BEASTLORD   作:タマヤ与太郎

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またちょっと短めですがキリのいい所で15話です。
次回次々回ぐらいで王都編も締め、になるのだろうか?


15:突入開始(前)

 

「うっし、それじゃあやるか。お前ら、準備はいいな?」

 

時刻は夜半も過ぎた頃、やまいこ邸・玄関。

メコン川一行とやまいこ一行、そして蒼の薔薇の総勢11人は、

八本指の拠点に突入する、最後の打ち合わせを行っていた。

二日前に判明した新たな拠点を含めた計8つの拠点、

そのうちの4つがラナーとつながりのある貴族の私兵、

そして戦士長、ガゼフ・ストロノーフ率いる戦士団が襲撃する手はずになっている。

 

「私達が襲撃するのは残る4つ……ということだけど、メコンガワ、大丈夫なの?

 あなたの実力を疑う訳じゃないけれど……」

 

心配そうに言うラキュース。

新たに浮上した8つ目の拠点をメコン川のみで攻める、と名乗り出たからだ。

蒼の薔薇全員を相手にしてでも勝てるメコン川らに心配など無用ではあるが、

それでも心配をしてしまうのは彼女が善の人間であるからだろう。

 

「俺の使う魔法は範囲攻撃が多くてなあ。

 それに、ちょいと暴れるつもりだから巻き込むと怖いしよ。

 それにだ、俺がやるのはあくまで陽動よ。

 ハンゾウや八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)がやりやすいようにしてやればいいのさ」

 

「イビルアイから聞いたけど、

 ティアやティナ以上の忍者をポンと用意できるのはほんと卑怯よね……」

 

今回のためにメコン川が召喚したのは八肢刀の暗殺蟲8体。

それに加え、やまいこのポケットマネーで召喚したハンゾウを4体、

(やまいこはなんだかんだと金貨を使う機会が少なくかなり溜め込んでいた)

八肢刀の暗殺蟲のリーダーとしておくことで、

潜入部隊として資料や証拠品の奪取をさせようとしていた。

その為、主戦力を陽動として突入させることが可能になっていたのだ。

 

「ハンゾウとか言うのを見た時は唖然としたぞ?

 何せイジャニーヤよりも数段上の使い手をポンポン呼び出していたんだからな」

 

「さすがにあれは自信を無くしそう」

 

「世は無常……」

 

呆れの混じった声で言うイビルアイに、遠い眼をするティアとティナ。

イジャニーヤ、というのはかつてイビルアイと共に旅をした十三英雄の一人で、

ティアとティナはその弟子の末裔に当たる。

その英雄当人ですら現在のイビルアイと同等程度だったそうなので、

双子が自信を無くすのも無理からぬことであった。

 

「まあ、いいじゃねえか。俺達が楽できるのはいい事さ。

 それにお前らならともかく、俺達に資料探しとか任せられてもなあ」

 

「まあ、適材適所、って奴よね。ヤマイコさん達は大丈夫そう?」

 

苦笑するガガーランとラキュース。

そしてやまいこ達に視線を向けるが、やまいこは人化状態ではあるが

半魔巨人の時同様の黄色い僧衣を着用したフル装備、

ユリやネイアもまた完全武装で気炎を上げていた。

 

「大丈夫! いつでも行けるよ! ……セバス、留守番お願いね?」

 

「畏まりました。やまいこ様と獣王メコン川様がお出になるなら、

 私の助力は不要でしょう」

 

「まあ、セバスなら大丈夫だろうけど、ツアレさんをしっかり守ってあげてね。

 これからこの屋敷のメイドさんしてもらうんだし、しっかり教育してあげること」

 

「お前が拾ってきたんだ、最後まで面倒見てやれよ?

 あの子だってなんだかんだお前に懐いてるみたいだからな」

 

結局、ツアレはこの屋敷で雇う事とした。そしてツアレの希望もあり、

教育係としてセバスが当たる事となったのだ。

 

「――――――畏まりました。それでは、ツアレの所へ向かわせていただきます」

 

折り目正しい一礼をしてその場を離れるセバスを見送り、

やまいこはむふー、と鼻を鳴らす。

 

「ツアレさん、吊り橋効果かも知れないけどセバスにその、なんというか……

 思いを寄せてるみたいだし。まあ、セバスさえよければいい感じになるんじゃないかな」

 

「あいつも満更でもねえみたいだしな。いい傾向だ」

 

この二日ツアレを見ていて、ツアレがセバスを意識し、

セバスもまたツアレを憎からず思っていることは明白であった。

今回襲撃に際しセバスを外したのも、ツアレやこの屋敷を守る事も第一だが、

これを機に二人の仲が進展したらいいな! という野次馬めいた老婆心も多少なりあったのだ。

 

「うっし、じゃあ各班時間をずらして散開! 合図の花火が上がり次第襲撃だ!」

 

「え、メコンさんまだ花火余ってたの?」

 

「……かなり」

 

 

 

 

王都の空に、花火が上がる。それを確認してやまいこはハンゾウらに合図をし、

自らも赤く巨大なガントレットに包まれた拳を胸の前で打ち合わせる。

 

「よーし、それじゃあボク達も行くよ! ユリ、ティアさん、準備はいい?」

 

「準備万端整っています、やまいこ様」

 

「オッケー。ふふ、美女と美少女と共に突入……役得」

 

「……言っておくけど変なことしたら(おこ)るからね? メコンさんにも言うよ?」

 

「解せぬ」

 

軽口を叩きながらもその歩は緩まず、目的地……

ツアレが働かされていたという奴隷娼館の入り口である鉄扉の前に立つ。

やまいこ的にもこの娼館の存在はとても許せるものでは無く、

今回自ら立候補して襲撃することとなったのだ。

 

「それじゃ、ノックしてから……ごめんくださーいっ!」

 

左のジャブ2発からの右ストレート。それは鉄製の扉を大きく歪ませ、

蝶番ごと店内へと大きく吹き飛ばした。

どよめく店内へのっしのっしと歩いていくやまいこを見ながら、ティアはユリを見る。

 

「……ヤマイコの故郷だとあの見事な左右のコンビネーションが『ノック』なの?」

 

「断じて違うと思いますが……外道の輩にはふさわしいノックでは?」

 

「それはそう」

 

 

 

 

「な、なんだ!? 扉が―――ひいっ!?」

 

鉄扉の先は、扉が立ち並ぶ通路になっていた。

鉄扉が吹き飛び、通路の奥まで吹き飛んで壁にめり込む。

それを見てやまいこは眉根を寄せ、軽く頭を掻いた。

 

「あちゃ、ちょっとやりすぎたかな……

 一応手加減したんだけど、脆いなあ。巻き込まれた人とかいないよね?

 ―――まあ、いてもひどいことになる順番が少し遅れただけだろうけど」

 

やまいこは治癒魔法をメインとする精神系魔法詠唱者であるが、

その愛用武器、『女教師怒りの鉄拳』は強烈なノックバック効果を持ち、

魔法詠唱者かつ半魔巨人の特性として攻撃力が低いやまいこでも、

この程度の扉なら軽々吹き飛ばしてしまえるのだ。

 

「資料とかそういうのはハンゾウ達に任せるとして……ボクらはとにかく暴れて制圧かな。

 ティアさんはこの階を端から潰して行って。ユリは上をお願い。ボクは……」

 

「ヤマイコ、音の反響からして多分地下がある。床を貫ける?」

 

「オッケー……えいっ! このぐらいでいいかな?

 じゃあ、ボクは下から行くね。上は任せていいとして、制圧が終わったら手伝ってくれるかな」

 

「問題ない……心底あなたが敵でなくて良かったと思う」

 

躊躇なく床を踏み抜いたやまいこに冷や汗を垂らしながら、

ティアは騒ぎを聞きつけて現れた『店員』達に襲い掛かる。

それを見送り、ユリもまた上階に向かったのを確認し、

やまいこは踏み抜いた床の穴に飛び込んだ。

 

 

 

 

「……うわ、酷い匂い」

 

飛び降りた先は、さほど大きくはない部屋であった。

サイドテーブルと燭台、質素なデザインだがしっかりしたマットレスの敷かれたベッド。

しかしそれよりもやまいこの鼻を突いたのは血の匂い。

そして、どれだけ掃除をしても拭い去れない、様々な臭い。

それは、ベッドの上に乗った裸の男女、太った男と、死の淵に数歩踏み込んだような、

ぐったりとしてわずかに痙攣する女性から漂ってきていた。

男は女の足を開いてその間に入り、拳を振り上げた状態で硬直していた。

何をしていたのか、何をされていたのか。やまいこの腹の底が、カッと熱くなる。

そして、やまいこは男の顔に見覚えがあった。

 

「あなたは……スタッファン……だったかな?」

 

「お、お前……いやあなたは……!?」

 

王都巡回使、スタッファン・ヘーウィッシュ。

この奴隷娼館の常連で、つい二日前、やまいこ邸に訪れていた男である。

流石に彼の方もやまいこを覚えていたようで、固まったまま目を白黒させていた。

 

「殴るのが好きなの? 奇遇だね、ボクもだよ」

 

瞬間やまいこの腕が霞み、スタッファンが真横に吹き飛んで壁に叩きつけられる。

神速の(そして極力手を抜いた)裏拳で吹き飛ばされたのだ。

 

「がふ、ぎざまぁ、こんなごどをじて……」

 

「ああ、思っているよ。タダで済む(・・・・・)とね。

 支払う先がいなくなれば、支払いはしなくていいでしょ?」

 

軽い口調とは裏腹の、冷え切った目。

壁に叩きつけられた激痛で身をよじらせながら、

スタッファンは目の前の女が自分をタダで帰す(・・・・・)気がないと知る。

尤も、それもまた甚だしい勘違いではあったのだが。

 

「どうしたの? 殴らないのかな? かなり手加減したんだけどね、これでも。

 一発は一発、殴ってもいいんだよ、殴れるものならね」

 

とことこと、軽い足音で歩み寄るやまいこ。あまりにも無警戒な足取りだったが、

スタッファンは動くことができなかった。激痛もあるが、分かってしまったのだ。

目の前の女が只者ではないことを。

自分が、眠れるドラゴンの尾を踏んでしまったのだという事を。

 

「ば、まっで、くれ……ぐださい! なんでもはなず!

 いのっ、いのぢだけは! どうが!」

 

「どうでもいいかな。あなたから搾れる程度の情報なら、もう手に入れてるし。

 それ以外の情報もじきに集まるだろうしね。

 ……ああ、あったよ、欲しいもの。あなたが持っているものを一つ、貰いたいかな」

 

「な、なんでもざしあげばす! なんでぼいっでくだざい!」

 

「じゃあ、貰おうか。<大致死(グレーター・リーサル)>」

 

ばん。水の詰まった袋が破裂するように、スタッファンの体がはじけた。

信仰系攻撃魔法<大致死(グレーター・リーサル)>は、負のエネルギーを流し込む魔法だ。

ユリのようなアンデッドであれば治癒魔法として作用もするが、

性根が腐り切ったとはいえ人間、それもレベルにして10もないようなスタッファンには、

とても耐えられるようなものでは無い。結果、流し込まれたエネルギーに耐えられず吹き飛んだ。

壁の方向に弾けたためにやまいこが血を被るようなことはなかったが、

むせかえるような血の匂いに顔をしかめる。それを香しく感じてしまった(・・・・・・・・・・)ために。

 

「……やっぱり、カっとなると抑えが聞かないな……殺す気はなかったんだけど。

 本当に、人間じゃあなくなっちゃったんだな、ボク」

 

人一人を殺しても動じる事もなくなった自分に、あらためて恐れを覚えるやまいこ。

かろうじて命はあった女性に回復魔法をかけて治療し、足取り重く廊下へと出る。

死者数名、重傷者多数、行方不明者(・・・・・)1名。

それが、後に記される、この違法娼館で出た人的被害の記録であった。

 

 

 

 

そして、時間は少し遡る。

 

「オラァ! 御用改めだ! 死にたくなきゃあ地面に伏せな!」

 

八本指の拠点の一つ。ラキュース、ガガーラン、ネイアの3人は、

資料によれば奴隷部門の拠点へと殴り込みをかけていた。

ガガーランの振り抜いた戦槌が門を吹き飛ばし、ラキュースが斬り込む。

 

「ネイア、援護をお願い!」

 

「はいっ!」

 

迎撃の手が上がろうとしたところに矢を射かけ、

一瞬足が止まった事を見逃さずにラキュースとガガーランが蹴散らす。

メコン川によるパワーレベリング、そしてここ最近の繰り返される実戦を経て、

ネイアの能力はかつてとは見違えるほどに強くなっていた。

蒼の薔薇たちにこそ及ばないが、戦士としても一線級であるといえよう。

しかし、ネイアの心の中には未だわだかまるものがあった。

聖騎士としての力が、未だ宿らぬことである。

 

(正義って、なんだろう。メコンガワさんは、正義を心に宿せと言ってくれた。

 ヤマイコさんは、心にある決して譲れないただ一つ、それが正義だと言ってくれた。

 なら、私が心に宿すべき、譲れないただ一つとはなんだろう?)

 

母は、今は家庭に入り引退しているが、現聖騎士団の上層部であるグスターボやイサンドロ、

そしてあのレメディオスにすら覚えの高い、立派な聖騎士であった。

ならば母の心には、消して揺らがない、ただ一つの柱が立っていたのだろう。

なんとなく、自分にもそういったものはあると思う。だが、未だ漠然としてそれは形を持たない。

 

(弱いものが泣かない国を作りたいと、カルカ様は言っていた。

 カルカ様の正義に照らし合わせれば、今の王国の状態は、まさしく悪なんだろう)

 

この国に来て、様々なものを見て来た。良いもの、悪いもの、綺麗なもの、汚いもの。

だが、そう考えられるのは自分に力があったからだろう。

ツアレのような、力なく、周りに流されるしかないものにとっては、

そんなことを考えている暇などないはずだ。

彼女を奴隷のように酷使し、打ち捨てるなどと言う事は、許されるものでは無い。

彼女にも、未来があったはずだ。ごく普通に暮らし、

ごく普通に恋をし、思い人と結ばれるような未来が。

だがそれは、無惨にも奪い去られた。これから得ていくのかもしれないが、

彼女が過ごしてきた今までがなくなるわけではない。

ふつふつと、心に湧き上がるものがある。熱く燃えるような、怒りの感情が。

 

(そうだ、私は許せない。選べたかもしれない明日を奪い去るような真似が。

 力があるものが、力のないものから明日を奪い去る、そんな理不尽が!)

 

とくん、と、胸が脈打った気がした。

身体の深い所から、怒りとは違う何かが沸きあがってきたのを感じる。

ふと気が付くと、視界の端に人影が見えた。

強面の男たちに連れられて行く、粗末な服を着た女性。

それを見た瞬間、そしてその女性がツアレと重なったその時。

ネイアの中で、何かがはじけた。反射的に矢を番え、狙いを定める。

その一連の流れの中で、湧き上がってきた何か(・・)が腕を伝い、

矢に伝わり、鏃が光を放つ。

 

「――――――ッ!」

 

放たれた矢は過たず男の脳天に突き刺さり、頭蓋の中で一瞬閃いた後、男が倒れ伏す。

それを見届けたネイアの手には、まだ先程の矢を放った感覚が残っていた。

 

「今のは……」

 

奥底から湧き上がってきた何かが、矢に宿り敵を討った。

それは、二日前にネイアの胸に宿った小さな光の萌芽。

聖弓士(セイクリッド・アーチャー)」のスキル、<聖矢(セイクリッド・アロー)>であった。

少女の鍛錬、そして心に宿った小さな正義の炎は、今ここに実を結んだ。

聖王国の歴史に語られる、史上初の聖なる弓使い。

聖弓士ネイア・バラハ、誕生の瞬間であった。

 

 

 

 

なお。

この直後女性を保護しようと駆け寄ったネイアだったが、目の前で人が死んだ衝撃、

そして八本指の強面たちにも負けない凶悪な面構えの少女(ネイア)が駆け寄ってきたショックで、

女性はその場で失神したのだという。




そんなわけで15話でした。
スタッファンさん良かったね、即死できたよ!(良くはない
今回ちょっとやまいこさん曇ってますが闇堕ちの心配はないのでご安心ください。
色々考えた結果やまいこさんが殺るのが一番流れ的にしっくり来てしまったので……
人化やまいこさんのフル装備はオバマスのユリの「至高の御力:拳」みたいな感じで。
インナーはちゃんと来てるのでポロリはしません。安心!

そして今回でようやくネイアちゃん覚醒。
聖弓士1レベルがつきました。スキル名は想像。
ほんとだったら麻薬栽培所襲撃時点で覚醒させるつもりだったんですが、なんだかんだでこの時点になりました。

余談ですが突入(陽動)部隊の班分けは
1班:やまいこ・ユリ・ティア
2班:ラキュース・ガガーラン・ネイア
3班:イビルアイ・ルプスレギナ・ティナ
4班:メコン川
という班分け。これに各班に潜入部隊のハンゾウ1人とエイトエッジアサシン2体がついてます。
次回はメコン川主役回なので3班の出番はあるかな……ないかも。

呪術師の端くれさん、えりのるさん、路徳さん、誤字報告ありがとうございます。
恰幅を割腹と間違えてた所、全部直したはずだったんですが1か所残ってましたね……ハラキリ!
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