過去編がスタートします。過去編は毎日18時の投稿を予定しています。
獅子は我が子を千尋の谷に落とすとも言いますし、ゼニスくんには頑張ってもらいたいものです。
3歳のゼニスくんはだいぶ早熟です。
ゼニスくんは天才でした。戦闘の天才など物騒なものではなく、記憶力の天才などと言うこともありません。
しかし、聞いた言葉や書いてある文字など気になったことがあればとことん理解しようと躍起になる。好奇心の天才でした。
それが早熟に繋がっています。
9.絶望の始まり
体が動かない。
目の前は真っ暗だ。
近くで聞いたことのあるような、無いような、男たちの声が聞こえる。
「ゼファーの野郎、ざまぁねぇな!」
「まったくだ!家族を殺されて置いて、何が海軍大将だ!」
「野郎ども!もう一回乾杯だ‼︎」
「「「乾杯‼︎」」」
聞こえてくるのは、ゲラゲラと耳障りな声。
その声は朦朧とする意識の中にも鮮明に響いてくる。
その声により徐々に意識もはっきりしてくる。
そうだ。思い出した。
父さんに恨みを持つ海賊たちが家に押し入ってきたんだ。
刀を、銃を持って家に次々と傷を付けていった。
部屋の隅で地縮こまっていた僕を、母さんは優しく気丈に抱きしめてくれた。
その姿をニヤニヤと眺めた後、僕たちを引き離して僕は手と足を縛られて動けなくされた。
そんな僕の前で母さんを……っ!
「うわぁ〜〜!!!」
ハッキリし出した意識で、意識を失う前のことが思い出す。思い出してしまった。
絶望的な光景にショックを受けて意識が飛んでいたのだ。
それを思い出してしまい、反射的に嗚咽の含んだ悲鳴をあげてしまう。
その悲鳴に男たちの宴は強制的に中断される。
しかし彼らは気分を害することなく、寧ろ待ってましたと言わんばかりにニヤニヤと笑みを浮かべながらゼニスへと歩みを進める。
その笑みはゼニスが気を失う前に見ていたものと酷使していて、それを見たゼニスは保ち悪くなり嘔吐してしまう。
どれほど気を失っていたのかはわからないが、お腹には何も入っていないようで唾液だけが込み上げる。
「起きたばっかで汚ねぇなぁ〜。」
「およよ、坊ちゃん。大丈夫でちゅか〜。」
「可哀想な坊やだ。あんな親父を持ったばかりに…。」
「思ってもねぇこと言ってんじゃねぇよ‼︎」
「「「ギャハハ!!!」」」
どこまでも耳障りな声が、否応なく耳に入ってくる。
ここでゼニスが思うこと。
『これから自分はどうなってしまうのだろうか。』
明るかった思い出は真っ赤に染まってしまった。
これから待ち受けるであろう未来は真っ暗な暗がり。
真っ暗で何も見えない。
そのことが不安で不安で仕方がない。
別に返事を求めていたわけではない。
聡明な子供であるゼニスは、見ないようにしつつも何となく理解していたから。
きっと聞いたら耳障りな声で答えてくれるだろう。
それを聞きたくないから声には出さずに踏みとどまった。
しかし…。
「これからどうなるのか、か。もちろん売られるんだよ、坊ちゃんよぉ〜。」
声の出どころは、ゼニスを取り囲んで笑っていた男たちの後ろから。
ずっしりとした重みを感じる声。
そちらに目を向けると1人の男が切り株に腰を下ろしているのが見えた。
直感が理解する。
『あいつは、自分を取り囲んでいる下郎とは何か違う。』
「ハッハッハ!下郎タァ、言うじゃねぇか‼︎だがまぁ、見どころはありそうだな。」
まただ。自分は思っただけで口に出していないはず。
それなのにあの男は、それをさも聞いてるかのように言葉を綴る。
まるで、心を読んでいるかのようだ。
『一体、どうなっているんだろうか?』
「見聞色の覇気ってんだよ。お前の親父も使ってたはずだが…。まぁガキにゃ教えてねぇか。」
見聞色の覇気。聞いたことはある。
覇気と呼ばれる不思議な力で、5歳になったら教えてやると言われていた。
しかし、それも叶うことはもう無いのだ。
もう会うことすら叶わないのだから…。
不意に出てきた言葉一つにも過剰に反応してしまう。
どうしても暗い方へと考えが傾いてしまう。
泣きそうになるのを一生懸命我慢する。
これ以上こいつらの前で弱みを見せてはいけない。
僕がカッコ悪いところを見せたら、また父さんも悪く言われてしまうから。
「ほぉ、男じゃねぇか坊主。」
また、心を読んだのだろう。
覇気使いの男はニヤニヤしつつ、しかしその言葉にはしっかりとした感嘆の意を込めてゼニスに声をかける。
言われたままなのが癪だった為、意趣返しも込めて返事を返す。
「…坊主じゃない。僕にはゼニスって言う名前があるんだ。」
「おっと、悪かったな坊主。俺はこいつら下郎の船長をやってる。バーバック・レイドってんだ。短い間よろしくな!」
相も変わらずニヤニヤして自己紹介をするレイド。
やはり幾ら下郎でも、海賊団の船長をやっているだけあってただの子供であるゼニスでは口でも全く敵わない。
それを聞いたゼニスは思わず、「坊主」「下郎」「よろしく」の言葉を混ぜた3倍の意趣返しに顔を顰めてしまう。
心の中を読み取ったのか、はたまた表情からそれを感じ取ったのかは分からないが、そんなゼニスを見てレイドは声を上げて笑い出す。
そんな2人の外から声が掛かる。
「オイオイ船長!流石に下郎はあんまりだぜェ!」
「全くだ!こんな奴と一緒にされるなんてたまったもんじゃねぇ。」
「なんだとォ!」
「やんのかゴラァ‼︎」
突然喧嘩を始める彼らを周りが笑いながら囃し立てる。
そこからまたゼニスにとって耳障りな馬鹿騒ぎが始まった。
それからしばらく海賊たちの宴が続いたが、ついに終わりを迎える。
彼らの宴の終わりは、ゼニスにとっては絶望の始まりでもあるのだ。
「よし、それじゃあ行くぞお前ら‼︎」
レイドの掛け声に雄叫びを上がる。
ゼニスは溢れそうになる涙をグッと我慢して座り込んでいると、レイドが近づいてくる。
「ほら、坊主も立ちな。まぁ安心しろよ。無事に奴隷商まで送り届けてやるからよ。」
何が安心しろだ!と心の中で毒吐きながら、レイドに引かれる形で重たい腰を上げる。
そして、何気にゼニスが目を覚ましてから数時間。
やっとレイドの口からゼニスの行く末を告げられた。
しかし、理解していたゼニスはそこまで大きく反応することはなかった。
ゼニスの反応に何が面白いのか、喉を鳴らしながらレイドが笑う。
そして先行した海賊たちの後を追う形で、レイドとゼニスも歩き出した。
彼らの会話を聞く限りでは、宴をしていたのはこの島の中心であるらしい。
島の中心付近には、食料が木から生えていたようでそれを使って一息つこうと言うことで宴が始まったらしい。
道中には動物もおらず、帰りも順調に島を脱出出来る。
はずだった…。
「なんだ!このゴリラ!無茶苦茶強ェぞ‼︎」
「こっちは早ェ猿だ!捉えきれなぇ‼︎」
「ヤベェ!蛇に噛まれた木が溶けてるぞ‼︎」
さっきまで談笑しながら歩みを進めていた海賊たちは突然姿を現した魑魅魍魎の動物達によって、苦戦を強いられていた。
今彼らは、一体に対して4人体制で何とか均衡を保っている。
必然、動物が増えればこの均衡はあっという間に崩れていった。
戦闘音、血の匂い、叫び声。
それらを感じ取った動物どもが次々と集まってくる。
さっきまで意気揚々と歩いていた海賊たちは血の海へと沈んでいく。
混沌とかしたその場で、恐怖に震えていたゼニスは遂に限界を超えた。
手を縛られたまま、震える脚を懸命に動かしてその場を逃げるために走り出す。
海賊たちも戦う事に精一杯でゼニスの様子に気付かない。
いや、1人だけゼニスの行動に気付いていた人物がいた。
彼はゼニスの背中に向けて叫ぶが、ゼニスはそれに気付くことなくその場を離れて行った。
行先も考えずに…。
ゼニスが走った方向は、中央方向でも沿岸方向でもなかった。
正確には中央方向へは進んでいた。
しかし、直進していたら宴が行われた安全地帯にギリギリ入ることができない。
そんな角度の方角へと走り続けた。
そこは強力な動物どもが跋扈する森の中。
故に、ゼニスが動物と鉢合わせてしまうのも又必然であった。
それは尻尾が二股に分かれた虎であった。
ゼニスの姿を視界にとらえると、涎を垂らしながら近寄ってくる。
それを理解したゼニスは恐怖で腰が抜けてしまう。
逃げ出そうにも、膝が笑って立ち上がることができない。
這いずるにも手が縛られているためできない。
そんなゼニスを仕留めるために虎の爪が振り下ろされた。
しかし、その爪がゼニスを捉えることはなかった。
ゼニスと虎の間に一つの人影。
目を瞑っていたゼニスも、上から降ってきた生暖かい液体が顔にかかった事に疑問を覚え、恐る恐る目を開ける。
その目にあったのは、ゼニスを庇うように立ち塞ぐレイドの顔であった。
その顔は真っ青に染まっており、口からは血が垂れていた。
レイドはゼニスを庇うためにその爪を背中で受けていたのだ。
「あ、あ、あ…。」
ゼニスの口から、悲鳴とも嗚咽とも取れる声が漏れ出る。
そんなゼニスにレイドは刀を振り下ろす。
突然のことに身動きが取れず、そのまま切られる。なんて事もなく、切られたのはゼニスの手を縛っていた縄であった。
呆然とそれを眺めていたゼニスに、虎に向き直ったレイドの背中越しに声が掛かる。
「良いか坊主。こいつは俺が引き受ける。お前は、島の中心に向かって走れ。方向はあっちだ。」
視線は目の前の虎を捉えたまま、指で後ろのゼニスからも見えるように方角を指し示す。
だか、今ゼニスの視界に入るのは、血まみれのレイドの最中である。
心配になって動く事が躊躇われる。
「カギが!足手まといだってんだよ!とっとと行け‼︎」
突然の大声にビクッと肩を震わせた後、力の入らない足を引きずりながら森の中へと消えていった。
獲物を狩る邪魔をされて苛立たしげな虎にレイドは、不敵な笑顔を浮かべながら剣を構える。
1人と1匹は同時に駆け出し、ぶつかった。
無事に安全地帯に辿り着いたゼニスは、昨夜括り付けられていた木の根元で膝を抱えながら泣いていた。
昨夜はあれだけ騒がしかったこの場にはもう、ゼニスの鳴き声しか残っていなかった。
泣き出すとその声が静けさを強調してしまい、寂しさが込み上げてくる。
その堂々巡りに泣き続けていたゼニスもようやく日が沈みはじめた頃には落ち着きはじめた。
しかし、日が沈み始めても誰も戻ってくることはなかった。
そんなことを考えるとまた、涙が溢れてくる。
「たくッ、いつまで泣いてんだよ坊主。」
一つの声がその場に響く。
ハッとして顔を上げると、今にも倒れてしまいそうな足取りで木に体を預けながら立っていた傷だらけのレイドであった。
「あ〜しくった!なんでこんなガキを助けちまったかなぁ。血を流し過ぎちまった。」.
そんなことを愚痴りながら、切り株の一つにドサリと倒れ込むように座る。
「……なんで助けてくれたんですか?」
「さぁな〜。……無事に送り届けるって、約束したからかなぁ。」
約束、それは動物に襲われる前に言っていたことをさしてのだろうか?約束というにはあまりにも適当な、そんなやりとりだったと思う。
レイドのその言葉を最後にその場に静寂が生まれる。
「俺にもよ、親父がいたんだよ。とんでもねぇクズで、あちこちに恨みを買ってよく分からねぇ盗賊に殺されちまった。俺はそれを見て、あんなクズにはなりたくねぇと思って海に飛び出したわけだ。」
「結局は俺も海賊なんて言う、あちこちに恨みを買っちまう人間になっちまった。お前の親父とか、な。」
「何となく、過去の俺にお前を重ねてたのかもな。だから、助けちまったのかなぁ〜。」
まるで、自分を納得させるようにそう口にした。
レイド自身も本当に何故命懸けで、売るはずだった子供1人を助けたのか分かっていないのだ。
でも、あの行動に後悔はなかった。
「なぁ、坊主。覇気を学べ。この島には多くの海賊たちが足を踏み入れるだろう。時に見て時に戦って、覇気を、戦闘技術を学んでいけ。そしていつか、この島から出ろ、よ。そして、その…時は。この刀…も、つれて……てくれ。オマエ……な、らだい…じょ、ぶだ。だ…から、がんばれ……よ。ゼニス!」
その言葉を最後に、レイドは座っていた切り株から崩れ落ちていった。
慌ててゼニスが駆け寄るが、すでにレイドは息を引き取っており再び目を開けることはなかった。
それを確認したゼニスは、膝から崩れ落ち血がつくのも気にせず倒れたレイドの腹に顔を埋めながら涙を流した。
しかし、先ほどと違い泣き声がその場に響くことはなかった。
まだまだ子供で純粋なゼニスくん。憎い相手でも助けられたら感謝して、亡くなれば悲しめる。笑顔だけでクザンを蒼白させた人物とはとても思えない。
ワンピースやハイキュー見たいな敵役やモブキャラにも、進んできた道があって戦う理由がある。当たり前のことでも、それを当たり前に描写できる漫画はとても凄いと思います。
そしてさり気なくゼニスに託された刀。この刀実は……。
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