・バンシチです。ウマ娘のゴールドシチーとバンブーメモリーの二次創作です。これをバンシチと言い切る…!!
・パロネタ。バンシチでかぐや姫パロを。何でも大丈夫な方向けです! 日本ウマ娘昔話ファンタジー()
・読み切り中編、文庫本換算約34ページ。
・*オマージュ多め。
・ウマ娘の子たちはみんな強くてかっこよくてかわいくてサイコー!という気持ち
・pixiv:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17891173


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「輝く都の姫君と竹を想う姫君」

一――輝く都の姫君ありけり

 

 竹取を生業とする男があった。

 老境に差し掛かった男には長く連れ添った妻のほかに娘があったが、その子はウマ娘であり、ヒトである老夫婦の実の子ではなかった。

 

 それはこんなふうだ。

 十年と幾年か前、山林の木々を手入れし刈るのを日々の糧とするその男が里から近隣の山奥深くへと入ると、そこにひとふしの黄金に輝く竹があった。男が割ってみれば、静かに眠る美しいウマ娘の赤子の姿があった。竹のひとふしが光り輝いていたというのも、その娘の黄金の尾花栗毛の髪と玉のような色艶の白肌のためだ。

 ウマ娘の赤子は穏やかに寝息を立てていたけれども、その姿はどこか如何にもよるべなく思われた。しかし男が手を伸ばすと、赤子は彼の小指を握り微笑んだように見えた。

 ゆえに男は赤子を連れ帰り、自らと妻の子として迎え入れることにした。

 

 程なく、男が赤子を抱え西の都へと赴き、ウマ娘を診る医者を訪れた折のことだ。

 男が山々を越え里々を過ぎ都へと至ると、城門をくぐるやいなや都の人々は色めきたった。皆、男の抱える赤子の美しさに目を見張り息を呑んだのだ。男が街路を進めば眺める衆人はかように美しい姿形のウマ娘は稀にも目にしたことがついぞないと囁きあい、そこここで思わず笑みを漏らした――それは赤子の尾花栗毛にも似て、あたかも都そのものが黄金に輝くかのようであった。

 ゆえに男は里へと帰り妻に話すと、赤子を()()()()()()()()()

 

 長じて、()()()()()()は才気煥発な、若く美しいウマ娘となった。

 父母と暮らす()()()()()では彼女を知らぬ者はなかった。あのように美しいウマ娘はこの世のものとは思われない――彼女が里を歩けば皆がそう噂した。

 

 しかしウマ娘である輝く都の姫君はまた、走ることを愛していた。彼女は里を駆け回り、また養父や養母に連れられれば山林や川辺へと分け入ることが好んだ。里に暮らす他のウマ娘と()()()()をすれば、泥だらけになって父母のもとに帰ってきたものだった。彼女の玉のような肌に傷ひとつ付くなどということがあってはならない――そう里の大人らは気を揉んだけれども。

 

 いつしか輝く都の姫君は、都や大きな町ではウマ娘の()()()なるものが催されていることを知った。すると彼女は居ても立っても居られなくなり、自らも加わらねばいられないと父母に懇願したのだった。

 ゆえに彼女は父に連れられ再び都へと赴くと、彼の地で催されるウマ娘の競走会に加わったのだ。砂上を走る彼女の姿を目にした人々はかつて東の栗の里の老人に連れられて都を賑わせたあの赤子が今や立派なウマ娘となったことを認めた。彼女が走るのを見るにつれ、あれはこの世のものではない、あの黄金の髪は異国は南蛮、陽の光の燦々と輝く国より至ったに違いないのだと噂する者もいた。

 果たせるかな、彼女は仁川の町で催された若きウマ娘のための競走会で一着を取った。彼女はそれまでその気性のゆえに勝ちに逸っては他のウマ娘に出し抜かれていたものだから、勝利は彼女にとって待ち望む以上のものであった。これを以て自らの強さを衆目の下に示すことができ、その勝利は屹度明くる年の皐月の競走会へと繋がるに違いないと、そう彼女は然るべくこととして信じた。

 

 ところが、都の衆人が喜んだのはむしろ彼女の美しき姿形のゆえであった――あの美しきウマ娘はどうやらよく走るらしい――輝く都の姫君の走るのを彼らが喜んだのも、何よりもまず彼女の見目麗しさのゆえであったのだ。

 それからというもの、輝く都の姫君のもとには東西の名だたる貴族や名士らからの求婚の話が相次いだ――なんということはない、彼らはいわばその屋敷に飾るための金杯を欲していたのだ。

 

 輝く都の姫君の老父母はそうした求婚の申し出を何度も聞いたけれども、彼らはそれを嫌った。というのも、その時分如何に彼らが困窮に喘いでいるとはいえ――そして貴族らが話をするにあたって金目のものを明に暗に示したとはいえ――それは娘のためにならないと彼らは思ったのだ。

 ゆえに彼らは話を娘から隠した。娘にはそのような話など聞かぬまま然るべく育って欲しかったからだ。里の大人らも同じように考えた。

 けれども、噂はいつしか輝く都の姫君の耳に入るようになった。それは致し方なかった。

 

 すると求婚者らの噂を耳にした輝く都の姫君はひとりごちた――「()? ()()()()()()()()()()()()

 

二――輝く都の姫君かく走りき

 

()()()()()()()()」と輝く都の姫君は思った。

 

 もとより、輝く都の姫君は幼き頃より走ることも着飾ることも好きだった。着飾ることが好きだったというのも、それはたとえば都の貴族らに取り入るためでは決してなかった。そうではなく、彼女は着飾ることそれ自体を愛していたのだ。

 

 それはこんなふうだ。

 輝く都の姫君がその老父母とともに住む里の者どもの暮らし向きは決して良いとは言えなかったけれども、彼らは輝く都の姫君を愛した。

 ゆえに彼らは少しでも暮し向きに余裕ができれば反物を持ってやってきた。はじめ彼女の父母は慮り拒んだけれども、いずれ彼らはそれらを受け入れることに決めた。なんといっても、老父があの竹林で見つけた姫君はただ()()()()()であるのではなく、彼女を眺める里の者どもの温かい眼差しは老夫婦を含め皆の喜びであったのだ。

 

 そうした老夫婦や里の者どもの心の機微を幼い彼女は必ずしも解さなかったが、それでも輝く都の姫君は親しい里の者どもがその顔に笑みを浮かべるのを喜んだ。

 何より、競走会ののちに行われる()が格別だったのだ。

 都ではウマ娘の競走会が催されたのち、一着を手にしたウマ娘が煌びやかな勝負着に身を包み舞を披露するのが通例であった。それはあくまで大きな競走会でなされる催しであったけれども、里々でも小さな駆けっこの会が行われば、それに倣って入着したウマ娘が舞を披露するのが習わしであった。まだ幼いウマ娘たちがたどたどしく舞ってみせるのを里の者どもは拍手喝采で迎え楽しんだのだ。

 

 幼き輝く都の姫君が里のウマ娘の駆けっこの会で一着をとり観衆のもとに戻ってくれば母が泥を拭った。そして、舞を披露するにあたってその髪を整えるのは父の役目であった。竹取を生業とするこの老父は存外にも手先が器用だったのだ。それゆえ彼は娘の髪をときほぐし整えると、目を細め静かに微笑んだものだった。

 まだうら若き彼女にとって、それは如何にも照れ臭く、面と向かって父に謝意を伝えるのはどうにも憚られた。ゆえに彼女は父がその場を離れたのち、鏡に映る自らの髪を眺めては、「パパ、やるじゃん」とひとりごちてはやはり静かに微笑むのであった。

 

 輝く都の姫君が舞を披露すれば里の者どもは喜んだ。なぜならあのこの世のものと思われぬ美しさをもつ輝く姫君の姫君は、しかしいつもどこか人の目を気にし強張った面持ちを浮かべていたけれども、泥だらけになって競走会の一着を取った彼女は平静の彼女の美しく澄ました、冷たささえ感じられる様子とは裏腹に、その玉のように美しい白肌の顔を子供らしく綻ばせて笑うのであったから。それはあたかも水面に浮かぶ繊細な気泡が弾け、ほんのひととき虹の光彩を見せるかのようであった。

 ゆえに里の者どもは夢見た――もしもこのウマ娘の子が里の駆けっこの会のみならず、都の、本物の競走会に参じたらどうだろうか。もしもそこで彼女が一着を取り、彼らが与えられるより以上の、たとえば本物の絹の勝負着に身を包んで舞を披露すればそれは如何に素晴らしいことだろうか。

 

 里の者どものそうした眼差しを、輝く都の姫君は言葉にせずとも解していた。ゆえに彼女は、遠くの町や都で行われるより大きな舞台での競走会に参じたいという願いを恐る恐る口にしたのだった。

 けれども、仁川の町の若きウマ娘のための競走会を勝ったのち、より大きな競走会に参じた彼女の走りぶりは華々しいものとは言えなかった。皐月の競走会よりこの方、勝ちきれない走りが続いた。

 

 それにも関わらず、都の貴族や名士らからの求婚の話は絶えることがなかった。彼らは彼女をあくまでその姿形のゆえに評したのだ。

 もちろん彼女はもとより自身の姿形に満足し、着飾ることを好んでいた。彼女の走りぶりを見て喜ぶ人々のためだ。競走会ののちには決まって子供らや若いウマ娘らから拙い字で綴られた文が届いた。彼女はひとつひとつに隈なく目を通すと、その全てを臥所の箪笥の抽斗に大切に収めたものだった。

 けれども彼女は求婚者らの評を嫌い、彼らの申し出を如何にも愚かしいものに思った。

 

 ゆえに彼女は、「マジ無理、サイアク」とひとりごちたのだった――そうこぼすとき、彼女の肩は少し震えていた。

 

 然して輝く都の姫君は求婚の話をことごとく断り、そのために彼らには到底叶えることのできない無理難題を形の上で課した。

 その時分、走りぶりの芳しくない彼女はどこかむっつりと塞ぎ込んでいた。それも仕方のないことだ――老父母や里の人々の望むところに応じたいと思えどもそうすることのできない自身に彼女は苛立っていたのだから。

 

 そうした輝く都の姫君の様子を案じるにつれ、見かねた()()()()()()は彼女に言うほかなかった――「アンタ、本当に不器用っスね」、と。

 

三――竹を想う姫君もまたありけり

 

 里の老夫婦のもとには()()()()()()もまたあった。

 

 それはこんなふうだ。

 竹取を生業とする男が竹林で輝く都の姫君を見出すひと年かふた年前のこと、男がいつものように山へ分け入るとそこにひとふしの黄金に輝く竹があった。男が竹を割ってみれば、健やかに産声を上げるウマ娘の赤子があった。竹のひとふしが光り輝いていたというのも、屹度その赤子の闊達さのゆえであったのだろう。

 男がひどく驚き狼狽えたのも訳のないことだ。里々の言い伝えには聞いたことがあれど、竹の中に眠るウマ娘の赤子などついぞ目にしたことがなかったのだ。しかし男がしげしげと眺めるにつれ、赤子は男の目を真っ直ぐに見つめ返したように見えた。

 ゆえに男は赤子を連れ帰り、自らと妻の子として迎え入れることにした。

 

 長じて、赤子は才気煥発な、若く逞しいウマ娘となった。

 彼女はそのウマ娘の膂力をもって養父の仕事を支えた。父について山林に分け入れば大の男も怯むような仕事をやってのけるのだった。

 その時分、竹取を生業としていた里の者どもの暮らし向きは必ずしも良いものとは言えなかった。どういうわけか山々は荒れ果て、町や都へと売りに出すことのできるような質の良い木々や竹を用意することができなかったからだ。猿や猪の仕業だけではない、屹度それは天狗や鬼のなすことに違いないと里の者どもは噂したものだった。

 それを耳にした若きウマ娘は、父に懇願すると竹刀を拵えてもらい、ひとり山林に分け入ったのだ。

 

「これも恩返しっスから」――里へ戻った彼女は里の者どもにそのようにだけ告げた。それからというもの竹林が荒れることはついぞなかった。里の者どもは驚くと、このウマ娘の若者が如何に里を愛し、竹林を想い、人々を気に掛けているか、そのことに感じ入ったのだった。

 ゆえに彼女は()()()()()()()()()ようになった。

 

 しかしウマ娘である()()()()()()はまた、走ることを愛していた。

 彼女が砂上を走れば喝采が沸いた。競走会ではいつも芳しい成果を残せたわけではないが、彼女はいつも力を尽くして走った。中団につけ、最後の角を過ぎればその鬼のような末脚をもって捲り上げ、すると観衆は大いに沸いたのだった。

 

 ゆえに里の者どもは竹を想う姫君に()を見た――もしもこのウマ娘の子がより大きな町の、芝で催される競走会に参じたらどうだろうか。もしもこの辺境の竹の里に生まれた彼女がそこで一着を取ったとすればそれは如何に素晴らしいことだろうか。里の者どもにとって彼女は夢そのものであったのだ。

 

 然して竹を想う姫君は父母に懇願するとより大きな競走会に参じることを決めたのだった。

 

 果たせるかな、彼女は遠く東は江戸の町へ初めて赴き、ウマ娘の競走会の勃興に貢献した安田伊左衛門なる名士の名を冠した伝統ある競走会に馳せ参じれば、有力と目された()()()()()()()ら名だたるウマ娘らを下し一着を取ったのだ。

 観衆は大いに驚いた。競走のあいだ後方に付けた彼女の名が彼らの口に上ることはなかった。しかし最後の直線で外から身を持ち出すと、竹を想う姫君は他のウマ娘らを一気に差し切って見せたのだ。それまで芝の競走会で大きな活躍を見せたことのない、西方よりやってきたこのウマ娘の、一体どこにそれほどの力があったのだろうか――そう訝しんでは観衆はどよめいた。

 

 おそらく竹を想う姫君にとって芝を走ることはそれほど造作なかった。しかし長さはそうではなかった。いずれ彼女がより大きな競走会に参じるのならば、屹度彼女がこれまで試したことのない長さを走ることは避けがたい。ゆえに好奇に駆られた観衆は彼女に訊ねた――彼女は何故、そして如何に走る心づもりでいるのか、と。

 

「いやー、そうなんスけど、持ち上げてくれる人たちがいるんスよ。アタシが『夢』だって」竹を想う姫君はそう応じた。「そんなこと言われたら、出るしかないじゃないっスか」

 

四――輝く都の姫君と竹を想う姫君

 

 ところで竹を想う姫君はまた、共に暮らす輝く都の姫君を深く思いやり気遣った。

 

 輝く都の姫君は日頃より多事に追われていた。競走会へ参じ、それに向けて鍛錬するだけではない、折に触れて都から絵師どもが煌びやかな着物を持って彼女を訪ねて里へとやってくれば、彼女は絢爛たる衣装に身を包むとその姿を彼らが絵に表すのに任せた。見物にやってきた里の者どもは彼女の姿を眺めるにつれ息を呑んだ。この侘しい里より出づる輝く都の姫君の美しき姿形を表した絵巻や版画が屹度あの都で大いに出回るのだ――そう考えるだけで彼らの顔は思わず綻んだ。そして輝く都の姫君もまた彼らの眼差しを喜んだ。

 

 然して、日々の疲れのゆえか寝覚めの悪い輝く都の姫君を起こすと肩を貸し、二人の臥所から広間へと連れゆくのは竹を想う姫君の役目であった。もとより竹を想う姫君は明け方里の者どもの誰よりも早く起床すれば、父や里の者どもが竹取に向かう備えをするのに加わり、戻れば今度は台所で母が朝餉の支度をするのを手伝うのだった。

 かように働き者の竹を想う姫君を輝く都の姫君は敬った。ゆえに親しみを込め、彼女を先輩と呼んだのだった。

 

 二人の姫君のそうした姿を眺めるにつれ老夫婦は目を細めた。一見、猪のような真っ直ぐな気性をもつ竹を想う姫君と、つんと澄ましているようでどこか所在なさ気な面持ちの輝く都の姫君の性は相容れぬもののようにも思われただろう。しかし、二人の姫君が互いを助け合うのを老翁とその妻は喜んだのだ。

 

 とはいえ、輝く都の姫君の竹を想う姫君への敬いはどこか天邪鬼なところもあった。

 彼女の競走会ののち子供らや若きウマ娘らからの文が籠一杯に溢れんばかりに届けば、夜には二人の姫君の臥所は足の踏み場もなくなるほどであった。屹度すぐに読み終えて仕舞うと竹を想う姫君に約束すると、輝く都の姫君はこう続けるのであった。

「それまでは立っててくれません?」

「えっ、鬼……?」と、真に受けた竹を想う姫君は思わず漏らした。

 すると輝く都の姫君は背を向け文へと目を戻す仕草を見せながらも、その実、竹を想う姫君の方をちらちらと眺めては、彼女の狼狽えるさまを見て声を抑えてほくそ笑み、「冗談ですって」とひとりごちてはくすくす笑うのだった。

 

 或いはまた、時に輝く都の姫君は夜分遅くまで文を読み返書をしたため手習いに励むうち、我知れず眠りに落ちてしまうことがあった。するとその姿を目にした竹を想う姫君は、平静は人に見せないような微笑みを口元に浮かべると彼女に夜着を被せた。

 時には竹を想う姫君が夜中ふと目を覚ますと、どういうわけか自分の夜着の内に輝く都の姫君が入り込んでいることに気づくことがあった。同衾した輝く都の姫君は静かに肩を震わせ冷たい汗を額に浮かべると悪い夢にうなされているようであった――竹を想う姫君にはそう思われたのだ。ゆえに竹を想う姫君は彼女の頭を撫で、彼女が穏やかな寝息を立てるのを見守れば、明くる朝まだ日が昇りきらぬうちにそっと臥所を出てゆくのであった。

 

 おそらくその時分、輝く都の姫君は競走会での自らの走りぶりの不甲斐なさのゆえに心の休まるところがなかったのであろう。

 皐月の競走会からというもの、秋に催された菊の競走会、明くる年の春の帝の天覧される競走会、そしてその秋の異国のウマ娘らを招いての国を挙げての競走会に至るまで、輝く都の姫君にとっては実りの著しくない走りぶりが続いた。

 それというのも無理はない、その時分大きな競走会においては二人の芦毛のウマ娘、すなわち西()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が席巻していたのだ。白き稲妻の姫君はウマ娘の競走会の歴史上初めて春と秋の天覧試合を続けて勝利し、また、秋の異国のウマ娘を招いての競走会においては()()()()()()()()()()()()()()に勝利を譲りはしたものの、小栗の姫君とともに比類のない走りぶりを見せたのであった。

 

 その華々しい国を跨いでの競走会において、輝く都の姫君はさしたる見せ場もなく十二着に終わった。

 それにも関わらず、黒船に乗ってやってきた観衆は異国の言葉で彼女を誉めそやした。帯同した異国の名士のうち、さる文人が彼女を「非常に美しく魅力的な栗毛」と評したことが記録にも残っている。異国の貴族の中には、慌てた都の名士らを振り切り彼女に求婚する者もいれば、資産を成す事業家は彼女を連れ帰り、彼の地にあるという「夢の国」なる歓楽街において彼女を使役させようとした――そこでは模擬競走会と舞の披露が催されるという評判ではあったが、なんということはない、つまるところそれは見せ物であったのだ。

 

 ゆえに輝く都の姫君はそのすべてに幻滅した。観衆に幻滅し、自らに幻滅した。

 

「あーあ、バカみたい」

 ある夜、臥所でおのおの夜着におさまろうかという頃、輝く都の姫君は独り言のように呟いた。竹を想う姫君は手を止め何も言わず彼女の方を見つめた。

「結局さー、頑張って走っても何も変わらないじゃん、って」

 

 すると竹を想う姫君は訊ねた。「アンタはどうして走るっスか?」

「どうしてって……。ほら、アタシの走りで見返してやりたいし……アタシのこと見た目だけだって思ってる奴らのこと」

「……じゃあ、アンタはどうして綺麗な着物を着たりするっスか?」

 その問いの方がむしろあまりにも明らかに思えたのだろう、輝く都の姫君はしばらく黙ったのち呟いた。「それは、その……好きだし」

 もとより竹を想う姫君は美しきもの、麗しきものに頓着しなかった。華美たること、着飾ることをさして解さなかった。しかし彼女は輝く都の姫君の内に秘めたる情熱を認めていたのだ。ゆえに彼女はこう続けた。

「そうっスよ。好きってことじゃないっスか。走るのだって同じっスよ。見返すとかってことはアタシには分からないっスけど、アンタは走るのが好きなんスよ」

 依然として輝く都の姫君は憮然とした面持ちであった。また少し黙ったのち、彼女はこう訊ねた。

「じゃあ先輩はなんで走るんですか? そりゃもちろん走るのは好きなんでしょうけど。でも特にその……ショージキ長さも得意じゃないでしょうし」

 

 輝く都の姫君がかくの如き問いを発したのも訳のないことではなかった。

 それはこういうことだ。

 養父母のもと二人の姫君は同じ屋根のもとに暮らし臥所を共にしたけれども、競走会で二人が共に走ることはかつてなかった。というのも、彼女らは得意とする競走の長さを異にしていたからだ。輝く都の姫君はウマ娘の競走会の花形とも言える、長さのある競走を得意としていた――ゆえに彼女は西より参る白き稲妻の姫君や美濃の国より出ずる小栗の姫君など名だたるウマ娘に挑んだのだ。

 他方、竹を想う姫君はどちらかと言えばより短い競走を得意とし、そこで華々しい走りぶりを見せた。しかし彼女はより長い競走に挑もうとしていた。半里を超える長さの競走で彼女が良い走りぶりを見せられるかは定かではない。それにも関わらず挑もうとするのはなにゆえであったのだろうか。

 

「うーん、もちろん走るのが好きだっていうのもあるんスけど、やっぱり応援してくれる人たちの夢っスから」と竹を想う姫君は答えた。

「夢、ねえ……」輝く都の姫君はそう漏らしはしたものの、()というのが竹を想う姫君の日頃より口にする言葉だということをもちろん解していた。ゆえにその言葉を発する竹を想う姫君の瞳の奥に里の人々や競走会に集まる観衆の姿が映っていることを彼女は容易く見てとった。

 

 臥所は二人の姫君の間に置かれたただ一本の蝋燭によって灯され、それが壁に静かに揺れ動く影を作っていた。

 

 すると輝く都の姫君は気づいたのだ。それは悟ると言うにはあまりにも自ずから明らかなことであったため彼女は思わず苦笑したけれども――それすなわち、暗い臥所で彼女らは二人だけで話をしていたが、竹を想う姫君の瞳に彼女を励みとする人々が映っているのならば、彼女自らの後ろにもまた、彼女が走るのを、また着飾るのを好きだと言うとき、そこに喜ぶ人々の顔が確かにあるということを。

 

「アンタはどうして走りたいっスか? どんな想いを伝えたいっスか? 何を見せたいっスか?」と竹を想う姫君は続けて訊ねた。

 輝く都の姫君は未だ自らの内に巡らせた想いに耽っていたが、しばらくののち笑って答えた。

「ははっ、なんだかバカみたいですね。ホント単純で……でも……」

 そこで輝く都の言葉に詰まったが、彼女はもう穏やかな面持ちを浮かべており、それゆえ大丈夫なのだと竹を想う姫君は見てとった。

「でも、アンタも大概っスよ」竹を想う姫君はその顔に笑みを浮かべて言った。

 

 屹度二人の姫君は存外に似た者同士だったのだ。内に秘めたる想いを誰にも譲ることはできない、そのような頑固さを、或いは真面目さを、彼女らは言葉にせずとも互いの内に認めていたのであろう――おそらくそれはおのおののウマ娘に定められた業のようなものでありながら、屹度二人が共に分かち持つものだったのだろう。

 

 ゆえに彼女らはおのおの夜着を被り臥すと、もはやそれより余る言葉を交わすことを要しはしなかったのだ。

 

五――宝の塚の競走会

 

 水無月のこと、輝く都の姫君と竹を想う姫君は遂に同じ競走会を走ることとなった。

 仁川の町で催される()()()()()()()と呼ばれるそれは二人の姫君にとって格別の意義をもっていた。というのも、他の競走会と異なり宝の塚のそれは参じるウマ娘らが投じられた人気の牌によって決まるのだ。

 ゆえに目出たくも選ばれた二人の姫君が背負うものは一際であり、ふと目を瞑れば彼女らの脳裏には郷里の人々が、またこれまで競走会に馳せ参じた観衆の顔が浮かぶのであった。

 とりわけその競走会には遠く東の江戸からは()()()()()()()が馳せ参じると噂されていた。かの姫君に、ふたつきほど前に催された帝の天覧される春の競走会で輝く都の姫君は敗れていたのだ。

 

 二人の姫君は同じ控え所におり、勝負着に身を包んだ頃だった。彼女らの勝負着は来たる競走会に向けて二人を支える人々が特別に拵えたものであり、それに袖を通すのは彼女らにとっても万感の思いであった。ゆえに二人の姫君はいささか強張った面持ちで勝負着に身を包むと、互いの姿を調べ、襟や帯を整え直したのだった。

 輝く都の姫君を正面に見据え彼女の襟を正すと、竹を想う姫君は穏やかな笑みを浮かべ目を細めながら言った。

「うん、綺麗っスよ」それはなんということもなくふと漏れた呟きのようでもあった。

「……っ! き、綺麗って……!」

 輝く都の姫君が驚いたのも無理はない。一体、平静より着飾ることを解さない竹を想う姫君が如何にしてそのような言葉を用いたのか、屹度それは誰にも分からなかっただろう。

 ゆえに輝く都の姫君は、丁寧に巻かれたその黄金の髪の端を指で弄びながら伏し目がちに言った。「先輩もその……似合ってますよ」

 屹度そのとき竹を想う姫君もまた自ら発した言葉に驚いていたのであろう、彼女は顔を少し赤らめていたけれども、目を伏していた輝く都の姫君がそれに気づいたかは分からない。

「……とにかく、アタシたちは挑む立場っスから、一緒に全力でぶつかって、存分にあがくっス!」咳払いをしたのち、竹を想う姫君は言った。

「……うん、よろしくお願いします」

「アタシの、アタシたちの夢っスからね。父さんと母さんと、里の人たちと、ここに見に来てくれる人たち……それから、()()()()」そう竹を想う姫君は言うと、彼女にしては珍しく顔を逸らした。

 

     *

 

 芝の上に立った二人の姫君が手を挙げ歓声に応じると、しばらくして出走の刻を告げる法螺貝の音が鳴り響き競走が始まった。

 晴天のもと十六人のウマ娘が首尾よく横に並んで飛び出すと、千代の桜の姫君が二番手につけ、東より馳せ参じた稲荷の社の姫君はその後ろに己の場所を選ぶ。人気を博した()()()()()()()()()はいささか出遅れ後方を選んだ。

 

 競走会の常であるように、誰の目にも一瞬が永遠のようであるかに思われた。途中、竹を想う姫君は中団に自らの場所を見出し、輝く都の姫君はさらに後方、自らを外へと持ち出す。全てのウマ娘が互いにどこから飛び出すか図り合ったのだ。

 

 輝く都の姫君は未だ控えてはいたものの、向正面で陽の光を浴びながら勢いよく芝を蹴ると、ウマ娘らが走るその足音が怒号のように轟く中で不思議と静寂を感じながら、自らがそこで走っていることを喜んだ。彼女の少し前には竹を想う姫君が走っている。屹度彼女と同じように、いつ仕掛けるべきか、いつ差すべきかと考えを巡らせているに違いない。

 

 すると輝く都の姫君は突如気づいた。それはなんでもないことだったけれども――屹度彼女は今も、これまでも、そしておそらくはこれからもずっと走り、走り続け、その傍らには竹を想う姫君がいるだろう、と。

 彼女の脳裏には、なぜだか幼い頃郷里の野山を駆け巡った思い出がよぎった。父や母に連れられ幼い彼女は里や野山や川辺を走り回った。初夏の頃、田植えが終わったばかりの里を駆け回り、その縁に片足を突っ込めば泥に塗れた彼女の脚とは対照的に田に張る水はぬるいけれどもあくまで澄んだ水飛沫を上げ、それが彼女の黄金の髪を照らしたが彼女は歩みを止めず、そのまま山の中へと駆けて行くと川辺の清水の流れに飛び込み身を任せ熱くなった体を冷ましたのだ。冷たい水を浴びて頭を上げた彼女は笑顔を浮かべ、たしかにそれは野山を駆け巡ることの喜びを表していたけれども、それだけではなくまた、彼女は後ろを振り返ると、共にやって来た者ども、すなわち父母や里の人々や竹を想う姫君のために笑顔を見せたのだ。

 或いはまた、夜には星を見た。川辺に来れば星を見上げ、夏には蛍がその命を燃やして煌めくのを見た。しかしもちろん、夜というものが彼女に与えたのは良い思い出ばかりではなかった。彼女はよく悪い夢を見た。屹度走るということは彼女にとって時にあまりに孤独な営みであったのだろう――それは先の見えぬ夜の長い闇を一人あてどなく歩み続けるようなものだったのだから。

 けれども彼女はまた解していた。彼女の暗い夜にはいつも竹を想う姫君が寄り添い、二人の姫君は共に昼と夜を駆けたのだ。ゆえに芝を駆ける輝く都の姫君は思った――

 

 ああ、走るということはなんと美しく喜びに溢れたものであることだろうか。

 

 競走会は最後の局面を迎えた。

 稲荷の社の姫君は順調に前へと進んでいた。二人の姫君は機を狙っている。そのまま最後の直線へとウマ娘らは一斉に雪崩れ込んだ。すると足を溜めていた竹を想う姫君が突っ込む。稲荷の社の姫君は内からさらに伸びる。大外からはまた別のウマ娘が差し切ろうと伸びてくる。

 竹を想う姫君の走りは苦しいだろうか、それとも伸びるだろうか。そう思ったのは輝く都の姫君であった。彼女自身、ここを超えずしてなんであろうか。ゆえに彼女は隣のウマ娘と競りあい、抜きあい、差し返しあった――もう少し先へ、ただ先へ、先を走るウマ娘らを超えてその先の景色へ、そして――

 

六――二人の姫君かく走りき

 

「あーあ、負けた……。先輩、最後ちょっと惜しかったですね」

 乱れた息を整えながら竹を想う姫君のもとへ歩み寄ると輝く都の姫君は言った。

「いやー、まだまだっスね。遠かったっス」輝く都の姫君以上に息を切らしながら竹を想う姫君は応じた。「アンタもよく頑張ったっスね」

「負けたけど……うん、でもダサくはないかな」

 

 二人の姫君は芝の上に立ちすくしていた。遅い昼の日の光の中、競走会を見事勝利した稲荷の社の姫君を讃える観衆の声が響き渡っていた。

 竹を想う姫君は五着に、輝く都の姫君は十着に終わった。

 

「……それで、アンタはこれからどうするっスか?」万雷の拍手を送る観衆を眺めながら竹を想う姫君はふと訊ねた。彼女もよく知っていたのだ――輝く都の姫君のもとには今も求婚者らからの申し出が相次ぎ、異国に招かれ、またいけ垣を跳躍する華やかな障害走への転向を薦める者もあった。或いはまた、帝の天覧される競走会ののちには若き天子様が彼女を宮中へと招くのではないかというまことしやかな噂もあったのだ。

 

「……走りますよ、うん、走る。ほっといても『いつか王子様が』なんてわけじゃないし、大体そんなの望んでないし」と輝く都の姫君は答えた。

「うん……アンタらしいっスね」

「ちょっと前なら、もっと弱ってたかも……たとえば、ほら」と彼女は空へと指差した。夕刻が近づく空には青白い月が顔を出していた。

「どこか遠くから、たとえばあの月みたいなトコから、いつかアタシのことを分かってくれる誰かが来てくれるんじゃないかってちょっと期待してたかもしれない。でも、アタシの居場所はここにしかない。走るし、モデルもやる。どっちもやりますよ、好きだから。走ってる自分が好きだし、モデルのアタシも、今は嫌いじゃない。だってどっちも、アタシじゃん。それに、アタシのことを照らしてくれる人はここにいるんだって、今ではそう思えるし……」

 

 地鳴りのように沸く競走会の場とは対照的に、早い月は静かに青白く輝いていた。

 

 輝く都の姫君は伏し目がちに相手の方を見遣ったけれども、竹を想う姫君はどうやら興奮を隠しきれずその碧眼を爛々と輝かせていた。

「くう〜〜っ!! 熱いッ! 熱いっスよ!!」

「えっ! 先輩、今の話聞いてました?」

「もちろんっスよ! こうしちゃいられないっス! アンタの気持ちは受けとった! だから腹から声出すっスよ!」

「え、叫ぶのマストなんですか……?」

「当然っスよ! よし、決めたっス! アンタの成功を祈って今から走り込みっス!」

「え!? こ、ここで!? 今から!? ちょ、ウイニングライブもインタヴューもありますよ!?」

 輝く都の姫君がそう言う間もなく竹を想う姫君は西日の照らすなか芝の上を走り出していた。

「あーあ、まったくもう、なんか台無しだし……でも先輩、サンキュ」竹を想う姫君の背を見ながら彼女はそうひとりごち、そして静かに微笑んだのだ。

 すると彼女はその右脚に力を入れた。今では彼女は信じることができる――自らが「誰よりもカッコよく、強く、輝いてるって、自信あるから」、と。

 

 ゆえに輝く都の姫君は光へと走り出したのだ。

 

(「輝く都の姫君と竹を想う姫君」了)

 

七――(オマケの蛇足)

 

「――なるほど、日本最古の物語文学と言われる『竹取物語』にウマ娘のレースの起源を絡ませたフィクション……確かにこうした創作はあまり目にしたことがないかもしれません、デジタルさん」トレセン学園の図書室でアグネスデジタルから渡された冊子に目を通し終わったゼンノロブロイはそう答える。

「デュフフ……そうなんでしゅ、ロブロイさん! この作者によるウマ娘ちゃんたちの歴史と昔話のマッシュアップと言いますか……」

「確かに興味深い創作の試みではありますが……ところでデジタルさん、先ほどおっしゃっていた『薄い本』とは一体何のことでしょう? それにこの本の裏表紙には国際標準図書番号も見受けられませんが……」

「ぐほぁ!? それはどうか忘れてくださいまし!」

「ふーん、なあ、この『黄金の船の姫君』ってのはもしかしてこのゴルシちゃんのことじゃねえか?」アグネスデジタルの肩越しに冊子を眺めた()()()ウマ娘がそう言った。

「『黄金の船の姫君』ですか? そのような記述は見当たりませんが……って、うへへぇ〜ッ! ゴールドシップさんじゃないですか!? なんという麗しいお姿……!」

 すると図書室の扉がガラッと音を立てて開く。

「見つけたっスよ、アグネスデジタル! いつも授業に関係ない本を学園に持ち込んで! アンタが文武両道だってことは知ってるっスけど、心配っスから今日という今日は許さないっスよー!」

「ひぇ〜!! 『鬼の風紀委員長』様! お情けを! 許してください〜!!」

 

     *

 

「お? あれバンブー先輩じゃね? シチーの好きピの」と、トーセンジョーダンが言った。トレセン学園の校舎の窓越しに彼女が指差す先には中庭を走るアグネスデジタルとそれを追いかけるバンブーメモリーの姿があった。

「はぁ!? 別に好きピじゃねーし! いや、嫌いじゃないけどさ……」

 そんなふうにゴールドシチーが口ごもっていると彼女たちの後ろから()()()ウマ娘が現れた。

「オイオイ、こんなとこで何してんだよジョーダン?」

「げ!? ゴルシじゃん! なんで急に出てきたし!?」

「決まってんじゃねーか! オメーのこと蹴りたくてゴルシちゃんうずうずしちまってたんだよ!」

「いや、ワケわかんねーし! サイアク!」

 そうしてトーセンジョーダンとゴールドシップが廊下を駆け出すと「何やってんだか」とゴールドシチーはつぶやく。それから彼女がもう一度窓の向こうへ目を戻すとまだバンブーメモリーの姿があった。

「あーあ、先輩、相変わらずだし」

 けれどそう独り言のようにつぶやいた彼女は人知れず目を細め静かに微笑むのだった。

 


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