違いなく実行される。僕が介入しない限りの話にはなるけれど、それは間違いないのだ。だからこそ死を超越した表示に笑えない。

 

 

「君はゾンビか何かか?」

「おぉーっとこの美少女たる私を見て第一声がゾンビだなんて」

「まあなんか変人っぽいけど」

「ぶっとばすぞわれぇ」

 

 

 見てはいけないものがある。

 それは過去で学んだのだ。パンドラの箱を開ければ好奇心を満たす希望はあれど、絶望が待っている。結果二人の死体を見た事があるのだから。

 

 僕の馬鹿野郎、動揺していたとはいえ何故口にしてしまったのだろう。

 

 

「(四年と三ヶ月と十二日……ロボットって訳ではないな。いや、造り変えられた?そんな技術……いやまさか)」

「此方ブレンドコーヒーと三色団子だ」

「ありがとう店長」

 

 

 毒入ってないよね。

 コーヒーは香り高く、そして一級品だ。そして何よりみたらしとあんこと抹茶の団子セット。間違いなく美味い。食わなくても分かる。

 

 

「どうして分かったんだ?」

「何に?」

「……あくまでシラを切るのか?」

 

 

 このまま睨み続けても力でなんてあり得そう。

 僕は蛇に睨まれた蛙。なんならサメのいる海に餌巻きつけて飛び込んだようなものだ。チート?一体いつから戦闘が出来ると錯覚していた?

 

 

「貴方の娘さん?」

「まあな」

「そう……娘さん四年と三ヶ月で死ぬって言ったら信じる?」

 

 

 それは突飛な話だ。

 聞けば呆気に取られて馬鹿馬鹿しいと言える言葉も、この人にとっては違ったようだ。というか、この女の子も手に独特なタコが出来てる。竹刀ダコではなさそうだけど。

 

 

「何故それを……」

「原因はやっぱ知ってんのか。まあ、僕じゃなかったら分からなかったと思うよ」

 

 

 団子に齧り付く。

 甘くて幸福な時間だと感じるのに落ち着けないこの空間に眩暈がしそうだ。咀嚼しながら重苦しい空気に目を瞑りたくなった。

 

 

「君はどこでそれを知った?」

「ん?誰かから聞いた回し者とでも思ってるの?生憎ただのパンピーですことよ」

「ただのパンピーが千束の心臓について知れる訳がないだろう」

 

 

 心臓……人工心臓って奴か。

 だから表示が死んでいるけど生きているという認識になってるのか。アディショナルタイムの正体は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()不可解な条件のみ起きるようだ。勉強になった、今後活かせるとは思えないけど。

 

 

「僕は顔を見ただけで名前と寿命が見える…って言ったら信じるかい?」

「ふざけているのか?」

「本当だよ。顔写真でもあれば名前くらいは特定出来る」

 

 

 まあ法螺話に聞こえるだろう。

 僕も同じ立場なら同じ事を言っていると思う。

 僕がこの女の子についてそんな事を呟いた原因が外部からの情報の持ち込みだと思うのなら話は別だ。

 

 此処の店自体が多分普通ではない。スパイか探り屋か疑われているのかもしれないし、もしそうだと相手の中で確定されてしまえば何が起きるかわからない。単純計算で二対一の状況だ。店長さんが脚を何かやっていてもガタイの大きさから油断出来ないし。

 

 

「この三枚の写真に写っている名前を答えられるか?」

「えっ、それDAの」

「答えられるならその法螺話を信じよう」 

 

 

 法螺話だと分かったらどうなるのか想像もしたくないが、出された写真を見る。僕の眼は本気を出せば寿命の原因さえ特定出来る。写真に写っている三人の写真は分かりやすく、銃を片手に逃走を図っているように見えるけど……

 

《城ヶ崎天樹 寿命 3月5日》

《来栖仁地 寿命 死亡[射殺]》

《キャンルプ・グレイズ 寿命 3月5日》

 

 少なからず顔隠せよ。

 犯罪者なら顔を知られない方が得が多いのに。

 

 

「流石に無理だって––––」

「城ヶ崎天樹、来栖仁地、キャンルプ・グレイズ。来栖仁地は射殺されてる」

「……えっ?」

「合ってる?」

「ミズキ」

「今調べてるわよ。おっ、ヒットした」

 

 

 店の奥の和室から声が聞こえた。

 見てくれはいい理知的な印象を漂わせた美人さんがパソコンを手に弄びながら何かを調べている。エンターキーを押した音と同時にその正解がわかったらしい。

 

 

「あぁー、ちょー時間かけて調べても分からなかったのに。つか、顔変えてるからヒットしなかったのかぁ」

「マジで合ってたの?」

「ビンゴ。しかも来栖仁地はDAにやられてる。DNA鑑定にクソ手間取ってたから、発見まで時間がかかったらしいけど。アドレスから現在地を特定っと」

 

 

 女の子は信じられないものを見る目で驚愕している。この世界に超能力のような異質な力は存在しない。だから僕の力は異端なのだ。命を消費し、他人を生き返らせる事が出来る最高位のチートを持っている。

 

 まあそんなチートを持っていても日本では宝の持ち腐れだろうけど。

 

 

「君、なんなの?」

「ちょっと不可思議なものが見えるだけのただのパンピー」

 

 

 三つ目の団子を頬張る。

 餡子もみたらしも美味だが、僕は個人的に抹茶が好きだ。こんな空気でなければ美味しくいただけたのだが。

 

 

「!」

 

 

《城ヶ崎天樹 寿命 8年6月5日》

《キャンルプ・グレイズ 寿命 13年9月19日》

 

 ……おいちょっと待て。

 僕が名前を教えたという形で介入したから、寿命が変わってしまった。というか、この人達の寿命が変わったと『死の帳簿』は記している。

 

 

「………」

 

 

 ちょっとだけ本気を出す。

 奥歯を噛み締め、目を見開くと二人の死因が浮かび上がる。

 

《城ヶ崎天樹 寿命 8年6月5日[脳梗塞によるショック死]》

《キャンルプ・グレイズ 寿命 13年9月19日[焼死]》

 

 寿命が延びた。

 多分あの三人組は犯罪組織の人間なのだろう。だとしたら何故寿命が変わった?いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 僕が介入しなければというプロセスは結構バラつきがあったりする。例えるなら助言は最も変えやすい事実だろう。死の時間の前に警戒を促せばそれだけでも未来が変わる。それ以外は案外原因が固かったりする。ぶつかったり視界に入れた程度では寿命を変えるほどの力はない。

 

 僕が介入しなければ、見えた寿命は例外なく実行される。

 僕が介入するはずのない存在の寿命が延びたという事は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だとしたらこの店は何なんだ?

 犯罪組織を取り締まるのは警察が基本的。この店は警察って訳でもないだろう。

 

 

「DAってなんだ。日本に超法規的措置を取る機関でもあるのか?」

「知らなかったのか」

「ただのパンピー!以下略!」

 

 

 その言葉通りなら国が認めた暗殺組織でもあるのか。犯罪組織に対して超法規的措置を認められた秘密機関……いや、超法規的措置ってアレか!八年前の女の子!銃を持ってるはずがないから当然と言えば当然か!?

 

 

「超法規的措置が許可された秘密機関って事かぁ……そりゃ平和が維持されてる訳だ」

「因みにそれを知るものは関係者でなければ生かしておかないという決まりもあるんだけど」

「ぶふっ!?」

 

 

 思わずコーヒー吹いた。

 いや考えてみてもそうか。一般人が黒の組織とか知ってたら射殺ものだ。眉間に三発待ったなしだろう。逆の立場からしたら僕はただ怪しいだけのお兄さんだろうし。いや死にたくないけど、死にたくないけど!大事なので二回言うよ!!

 

 

「君、名前は?」

「田中太郎」

「本名だよ」

「……星神カケル」

 

 

 あかん、咄嗟に偽名が思い浮かばなくて本名が出てしまった。情報を渡すなら最低限だと決めたはずなのに。いや怪しいお兄さんのままだと帰らせてくれないと思っていたけどせめて偽名で通したかった。

 

 

「カケル君、私から提案があるんだけど」

 

 

 女の子が僕に迫る。

 若干顔が引き攣りながらも整った顔立ちとほんの少しいい匂いにどぎまぎしてしまう。童貞みたいな反応になってしまう。

 

 逃げられない。

 背中に冷や汗がドバドバと流れながらも表情だけは崩さない。余裕などないが見栄を張るだけ張るのが精一杯だ。

 

 そして女の子は口を開いた。

 

 

 

「君、此処でバイトする気ある?」

「……………はっ?」

 

 

 

 とりあえず言わせてくれ。

 冗談は寿命のアディショナルタイムだけにしてほしい。

 

 





 好奇心は猫を殺す。
 パンドラの箱には希望と絶望が詰まっている。開けることなかれ。

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