BEASTLORD   作:タマヤ与太郎

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ついに二桁の大台です。
UA30,492、お気に入り685件。本当にご愛顧ありがとうございます!



10:下ごしらえは念入りに

 

薄暗い部屋に置かれた円卓に、9人の男女が座っていた。

リ・エスティーゼ王国の裏を牛耳る組織、『八本指』の幹部達だ。

各部門を仕切る幹部達であったが、利権を食い合う事も多く、

実際の所協力することは稀である。定期的に王都で行われている定例会も、

最低限の情報交換、そして各々が裏切っていない(・・・・・・・)という証明の為の集まりに過ぎない。

今回の最初の議題は、麻薬部門の栽培施設が何者かに襲撃を受けている、と言う事。

とはいえ、それが発覚したのもつい最近、恐らくは『朱』か『蒼』の仕業だろう、

というあたりを付けた程度で、議題は次に移ろうとした。―――が。

 

「―――おい」

 

円卓に座るものの1人、全身に刺青を刻んだ禿頭の男が、

病的なまでに白い、蛇の刺青を刻んだ美女に声をかけた。

禿頭の男が警備部門の長、『闘鬼』ゼロ。自らもまた凄まじい腕を持つモンクであり、

警備部門のみならず、八本指で最強と呼ばれている男。

刺青の女が麻薬部門の長、ヒルマ・シュグネウス。

高級娼婦から八本指の部門長に成り上がった辣腕を持つ女性で、

現在八本指では最も勢いづいている勢力の長と言えるだろう。

 

「俺たちを雇わないか? 『朱』にしろ『蒼』にしろ、

 お前の所の兵隊ではいない方が被害は少ないぐらいだろう」

 

岩から削りだしたような顔面に獰猛な笑みを浮かべ、ゼロが言う。

警備部門の者達は他の部門に比べ精兵で知られるが、

中でもゼロを頂点とした6人の精鋭『六腕』は、

それぞれがアダマンタイト級冒険者に匹敵すると言われる精鋭中の精鋭だった。

ヒルマはその問いに少し考え込み―――

 

「そうだね、お願いできるかい? ま、詳しい話は定例会の後でいいだろ、

 さ、続けておくれよ。他にも色々とあるんだろう?」

 

ヒルマは上座、八本指の紋章が描かれたタペストリーの前に座る、

神官らしき男―――会議の進行役であり、八本指のまとめ役である―――に視線を向ける。

 

「ならばそうしよう。では次の議題だが――――――」

 

 

 

そして、定例会が終わった後。麻薬部門の縄張りである拠点で、

ヒルマとゼロは杯を交わしていた。

 

「珍しいなヒルマ、提案しておいてなんだが、断られると思ったぞ?」

 

「そうだね、よその連中に重要拠点を知られたくはなかったんだけどさ……

 なんだか、嫌な予感がするのさ。いつだって、こういう時は予感の通りになってきた。

 取れるべき手段は、取っておきたいのさ」

 

定例会の時とは打って変わって真剣な面持ちのヒルマを見て、ゼロは表情を引き締める。

このヒルマという女、生き馬の目を抜くような世界で生きてきたからか、

ここぞという時の勘働きには目を見張るものがある。

その上で人事を尽くそうとするところもあり、

その点においては、歴戦の戦士であるゼロも認めるほどの才覚を持っていた。

 

「お前がそこまで言う程とはな……で、どうする。誰を雇う? 俺でも構わんぞ」

 

「全員さ」

 

「何?」

 

「あんたを含めた六腕全員を雇うって言ってるのさ。

 『闘鬼』『幻魔』『不死王』『踊る三日月刀(シミター)』『空間斬』『千殺』全員で当たっておくれよ。

 正直、あたし自身でもどうしてここまで警戒してるのかは分からない。

 でもね、初めてなんだよ、こんな怖気が走るのはさ……」

 

ぶるりと体を震わせるヒルマを見て、ゼロは笑う。

この女が恥も外聞も捨てて最強の布陣を整えようとするなど、余程のことだ。

 

「いいだろう。だが、サキュロントは死んだぞ。つい最近の話だがな」

 

「何だって?」

 

『幻魔』サキュロント。幻術系の魔法と軽戦士としての剣技で相手を翻弄する技巧者の魔法戦士。

魔法と剣技を併せ持つ関係上特化したものには及ばず六腕では最弱と聞くが、

それでもその幻術を交えた初見殺しの剣技はアダマンタイト級冒険者に勝るとも劣らないという。

それが死んだと聞いてヒルマは目を剥くが、ゼロは大したことではない、

とでもいうように言葉を続ける。

 

「安心しろ、六腕が減ったわけじゃない。入れ替わっただけだ。

 サキュロントよりさらに強い凄腕が入ってな。総合的に戦力は増しているさ」

 

「ならいいんだけどさ……どんな奴なんだい?」

 

その問いにゼロは獰猛な笑みを返し、

 

「そうだな……純粋な戦闘者としての腕ならマルムヴィストやペシュリアンより……

 いや、俺よりも上かもしれんな」

 

 

 

 

「それで、皆、これからの事なんだけど」

 

マヨイガの応接間で、ラキュースが言う。

あの後蒼の薔薇とメコン川一行は、黒粉の栽培拠点を潰しつつ、

マヨイガで休息を取っては次へ……という流れを繰り返していた。

ラキュースが広げた王国内の地図には、王都を中心にいくつかの×印がある。

今まで潰してきた栽培拠点だ。

 

「今まで潰してきた拠点で手に入れた情報も結構集まってきたし、

 この辺りで一度情報を整理しておきたいの。

 そのためにも王都に向かいたいんだけど、いいかしら?」

 

この提案に、蒼の薔薇のメンバーは全員了承。

次いでメコン川に視線が向けられるも、メコン川は鷹揚に首を縦に振る。

 

「構わんぜ。例の王女様に経過報告もした方が良かろうよ」

 

「ええ。それもあるし、何より、この手の情報処理はラナーに頼んだ方が早いのよ」

 

聞けば、前々から暗号の解読などはラナー、

依頼人でもある王国の第三王女が行っているのだという。

元々影響力こそ少ないがメイドたちの話から正確な情報を導き出すなど、

その頭脳においては国内でも有数だろう、とラキュースは語る。

 

「王国の第三王女様だったな……なんでも『黄金』と称される超美少女なんだって?

 そこのティア(レズ)が熱く語ってたのを聞かされてたから覚えてるわ」

 

「ティア?」

 

怒気を帯びたラキュースの視線に、ふいっと視線を外すティア。

それを見て大きなため息をつき、ラキュースはメコン川達の方を向く。

 

「それでね、あなた達も一度ラナーに会って欲しいのよ。

 私の独断で協力してもらったところはあるし、面通しぐらいはしたいの」

 

「構わんぜ。しかしまあ俺のナリは目立つからな、また化けるしかねえか……

 どっち(・・・)に化けてもうるせえ馬鹿(ティナ&ティア)がいるのが嫌だが、

 流石に俺の人としての外観だと目立つしなあ」

 

「一度見せてもらったけど、さすがにあんな筋骨隆々だとね……」

 

「かっこいいとは思うっすけど、まあ目立つっすからねぇ……」

 

あれ以来、メコン川が『弟』『妹』の姿に変化することはほとんど無かった。

その事について双子からはぶうぶうとブーイングを飛ばされていたが、

そもそもの変化したくない理由はこの双子の為黙殺されていた。

 

「その節は本当に迷惑をかけたわ……悪いけど、女の子の方でお願いできる?

 それなら三人とも、蒼の薔薇の新メンバーとして城に入れると思うの」

 

「……オーケー、背に腹は代えられんわな。

 しかしあれだな、さすがにあの服じゃ入れんだろ?

 おいルプスレギナ、あとでお前に持たせてあるお前の着替え(コスプレ)用の服見せてくれ、

 ユグドラシル製(マジックアイテム)ならサイズは合うだろ」

 

「オッケーっすよ!」

 

「持たせた俺が言う事でもねえが、変なもん着せようとしたらおでんだぞ」

 

「オッケーっすよ……」

 

しょんぼりするルプスレギナ。

なお『おでん』とは『麻痺させたうえで熱々おでんを押し付ける刑』を指す。

 

着替え(コスプレ)用!? 詳しく!」

 

変化セット『ルプスレギナの妹』は踊り子のような服装になるため、

お姫様に面会をする際の服装としてはあまりにも不適切である。

しかしメコン川が持っている装備は基本カワウソ状態で着用することが前提であるため、

(変化の際服装まで変わるが、ユグドラシル時代は判定上は装備はそのままであった)

和装のものが多く紛れ込むには向かない。

そのためルプスレギナの着替え(コスプレ)用衣装を借りようとしたが、

これに食いついたのがティア(クソレズ)。メコン川に詰め寄ろうとして―――

 

「ガガーラン」

 

「あいよ」

 

ずごん。

 

それを予期していたラキュースとガガーランによりインターセプトされ、

畳に顔面を打ち付けそのままノックアウト。

なおその間にラキュースの護衛としてティナ(ショタコン)が行くことが決まり、

割と本気で悔しがっていたことを付け加えておく。

 

「懲りんやっちゃな……いや、性癖に正直なところはある意味感服するけどよ……」

 

「あんな美少女美少年をお出しして我慢しろという方が無理。

 ……ところでメコンガワ」

 

「何だよティナ、一応聞くだけ聞いてやる」

 

「私は女装ショタ(男の娘)でもイける」

 

「おいガガーラン」

 

「あいよ」

 

ずごん。

 

余計なことを口走ったティナもまたぶん殴られ、ティアと並んで暫くのびていたのだと言う。

めでたくなしめでたくなし。

 

 

 

 

所変わって、リ・エスティーゼ王国、王都。

ラキュースとティナが先導する形で、メコン川達は大通りを進んでいた。

 

「まさか王族と面会することになるたぁな……

 俺、あんま目立ちたくないから王都はまず行先の選択肢から外したんだが」

 

「言っておくけどあの筋骨隆々な姿で人に紛れようとすること自体が間違いだと思うわよ?」

 

「仕方ねえじゃんあの姿、カワウソ以上に慣れてんだからさ……

 そもそもこの姿なんて宴会芸みたいなもんだぜ?」

 

メコン川の今の姿は『妹』状態に変化してから、

ルプスレギナ(のコスプレ)用に預けていた服に着替えた状態である。

動きやすさを重視して適当に見繕った結果、選ばれたのは『アーバンくのいちセット』一式。

奇しくもティアやティナと同じような忍者スタイルだった。

『仮面をつけていた方が忍者っぽい』として、

頭には『嫉妬するもののマスク』を阿弥陀被りにしている。

 

「だから私はなんだかんだ首突っ込んで大ごとになるっていったんすよ。

 だいたいこんなことになる気はしてたっす」

 

「メコンガワさんって、こういう事ほっとけないタイプみたいですしね……

 悪ぶってますけど、根はいい人って言うか」

 

「ガガーランっぽい感じなのよね、メコンガワって」

 

「そうかぁ? こう見えてカタギじゃねえからなあ……

 まあ、ヤクザもんにはヤクザもんの道理があんのよ。

 それを弁えてねえ、八本指みてえなカスも多いけどよ。

 ……しっかし」

 

ルプスレギナやネイア、ラキュースらの言葉に、ううむと唸って首を傾げるメコン川。

話題を変えるように周囲を見回せば、王都の建物や路地裏が目に映る。

 

「なんつうか、良く言えば歴史がある、って感じの街だな……

 聖王国はもうちょっとこう、しゃんとしてる感じの街並みだったんだが」

 

「まあ、歴史がある事だけが唯一周辺国家に誇れる所だものね……

 言わんとするところはわかるわ。この辺りはまだいいけど、

 もう少し裏通りに行くと舗装もされてない所なんてザラだもの。

 一応この国の貴族として、申し訳ないとは思っているの」

 

出来る限りオブラートに包んだメコン川の言葉に、ラキュースが苦笑する。

このリ・エスティーゼ王国という国、

八本指などという組織の跳梁を許していることからも分かる通り、腐敗した貴族が数多い。

元々豊かな土壌に築かれた国ではあったが、逆にそれが安定と停滞を招き、

国として緩やかに堕落していった結果が今なのだという。

現王ランポッサ三世は国の立て直しを図っているが、

代々蓄積され続けた膿を一代で出すには至らず、

現状王派閥・貴族派閥に分かれて政争を繰り広げている。

ちなみに、ラキュースの実家であるアインドラ家は王派閥に属する。

 

「まあ、国に任せてられない、という状況だからこそ冒険者は有名所が多いのだけどね。

 それが良い事か悪い所かは、判断の分かれる所だけど。

 ああ、貴族ではないけど……ラナーの護衛のクライムや、

 陛下直属の戦士長、ガゼフ・ストロノーフ氏なんかは気持ちのいい人たちよ。

 クライムはすぐに会えるだろうけど……

 今度、公的に来ることがあるなら顔を合わせるといいわ」

 

「なるほどねえ。できれば獣王連合(ウチ)としても王派閥に手を貸してえところかね……

 確かここ何年か隣の帝国とドンパチやってんだろ?

 傭兵として協力するのもアリかもな。血の気の多い連中は山ほどいるしよ」

 

そんな話をしながら、メコン川達は王城へと向かう。

 

 

 

 

「ようこそラキュース。そちらの方たちは……お友達かしら?」

 

「ええ、経過報告と、この子達を紹介したくてね」

 

王城、第三王女ラナーの私室。そこで一行を出迎えたのは、

黄金の華が咲くような、華やかな笑顔だった。

ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。

「黄金の姫」とも称される、リ・エスティーゼ王国第三王女で、

ラキュースの友人であり、今回の依頼人でもあった。

側には白い鎧を纏った青年が控えている。ラナーの護衛のクライムだ、

とラキュースが言っていたことをメコン川は思い出す。

 

「ラナー、こちらがメコンガワ、ルプスレギナ、ネイア。

 行きがかり上で協力してくれた聖王国の冒険者……でいいのよね?」

 

「間違っちゃあいねえが……まあこの際だ、ぶっちゃけさせてもらうぜ。

 こんななりで申し訳ねえが、目立つんで人に化けさせてもらってるんでね。

 改めて名乗るとしようか。俺はナインズ・オウンゴール獣王連合盟主、獣王メコン川。

 八本指共を潰すのに協力させてもらってるぜ」

 

唐突のカミングアウト。後ろのクライムは目を剝いていたが、

ラナーの反応は「まあ!」と楽しそうに驚いて見せた程度だ。

 

お隣(りんごく)に亜人さんの国が出来た、というのは聞いていたんですけれど、

 その王様がいらっしゃったなんて!

 ねえクライム、髪型とか、どこかおかしな所、ないかしら?」

 

「え、ええと……特に問題なく、お美しいかと……」

 

その後元の姿に戻って見せたり、ラキュースらからの説明などもあり、

クライムもまたメコン川が本当に亜人の国の王を前にしている、

と言う事を信用はしてくれた。

その説明をしている間もラナーは無邪気に楽しそうに笑っており、

世間離れしているのか、本当に分かった上で大して驚いていないのか、

メコン川が見てもその辺りの判別はつかなかった。

 

(大物なんだか天然なんだか……まあ、大ごとにならなくて良かったがね)

 

既に大ごとに巻き込まれている、と言う事からは目をそらし、メコン川は苦笑する。

後ろを見て見れば。ラナーを前にしてガチガチに緊張しているネイアと、

どこか訝し気な顔をしているルプスレギナ。

まあ失礼かましてなければいいか、と結論し、メコン川は視線を前に戻す。

 

「……ラキュース、本題頼むわ。王族なんてカルカぐらいとしか話したことねえから、

 ぼちぼちボロが出そうで辛ぇわ」

 

「それも大概だと思うけど……まあいいわ。

 で、さっそくだけど本題に入らせてもらうわ、ラナー。

 メコンガワたちの協力で色々と情報は手に入ったんだけど、暗号も多くてね……

 解読と整理をお願いしていいかしら」

 

そう言ってラキュースがテーブルの上に出したのは、何事かが書かれた数枚の羊皮紙。

栽培拠点を襲撃した際に回収した資料のうち、暗号化されており解読不能だったものだ。

文字の代わりに記号で綴られた換字式暗号と呼ばれる類のもので、

通常文字に置き換えるための変換表も必要になるのだが、

関係者が暗記しているためか見つからず、経過報告もかねてラナーの元に持ってきたのだ。

 

「良いけれど……ちょっと待ってね」

 

羊皮紙をそれぞれ見比べながら、ラナーはペンで紙にすらすらと文字を書いて解読を始めた。

まるで最初から分かっていたかのようなペン捌きに、メコン川の頬を一筋汗が流れる。

 

「……聡明だとは聞いてたけどよ、ここまでとはな……」

 

「指令書の類は、難しい言い回しとか、

 高度な学がないと分からないようには書いていないんです。

 だから、一部が分かってしまえば案外簡単に読み解けるんですよ」

 

(天才ってなあいるもんだなあ……)

 

「ふんふん……あら、指令書じゃないのねこれ。はい、出来たわよラキュース」

 

簡単な宿題を解き終わった、ぐらいの顔で、ラナーがラキュースに紙を渡す。

そこには王国内の数か所の他、王都内の地名もいくつか記載されている。

 

「この場所に麻薬の集積所や拠点がある、って言う事かしら?」

 

「ちょっと貸して見な。……ふうむ、そんなもんわざわざ書いておくかね?

 ……姫さん、つまりはそう言う事かい?」

 

「あら、流石は獣王様。多分そう言う事なんだと思います」

 

「ちょっと、2人で納得してないで説明してくれる?」

 

顔を見合わせて頷き合うメコン川とラナーに、訝しげな顔をするラキュース。

 

「ははは、怒りなさんなラキュース。姫さん、俺が解説させてもらうぜ?

 ―――多分ここに書かれているのが八本指の拠点なのは間違いないだろうな。

 だが、恐らくは麻薬部門の拠点ではない(・・・・)。そうだろ?」

 

「はい、そうですね。八本指というのは、八つの組織の寄り合い所帯のようなものなのよね?

 だから、わざと他部門の情報を流すことで、自分達の被害を減らす……

 あるいは、ラキュース達をよその派閥に擦り付けようとしてるんじゃないかしら」

 

「一枚岩じゃないとはいえそこまでとはね……」

 

「仁義も道理も弁えねえ連中なんてなぁそんなもんさね。

 で、どうするよ? ともすりゃ、書いてある拠点を潰しゃあ、

 麻薬関係の情報も出てくるかも知れねえぞ?」

 

麻薬部門の拠点を叩いた結果他所の派閥の拠点が発覚した。

ならばよその拠点を叩けば、逆説的に麻薬関係の情報を引き出せるのでは?

というのが、メコン川の案であった。

 

「蛇の道は蛇、悪党の情報は悪党に、ってな。

 俺も昔はよくやったもんよ。ま、いくつか問題はあるがな」

 

「そうね……その辺りの打ち合わせを、これからしましょうか。

 ラナー、クライムを少し借りてもいい? ガガーラン達に伝言をお願いしたいの。

 すぐに動いてもらうかもしれないから」

 

 

 

 

大通りを行くクライム。外見的にはさほど目立つ方ではないため、

最も目立つ白い鎧―――ラナーが蒼の薔薇に依頼して手に入れた、

特注品のマジックアイテムだ―――

を脱いでしまえば、衛士や傭兵、冒険者にしか見えない。

が、今のクライムは周囲の注目を集めてしまっている状態にある。

厳密にいうなら、クライムと共にいる人物が、であるが。

盗賊や密偵のような恰好をした赤い髪の少女、金髪の弓使いの少女、

赤い髪の少女によく似た聖職者にも見える女性。

要するにメコン川一行である。王宮で待つには息が詰まる、として、

クライムに同道してガガーランらの所へと戻っているところだ。

特に会話もなく、クライムがやや居心地悪い思いをする程度で時間は過ぎてゆくが、

ふと、クライムが口を開いた。

 

「ええと……メコンガワ陛下、でよろしいですか?」

 

「やめてくれよ陛下なんて、ケツが痒くならぁな。メコン川でいいよ。

 呼び捨てが嫌ならさんでも様でもつけてくれ」

 

「では、メコンガワ様と」

 

「クソ真面目なやっちゃな……そんで、何だい?」

 

「その……獣王連合の盟主様とお聞きしましたが、どのような国なのかと……

 何分不案内なもので、王国と聖王国の間に亜人のいる丘陵地帯がある、

 という程度しか知らないのです」

 

「ああ、その事な。ちょっと待ってな、誰か聞いてるか分かんねえし」

 

そう言うとメコン川は二言三言呟いて魔法を発動し、

自分達の言葉が周囲に漏れないように細工をする。

そして連合について語り始めるが、何分建国一年もたっていない、

まだまだ発展途上の連合であるため、足りないものばかりで困っている、と語る。

 

「最近は輸出用の作物とか、特産品を作ろうと色々やってんだよな。

 あ、そうそう、闇小人のマジックアイテムとかもあるんだよ。

 剣とか鎧は……間に合ってそうだが、何かあれば言ってくれ。

 安くしとくからよ」

 

「色々とお考えなのですね……しかし、亜人達を纏めるのには苦労されているのでは?

 ……いや、ラキュース様達が頼りにされるお方なのでしょうし、

 相当御強いのでしょうが」

 

「まあな。俺は強ぇよ。俺ほどじゃあねえが、後ろのルプスレギナも、ネイアもな。

 多分、この中で一番弱いのがお前だろうな。筋は悪くなさそうだが」

 

言いながら、クライムを見上げる。

少年と青年の中間程の男性、日に焼けた肌に、体つきはしっかりとしている。

毎日の鍛錬を欠かさない、そんな体つきだ。

しかし、クライムの表情は優れない。

 

「はい。毎日の鍛錬を欠かさず、時には戦士長のストロノーフ様に稽古をつけていただいてもいます。

 蒼の薔薇のガガーラン様にも、技を教えていただいたりなど……俺は果報者です。

 しかし……自分はこの辺りが限界なのだろうな、というのを、最近強く感じるのです」

 

「伸び悩んでる、って感じか。だったら、諦めるかい?

 これ以上鍛えたって強くなれねえなら、いっそほどほどにしといたほうがいいこともあるぜ」

 

あえて諦めを促すメコン川であったが、クライムはまっすぐに前を見据え、

その瞳には強い意志が宿っていた。

 

「いえ。諦めません。たとえ限界でも、努力を重ねればいつかは……

 それに、才能がないなら無いなりにあがいて見せることが、

 鍛えていただいているストロノーフ様やガガーラン様……

 それに、路傍の石のように打ち捨てられていた自分を拾い上げていただいた、

 ラナー様への恩返しだと、そう思っています」

 

「いいねえ、嫌いじゃねえぜ、そういう目はよ。

 そうさ、才能がねえならねえなりに、足搔きに足搔いて、あらゆるものを積み重ねて。

 そうしていけば、届きはしなくとも、迫る(・・)ことぐらいはできるのさ」

 

「……ありがとう、ございます」

 

決して届かぬ頂に手を伸ばさんとするクライムに、メコン川はかつての友人の姿を見た。

純銀の聖騎士、たっち・みーを超えんと足搔き続けていたギルドメンバー、武人建御雷。

その、大きな背中を。

 

(なあ、建御雷さん。あんたみてえな馬鹿(・・)が、この国にもいたよ。

 この国は腐ってる。ほぼほぼ詰んでる国だけどよ……

 こういう馬鹿(・・)がいるなら、ちったあ手を貸したくもなって来ちまうぜ。

 だからよ……ちょっとぐらい大盤振る舞いしたって、いいよな?)

 

その時のメコン川の顔は、昔を懐かしむように、遠くを見つめていたのだという。

そして、この瞬間。王国に根を張る闇組織、八本指が壊滅することが確定した。

そのきっかけとなったのは非才にして平凡な、ただの青年の信念であったことは、

この時の誰も予想だにしなかったことであった。

 




今回も気が付くと20kb越えてた……普段こんな書けないんですけど、本作に限っては皆様からの応援もあり本当にもりもり書けて楽しいです。
王都編もぼちぼち終わるかな? どうかな? という感じです。この後の展開にまだいろいろと悩んでいて……大体の流れは定まっているので早めにお届けしたい所。

※10/11追記
ラナーにカミングアウトしたあたりにちょっと文章を追記。

えりのるさん、いのきちさん、誤字報告ありがとうございます。
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