チート『命の交換』を手に入れた 作:嘘吐き
「ありがとうございました、またお越しくださいませ………」
やあ、僕だよ。
僕も久々に疲れていた。レジ打ちのラッシュが終わり漸く店が落ち着いた。リコリコはここ最近忙しくなり始めた。というのもどっかのお馬鹿さんが『食べモグ』にこの店ツイートしたせいか暫くの間繁盛していた。近場の常連客が来なければ閑古鳥が鳴いていたこの店も忙しい。流石に手が回らない。
「っはー、流石に疲れました」
「人手が足りないっ。一人抜けたら目も当てられないでしょこれ」
「カケル体力ないね」
「現役の君と一緒にしないでくれる?僕これでも一般人」
「元、でしょ?」
「ぐぅ」
ぐぅの音が口から出た。
ミズキさんも僕もカウンターでぐったりしている。幾らなんでもこの量を毎回捌くとなると流石にキツい。キッチン二人に配膳二人だとしても此処二階まであるし手が足りない。
「安心しろ。もうすぐこの支部にも人手が来る」
「……えっ、はっ!?」
なん…だと……!?
それは喜んでいいのか、DA直属とはいえこの場所に転属してくる人が居るのか!?どんな変人なんだ……!?
「ミカさんはまだしも飲んだくれと脳筋猪女と変な奴しかいないこの支部に、どんな変人が?」
「言っとくけどアンタが一番変よ」
「めっちゃブーメラン」
「グサリ」
ミカさんはまだマトモだが、たまに訪れる吉松さんに熱い視線を向けてるのを見て僕は今も恐怖を覚えている。信頼していた上司がホモ疑惑である事にたまに震えが止まらない(汗)。
というかこの支部で独身アル中、銃弾躱す能天気、寿命が見える半一般人と変人しか居ねえ。何処か変な方向で尖っている。
「まあ冗談はさておき、DAの子ですか?」
「ああ、問題をやらかして此方に流される」
「此処の問題児は千束で間に合ってるのに」
「それすっごい心外!カケルもどっこいどっこいでしょ!?」
「千束それ自分が問題児と認めてるからね」
あと、同列に語るなすっとこどっこい。
君が一番オンリーワンでヤバい奴だからな?
★★★★★
今日は客として勉強中、医学の学習もいよいよキツくなってきた。こればかりは実践しないだけで知識があるだけという中途半端な状態なのだ。もう限界かもな。ミカさん直伝の近接制圧術も免許皆伝貰った。まあ使う日なんて来ない事を祈るけど。
「流石に限界か?」
「……使う日なんて来ないと思うからもういいや」
そもそも応急処置さえマスターすれば良かったのに気が付けば二十冊以上の参考書を読んでる。もう流石にいいだろう。妥協したくはないが、個人でどうこう出来る限度はある。
それに千束の使っている非殺傷弾では血が出ないし。僕の現場はDAの補佐ではなく、不殺の千束の時にしか動かない。しかもバイクの送迎だけ。いざという時の護身術も医療知識も此処が精一杯だろう。
「暇なら材料買ってきて」
「今日は店番じゃないんだけど」
「いいでしょ別に。材料がかなりの量なのよ」
ミズキさんから渡されたメモ書きを見る。
どれも重そうな材料ばかり。一気に買うとなると流石にバイクで買って帰る事が出来ないくらいの量はある。
「この量だとバイクは無理ですよ」
「千束連れて行きなさい。買い物デートよ」
「これはパシリって言うんですけど?」
「千束、済まないが頼む」
「はいはーい、先生行ってくる!ほらカケルも!」
「えっ、ちょ」
千束に腕を掴まれて外に引き摺り出された。
結構、ミズキさんのパシリで僕達は買い物に行く事になった。
★★★★★
「砂糖、餡子、団子粉、小麦粉、醤油、シロップと抹茶と……」
「うどん!あだぁ!?」
「節穴か。書いてないし食べたいだけでしょ」
おいこら駄菓子を入れるな。
買い物籠に放り込まれる材料にそろそろ腕が痛くなってきた。あと千束、お前材料もうちょい優しく入れて。腕めっちゃ痺れる。
総重量だけなら下手したら十キロを超える量をエコバッグに詰めていく。どうしてこうなるまで放っておいた……って最近リコリコが人気だからか。だいぶ重いな。
「そういえば、今日が新しいリコリスの配属だったっけ」
「マジでっ!っ〜〜!リコリコに新しいメンバーが遂に!」
「嬉しいのか?」
「そりゃ勿論!!」
にひひと笑いながら嬉しそうな顔をしている千束だが、僕からすれば少しだけ怖い。
DAの直接協力ではなく間接的協力で許されているのだが、あっちも僕が未知数だが顔を見て名前を看破できる力、調べ上げられる実績がある分手を出さないだけ。まだ殺害許可が完全に取り消されてる訳じゃない。
あくまで生かされているだけで綱渡り状態だ。そんな中でリコリスを入れられると僕にとっての監視みたいに思えるのだけど……
「まあ、人手が足りるだけで済めばいいけど」
ミカさん曰く、取引相手の生捕りの命令違反。
機関銃乱射して皆殺しにし、此方に回されたとか聞いたし。そのせいで銃千丁が行方不明となったらしい。命令違反はどんな理由があったのか詳しく聞いてないけど。
というか銃千丁って戦争でもおっ始める気か?この日本で?
「あと『食べモグ』のツイートは程々にしておいた方がいいよ?」
「えぇ〜、でもホールスタッフが可愛いって来てるし」
「確かに千束は可愛いけど、仕事で支障が出る時もあるから気をつけてよ」
不殺が許されてるとはいえ仮にもDAの支部。
安易なネット流出はタブーだろうし、変な情報で僕が殺される事になったら目も当てられない。
「……ん?どした?」
「うぇ!?な、なんでもない……うひひ」
目を逸らされた。
というか、この人気は『食べモグ』の評価ではなく、ホールスタッフ目当ての部分が多かったのか。成る程、暫く閑古鳥が鳴かない理由がそれか。リコリコに戻り、扉を開けるとセカンドの服を着た……
「「あっ」」
……もの凄い見覚えのあるリコリスだった。
あの時の銃を突きつけてきたリコリスの集団の一人の黒髪の女の子。あの子か、あの時寿命とか気にする事が出来なかったけど……この子も相当ヤバいな。
「おかえり、二人とも」
「センセー、大変!『食べモグ』でこの店ホールスタッフが可愛いって!これ私のことだよね?」
「アタシのことだよ!」
「……冗談は顔だけにしろよ酔っ払い」
「いや二人の事でいいでしょ。二人とも顔はいいし」
「「あざーっす!」」
「なのにどうしてミズキさん結婚できないんだろ」
「張っ倒すわよ」
ミズキさん酒癖さえ治せば本当に美人なのに、どうして出会いがないのだろう。頭のいい才色兼備なのに、どうしてこれで結婚できないのだろう。圧倒的に男運がないと本当に心配になってきた。
本当、早く誰か貰ってあげて。
「ん?その制服、リコリス……?」
「はい、本日からこちらに転属となりました、井ノ上たきなと申します」
「うはぁ〜!新人さんだぁ〜!歳はいくつ!?」
「16です」
「それじゃわたしが一つお姉ちゃんか〜。あ、でもさんは要らないからね、ち・さ・とでオケ!」
「はあ……」
若干引いている。
まあ千束の距離感って結構バグっているしな。すぐ慣れると思うけど。今度は僕に律儀に挨拶してきた。この子が此処に転属する理由って命令違反による銃撃乱射だよね?僕の監視とかじゃないよね?
「お久しぶりです」
「お久しぶり。転属理由って監視で来たの?」
「貴方は最重要警戒対象ですが、転属理由に監視は特に言われていないです」
「僕そんな評価なの?」
ため息を吐く。
それは僕の評価に対してではなく、井ノ上さんの頭に表示されているそれについて。前回会った時は気が気じゃなくてあまり覚えてなかったけど……
《井ノ上たきな 寿命3月12日 死因[射殺]》
貴様もかブルータス。
神は全てを知っているが生きる人に手を伸ばさない