それでは初めての小説を投稿させて頂きます。
初投稿です! 対戦よろしくお願いします!
学校のテストまであと一日。そんな忙しい中、僕はその日の放課後に飼育係として兎の世話をしなければならなかった。
時間が惜しい。なぜなら少しでも勉強しないと、このままでは成績優秀なサトシに勝負で負けてしまうからだ。本当は兎の世話なんかほっぽりだして早く帰りたかった。しかしそれを実行してしまうと兎が可愛そうな目にあってしまう。だから諦めて己の仕事をすることにした。
そんな後ろ向きな意思で飼育小屋の扉に手をかけると、驚いたことに綺麗な若草色の蛇が僕たちの兎を食べようとしている光景を目にしてしまった。
しかもこの蛇は普通の蛇ではない。その太さは体育の先生の鍛え上げられた首のように太く、その長さは僕の身長より大きく見える。そして今にも白くてかわいい毛玉を呑み込まんとする口は漫画でみた口裂け女を思わせるほど大きかった。そんなことからペットにしか興味のない僕でもこの蛇が異常であるとわかってしまった。
腰を抜かしてしまいそうになるほど怖い。しかし、このまま助けを呼びにいけば皆でかわいがった兎たちが一匹残らず食べられてしまいそうだ。一方、幸いにも蛇は目の前でブルブル震えるぴーちゃんに夢中でこちらに気づいてない様子だ。
だから僕は覚悟を決めて飼育小屋に立てかけてあったホウキをもって、突撃した。そのさい蛇はこちらに気づいたようだがもう遅い。僕は必死になりながらホウキのブラシ部分で何度も何度も蛇をたたいた。不意をつかれた蛇はそこから抜け出そうとしているが、ザバザバと繊維が目にあたるごとに怯んで動くことができないようだ。このまま僕は勢いのままにホウキを振るい、蛇を痛めつけていった。
しかし、腕を振るいすぎて息が上がりそうなくらい時がたった頃だろうか。蛇はその大きな口をあけて「まいった! もうやめてくれ!」と老婆のようにしわがれた声をあげた。
僕は驚きのあまり手を止めてしまいそうになった。しかし、それにかまわず今度はホウキの柄を使って勢いよく蛇の大きな喉を突くことにした。なぜならこんなのに隙を見せれば僕がごちそうになりかねないと判断したからだ。「いやほんとにやめ、デッ! 痛い、痛い!」とさらに聞こえたがきっと気のせいだろう。僕は蛇が弱って動けなくなるまで叩き続けた。
そして蛇をこらしめ終わった。蛇は飼育小屋の中でピクピクと痙攣して「いやもうこんなことしませんので勘弁してください……」とうめき声を上げている。どうやら幻聴ではなかったようだ。
しかし、人の言葉を喋るとはなんと不気味な生き物だろう。きっと現代に生き残った不幸を呼ぶ妖怪に違いない。こんな化け物は早く先生たちを呼んでとどめを刺してもらうのが正解だろう。そう考えた僕は疲労した体を酷使して職員室へと向かおうとした。すると後ろから、
「そういえばきみ。きみは明日のテストでサトシくんよりいい点数をとらないといけないそうだね」
と聞こえた。
僕は今度こそ驚きのあまり体を止めてしまった。そして思わず、警戒するように、慎重に振り返ってしまった。
「なんでその話を知っているんだ?」
これはサトシとその周りにいた友人たちしか知らないはずだ。なのになんでこの蛇は、僕の事情を知っているんだ?
蛇はまるで人を化かして喜ぶ狐のように人を小馬鹿にする態度で質問に答えた。
「蛇に隠し事なんて無駄だよ。なにせ私たちは見えない獲物を捉えるための第三の目が発達しているからね。だからどんなに誤魔化そうとしてもきみの抱えている隠しごとなんざ全てお見通しだよ」
第三の目とはなんのことだろうか。そういえば数ヶ月前に見た図鑑によると蛇には『ピット器官』と呼ばれる器官があると書かれていたような気がする。原理なども書かれていた気がするが流し読みだったせいかあまり覚えていない。それでも見通しの悪い夜間の草むらに隠れたネズミをとらえるのに使われていると知ることができた。だから、おそらくこの蛇はその器官のことを言っているのだろう。
しかし、こいつの言っていることは本当なのだろうか? 図鑑の説明には蛇が心のなかを読めるなんて書かれていなかったような気がしたはずだ。しかし、蛇そのものがそう断言している。じっさいに蛇と会話をして蛇の気持ちをすべてを理解した、という学者が前例になければ、僕はとりあえずそれを信じるほかないかもしれない。
「なんだか言いくるめられている気がするが、とりあえず納得しておこう。しかし、そんなことをわざわざ僕に言って何がしたいんだ」
「なぁに、ただの命乞いだよ。なにせ私はきみに徹底的にたたかれたおかげですぐには逃げられないからね。このまま他の人間たちを呼ばれてしまえば、私はきっと腐ったリンゴいじょうにひどい状態になるかもしれない」
「なるほど、目的がわかりやすくていい。しかし僕にはお前を見逃す理由なんてない。たとえ僕の心の中をよめるような化け物であってもだ。なぜなら、お前はクラスのみんなが可愛がっているぴーちゃんを食べようとしたからな。そんな悪い蛇を倒そうとして、いったい何が悪いんだ?」
「だからこそ、いまから取引きをしないかともちかけようとしているんだ。別に驚かしたいわけじゃない」
「取引き? サトシとの勝負に関係のあることか? いったいお前になにができるっていうんだ」
「明日の勝負にさえ勝てばいいのだろう。だったら簡単さ、“消してしまえばいい”」
「なんだって!?」
まさかこいつサトシに襲いかかって殺してしまおうと考えているのか。やはりこいつは悪魔かなにかのようだ。とても生かしていけおけない。
たしかにサトシはいつもテストの点数を自慢して僕や友人にマウントをとるような嫌なやつだ。今回だって僕たちにぜったい勝てると確信したのだろう。次のテストで一番点数の高かったやつが最下位の人に一つだけどんな命令をしてもいいと、自信満々に勝負を仕掛けてきた。そんな鼻につくような傲慢な態度が気に食わず、僕たちは必死に勉強をしてサトシを最下位にしようとしている。それくらい嫌なやつだ。
だけど、それはテストが絡んだときの話だ。普段のサトシは気がよくて面白い人であり、彼と遊ぶ時間はなんやかんや楽しいものになり、多くの友人にもよく慕われている。それは僕も例外ではない。
だからこんな暴力的な方法を提案するようなやつと取引きなんかしたくない。やはり今から先生を呼びにいくのが正解だろう。
「待て待て。最後まで話しを聞いてくれ。私が提案するのはもっと穏便で平和的な方法だよ」
「消してしまうに平和もなにもないと思うけどな。しかし、一応なにか言い分があるなら聞いておこう。ただし、僕の慈悲を裏切るのであれば、そのときはどうなるかわかるだろ?」
「ヒッヒッヒ。それは怖い怖い。だったら最初からわかりやすく結論から言ってやるよ」
大蛇はニタニタと笑ったあと、嗚咽し、喉を膨らませ、そして小さな石を吐き出した。
いや、それは石ではなかった。その形はもともと直方体であったのだろうが、四角が丸くなっていて上下非対称になっている。その大きさは僕のようなこどもの手のひらにおさまるほど小さい。まるで勉強に使うような消しゴムだ。
しかし、なによりも特徴的だったのは色であった。その色は僕が普段つかう鉛筆の色よりも黒く、まるでブラックホールのようであった。それは蛇の粘液によって汚れているはずなのに少しも光を反射していない。まるで光を吸収しているみたいだ。僕はさっきまで抱いてはずの義憤を忘れ、思わず息をとめながらそれをずっと見つめてしまっていた。
「これは『悪意の消しゴム』といって、適当な紙に文字を書いてそれを使って消すと、込めた悪意の種類や大きさに応じて一定範囲内にあるそれを同時に消すことができる。悪魔の一人が作った魔法の文房具さ」
僕は蛇に声をかけられてはじめて正気に戻った。疲れた体が空気を求めて肺を動かし始める。そして蛇はそんな僕にかまわず説明を続けた。
「明日のテストではテストの終了時間間際にサトシくんのフルネームを書いて消してみな。なぁに、安心しろ。きみみたいな正義感をもつ小僧だったらせいぜい教室の中からその文字列がすべて消えるだけで済むはずだよ。まぁ、お前が大人どもを陥れたくてわざと街中にある書類の文字を消そうとするほどの悪意があれば、話しは別だがね」
蛇は意地悪そうに話し、そして何かを思い出したのか新しい忠告をいれてきた。
「そうそう、この消しゴムをもつときの注意点が一つ。絶対に他人に渡すことも、これをもらったことを言うんじゃないぞ。きみみたいなやつならともかく、他の人間の手に渡れば大変なことになるだろう。だからこの取引きは絶対に秘密にしろよ」
蛇が話し終わると、突然、飼育小屋の中に大きな風が吹いてきた。それは飼育小屋前の砂や土を巻き上げ、僕の視覚を一時的に奪った。
そして風がやみ、目を開けると、あの巨大な蛇はどこにもいなかった。音もなく、痕跡もない。まるで煙が空気にとけるように消えてしまったかのようだ。
飼育小屋のなかに残ったのは夕焼けに照らされた以前と数の変わらない兎たちと、藁の上にある真っ黒な消しゴムだけだった。
翌日、僕はその消しゴムをもって登校した。粘液でベタベタに汚れていたが、それでも飼育小屋近くの水道できれいに洗った。別に蛇の言ったことを真に受けたわけではない。単純にオカルトチックで珍しいと思い記念に持って帰ったのだ。
あとは蛇のいうことが本当なのか気になったのもある。とはいえよほど追い詰められなければ蛇の言う通りに使うつもりはない。卑怯なことをするのは僕の心の健康によくないと思ったためだ。
幸いにも僕は今回のテストを三つともスラスラ解くことができた。昨日は勉強どころでなかったが、普段の勉強の成果がでたかもしれない。少なくとも友人のなかで最下位になることはないだろう。しかし、みんながみんな順調ではなかったようだ。
「今回のテスト、やばいかもしれない」
友人の一人であるタケルが休憩時間に深刻そうな顔で僕に話しかけてきた。なんでもテスト用紙の裏に問題があることに気づかず、大量に失点してしまったらしい。それが本当であれば今の点数はとれても一五〇点前後になるだろう。
そして次の二つのテストで満点に近い点数をとれてもグループ内では最下位になる可能性が高い。なにせタケルのようにドジを踏んだのならばともかく、今回みんなは罰ゲームをさけるために、そしてサトシの鼻を折るために必死に勉強してきたのだ。
それに上級生のものとはいえ所詮は小学校のテスト。頑張りさえすれば高得点をとることは全員にとって難しくない。つまり今のタケルはかなり追い詰められているのだ。
「なあ、どうしよう俺。このままだと罰ゲームを受けちまうよ。もしかしたらまたサトシに無茶振りをさせられるかもしれない。いやその前にドジを踏んだ俺をみんな責めてくるかもしれない。なぁ、本当にどうしよう......」
タケルは顔を上げるたびに弱音を吐いてくる。相談しているような内容だが、おそらくタケルは僕に答えを求めていない。ただどうしようもなく湧いてくる負の感情を共感してほしいのだろう。
下をうつむくとため息ばかりこぼすタケルを見て気の毒に思ってしまった。ドジを踏んだとはいえ誰もがやりそうな失敗だ。励ましてあげたいし、サトシを最下位にすることを諦めたくない。ここでふと黒い消しゴムの存在を思い出した。
そして思った。これを使えば全て解決するのではないか、と。
「大丈夫だ」
「……え?」
「もしかしたらサトシは今回とんでもない失敗を犯すかもしれない。いや必ず起こすはずだ。だから残りのテストも手を抜かず頑張ってくれ」
「なんでそんなことがわかるんだよ」
「勘だよ。だけど稀にくる、それこそ雷に打たれたような、大きな予感だ。こうなれば僕の予想はよく当たるんだ」
「おいおい、もう適当に励ましているだけだろ。あいつが今回のテストで失敗するかよ。それともオカルト漫画の読み過ぎで頭がおかしくなったのか」
「いや、嘘じゃない。絶対にあたるはずだ。もしはずれたら僕が来週好きなお菓子を奢ってやるよ。だから諦めないでくれ」
タケルは僕の勢いだけしかない言いくるめでポカンとしていたが「まぁ、そこまで言うなら諦めずに頑張ってみるよ」、ととりあえず納得してくれた。わかってくれたのであればこちらとしても助かる。それに緊張からも解放されてくれたようだ。結果オーライ。本当によかった。
あとは昨日の蛇が本当のことを言ってくれればすべては大丈夫なはずだ。しかし嘘だった場合、僕は恥をかく上にタケルにお菓子を奢らなければならなくなる。それでも、全ての目的を達成するためにギャンブルしてみるのも悪くないかもしれない。
四回目のテストが始まり問題を解くことに集中した。今回は算数の最後の大問に苦戦したがなんとか解くことができたと思う。
そしてテスト終了まであと秒読みというところで。僕は昨日の蛇の言った通りにサトシの本名を用紙の端に小さく書いた。
最後にテスト終了のベルが鳴った瞬間、蛇からもらった黒消しゴムを使ってその文字を消した。その使い心地は一〇〇円で売ってある消しゴムと同じように思えた。しかし、気のせいだろうか何か心の中から暗い感情が芽生えてくるような感覚を覚えてしまう。
ふとサトシの方を見たが、本人は相変わらず自信満々な顔で前の席の女子に用紙を渡していた。どうやら本人は何か異常があると思っていないようだ。
やはり、蛇の言うことは信じるに値しないかもしれない。とはいえ、サトシを最下位にしてギャフンと言わせるにはもうこれしかない。そのため、僕は次のテストでも用紙に名前をかき、同じように消した。
そしてテストから一週間がたった。
まず結論から言うとサトシを最下位にすることができた。サトシがテストに名前を記入することを忘れたことになり、二つのテストの点数が〇点になったためだ。一方最下位になるかもしれなかったタケルは五教科の合計が三三五点になり、サトシよりも三五点上回って罰ゲームを回避することができたらしい。後で「お前の言う通り本当にあんなことが起こるんだな。本当に諦めなくてよかったよ」と僕がはげましの言葉を送ったことについて感謝しにきてくれた。
とはいえさすがのサトシも先生に抗議をしたらしい。問題の答えはあっているのに名前を書かなかっただけで〇点にするなんておかしいことである、と。
ところが先生たちの正確は頑固な上、テスト終わりに天狗になっているサトシの行動に以前から眉をひそめていたらしい。逆に名前を書き忘れるだけで社会では大きなトラブルになることもある~とか、幸いにもお前はまだまだ取り返しのつく子供だから今回の失敗を糧に反省しなさい~などと叱る始末であった。
あのときのサトシの悔しそうな顔を見ると心がスッとするような爽快感と、それと同時に卑怯な方法で陥れてしまったことにドロリとした罪悪感を覚えてしまった。
そのため罰ゲームの内容もみんなで相談して、今後のテストで二度と僕たちにマウントをとらないこと、と直してほしい性格の矯正にとどめた。サトシも自分で提案した罰ゲームを、ショックで落ち込んでいながらも素直に受け、約束を交わしてくれた。
僕は改心したサトシを見届け、黒い消しゴムを二度とこんなことに使わないと決意した。現時点で目標は全て達成し、もう一度こんなことをしてもサトシや友人が不憫な思いをするだけでよくないと思ったためだ。
しかし、この黒い消しゴムをまったく使わないのももったいない。そのため、これからはこの消しゴムを別の便利のために使っていこうと思う。例えば、使用した○×ゲームを一瞬で消すのに使ったり、ノートに書いてしまった黒歴史を遠隔から消すことに使えるかもしれない。また、クラスのマドンナに送られた手紙の宛先や手紙主の名前を消していたずらするのも面白いかもしれない。とにかくこの消しゴムを小さないたずら程度に使っていこうと思う。
こうして僕たちはその日以来、サトシが悪癖を直してくれると約束をしたおかげで、以前よりも近い仲になることができたかもしれない。一方僕はこの消しゴムを、様々な遊びやいたずら、後始末に使うようになった。
そして使い続けてわかったが、どうやら絵やジュースのシミも消すことができるらしいことに気がついた。方法はその絵の名前や状態の名前を紙に書いて消すことだった。そんな大発見によって僕の生活はさらに快適なものにすることができた。
そして僕たちは以前と同じように楽しくありながら、ちょっとだけ良いものになった。すべてはハッピーエンドだ。めでたし、めでたし。
この日が訪れるまでは。
僕はどこで失敗してしまっただろうか。いたずらをしてしまったせいだろうか。それとも友人の前で怪しい行動をとりすぎたせいだろうか。どちらにせよ消しゴムを他人に渡してしまったのが致命的だった。
だが僕は他人にあの消しゴムの秘密をしゃべることもなかったし、貸すこともなかった。だけど昼休みに席をたった間、誰かによって黒い消しゴムを抜き取られていた。
あのあと盗られていたことに気がついてはいた。だけど、消しゴムの大きさは人差しの先程度しか残っておらず、秘密についても知ることができる人がいなかったはず。だから、大ごとにはならないだろうと油断していた。しかし、それは間違いだった。
最初にタケルが消えた。学校にこなくなったのだ。僕とサトシたちはただの風邪だと思い、この日はそれをささいな問題だと考えてしまったのだ。
次にサトシの前の席にいた女子が消えた。その子も風邪かなにかだと思った。だけど違った。職員室の前を通るとき若い夫婦が、彼女の居場所について聞いていた。どうやら行方不明になっているらしかった。僕はそのときなくなった黒い消しゴムが頭の中をよぎった。だけど、僕はそれを偶然だと思いこみ、見なかったことにした。
その次は友人たちであった。一人ひとり、いや、ときには三人が急に学校にこなくなった。共通点は全員行方不明であることだった。このとき僕は恐ろしくなった。明らかに僕たちのグループを狙っていることに気が付いたのだ。さすがに学校側も対策をとりはじめ、毎日集団下校を実施するようになった。それでも着実に友人たちは消え、最後にはサトシと僕が残ってしまった。
そしてその次は、サトシとサトシを叱った先生たちが同時に学校にこなくなった。僕はこれで確信してしまった。
サトシだ! サトシがやったのだ!
サトシはずっと僕たちを恨んでいたのだ。たしかにテスト後のサトシは鼻につくような態度をする嫌な奴だった。だけど、勉強に対する努力は本物だった。だけど僕の不正によって彼の努力は認められない結果となった。そして僕たちが一生懸命がんばったせいでグループ内において屈辱の最下位となってしまった。そのせいで彼のプライドと自尊心が傷つけられ、僕たちを恨むようになったのだろう。
そして犯人がだれかと気づけば二番目にあの女子が消えたことにも納得がいく。サトシはあの女子に恋をしていたのだ。それも彼女にラブレターを送るほどに。だけどあの日彼女はラブレターを受け取らず手紙の内容を無視した。その結果サトシはプライドを傷つけられ彼女を恨みの対象にしたのだろう。
だけど彼女に非はなかった。なぜなら僕が、いたずらのつもりで、手紙の中の文字を、あの消しゴムで、めちゃくちゃにしてしまったからだ。だから、彼女は手紙を受け取っても内容を理解することができなかったはずだ。彼女に罪はなかった。
つまり、僕がこの事件を引き起こしてしまった張本人になってしまったのだ。
僕はこの日の放課後、飼育係の仕事として兎の世話をしていた。奇しくもあの日と同じ、テストまであと一日であった。
この時間が終わらないでほしい。なぜなら僕はきっと近い将来、地獄に落ちるからだ。
僕はこの事件を責任をもって引き受けなければならないだろう。これは僕が引き起こしてしまった惨劇だからだ。
だがあの消しゴムにはきっと悪意の種類と強さによって色んなものを消せるようにできているのだろう。もしそうであれば僕がタケシに対抗するための手段がない。目の前に迫られても名前をとっさに消せば、それで僕はこの世から消えてしまう。つまり僕ではあいつに勝つことができない。だから死刑宣告がくるまでずっと僕は兎の世話をしていたかった。
「おやおや、ずいぶんと落ち込んでいるじゃないか」
後ろから老婆のような声が聞こえた。後ろを振り返ると、そこにはあの日の蛇がいた。憎たらしくなるような醜い笑顔を向けて、こちらを嘲り笑っている。
「だから言っただろう。絶対に他人に消しゴムを渡したり、秘密を言ってはいけないと」
「……僕は誰にも消しゴムを渡そうとしなかったし秘密も言わなかった」
「ふーん。つまりきみはバカ正直に最後まで私との約束を守って、それでもこんな大変なことになっているのかい」
この糞蛇は僕を煽ってくる。思えば、こいつが全ての始まりでもあり元凶でもあった。やはりあのとき飼育小屋から走り出して駆除をするのが正解だったのだろうか。
「だけど変だね。どうしてきみは忠告を守ったのに、消しゴムを盗み出すような輩がでてきたんだろうね?」
すると蛇はわざとらしい口調でこんな疑問について追求してきた。
「だって、真っ黒でも見た目はただの消しゴムだよ。いくらきみが怪しい行動をしたって、怪奇現象と消しゴムに因果関係を結びつけるなんて、ただの人間には難しいはずだ」
「だけどそれは、僕がそういう道具をもっていると推測されるような行動を目撃されたからだろ? だったら僕の道具を盗み出すこと自体は不自然じゃない」
「だったら犯人はなんできみの筆箱ごと道具を盗まなかったんだい? 仮にきみがその道具をもっているとわかっても、それがペンによるものか紙によるものか、はたまた消しゴムによるものかなんて言わなきゃわかるはずないじゃないか。なんでピンポイントでそれを盗み出すことができたんだろうね」
確かに言われてみればそのとおりかもしれない。どうしてサトシは消しゴムだけをとれたのだろうか。仮に僕が超常的な文房具を使っていることとわかったとしても、最初から文房具ごと盗んだほうが確実だ。しかし、それをしなかった。まるで何をとるべきなのか最初からわかっているやつの犯行だ。
しかし、僕だってどうにか秘密がバレないように消しゴムを小さくするまで立ち回ってきた。そんななかで決定的な証拠をつかむなんて難しいはず。それこそ、心のなかを読めるような能力がない限り!?
「まさか! お前がサトシに「そういえばサトシくんのことについてもおかしいことがあるね」
おかしいことだと!? どうせお前が僕に嫌がらせをするつもりでサトシに情報をもらしたんだろうが!
「簡単さ、明らかに被害者の順番がおかしいだろう?」
「被害者の順番?」
「そうだよ。仮にサトシくんが犯人だとすれば、普通は自分のプライドを傷つけた直接的な原因である、叱りつけた先生かきみを先に消さないか?」
さっきまで煮えていた頭が急激に冷えていくのを感じた。
たしかにそうだ。もしサトシが消しゴムの秘密に気付き、盗みを働いたのであれば、こいつの言う通り最初に消されていたのは僕だったはず。それなのにどうして僕が最後まで生かされているんだ? 仮に僕を絶望に追い込みたいがための嫌がらせによるものだったとしても、なぜ先生たちは今日になって消されたんだ? それこそサトシにとっては女子より先に消すべき相手だったはずだ。それなのに実際は仲良くしていたグループの友人を優先して手にかけている。
これではまるで、サトシをじわじわと追い詰めているみたい状況じゃないのか。
「で、サトシくんが犯人だとするとさ、どうしてタケルくんが最初に学校にこなくなったんだろうね」
頭がチカチカするような衝撃的な状況に震えている僕に対して、蛇はまるで僕をためすような言葉を送った。まるでさんざん数式の理論を説明したあと、誰でも答えられそうな問題の答えを言わせる、算数の先生のようにだ。
そんなのここまできたら馬鹿でも誰が犯人なのか理解できてしまう。サトシはミスリードで罪をなすりつけられただけだ。だけど、混乱しすぎて口からうまく言葉がでていかない。過呼吸で胸が苦しい!
「そういえばタケルくんってやつは、本当にみんなと仲良くできていたのかい」
思えば、あいつはグループのなかで一番立場が弱かった。それこそ心がまいってしまいそうになるほど、みんなから遠慮なく無茶をさせられたり、責められていたような記憶がある。もしかしたらあいつと対等に仲良くしていたのは僕だけだったかもしれない。
「ところで、タケルくんと話していて、何か違和感をもったことはないか」
違和感? たしかにあいつは話しているとどこかドキッとさせられるような感覚になってしまうことがある。特にあいつを気遣おうとすると特にそんな感覚になってしまう。まるで嘘がばれそうになったときの感覚。そのときは僕の心を見透かしているような気がした。
「ねぇ、なんでさっきから黙っているんだい?」
そもそもなんでこの蛇はさっきから推理の手助けをしてくれるんだ? 僕はこいつを痛めつけていた。助けるよりさきに普通は復讐するのが常識だ。
そういえばテストが終わったあとのあいつの会話に違和感をもったな。たしか「お前の言う通り本当にあんなことが起こるんだな」の部分。なんか日本語に違和感があるような。
とはいえだ、あいつが真犯人ならば納得できる部分が多い。
おそらく最後まで僕を消さなかったのは対等な友達だったよしみからかもしれない。もしこの状況で僕を消しにいくのであれば、きっと僕が真実に気づいたことに勘づいて、口封じにしにいくくらい......!?
「ヒッヒッヒ。蛇に隠しごとなんて無駄だよ。なにせ私たちは見えない獲物を捉えるための第三の目が発達しているからね。だからどんなに誤魔化そうとしても……」
気がついてしまった。この蛇は僕を助けようとしているわけではない。むしろ逆だ。こいつは僕を殺そうとしている。ミスリードに引っかかるような間抜けに真実を気づかせて、僕をあいつに、消させようとしている。まずい。はやく! 逃げないと!!
「「きみの抱えている隠しごとなんざ全てお見通しだよ」」
ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました!