キング・クリムゾン!
はい、一気に時間が飛びました。今飛ばしましたから!
ゼニスがこの島に収容されてから、7年の月日が経過した。
ゼニスは10歳になり、顔付きも少年のものから青年のものへと早くも変わり始めていた。
そして体つきも、筋肉質とは言えないががっしりとしてある種の風格を感じさせていた。
レイドの死から、ゼニスは最後の言葉をもとに島に足を踏み入れた海賊たちを踏み台に、日々成長を続けた。
覇気とは何かすらわからないゼニスはまず、覇気使いとそうで無いものの違いを探すところから始めた。
最初はとにかく観察を続け、覇気使いを見分けられるようになってからは、それがどういうものなのかを考えた。
考えた事を実践できるか挑戦してみる。
とにかくそれらを繰り返した。
独学だった事もあり、かなりの時間がかかってしまった。
だがゼニスはまだ知らな事だが、独学故に覇気の本質へと足を踏み入れていた。
覇気だけではない。
レイドに託された剣を使いこなすために、剣を使う海賊を参考に剣術の特訓にも取り組んだ。
さらに、剣がない場合に備えて徒手。
怪物によって散っていった海賊たちのものである銃も使って使えるように特訓や訓練にも取り組んだ。
もちろん何度も死にかけた。
特訓の他に生きるためには食糧が必要である。
食料を手に入れるために森へ足を踏み入れたところを怪物に襲われたりもした。
取ってきた食糧が毒物だったりもした。
特訓にしても当然危険は付きまとった。
ある日は怪物に襲われ、ある日は海賊に追いかけ回され、またある日は不完全な覇気に振り回され生死の境を何度も行き来した。
それでも今日遂に、ゼニスは立ったのだ。
これまでの日々を軽く振り返りながら、視界一面に広がる海を眺めた。
ようやく手にした自由がそこに広がっていた。
そしてゼニスは海へと繰り出した。
船は自分で作った簡易的なもの。
材料には困らなかった。
島を訪れた海賊たちが乗っていた船の残骸。
それらが島の周辺の海流によって一箇所に集められていたのを、長年島での生活を強いられたゼニスは把握していた。
他の者が見たら自殺行為だというような、とても新世界を渡れるとは思えない即興の船。
しかし、ゼニスは迷わず船を出した。
そして数日後、当然のように船は沈没した…。
「………。プハァ〜!死ぬかと思った‼︎」
ゼニスは奇跡的に生還を果たした。
沈没した船の板を一枚剥がし、それを浮き輪がわりとした。
数日間海を波のままに流され続け、そんな中豪雨に巻き込まれたのが昨夜の出来事。
津波に呑まれ、浮き輪も木っ端微塵になり海流に巻かれ、ひたすら流され続けた。
そして今、人生全ての運を使い切ったのではないかと疑うレベルの豪運によって島への到着を果たしたのだ。
地図もログポースもなく、目的地すら決めていなかったゼニスは当然ここがどこなのかも分からない。
なので適当に島を探索する事にした。
しばらく歩いていると、見聞色によって人の気配を探知する。
そちらに向けて歩いて行くと、ゼニスに視界に村が現れる。
しかしその村はひどく寂れていて、村人たちは皆暗い表情を浮かべていた。
村人にとってその日を生きる事に必死であるため、余所者のゼニスが村を歩いても見向きすらしなかった。
たまに視線を感じたがそれらは歓迎するものではなく、むしろ忌避や拒否といった感情がほとんどを占めていた。
そんな村を歩くこと数時間、日も暮れ始め空は赤く染まり始めていた。
そんな中、村外れに一軒家を発見する。
その家の家主だろうか?家の前で薪割りを行っている人物が目についた。
顔は他の村人同様に痩せこけているものの、腕や脚は見事な筋肉に包まれていた。
近付くゼニスにも気付かず、一心に薪を割り続ける。
邪魔するのも忍びないが、このまま黙っていてもどうしようも無い。
そう考えたゼニスは思い切って声を掛ける。
「あの〜、すいません。」
その声に反応した男はピクっと肩を揺らした後、初めて視線がゼニスに向けられた。
ゼニスを見た男は一瞬何かに驚いたように目を見開くが、次の瞬間には有効的な笑みを浮かべていた。
「おう、どうした?坊主、初めてみる顔だな?お前この島のもんじゃねぇな。」
「うん、色々あってこの島に流されちゃって…。」
「そりゃ〜大変だったな。おっと、立ち話も何だ。疲れてんだろ?家出休んでけど。」
男のゼニスに向けられた驚愕の感情もしっかり分かっていた。
しかし、苦労続きで辿り着いたこの島では忌避の視線ばかり向けられていた。
そのせいで心身共に疲弊しきっていたゼニスは、島で初めて向けられる友好的な笑みに喜んだ。
警戒するのも忘れて、年相応な表情で嬉々として男の背中を追いかけていった。
「ほら、お茶だ。悪りぃな。ジュースじゃ無くて。」
「あ、ありがとうございます!え、っと。」
「自己紹介がまだだったな、俺はネオってんだ。」
「俺はゼニスです。色々ありがとうございます、ネオさん。」
そう畏まって頭を下げるゼニスの謝辞を豪快に笑い飛ばす男ネオ。
ひとしきりゼニスの肩を叩きながら笑うと、一つ咳払いをする。
「話したい事もあるんだろうが、まぁ今日はもう休みな。泊めてやるからよ。」
確かに聞きたいことは山ほどあるゼニスだが、疲れているのもまた事実。
そのためネオの言葉に甘えて、その日はネオの家で夜を明かすこととなった。
翌日、久しぶりの布団に入り熟睡していたゼニスはいい匂いに目を覚ました。
そんなゼニスをネオの準備したと思われる朝食が出迎えた。
茶碗一杯に盛られた白米、採れたてだと思われる漬物、黙々と湯気を上げる味噌汁。
それらを前にゼニスは思わず唾を啜る。
「ほら、食え食え!食べ盛りの坊主が遠慮なんかするんじゃねぇよ!」
ゼニスの後ろから現れたネオは、そんなゼニスの様子を笑いながら食べるように促す。
その言葉につられるがまま、テーブルの前に座る。
もう一度唾を啜った後、勢いよく「いただきます!」挨拶をしてガツガツと口に掻き込む。
お世辞にも美味しいとは言えなかった。
白米は水が多かったと思われネチャネチャだし、漬物や味噌汁は野菜のサイズもバラバラで味も薄い。
味だけで言えば無人島にいた時に食べた、魔獣やくだもののほうがおいしいくらいだった。
でもそれは、7年ぶりに食べた自分のために他の人が作ってくれた料理だった。
それが何よりもゼニスの腹を、胸を満たしてくれた。
温かい食事に身も心も温められたゼニスの瞳からは、本人も気付かぬうちに涙が溢れ落ちる。
それが食事と一緒に口に入るのも気にせず、一心に食べ続けたのだった。
ゼニスの様子を見守っていたネオは、泣き出したゼニスに驚きながらも声をかけたりはしなかった。
ここにこの歳の子供が1人でいるくらいだ。
何かがあるのだろうとは思っていた。
だから、昨日も特に詮索はせず迎え入れたのだ。
今更どうこう言うつもりなど鼻から無かった。
泣きながら食事を続けるゼニスの頭を撫でながら、見守り続けたのだった。
朝食を食べ終わる頃には涙もひき、ネオの前で泣いていたことを思い出して恥ずかしそうに縮こまっていた。
そんなゼニスを見兼ねたネオは話題を切り出す。
「さて、とゼニス。お前さん、どうやってこの島に来た?」
恥ずかしそうにしていたゼニスも、その話題に姿勢を正す。
そして、ポツポツと語り出す。
海賊に誘拐されたこと。
無人島で生き延びるために修行したこと。
そして遂に先日、脱出に成功したこと。
そのあと船が流されたこと。
ゼニスの話を百面相しながら聞いていたネオ。
一通り聞いたネオは「そうか、」とひとつ頷きながらゼニスを驚愕させる一言を放つ。
「覇気も、その修行の一環で身につけたんだな?」
ゼニスは警戒して、一瞬のうちに距離を取る。
ゼニスは無人島で海賊たちを相手にするうちに、あることに気づいた。
覇気を使える者とそうで無い者では気配が違うと言うこと。
ネオに初めてあった昨日も、今もネオの気配は後者のそれだ。
ならば何故自分が覇気使いだと分かったのか。
1番最初に頭に浮かんだのは、自分をはじめから知っていたと言うこと。
万が一にもあり得ないことだが、あの島に入って自分と相対した者で生き残りがいて島を脱出したか。
次々に浮かぶ疑問に頭を悩ますゼニスに申し訳なさそうにネオは言葉を放つ。
「あ〜、警戒させしまって悪かった。俺も昔は覇気が使えたんだが、今はゼニスが考えているように使えなくなっちまってな。まぁ昔の名残みたいなもんだ。何と無くわかるんだよ。」
未だに警戒しながらも、気になる単語をいくつか聞いた。
詳しく聞くためにもとりあえず、腰を下ろす。
「…覇気が、使えなくなったってどう言うことですか?」
「覇気ってのは、使い手の自信が形になった者だと言われることがある。よって使い手の心が折れれば、使えなくなっちまうのさ。」
「それって……」
言葉を続けなくとも、続く内容など一つしかなかった。
ネオは、ゼニスと視線を合わせながらはっきり頷くことで肯定を返した。
「俺も前は、そこそこ名の売れた海賊団の船長だった。覇気だって使えたし、新世界に入った海賊団の船長としての自負もあった。」
「だが、俺たちはこの島に足を踏み入れちまった。この島がある海賊の縄張りであるとも知らずに。」
「そして俺たちは、その海賊によって壊滅させられた。船は海の藻屑となり、仲間はみんな燃やされた。」
「まさにこの島にとってあいつは、恐怖の象徴だ。」
「何人もあいつに歯向かうことはできない。どれだけ苦しい生活を強いられようともだ。」
その言葉に「なるほど」と得心がいく。
この島の住人は自分が生きる事に精一杯なのだ。
だから、よそ者に構っている余裕などない。
それがゼニスに向けられた忌避の視線の理由だった。
「ん?それじゃあなんで、ネオさんは生きてるんですか?」
口にしてから、「しまった。」と思うが時すでに遅し。
ネオは苦虫を100匹は口にしたような表情をしながら一言だけ。
「悪魔の実だ。」
「え?」
「俺は悪魔の実の能力者だ。その能力があいつの目に留まった。だから、生かされてるんだ。」
「その名も『ヨチヨチの実』の未来予知人間。4つか5つの詩で紙に書き記しすことが出来る。未来を見た人の身に、向こう1ヶ月間で起きる出来事を遠回しに暗示した状態で作成できる。内容が遠回しに表現されるのが難点だが、
100%的中する。だから、重宝された。」
「…なんて非人道的な。」
確かに恐ろしい能力であるのは間違いない。
しかし、そのために仲間を殺した相手に従属させることがどれだけ酷いことか。
ゼニスは怒りを覚えずにはいられなかった。
「まぁ、死ぬのが怖くて従っちまってる俺も情けないことこの上ないがな。」
自嘲の笑みを浮かべながら、肩をすくねる。
「……なんて言う海賊なんですか?この島を支配してる海賊は。」
「そいつの名は…。」
天使の自動筆記?……なにそれ美味しいの?
ゼニスが辿り着いた島とは…。
そして、その島を取り仕切る恐怖の正体とは⁉︎
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