俺はヒーローに憧れない(re   作:アートレータ

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 この回からもう3、4話ほど6時間定期投稿となります。


2.鱗片

 

 ゼファーが泣いているのを見ていたゼニスと後ろに控えていた日和だが、時間もないため本題に無理矢理話を移すことにする。

 

「でだ、親父。悪いが新世界を壊されるわけにはいかないんだよ。……仲間を、家族を失うわけにはいかないんだよ。」

 

 その言葉に驚愕しているのがわかる。果たしてどの言葉に対する反応か?それはゼファーでなくてはわからない。ゼニスの言葉を受けたゼファーはチラッと後ろに控えている日和に視線を向けるがすぐに俺に戻す。

 

 ゼファーは昔戦った、ある一人の海賊を思い出していた。海賊なのに宝を求めず、名声を求めず。しかし、何よりも仲間を大切にしていた海賊。

 仲間を家族と呼び、彼らの父親としてあった海賊を。

 

「……似たような言葉を言うヤツがいた。ゼニス、お前今は…。」

 

「あぁ、海賊だよ。」

 

 ゼファーの言葉に被せるようにして口を開く。その言葉にゼファーは一瞬殺気立つ。海賊嫌いは相変わらず、いや昔以上のようだ。

 だが、ゼニスにも引けない理由がある。

 

「俺は親父に憧れた。……でも、俺は守りたいものを守れなかった。親父と同じように。それじゃあ、足りなかったんだよ。」

 

「憧れるだけじゃあ越えられない壁があった。正義じゃあ消せない闇があった。越えたいと思いつつ心の底では負けてほしくないと思うから。だから俺は親父に、ヒーローに憧れるのはもうやめたんだよ。」

 

「俺は強くなった。生きるために、自由のために、そして家族のために。それこそ……今の老いた親父なら片手で殺せるくらいには、な。」

 

 ゼファーの殺気をゼニスの殺気で塗り潰す。覇気は込めていない。

 しかし、それは並のものであれば意識を刈り取られるほど濃密なもの。その殺気がゼニスの言葉に嘘は無いと告げていた。

 サングラス越しの目を見開き、冷や汗を流すゼファーを尻目にゼニスは言葉を続けた。

 

「……でも、出来るならアンタを殺したくはない。俺はお袋を守れなかった、何もしてやれなかった。そしてアンタにも何もしてやれないけど、せめてギリギリまで見届けさせてもらうぜ。」

 

 そんな後悔も滲んだ言葉にゼファーはすぐさま声を上げた。

 

「それは違う!」

 

「…確かにアイツは殺された。でもお前のせいでは決してない。……もし万が一、お前のせいだったとしても。俺もアイツもお前を恨んだりなんか決してしない。」

 

「いいか、ゼニス。何かをして欲しいから産んだ訳じゃない。何かしてやりたいから産んだんだ。何もしてやらなかった俺だが、最期にお前の門出を手伝おう。」

 

 そう言い切ったゼファーの視線は、こちらに向かってきている海軍の気配がする方へと向いた。

 それは、ゼニスの広大な見聞色の覇気でやっと感じ取れるほどの距離。

 ゼファーが気付いたのは果たして、ただの勘か経験から来るものか。

 

「最期に会えてよかったぜ、親父。」

 

 と告げて、歩みを再開させた。その不器用な行動に隣を歩いていた日和がクスッと笑ったのに気付くと日和の頭を軽く叩いてやる。

 そのままわしゃわしゃと撫でてやると日和は拗ねたようにそっぽを向いた。

 ふざけ合った歩いていると背後から親父の声が聞こえた気がした。

「ありがとう。」と。

 

 本当に親父の声だったのかはわからない。それなりの距離で声は聞こえないはずだ。それに親父の声だったとして、何に対するありがとうなのかも分からなかった。

 ただその声色は昔聞いていた家族に向けていたような、優しく温かい、懐かしい声色にだったように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山頂の窪みを出ると日和から声が掛かった。

 

「これからどうするの?」

 

 取り敢えず島に着いた時と同じように、見聞色の覇気を広げて島の状況を確認する。すると、海軍の新たな気配が続々と島へと降りてきている。その中には中将や大将もいるようだ。

 その反対には少数精鋭と呼べるような数人の強者の気配がする。何処かの海賊団だろうか?わざわざ、この島に足を踏み入れるとは馬鹿な海賊もいたもんだ。

 

 そんなことを考えながら、同時にこの後の行動も考える。このまま行けば、ゼファーと海賊と大将の三つ巴になってしまう。1番弱いのは気配を感じた限り、ゼファーだろう。

 逆に1番強いのはやはり海軍の大将と思わしき気配だ。であるならば初めに行くべきは…。

 

「海軍のとこに行くか。宣戦布告も含めて、な。」

 

 それを聞いた日和は嫌そうな顔を浮かべながらも否定はしないのだった。表情に不安は無く、ゼニスに対する絶対の信頼が現れていた。たとえ相手が大将だろうとゼニスは負けないと言う信頼が。

 その事に嬉しさを感じながら二人は海軍の気配のする方へと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し歩いているとすぐに海軍が見えてきた。当然と言えば当然だ。彼らは山頂へ向かっていて、ゼニスたちはその山頂から降りてきたのだ。鉢合わせするのは必然である。

 海軍は大将黄猿を先頭に、中将が続きその後ろに数千、いや数万という海軍が続いていた。戦闘の黄猿はゼニスたちの存在に気付いたようで後ろに停止を促す。

 ゼニスはそれを気にせず、大将黄猿の正面まで歩みを進める。彼らはゼニスを警戒しているようだが、ゼニスは勿論、横に並ぶ日和も特に身構える事なく近づいていく。

 

「初めましてだな、大将黄猿。」

 

「う〜ん。ここにいるって事は、一般人じゃ〜ないよね〜。」

 

「まぁな。俺たち、海賊だからな。『ウェルテクス海賊団』船長の『ゼニス』だ。よろしくな。」

 

「私は『ウェルテクス海賊団』副船長の『日和』。よろしくね、大将さん。」

 

海賊団だと名乗りながらも態々大将である自分の前に出てきた。それが何を意味しているのか黄猿は訝しむ。それに、

 

「ウェルテクス海賊団?聞いたことないねぇ〜。」

 

 そう。大将という地位を持ってすればかなりの情報が入ってくる。ゼニスのような強者の存在であれば尚更だ。だというのに、聞いたことがない。

 出来たばかりの海賊団なのか、あるいはこれまで身を隠していたのか?しかし、彼ほどの実力差が何故…?

 

 考えれば考えるほど思考の沼に嵌っていく。分からないのならば仕方がない。直接聞けばいいだけだ。どちらにしろ、相手は海賊。捕まえる以外の選択肢などありはしない。そこまで思考を紡いで、行動を決める。

 

「何のために出てきたのか分からないけど、海賊はみんな捕まえるよ〜。」

 

「出来るもんなら、な。」

 

 黄猿の発言に挑戦的な笑みを浮かべて、ゼニスから一歩前に踏み出した。

 次の瞬間には、大将の後ろで控えていた少将以下の数万の海兵が半分ほど泡を吹いて気絶する。更に大将のすぐ後ろにいた中将も気絶することは無かったものの、意識が飛びかけ膝から崩れ落ちる。

 普通ではあり得ない現象。しかし、大将黄猿はその正体をすぐに看破する。この現象の正体は…。

 

「覇王色の、覇気ッ‼︎」

 

 正体を看破したものの、その威力は自分が知っているものよりも遥かに強力なもの。まるで自分がまだ中将だった頃に体験した、ゴールド・ロジャーの覇気のような。

 足がすくむ。冷や汗が流れる。無意識に後ずさる。

 しかし、大将と言う立場がそれを許してくれない。意を決して戦闘体制に入る。

 

 しかし、戦闘が開始される事はなかった。何故ならゼニスの目的は時間稼ぎである。会話と覇王色の覇気ですでに十分な時間を稼いだ。

 どうやら山頂の方も決着がついたようだ。であるならばこれ以上の戦闘は不要である。そう判断したゼニスは日和にアイコンタクトを送る。

 

「どうやら時間切れのようだ。俺たちも、お前らも本当の目的を果たすとしようぜ。」

 

「……ミスミス海賊の船長を逃すと思っているのかい〜?」

 

「強がんなよ。」そう笑いかけて、背を向ける。日和の手を握って「行くぞ。」と声をかける。日和が頷いたのを確認した瞬間には、黄猿の目の前から二人は姿を消していたのだった。

 

 そこでようやく黄猿は思い出す。先日新たに手配書が発行された。ある海賊の存在。そして、その手配書の写真と先程の青年が同一人物であった事を。

 

「懸賞金8億240万ベリー凶星のゼニス。」

 

 その額は初頭額にしては破格のもので、歴代最高の初頭額だった。それだけ、海軍支部を一人で壊滅させた力を脅威と見ていた、のだが。

 

「どうやら、あっしらは過小評価していたようだね〜。」

 

 あの覇気は明らかに8億の域を圧倒的に凌駕していた。それこそ、七武海や四皇幹部クラスのそれであったのだから。

 

 





ゼニス…英訳で「頂点」
ウェルテクス…ラテン語で「天頂」
から採用しました。ちょっと単純過ぎましたかね?


何かをして欲しいから産んだ訳じゃない。何かしてやりたいから産んだんだ。
【リゼロから引用】
こんな事を言ってくれる両親がいるなんて羨ましい限りですね。ゼニスが幸か不幸は置いておいて、ですが。


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