俺はヒーローに憧れない(re   作:アートレータ

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 5日の会社昼休みに、一話と二話を予約投稿しました。
 5日の仕事終わりに二話がしっかり投稿されている事を確認して、三話を投稿しようとした時、それは起きた!
 間違って削除してしまったではないか⁉︎急いで、二話とストック中の四話を読み直し書き直して何とか間に合わせました!

 一年ほど前に書いていたものよりも、いいものを書けた気がする…。



3.別れ

 

 目的を無事に果たしたゼニスと日和は再びゼファーのいる山頂へ戻ってきた。するとそこには先客がいた。

 その姿を捉えたゼニスはあくどい笑みを浮かべた。それを見た日和は何となくゼニスの考えていることが分かり、静かに一つ溜息をついた。

 

 ゼニスはその背後を気配を消しながら接近して、手の届く位置まできた同時にその人物に向けて殺気を解き放った。

 その人物、元海軍大将クザンは流石というべきか。動揺はあったものの瞬時に右手に悪魔の実の能力である冷気を纏わせて、ゼニス目掛けて振り下ろした。

 

 しかしその腕は空を切った。否、振り抜いた先では、クザンの右腕から先が宙を待っていたのだ。故にゼニスに届くことは無かった。

 混乱しながらも即座に距離を取って、状況を確認する。そこで、腕は斬られたのだと理解した。理解させられた。

 なぜなら襲撃者であるゼニスの手が、腰に括られた刀の柄に置かれていたのだから。

 

 一切確認することができなかった。

 刀が抜かれた瞬間も、それが振り下ろされた瞬間も、そして納められた瞬間も。その一切がクザンの目に止まることなく行われたのだ。

 再び踏み込もうとするゼニスに冷や汗を流しながらも、迎撃の態勢をとったクザンだったが。

 

「こらっ、やり過ぎるなっていつも言ってるでしょ!」

 

 後ろからゼニスを追ってきた日和の手によって、抑制された。まるで猫のようにゼニスの着る和服の首裏を掴んで制された。

 そんな二人のやり取りに呆気に取られてクザンも自然と肩の力が抜けていった。二人の様子は仲間というより、子供の悪戯を叱る母親を幻想したとかしないとか。

 

「驚かせて悪かったな、ただの挨拶のつもりだったんだ。」

 

 悪びれる事なく言うゼニスに、挨拶で腕を捥がれたらたまったものじゃないと思いつつその謝罪を受け入れた。

 

「アンタも親父のこと、見送りに来たんだろ?」

 

「あ〜まぁな。………親父?」

 

「ああ、俺の名前はゼニス。元海軍大将ゼファーの息子だ。」

 

 まじかよ…。と戦慄を露わにするクザンを尻目に、その横を通り過ぎて視線をゼファーに向ける。そこにはかつてゼニスが憧れた男がいた。覇気をその両拳に集めて、敵を薙ぎ倒していく男の姿。

 その姿を見てクザンも思わずかつて憧れた男の姿を幻視して呟いた。

 

「黒腕のゼファーが戻って来やがったぜ。」

 

 その姿をしばらく眩しげに見守っていたゼニスの視線の先で、遂にゼファーは崩れ落ちた。勝者は麦わらのルフィだった。

 しかし敗者であるはずのゼファーの顔は何処か吹っ切れたように、晴れやかなものであるような気がした。

 

「夢を追う者は、全てを蹴散らし進んで行くものだ。帽子と、俺の命を持って行け。」

 

「お前の命なんていらねえ。もう、気ぃすんだ!」

 

「いや、俺も気がすんだ。」

 

 そこにゼニスの足止めから部隊を立て直した海軍の大軍が押し寄せた。その光景に麦わらの一味とネオ海軍が慌てるが、ゼファーは静かにその光景を見ていた。

 

「俺は、最後の最後にやりたいようにやれた。好きにやった落とし前はつけなくてはな。先に行った奴等に、顔向け出来ねえ。」

 

 震える足に力を込めて立ち上がると、ゆっくりと海軍の方へと歩き出した。もしかしたら、この結果を心の底では望んでいたのかもしれない。

 ゼファーは確かに、息子を通して、麦わらのルフィを通して未来を見た。それは決して明るい未来ではないかもしれない。海賊が跋扈する平和とはほど遠い未来かもしれない。

 それでも今の時代は、今を生きる人間が作っていくべきなのかもしれない。漠然とそんな事を考えた。

 

「麦わらのルフィ、お前にはお前の冒険があるのだろう。ここは、この()()()()に任せてもらう!」

 

 助けようと、踏み出そうとしたルフィをそう制して歩みを進める。尚も追いかけようとするアインだったが、突如ゼファーの背後に広がった氷壁がそれを遮った。

 見聞色の覇気でクザンの気配をしっかり感知していたゼファーは、そちらにチラリと視線を送る。

 

「クザンめ。最後に俺の死に場所を作ってくれたのか。」

 

 そして、その隣でこちらを眺めるゼニスに視線を移す。二人の視線は確かに合っていた。数秒か、数分か。長く長く感じるその時間は、二人が同時に視線を切る事で終わりを迎える。

 

 それぞれが、それぞれの道を歩き出した。片や地獄への片道切符。片や未知の切符。しかし、二人の瞳に曇りは無かった。

 

 歩き出したゼニスの背にゼファーの雄叫びが聞こえた。

 

「お前達に、最後の稽古をつけてやる!」

 

 その勇ましい雄叫びを聞きながら、ゼニスはふと空を見上げた。空は雲一つない青空が広がっていた。はずだった。

 

「……雨が降って来たな。」

 

 不意にゼニスはそんな事を呟いた。その呟きに、少し後ろを歩いていた日和は不思議に思って声を掛ける。

 

「雨なんて降って……。」

 

 そこまで返した日和は気付いた。ゼニスの横顔かは流れる一筋の雨が滴るのを。

 

「いや、雨だよ。」

 

 そう言うゼニスの真横まで駆け足で駆け寄った日和はそっと、しかし力強くゼニスの手を握りしめた。

 

「そうね。でも、きっと直ぐに止むわ。」

 

 二人の背後では未だに戦いの音が鳴り響いていた。あの身体の何処にあれだけの力が残されていたのか。それはまるで、ゼファーがゼニスの門出を祝うように激しく荒々しく、何処までも轟いた。

 

 

「海は見ている。世界の始まりも。

 海は知っている。世界の終わりも。

 だからいざなう。進むべき道へと。

 だから導く。正しい世界へ。

 痛み、苦しみ、包み込んでくれる。

 大きくやさしく、包んでくれる。

 海は見ている。世界の始まりも。

 海は知っている。世界の終わりも。

 もしも自分が消えたとしても

 全て知っている海の導き

 

 恐れてはいけない。あなたがいるから。

 怯えてはいけない。仲間も持つから。

 進まねばならない。蒼きその先へ」

 

 

 

 

 

 そのあと二人は一度島を出た。来た時同様小舟で海を進んでいた。ある目的のためであり、その目的がようやくゼニスと日和の視界に入って来た。

 それを確認したゼニスは、日和に一言許可を取ると抱き抱えた。いわゆるお姫様抱っこである。その状態で、ゼニスは一歩海へ向けて踏み出した。

 

 麦わらの一味は目的は全て果たして、ゼットによって助けられたこともあって無事に島の脱出を果たしていた。船長のルフィはボロボロであるものの、覇気はまだ健在で仲間達も体力は残っていた。

 近くに他の海軍がいるかもしれないため、決して気は抜いていなかった。

 

「初めましてだな、麦わらのルフィ。」

 

 しかし、その声を聞くまで誰一人その存在に気付くことができなかった。その声で、一味は一斉に戦闘体制をとる。

 その光景を面白そうに眺めていたゼニスはいつもの悪癖に興が乗ってしまう。誰も気絶しないギリギリを見極めて、覇王色で威圧し始めた。

 それに身体をこわばらせるもの、腰を抜かすもの、青ざめるものが出る中でそれを止めたのは未だゼニスに抱き抱えられた日和だった。

 

「もう!いっつもそうやって余計な敵を作るんだから自重して!戦うために来たわけじゃないでしょ⁉︎」

 

 そう言ってゼニスの頬を引っ張った。「ごめんなふぁい」などと言いながら、覇王色は解かれた。

 その光景に呆気に取られる一味(一部はその光景に血涙を流していたが)を前に、日和を下ろしたゼニスはオホンと咳払いを一つ入れてから、彼らに対して頭を下げた。それに伴って日和も頭を下げた。

 

「ありがとう。親父を止めてくれて、親父を殴ってくれて。」

 

 彼らのおかげでゼファーは、昔の姿に戻れたのだとゼニスはそう考えている。故に、息子として彼らにしっかりと感謝を伝えたかったのだ。

 しかしそんなゼニスに対して、

 

「気にすんな!おれはやりたいようにやっただけだしな!」

 

 そう笑い飛ばす麦わらのルフィがゼニスには眩しく思えた。あぁこの笑顔に親父も救われたのかな、漠然とそんな事を思った。

 

「そうか。」

 

 そんなルフィに対して、ゼニスも笑みを浮かべながら一言だけ返した。これ以上は無粋だと思ったから。

 用が済んだゼニスはこれ以上ここにいる意味がなくなったため、帰るために再び日和を抱き抱えた。途端声にならない声が聞こえた気がしたが、ゼニスはスルーした。

 

 そこでふと足を止めた。その光景を訝しむ一味にゼニスは振り返った。

 

「俺はウェルテクス海賊団船長ゼニス。今度会った時は敵同士だ!せいぜい会わない事を祈ってろ!」

 

「私はウェルテクス海賊団副船長日和。もし会ったらよろしくね。」

 

 片や女性を抱き抱え、片や男性に抱き抱えられている為締まらないが特大の爆弾を残してゼニスと日和は船の上から姿を消した。

 空を蹴りながら島に戻るゼニスの背中には、麦わらの一味の驚愕と悲鳴の声が届いていた。それを聞きながら、あくどい笑みを浮かべてより軽やかな足取りで飛んでいった。

 





 ゼット先生ホントにカッコいい…。
 ワンピースの曲はホントに名曲ばかり。

「雨が降って来たな。…いや、雨だよ。」
【鋼の錬金術師マスタング大佐より】
 普段弱さを見せない人物が不意に見せる弱さにそれを他人に見せたくない男の意地。
 それを理解した上で陰ながら支えてくれる相棒の存在。
 ホントにカッコいい…。
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