本日二話目
「泣くな!男が自分の人生に一本筋を通して逝ったんだ。……カッコいいじゃねぇか。」
朝日が照らす崖の上である男の死去を悲しむ鳴き声が響いていた。そして、それを嗜めるように、自分に言い聞かせるように怒鳴るクザンに涙していたアインとビンズは無理矢理嗚咽を堪える。
三人の視線の先には墓というにはあまりに粗末な十字架。ゼットが唯一残していった拳の後の残ったバトルスマッシャー。それを十字架にぶら下げてゼットの墓とした。
そんな彼らの後ろから二つの影が伸びてくる。
「俺も、拝ませてもらっていいか?」
突然聞こえてきた声に三人は振り向く。そこにはすでに島を離れたと思われていたゼニスと日和の姿があった。
驚きはしたものの、ゼファーから聞いていたため彼の正体は知っている。ゼニスが通れるように素直に道を開ける。できた道を進んでゼットの墓の前まで進む。
無言で数秒空を見つめた後、膝をついて目を閉じる。その横に日和も同じく祈祷を捧げる。数秒の静寂がその場に満ちる。
目を開けたゼニスは一つ笑うとその場を後にして行く。すぐ後を日和も付いて離れて行く。
その背中に静止の声がかかった。
「あの!」
「ん?」
ゼニスは声を受けてすぐに歩みを止めて振り返る。声をかけた本人であるアインはなかなか言葉を切り出せずにいた。ゼニスはそれを気にすることなく待ち、意を決したアインが言葉を続ける。
「先生からあなたの事は聞いています。いくら長い間合っていなかったとはいえ、悲しくはないのですか?青キジといい、あなたといい何故そんなに…。」
そこで言葉を切ったアインだが、言わんとすることは伝わった。ゼニスがどんな気持ちで会いに来たかを知っている日和はムッとした表情で詰め寄ろうとするがそれはゼニスによって止められる。
「なんだ、そんな事か。」と前置きして、ゼニスは言葉を続ける。その前置きにアインとビンズは物申すような顔をしたが気にせず続けた。
「男が・・・ギャアギャア泣いてたらな、ナメられちまうからな。」
その答えに唖然とする彼らをおいて二人は再び港へ向けての歩みを始めたのだった。
二人が去った後の三人の空間で二人はもう一度感謝を伝え、クザンがそれを見守っていた。
その後先に離れた二人と同じようにその場を後にして、海岸へと向かってゆく。するとそこには、ゼニスと日和が岩に腰をかけていた。
降りてきた三人を確認すると、岩から腰を上げ彼らに近づいて行く。
「お前らもありがとな。親父を支えてくれて。」
「い、いえ。むしろ私がたくさんの事をもらってばかりでした。」
「拙者もでござる。自分の意思でこの道を選んだのでござる。」
二人の返事を聞いたゼニスは「そっか。」とだけ返して微笑んだ。その笑顔はいつもの不敵さはなく純粋な笑みであった。
そして、その笑みを崩さぬまま一言だけ述べた。
「お前ら、俺の仲間になれよ。」
いきなりの勧誘に二人は呆気に取られる。
「これからどうするか決めてるのなら、無理にとはいえねぇが…。もし決まってないのなら、俺の船に乗れよ。」
それでも決めきれない様子の二人にゼニスは自分の考えを語り出す。
「俺の持論だが、人は何かを選択する際には後悔して傷付かずにはいられない生き物らしい。」
「悔いが残らないように選択しろ。なんてよくいうがあれは無理だ。」
「どんなに悩んで道を選んでも、あとで何かしら後悔する。」
それはまるで自分に言い聞かせるように穏やかに、されど力強く言葉を綴った。
「だから、せめて今は。今だけでも、自分が満足する答えを選べ。」
二人を見ながら、ゼニスは言葉を続けた。その言葉を聞いて先に我に帰ったアインが躊躇いがちに口を開いた。
「その、提案はありがたいのですが…。良いのでしょうか?」
不安そうに尋ねるアインにゼニスは笑顔を返す。
「なに当たり前のことを言ってんだ。いいから誘ってるんじゃねぇか。…それに親父の家族みたいなもんだろ?なら、俺にとっても家族だろ。」
そう言って答える。ゼニスが浮かべている純粋な笑顔に照れたのか、はたまたセリフに対してか。顔を若干赤く染めながら…。
「そ、そんな家族だなんて先生に烏滸がましいです。でも、そこまで言っていただけるのなら……。よろしくお願いします、船長。」
その返答に満足そうに頷きながら、「堅苦しいなぁ。」と揶揄うのだった。そして…。
「さっきから黙ってるが、お前はどうするんだ?ビンズ。」
「拙者は……遠慮しておくでござる。」
悩んだ末にその結論を下した。確かにゼニスの提案は嬉しく思う。それに仲間であり、妹分であるアインを守っていきたいとも思う。しかし…。
「拙者はこれから一人で旅をしながら、ゆっくり故郷に戻るでござる。拙者の旅はここまで。家族も、待っているゆえ。」
そう、ゼファーとゼニスのやりとりを見ていて恋しくなってしまった。ずっと先生を支えることを考えていたが、自分にも家族がいる。家族に会いたいという純粋な想いを思い出したのだ。
その想いを邪魔するのは無粋というものだ。それを理解しているゼニスは、少し寂しそうにしながらも「そっか。」と一言だけこぼして、ビンズの意見を受け入れた。
ゼニスの隣で聞いていたアインも口を開きかけるが、出かけた言葉を飲み込み口から出すことはしなかった。
その反応を見ていたビンズは申し訳なさそうにしながらも、嬉しそうに微笑んだのだった。
これで此処での用事は全て終わり。……とは行かない。
「それでクザン。アンタはどうするんだ?」
そう、ゼニスと同じくゼファーの最期を見届けにきたもう一人の人物。クザンである。
このゼニスの「どうする」には二つの意味が含まれていた。ゼニスの耳にもクザンが現在黒ひげとの関係を疑う声が入ってきている。そのことも踏まえた上での質問である。
一つ目は、此処で自分と戦うのか。それとも戦わずに戻るのかどうかという意味合いの質問。
二つ目は、このまま黒ひげサイドにいる場合は次回あった場合は敵同士となる。それでも、黒ひげに付いている必要はあるのかどうかという意味合いの質問である。
クザンは一度ゼニスのおふざけで殺されかけているのだ。ゼニスの脅威は文字通り身に沁みてわかっている。故にここで戦うという選択肢は初めからクザンの中には存在しない。
「俺さ、もうすぐ黒ひげの首を取りに行くことにしたんだよ。」
言う必要のない情報。しかし、ゼニスは黒ひげサイドのクザンの前で明かしてしまった。それが意味することは。
「あぁ、いらん事言っちまったな。このままお前を逃して黒ひげに情報が届いたら、逃げられるかもしれんしやっぱり一戦やっとくか?」
クザンの考えを見聞色で読み取った上で、元々少なかった選択肢を更に減らしていく。戦わずに黒ひげの元に戻る、という行動は禁止された。ゼニスによって強引に奪われてしまった。
ここでクザンが取れる選択肢は、『今ゼニスと戦って黒ひげの元へ向かうか』『戦わずに黒ひげの元へ戻る事を断念するか』となる。
しかし前者は高確率で戦った段階で殺される事になる。後者は口約束ではクザンが戻る可能性があるため、何かしらの制約を課せられるだろう。……クザンに残された選択肢は一つしか無かった。
「…俺に選択肢が残されてないじゃないの。お前さんとは戦いたくないのよ、俺は。」
「それじゃあ?」
「あぁ、黒ひげのとこに戻るのは諦めるさ。それで、俺はどうしたらいいんだ?………お前さん、ホントに先生の息子か?腹ん中真っ黒じゃないの?」
クザンの返答に海賊も真っ青な笑顔を浮かべるゼニスに、クザンはついつい一人呟いてしまったのだった。
「男が・・・ギャアギャア泣いてたら、ナメられちまうからな。」
【べるぜバブ男鹿辰巳より】
前話のほろりと涙を流したネタにも掛けてみました。笑
皆さん気付いていると思いますが、元ネタを作風に合わせて若干誤字ってますね。名言を貶すな!と言う方は、ブラウザバック推奨です。これからも多々こう言うことがあります故。