チート『命の交換』を手に入れた 作:嘘吐き
ボチボチやっていこうと思います。学校も始まりゆっくりになりますが、書いていきたいと思います。励ましてくださった方々、ありがとうございます。
可愛い女の子に囲まれながら、僕は内心涙を流した。
確かに憧れた事はある。なんなら欲望に忠実な男子なら一回は想像をした事があるであろう。逆ナンという奴を、ハーレムという奴を。それは妄想の産物、現実ではあり得る事のない甘酸っぱいシチュエーションだったり、妄想と分かっていても期待してしまうものではある。
なお、ドキドキは命の危険であるのだけど。
いやー、ラブコメの神様も中々粋な事をしてくれる(白目)
「……お久しぶりだね」
「ああ久しぶり、あの時のナンパ以来か?元気そうでなによりだ」
顔が引き攣る。
そして根に持っている。遺書を書いておくべきだっただろうか、最後の晩餐が鮭のホイル焼きと味噌汁とサラダとキノコグラタン……案外悪くないな。まずいな、若干諦めちゃってるよ僕。
何が目的だ?
僕の能力が漏れた?
それともスパイ疑惑でも出てきたのか?
落ち着け。状況を理解しろ。
一つ言えるとするなら
僕を殺すなら精々多くても二人で充分な筈、僕にリコリスが四人もいる。しかもファーストとセカンドが三人も。
「(DAがわざわざ不殺、いや……)」
手を下すのか迷っているのか?
僕を調べる事は出来る筈だ。まあ多分、データベースには大した情報がないと思うけど。いや……だからこそなのか?
「(幾らなんでもファースト一人、セカンド三人は過剰過ぎる)」
わざわざ僕を殺すなら春川フキくらいで事足りる。我ながら脆弱さに呆れて笑えもしないが、まあ事実だ。この戦力は明らかに過剰過ぎる。
「––––それで、僕になんの用かな?」
「場所を変える。ついてこい」
「こういうの初めてなので優しくしてください」
「それ男のオマエが言うセリフか?」
拳銃突きつけられる逆ナンとか誰も想定してないでしょ。
★★★★★
「なんでファミレスなの?」
「木を隠すなら森の中、此処なら他の高校生とかいるから会話も飛び交って問題ないだろ?」
まあ確かに。JKと言えばファミレスなのは定番か。
だが、構図は四対一のハーレム野郎という事で他の男子高校生がこっちをチラチラ見てる。代わりたいなら代わってもいいよ。拳銃突きつけられるけど。
「えっ、注文するの?」
「頼まないと不審に思われるだろ。オマエも最後の晩餐と思って何か頼め」
「じゃあ期間限定と一番高い奴」
「遠慮しろよ」
いや最後の晩餐って言ったの君じゃん……。
メニューを開き、注文をタッチパネルで終わらせると黒髪の女の子から何かを差し出された。
「これを」
「……通信機?」
「それを装着してください。司令と繋がっています」
「!」
耳に装着するタイプの通信機を渡されて言われたまま装着する。司令ってアレだよな楠木司令官だったか。悪意を悟らせない平和を維持するマキャベリズム思想の組織の親玉。悪意絶対殺すウーマンが揃った暗殺者の統括的存在、怖すぎる。もう声が震えそうだぜ。
『––––こうして会話するのは初めてだな。星神カケル』
そこから聞こえたのは冷徹な声。
人に犠牲を強いる事を躊躇わないような人の声が耳に届いた。それだけで恐怖が倍増する。
「……ミカさんから話は聞いてますよ楠木司令官殿、こんな過剰戦力引き連れて僕に何か御用ですか?」
いやもう帰ってほしい。
物騒過ぎます。銃突きつけられたデートなんてお呼びじゃねえ。
『此処半年、DAでさえ解明できなかった身分や正体がミズキによって暴かれている』
「ミズキさん凄いな」
『ミズキは優秀な情報部だ。だが、人手の多さや情報収集力に必要な機材が此方では揃っている。幾らなんでもミズキ一人で解明できたとは思えん』
そりゃあDAの本部の方が設備がいいだろう。
ミズキさんが幾ら優秀でも、設備の多さや人員には流石に負ける。情報解明が早過ぎる事に違和感が出来てしまったらしい。
『ミズキの他に居るとするなら真っ先に疑うのは貴様だろう』
「つまり、スパイ疑惑ですか?」
『どちらも経歴の偽造は確認出来なかった。貴様はスパイではない』
「じゃあ何故」
『
クソッ、上手い。
同じ立場なら僕でも疑問に思う事だ。普通なら普通の人間を異常な場所に置かない。孤児でも無ければ凄腕の医師でも情報屋でもない。
『貴様が半年前、ミカの権限で『DA協力許可証』を発行、それと同時にミズキの捜査力が格段に上がっている。これが偶然と言えるのか?』
そこまで調べ上げられて僕の情報を掴めなかった故にコレか。客観的に見れば確かに僕は怪し過ぎる。駄目だ、弁解の言葉が浮かばない。
『貴様は何者だ?』
その言葉の返答を窮した。
僕は良くも悪くも能力以外の取り柄がない。そんな人間をミカさんが推薦するなどあり得ない。裏がないからこそ能力的に見ても不自然だ。言い訳も嘘も通用しない。
いやそもそも上層部は僕をどう思っている?
普通の人間の裏に誰かが居ると思っているなら僕を捕らえるか監視すれば尻尾を掴めると睨む筈。それがないって事は監視はもう行われていたのか。
「(どう切り抜けるのが正解だ…?能力は絶対に言えない)」
まずい、逃げ場がない事実と突き付けられた拳銃が今になって怖くなって来た。動揺するな、平静を突き通さなければ疚しい何かがあると疑われてしまう。水が飲みたいのに腕が動かない、喉がカラカラで水を求めて堪らない。
ピリリリリと音が鳴る。
ポケットに入れたスマホが震える。そこに表示されていたのは『偽善者』の文字が出ていた。
「出ろよ。スピーカーにしろよ」
偽善者だけなら誰だか普通は分からない。
これの表示が千束だったら迷わず切られていたかもしれない。
「……もしもし」
『もーっ、待ち合わせ居ないし、ガッツリ遅刻してるじゃん!今どこに居るの!?』
「すまん急用が出来てな。時間ズラせるか?」
『おおいっ!?女の子の約束をすっぽか–––』
「
あの子なら通じる筈だ。
僕と千束の呼び方を変えただけで異常事態だと分かる筈だ。此処にいるリコリスに悟られないように普通に話す。
『分かった、リコリコで時間を潰してるね』
「すまん。迷惑かける」
電話を切る。
少しだけ安心できたのは千束のおかげか。
四方八方から僕を殺せるリコリス達、百戦錬磨の司令官。状況は絶望的だけど、安心出来たのはデカい。
ダラダラ時間をかければそれこそ疑われる。
千束が来るにしても来ないにしても時間稼ぎが出来る相手ではない。
思考が回せるなら、僕にも勝ち目はある筈だ。
暴力で勝てない、言葉遊びで勝てない、けど
この場合の勝ちは『能力を悟られず殺されない事』。
さあ、嘘をつこう。
僕が今出来る最善のハッタリを。
「––––僕は情報屋だ。あくまでリコリコ限定のね」
このハッタリはかなり上等だと思う。
僕が普通なら普通ではないという嘘で誤魔化す事が一番の解決策だ。
『何?馬鹿を言うな、貴様の経歴に偽りは』
「偽りは無いって信用してくれてる辺り、随分信頼があるんだねその情報に。まあ当然か、今まで信頼してきたデータベースが弾き出した答えだもんな。沽券に関わるってか?」
その言葉に司令官の言葉が止まる。
監視されていようが居なかろうが、僕は間違いなく調べられている。データにしろ、日常にしろ僕を調べた人間、情報を信頼できる何かがある。そんな優秀な情報担当者の言葉の方が信じられるのは当然だろう。
「まあいい、僕が売れる情報は精々名前程度。僕はそれ以上の情報を提供しない特殊な情報屋だからね。気付かないのも無理はない」
『そんな情報は聞いたこと』
「ないだろ?当たり前だ。特殊故に依頼は少な過ぎる。名前の特定しかしない情報屋に需要があると思うか?」
一番効く嘘は真実と織り交ぜた嘘だ。
僕は名前を知る事が出来ると言ったが情報屋ではない。その方法を明言してはいない。論点をすり替える。僕が何者なのか知る事で安心さえ与えれば僕の能力まで分からない。追求は出来ない。
『では何故貴様は情報屋をしている。需要がないのだろう?』
「そうだね。あくまで情報屋は趣味程度だよ。僕はDAに興味はないけど、錦木千束には興味がある。だから僕は趣味程度に手伝っている。それだけだよ」
我ながらめちゃくちゃだ。
趣味で情報屋をやるなんて言い訳に内心嗤える。けど、通じる筈だ。違和感はあるだろうが、辻褄合わせには丁度いい。交渉術なんて知らない、そんなものは悪意を殺す怪物の親玉に通じる筈がない、誤魔化せるわけがない。
でも、
「そしてこれは忠告だ。僕は最悪の場合を除いてDAに間接的には協力しても直接の協力をするつもりはない」
相手のペースに乗せられるつもりはない。
質問が飛んで来ればボロが出る。だから見栄を張って悟らせない。僕のペースで質問をさせない。それに直接協力はしない、こればかりは本音だ。僕だって死にたくはないが、プライドはある。この能力をこの組織で使いたくはない。
「不殺を貫く彼女だから協力する。それこそ趣味程度にさ。だから––––」
僕は千束の協力者。
千束が不殺を許されているなら、不殺でしか動かない事の余地はある。喫茶店リコリコが存続されているくらいに千束の能力が有能だからだ。僕は能力を除いて大した存在ではない。千束のような怪物クラスな力は持っていない。普通の感性を持った人間に過ぎない。
だからこそ牽制する。
せめて、司令官に千束のように使える存在と認識させる。生かしておいてメリットがある強者と錯覚させる強い言葉で僕は告げる。
「––––
沈黙。
我ながら俺という言葉が似合わない。動揺こそ出ていないが心臓の音が聞こえる。此処で決まる生死の二択に心臓が張り裂けそうなくらいに耳に鼓動が残る。
1秒、5秒、10秒、それさえも長く感じる。
目眩がする程の緊張に意識を手放したいと思うのを奥歯を噛み締めて堪える。そして返答が返される。
『––––いいだろう。今回は見逃そう』
「!」
『貴様が我が組織で有益だと判断した上での決定だ。引き上げろ』
テーブルに隠れた拳銃を仕舞われ席を立つリコリス達。突きつけられた緊張感が消え、内心ホッとする。そして去り際に春川フキが僕に一言忠告してきた。
「アタシは信じねえぞ。オマエ、然程優秀じゃねえだろ」
「その観察眼は正しいぜ、春川フキ」
「……っ、チッ」
優秀が何をもって優秀なのかはさておき、運命を変えられる事が優秀なら僕は優秀じゃない。というかちょっと僕の運命って迷子になりやすいし。春川フキ率いるリコリスの集団がファミレスから去っていくのを確認すると力が抜けて過去一番長いため息をついた。
「………はあああぁぁぁぁ」
生かされたな。
僕のあの牽制程度で揺らぐとは思えない。なんなら一歩間違えば殺される立場にある綱渡りで牽制なんてした時点で殺されてもおかしくなかった。それでも殺されなかったのは情報屋の部分に納得出来た部分があったからか、殺すよりは嘘でも情報屋としての力を有益と認めてくれたのか、今となってはどっちか分からない。
足音が聞こえた。
座席にもたれながら首だけを動かすと息を切らして助けに来た千束の姿があった。
「カケル!!」
「……千束か」
意外と僕はこの子に助けられてるのかな。
じゃなきゃ、牽制するなんて勇気を踏み出せなかったかもしれない。案外、僕もこの子に甘えてる節があるのか。精神年齢大人なのに情けないけど。
「大丈夫!?何かあったの?」
「寿命が縮んだ」
ギョッとする千束に力無く微笑んだ。
「冗談だよ」
やっぱり僕はハッタリより冗談の方が好きだ。
引き返せない嘘より引き返せる嘘の方が気楽だからね。
虚言妄言は時に酒より人を酔わせる。