ストックが早くもヤバいです。
読者の時は、次の投稿早く来い!とか思うけど、作者に回ると次の投稿早いすぎる!とか思っちゃいます。)笑
ゼニスは健闘した。
最初の一撃が届かなかった事にショックを受けて、一瞬動きを止めたもののすぐに気持ちを切り替えて動き出した。
それ以降はノンストップで動き続けた。
カイドウの一撃をまともに受けてはそれだけで致命傷になり得ると分かっていたからだ。
足を動かし続けた。
腕を振り続けた。
武装色を纏い続けた。
見聞色を感じ続けた。
そして……遂に力尽きた。
ゼニスの何もかもがカイドウには届き得なかった。
覇気の密度に、練度。
対人戦の経験値に体力。そして何より、体格が。
体格が違うと言う事は、体内に流れる血液の量も違った。
ゼニスの攻撃はわずかながらも、カイドウに傷を合わせるだけの威力を秘めていた。
しかしそれ以上に、カイドウの一撃は入れば致命傷。
掠るだけでもゼニスに痛々しい傷跡を刻んでいった。
傷の数が増えるほど出血量が増え、その小さな身体が赤く染まっていった。
痛む体に、霞む視線に鞭を打ちながら何度も立ち上がったゼニスだったが。
空に朝日が顔を覗かせ始めた時、それは訪れた。
再び立ちあがろうとしたゼニスの膝が、折れた。
足に力を入れようとするも言うことを聞かずガクガクと痙攣を起こす。
地面に四つん這いで這いつくばるゼニスにカイドウが近づく。
「頑張ったが、ここまでのようだな!」
ウォロロロ!と笑い声を上げるカイドウに四つん這いのまま睨みつける。
カイドウの身体もあちこちから血が流れているものの、それだけだ。
態度にも余裕があり、深い傷は一つも見当たらない。
その上最後まで戦闘に悪魔の実が使われる事はなく、余力があるのは火を見るよりも明らかだった。
上を見ながら笑っていたカイドウの耳がドサッと言う音を拾う。
音の先に視線を向けると、遂に腕で体を支えることもままならなくなり地面に崩れ落ちたゼニスが目についた。
地面に横たわるゼニスから流れた血が、地面を赤く染めていく。
このままでは、そう時間はかからず失血死を迎えるのは誰もが予想できる未来だった。
「やはり惜しいな。おい、小僧。最後にもう一度だけ聞く。死にたくなければ、俺様の部下になれ。」
「う、っせぇよ。だれが、なるかよ。この、ば、、、か、が。」
薄れゆく意識で、精一杯の虚勢を張る。
霞む視界に映るのは、ゼニスに興味を失って酒を煽りながら去っていくカイドウの後ろ姿だった。
そこで初めて気がついた。
その背中には傷一つないことに。
あれだけ動き回って四方八方から攻撃していたゼニスの攻撃はただの一度も、カイドウの不意をつけていなかったと言う残酷な現実。
自分が決死の想い出臨んだ闘いは、カイドウにとってお遊びだったと言う現実。
込み上がってくる、無力さに涙が流れる。
カイドウが去ってから何分経っただろうか。
何とか意識を保とうと気張って来たゼニスにもいよいよ限界が来る。
意識が切れる直前、女性の声が聞こえた気がした。
その声はとても温かく、昔失ってしまった母親を思い出させる抱擁感。
ゼニスは、母親が自分を迎えに来たのだと思い一言こぼした。
「ごめん、な…さい。」
それから数日後。
何とゼニスは一命を取り留めていた。
全身ぐるぐるの包帯巻きで、布団をかぶせられていた。
どうやら誰かに助けられていたようだ。
そこでふと思い出すのはネオの事。
痛む体に無理をして、包帯で動きづらい体で周りを見渡すもネオの姿は見当たらなかった。
顔に巻かれた包帯が涙で濡れる。
自分は助けられてばかりだと、後悔の涙ばかりが溢れて来た。
「あっ‼︎」
と、突然可愛らしい声が聞こえて来た。
そちらに視線を向けると襖が開いていて、「おかあさ〜ん!おきた!」と言う声が聞こえて来た。
それから数秒後、わずかに開いていた襖から姿を表したのは綺麗な女性と可愛らしい女の子。
「目を覚ましたのね、良かった。5日も目を覚さないから心配してたのよ。」
女性のその言葉にゼニスは驚愕する。
どうやらあの戦いから5日も眠り続けていたらしいことに。
そして動揺しているゼニスは思わず聞いてしまった。
「あの!ネオは!俺の近くで切り株前に倒れていた人は⁉︎」
その質問に対する答えは、無言のまま悲しげな表情を浮かべながら首を左右に振ることで知らされた。
分かっていた事だ。
起きてすぐに周りを見渡して確認した事だ。
しかし、もしかしたらと淡い期待を抱いていたのも事実だった。
何度流したか分からない。
どれだけ流したのかも分からない。
それでも枯れることのない涙が、ゼニスの目からこぼれ落ちた。
その直後、フワッと花の香りが広がったかと思うと暖かい温もりがゼニスを包み込んだ。
女性がゼニスを抱きしめていた。
「大切な人が居なくなったなら泣けばいい。悲しめばいい。」
「だけどその人の存在から逃げて忘れようとすることだけはしてはダメよ。……だって忘れられることは、どんなことよりも悲しいことなのだから。」
不思議と心落ち着くその香りを。温もりを。声を受け入れて、聞かれたわけでもないのにポツリポツリと語り出す。
自分がこれまでどう言う生き方をして来たのか。
なぜあそこで倒れていたのか。
そして、自分はどう思ったのかを。
「それで……。」
語り合えたゼニスが顔を上げると、女性は涙を流していた。
「…どうして、泣いてるんですか?」
「頑張ったわね。」
そうして女性は再びゼニスを抱きしめた。そして、背中に回した手でゆっくりと背中をさすった。
その小さい背中にはあまりにも大き過ぎる業を少しでも払ってあげられるようにと。
少しの間そのまま時間は流れ、ゼニスも抵抗することなくその温もりに身を任せていた。
少し重い空気になってしまったのを振り払うように女性は話題を変えた。
「そういえば自己紹介がまだだったわね。私は光月トキよ。そしてこの子は私の子、光月日和。あなたは?」
「俺はゼニスです。助けて頂いて本当にありがとうございました。」
「しかし俺が居たらカイドウに目を付けられるかもしれませんので、お暇させて頂きます。」
その子供らしくない立派な態度に、そうならざるを得なかった環境と過去に対してトキは悲しく思う。
ボロボロの状態ながらも立ち上がろうとするゼニスの肩を押さえつけて、座らせた。
「行く宛なんてないのでしょう?もっとゆっくりして行きなさい。大丈夫!ウチの旦那はとっても強いのよ?」
しかしゼニスも納得せず、2人の出て行く、ゆっくりして行けの押し問答が繰り広げられた。
それはお腹を空かせた日和が泣き出すまで続けられた。
そのあととりあえず保留となり、食事の場へと連れられたゼニスはそこで光月おでんと光月モモの助との邂逅を果たす。
おでんを目にしたゼニスはトキの言葉の意味を理解する。
確かにおでんは強かった。
鍛えられた肉体に研ぎ澄まされた覇気がそれを物語っていた。
とりあえず納得したゼニスは4人と一緒に食事をした。
まるで自分に家族ができたような気がして、先程枯らすほど泣いていなければまた涙が溢れてきてしまうような温かい食事だった。
なんだかんだでそれから3年の月日が経過した。
おでんは親戚のおじさんのような感じだったが、トキはまるで本当の母親のようにすら感じていた。
日和とモモの助とも仲良くなり、兄弟のような幼馴染のような間柄となっていた。
ゼニスも戦いのことなど忘れ、この幸せな日々が続くのだと信じていた。
しかし運命の日はやってくる。
遂におでんとカイドウが衝突したのだ。
勝者はカイドウだった。
それから三日後観衆の中、処刑が開始された。
この処刑は後に「伝説の一時間」の語り継がれる事となる。
文字通り体を張って、仲間を守り抜いたおでんは一瞬の隙を突き彼らを逃すことに成功する。
しかし既に、身体中の細胞という細胞が破壊されたおでんは動く事ができず処刑を受け入れることしかできなかった。
最期に観衆の心をしかと掴んだおでんはこう、言い残した。
“一献の” “酒のお伽に なればよし”
“煮えて” “なんぼのォ〜”
“おでんに候”!!
観衆を巻き込んだその遺言は、まさにおでんらしい最期であった。
その言葉は高々と国中に響き渡り、おでんの訃報を報せた。
それはトキや日和にモモの助。そしてゼニスがいるおでん城にも届いていた。
燃えるおでん城中で彼等はその訃報を受け止めた。
日和とモモの助は泣きじゃくり、トキはそっと涙を流した。
そしてゼニスもこれまで共に過ごした日々を思い出しながら、そっと目を閉じた。
そんな彼等の元へ巨大な竜が舞い降りた。
雲を裂いて現れたそれは、急激に下降しながらその姿を変えた。
その竜の名前は。
「カイドウ‼︎」
真っ先に反応したのは因縁のあるゼニスだった。
それに続いて子供たちを庇うように、トキは涙を拭って立ち上がる。
カイドウが先に目を向けたのはゼニスだった。
が、その目に浮かんでいるのは明らかに失望のそれであった。
ゼニスはトキたちを守らんとカイドウに向かっていった。
ゼニスとカイドウの拳が衝突して拮抗、する事はなかった。
一瞬すら競り合う事を許されず、ゼニスは吹き飛んだ。当然の結果だった。
3年間戦いから離れていた敗者と3年間海賊として戦い続け3日前には命懸けの戦いに臨み研ぎ澄まされた勝者。
そんな2人の衝突の結果など日を見るよりも明らかだった。
「随分と落ちぶれたもんだ。あの時、俺の仲間になっていれば良かったものを。」
カイドウはそれだけ呟きその結果を受け止めた。
ゼニスから完全に興味を失ったカイドウが次に視線を向けたのはモモの助だった。
自分を追い詰めた強者の跡継ぎ。
彼は自分の敵となり得るのか。
立ち塞がるトキを平手打ちで吹き飛ばし、モモの助の小さな首をカイドウの大きな手で鷲掴み自分が入ってきた窓の方へと歩き出す。
空中にモモの助の体をぶら下げると恐怖のあまりモモの助は泣き出してしまう。
それを見たカイドウはモモの助への興味を………失った。
ゼニスやトキが転がる方はモモの助を投げやるとずっとトキの後ろに隠れている日和を見やり、この場でのやることは終えたと再び竜の姿となり空へと消えていった。
それを見送ることしかできなかったゼニスは悔しさに床をありったけの力で殴りつけた。
燃えるおでん城は脆くも頑強で、床はヒビ割れて殴ったゼニスの拳にもまた血が流れていた。
日和とモモの助は恐怖が去ったことに安堵して、トキに縋りつき涙を流していた。
トキはそんな2人を安心させるようにカイドウに殴られた時に切った口の血を軽く拭い、抱きしめ返した。
そんな彼等の空間に新たな人物たちが登場した。
命からがら逃げ延びた赤鞘九人集だった。
部屋に残っていた彼等を助けんとするもトキに説得され、トキの能力で未来へと飛び立った。
そして残ったのは、トキ、ゼニス、日和のみとなった。
最早、他作ネタですら無い本日の名言集。
「大切な人が居なくなったら…」
「だけどその人の存在から…」
【詠み人知らず より】
ヒルルクを彷彿させる言葉ですが、トキが死ぬわけでは無いのでこちらを採用しました。勿論ヒルルクもカッコよくて好きですが…。
居なくなったら泣くほど悲しいと言える人が居ない作者には、少し羨ましいです。