長らくお待たせいたしました。
とは言いつつ、本編ではありません。この話は本来、もう15話ほど先。原作でルフィが夢の果てを語ったあたりで挟む予定だった話になっております。よってウタも登場しております。
本編は相変わらず筆が進まず。逆に原作は次々と秘密が明らかになり、オリ設定を入れにくくなっていく現状に焦った作者が急遽、今話を挟む形を取りました。
本編のネタバレを若干含む形となってしまったため、気になる方は飛ばして追いついた際に読んでいただいても構いません。
今話を飛ばす方も読んでくださる方も、今年中にもう一話、本編を投稿する予定ですので宜しくお願い致します。
真実
怒涛の日々が過ぎ去り、ウェルテクス海賊団の一行は束の間の休息を満喫していた。
新世界では珍しい澄んだ快晴で暖かい日差しが注ぐ空の下、甲板の上で各々が思い思いの時間を過ごしていた。
釣りを楽しむ夫婦。愛刀の手入れをする剣豪。舵を握る雷人。読書をする吸血鬼。そして新たに加入した歌姫が歌い、その歌声に耳を傾ける一行。
穏やかな空気が、歌姫ーーウタの歌によってより心地よいものとなっていた。そんな船に響き渡る歌声が突如として、その音をなくした。
日和の膝枕で目を瞑りながら耳を傾けていたゼニスはそのことに目を開けて、視線をウタへと向けた。何やら俯いて悩む様子のウタに心配そうに声を掛けるアインとサボ。そしてどこか決心を決めた表情で、重たい口を開いた。
「ゼニス前に言ってたよね?私たちは夢のような現実であったことがあるって。」
それはエレジアでライブを開催した時に、ウタに向けてゼニスが言った言葉。
どこか影のある表情で語っていたため今まで聞くに聞けなかったが、なぜか知っておいた方がいいのだと自分の勘が囁き掛けてくるのだ。
その問いかけに対してゼニスは、寝転がっていた体勢を起こし胡坐をかいて座りなおした。どこか諦めにも似ていて、どこか憂いにも似ている。しかしその中には喜びも浮かんでいるような、複雑な感情を顔に浮かべたゼニスはため息を軽くついて口を開いた。
「そうだな、お前らにはそろそろ話しておくべきかもな。俺と日和の、世界の真実を。」
俺と日和はトキさんの能力によって無事に島を脱出した。
そして託された閻魔とトキトキの実も目の前に残されており、いやでもそれが現実であることを突きつけられた。泣きじゃくる日和を宥めながら俺は自分の身体の異変に気が付いた。覇気が使えなくなっていたんだ。
しかし考えてみると、原因は明快。二度もカイドウという同じ敵に、完膚なき敗北を強いられた俺は自信と覇気を失ったんだ。
いくら受け継いだトキトキの実があろうと、磨き上げた剣術があろうと覇気がなければ新世界での苦戦は必然だった。
武装色を使う敵には競り負けて、見聞色を使う敵には読み負けて、ロギアの能力者には立ち向かうことすら叶わない。
日和を守りながら、覇気も使えない状態で戦い続けた俺は徐々に消耗を重ねていって、辿り着いたのは音楽の島エレジアだった。
生き残るためとはいえ、半ば海賊の所業をすでに繰り返していた俺たちのことを温かく受け入れてくれたのだ。
そしてそこにいたのが、赤髪海賊団の音楽家ウタだった。ウタは赤髪海賊団の冒険に同行したり、エレジアで音楽を学んだりの日々を送っていた。
年の近かった俺たちはすぐに仲良くなって、一緒に遊ぶようになった。
ウタがいるときは一緒に過ごす分、いないときは少しでも覇気が戻るように、日和を守れるように修行に費やした。次第に日和も参加するようになり一緒に、あの惨劇を繰り返さないように、強くなれるように努力を重ねた。
数年の月日が流れたある日、ウタは赤髪海賊団の船を降りること選択する。その歌声で赤髪海賊団だけでなく、世界中の人を幸せにするのだと決意を新たにしたのだった。
さらに数年の月日が流れたものの、結局俺の覇気は戻らず約束の決戦の日が訪れた。が、それよりも大きな事件が起こり討ち入りが行われることはなかった。
それは、世界政府によるベガパンクの抹殺計画が始動したことだ。しかし、未だ尽きぬ知識欲を満たすためにもここで死ぬわけにいかないと、必死に抵抗した。
世界政府の想像をはるかに上回る数々の技術に苦戦を強いられる。想定外の被害を追いながらも計画は成功を収め、ベガパンクはこの世を去ることとなる。
さらに同時期、革命軍参謀サボが世界政府の秘密を握ってしまったことで、抹殺されてしまった。
それに怒りをあらわにした革命軍が、全勢力をもって世界政府に討ち入りを行った。結果は、世界政府の勝利。革命軍は消滅するも決して楽な勝利ではなく、辛勝といっても差し支えないようなものだった。
そしてベガパンクと革命軍によって既に満身創痍な世界政府を討伐するために、サボと兄弟の盃を交わしたエースを要する白ひげ海賊団と同盟を結んだ赤髪海賊団。かつて同じ船に乗り誼のあった百獣海賊団とビッグマム海賊団。
四皇が同盟を組んで攻め込み、すでに組織として事切れる寸前だった世界政府にあらがう力は残っておらず崩壊したのだ。世界政府は海の底に沈んでいった。
世界政府という秩序を失った海は荒れに荒れて、無法地帯と化した。
多くの血が流れ、多くの人が苦しみ、多くの人が亡くなっていった。絶望や苦しみ、怒りといった負の感情が溜まりに溜まった結果、トットムジカが無理矢理姿を現した。姿を現したトットムジカは魔王の名にふさわしい破壊の限りを尽くし、やがてウタの体力がこと切れるその時まで暴れまわった。
海賊にトットムジカ、果てには山賊や賞金稼ぎまで大頭した混沌と化した世界で、ゼファー……いやゼットがエンドポイントを破壊して新世界を消すことでそれは終わりを迎えた。世界の終焉という形で。
エンドポイントの事実を唯一知る世界政府がいなかったことで止める者もあらわれず、簡単に成されてしまったのだ。
俺と日和はベクベクの実によって無事だったものの、新世界の島が、海が、人が9割燃え尽き新世界は正真正銘終わりを迎えたのだ。そして皮肉なことに暴力によって暴力が亡くなった世界で俺の
そこで話が一時切れて若干訪れた静寂でこらえきれなくなったサボが声を荒げた。
「待ってくれ!何の話をしてんだよ⁉俺が革命軍の参謀で死んだ?ウタがこと切れた?何言ってんだよ、ここにいるだろ⁉」
当然の反応である。ゼニスの話は何もかもが矛盾だらけ、サボもウタも生きているし、新世界はここに存在している。
サボだけでなくほどんどが訝しげな表情を浮かべるのを見て予想通りの反応に軽く笑いを溢す。
「俺の能力、覚えてるか?」
「……時間を未来にかけて飛ばしたり、速めたりする能力だろ。」
突然の話題変更に戸惑いながらも返答するサボに頷いて答える。
「それじゃあ、日和の能力は?」
「あらゆるベクトルを変換する能力だろ。」
それがなんだっていうんだ。そう口をついて出そうな、若干の苛立ちを見せながら答えたサボの返答で一人、ゼニスの言わんとすることに気が付いたものがいた。
「まさか!そんなことが!」
それはウェルテクス海賊団の中でもトップクラスに頭の切れるステラだ。驚愕の表情を浮かべるステラに軽くうなずいてから、他の者へも伝わるように紙とペンを取り出して何やら書き始める。
そして書き終わった絵をみんない向けて開示した。
『過去ーー現在ー>未来』これがゼニスの能力を現した簡易的な表記だ。
そこに日和の能力が加わると『過去<-現在ーー未来』となるのだ。
ゼニスの悪魔の実の能力をステラの悪魔の実の能力で効果を変換したのだ。結果未来へ渡る能力は過去へ遡る効果へと変わる。
「そうして俺と日和はこの世界へと戻ってきたんだ。」
ゼニスから語られた衝撃の事実に固まる彼らにゼニスは言葉を続けた。
「トキさんがよく言ってた。『人は過去へは戻れないけど、未来へは行けるのよ』って。実際その通りで、俺たちがやったのは禁忌に該当する行為だった。当然禁忌には代償が発生する。」
「代償?」
「それは、『肉体の固定』」
ゼニスと日和は回帰前に過ごした十年、回帰した十年、そして今回過ごした十年ですでに40年前後の時を生きてきた。しかし見た目は20前後のそれである。
それが肉体の固定の一端による影響だった。二人の肉体は回帰する直前のもので固定されている。しかし内面はそうは行かなかった。残っていたのは記憶だけで、悪魔の実は失われていた。
さらに後から分かったことだが、表面は肉体の固定による影響で傷がすぐ再生するものの、内臓に受けたダメージなどは残ってしまうのだ。胸を貫かれ心臓に穴が開いた場合、胸の穴は塞がるものの心臓の穴が消えることはないという奇妙な現象が発生してしまう。
また不老ではないため二人は見た目は二十前後のまま年老いていく。
不幸中の幸いというべきか、表面を構成する筋肉骨格は回帰前のそれであったことは心底胸を撫で下ろしたものだ。しかしそこで固定された二人の肉体は、成長することは決してない。必然二人は、強者と渡り合うための方法として、《力》ではなく《技》を選ぶことを強いられた。
そうして回帰を果たした二人は回帰前の現実を起こさないためにも、海へ繰り出した。
手元にあったトキトキの実とは違い後から食した日和のベクベクのみを探すところから始めて、目的を達成するための仲間を集めて今に至る。
信じられない心境でいっぱいであるが、二人がここで嘘をつく理由もない。それにそうだとしたら納得のいく部分も出てくる。信じざるを得なかった。
ウェルテクス海賊団のメンバーは今の話を聞いてそれぞれ考えるところがあるようで、俯く彼らを見ながら話の締めに入った。
「俺たちの回帰前と明確に違う部分が二つ存在している。それはマーシャル・D・ティーチとモンキー・D・ルフィの存在だ。」
二人が回帰する前の世界に二人は存在していなかった。
よって当然黒ひげ海賊団も麦わら海賊団も存在せず、二つの海賊団が起こした事件の数々は二人にとっては未知の出来事で、不確定要素だった。
だからこそ消すときは過剰なまでの準備を重ね、たとえ勝てる戦いであったとしても負駆けてい要素故過剰に警戒する。その結果が、黒ひげ海賊団の討伐と和の国での麦わらの一味を見逃したことに繋がっているのだ。
不確定要素は早く排除するに限るのだが、麦わらの一味は何かと厄介な存在だ。
赤髪海賊団とも縁があり、革命軍のトップを父親に持ち、ウェルテクス海賊団でもサボが兄弟分で、ウタとも縁がある。
下手に手を出して、ウェルテクス海賊団に亀裂が生じ、二つの巨大勢力を敵に回す事態になっては回帰前の世界政府と同じ状況になりかねない。
不確定要素ではあるものの、今のところ目的に支障はないため、討伐するメリットデメリットを考えた際デメリットの方が大きいため現状維持という形で落ち着いているのだ。
「いままで黙ってて悪かったな。」
そう言って話の発端となったウタの頭を軽く撫でた。ウタが視ていたのはあったはずのもう一つの世界、二人が回帰する前の世界のことをウタワールドという夢の世界を介してみていたのだった。その事実に何も言うことが出来なかった。
確かにこの世界で生きてきて苦しいことの方が多かった。夢見ていた回帰前の世界の方が楽しかった。
でもその楽しかった世界の行く先は地獄で、苦しかった今の世界は乗り越えて今の幸せがある果たしてどちらが正解なのか、それは。顔を上げたウタはその視線をしっかりゼニスと合わせて言葉を紡いだ。
「これからゼニスが悪かったのか、正しかったのか。見極めていくからね。」
「ああ。」
ウタとゼニスのやり取りを受けて他のメンバーも覚悟を新たにする。今の自分たちにできることは何なのか、成すべきことは何なのか。
それを考え直すいい機会となったと決意を固める。
地獄を乗り越えてきた二人は、やっと手に入れた幸せを守るためにその身を戦いに置き続ける。そして二人の覚悟を受けてそれを支えるために、彼らもまた戦い続ける。
今まで以上に賛否両論があるかと思いますが、書き始めからある程度思いついていたネタですので、こういう形で進めていきます。
矛盾等もあるかと思いますが、ご都合主義ということでお許しください。
原作でベガパンクが「悪魔の実は人の夢の具現化」と語っていましたが、実は作者も似たようなネタで筆を進めておりました。
実はすでに書き終えている、ゼニス対ティーチで取り入れています。幹部たちの戦いが終わったら投稿しますので、もう少々お待ちください。