王都の空に、花火が上がる。それが花開くのを見届けることなく、
メコン川は向かいの屋敷の屋根から八本指の拠点を眺める。
場所としては高級住宅街にある、豪奢な屋敷だ。
突入前の準備をしていると、メコン川の背後に影が差す。
屋敷内の偵察をしていたハンゾウだ。
「獣王メコン川様、目標は屋敷内にいる模様です。
……それと、同程度、あるいはやや劣る程度の使い手が4名、
それと、
お話を伺っていた『六腕』なる者達かと」
「ご苦労さん。それじゃ、仕事に戻ってくれ。
資料の確保が終わったら……そうだな、指示あるまで屋敷を包囲して待機。
出ていくやつがいたら気取られんよう殺せ」
ハンゾウが消えるのを追うようにメコン川は屋根を飛び降り、門の前に着地する。
誰何の声が上がるよりも早く、その小さな体から、破裂音と共に煙が噴き出した。
「……二日目、か」
ブレインはぽつりとつぶやく。メコン川に「試しに行く」と言われたその期日。
その日は、麻薬部門の長、ヒルマの護衛につく日であった。それも『六腕』全員で。
初の大仕事、そして予告された『試し』の日が重なり、いやがおうでも緊張が高まる。
(俺が、いや、六腕全員で八本指幹部の護衛につくことを知っていた? まさかな……)
「緊張しているようだな、ブレイン」
不意に声をかけてきたのは、全身に刺青を入れた、禿頭の巨漢。
『六腕』リーダー、そして警備部門の長、『闘鬼』ゼロ。
「俺が加わって初めての大仕事だからな。それに、六腕全員がいるんだろう?
随分な厳戒態勢じゃないか。たしか、幹部のヒルマ直々の依頼なんだったか?」
「まあな。あの女のここぞという時の勘働きは称賛に値する、
そのヒルマが自分でもよくわからんほどの警戒をしていた。
あるいは『蒼の薔薇』が仕掛けてくるのかもしれんな」
あるいはそれ以上の化け物が来るかもな、と口には出さず一人ごち、
ブレインは窓の外を見る。その先には、魔法の照明がまばゆく漏れる部屋があった。
八本指、特にヒルマの麻薬部門からの資金援助を受けている貴族たちが、
夜ごと宴を繰り広げている部屋だ。
「一応、連中のお守りもした方がいいか?」
「それには及ばん。俺達に比べれば数段劣るが、
俺達は屋敷の警護に集中していて欲しいとの事だ。
ヒルマ当人にはマルムヴィストをつけているし、
他の面々は屋敷の各所で警戒をさせているところだ」
「ならいい。侵入者と切り結ぶならともかく、貴族共のお守りなんてのは性に合わん」
「気が合うな、俺もだ」
笑い合う2人。しかし、その笑いもすぐに止む。門の方から轟音が聞こえてきたからだ。
そう、まるで鉄製の門構えが吹き飛んだような。
「――――――ッ!? 噂をすれば、という奴か!」
「入口の方だ、行くぞブレイン!」
弾かれるように駆け出し、窓を蹴り開けて飛び出す。
戦闘をしているらしい轟音、魔法の炸裂音などが響く。
すぐに音の発生源――――門前の広場に到達し、2人は驚くべきものを見る。
空中に浮かび、回転する巨大な鉄のティーポットのようなものが、
エドストレームの操る三日月刀をものともせずに弾き飛ばし、
本人に直撃し吹き飛ばす。そこへペシュリアンが必殺の斬糸剣を放つも、
ティーポットにさほどの傷もつけることが出来ず、
ティーポットが手が鎌と棍棒になったイタチに変じたかと思えば、
転移魔法のような速度で近づいてきたそれに対応できずに斬り捨てられる。
デイバーノックの放つ三連続の<
代わりに生み出された巨大な木の葉で扇ぐことにより発生した竜巻でかき消され、
デイバーノックもまた吹き飛ばされ、動かなくなった。
「な……!? あの3人を一蹴するだと!?」
「マジかよ……」
イタチは六腕三人を軽々と一蹴して、ちょっとくたびれたとでも言うようにため息を吐く。
そこで、イタチはこちらを見ているブレインとゼロに気が付いたようだ。
動物そのものの顔にしてはやけに感情豊かににやりと笑ったかと思うと、
手招きをする仕草と共に、ブレインには覚えのある声で口を開いた。
「お、来たな。こいつらも中々面白かったが、お前らはもっとやれそうだな。
2人まとめてかかって来いよ、腕前を見てやる」
少し前。『ゴツメカワウソ』の状態で群がる警備の兵を殺さない程度に薙ぎ倒しながら、
メコン川は周囲を見回す。ブレインの姿は見えない。
しかし自分のいる場所で謎の亜人が大暴れしていれば、じきに現れるだろう。
その為にわざわざメコン川自身「宴会芸」と評する<変化>を使っているのだ。
ステータスこそ変わらないがアバターのサイズは変わるため、
巨大で異様な『ゴツメカワウソ』なら良くも悪くも目立つだろう。
「さーてさて、こいつらは警備部門の連中かね? だったら少しは加減してやらんとな、
少しは残しとかねえと後に響く」
そうして暴れることしばし。兵隊達が引いたと思えば、新手が三人現れる。
褐色の肌に踊り子のような肌も露わな衣装を纏い、腰のベルトに6本の三日月刀を下げた女。
六腕、『踊る
無骨な全身鎧を纏い、腰の剣に手を伸ばし、いつでも抜き放てるように構えた男。
六腕、『空間斬』ペシュリアン。
ファイアーパターンの施されたローブを纏った、魔術師然とした人物。
六腕、『不死王』デイバーノック。
個々人がアダマンタイト級冒険者に匹敵するとされる六腕のうち半分が集結していた。
「見た事ない亜人だね、ビーストマンってやつかい?
デイバーノック、知ってる?」
「……分からん。俺も見た事がない。だが……あるいは人間種ではないのかもしれん、
気をつけろエドストレーム、ペシュリアン。奴からは、何も感じ取れん。
不自然なほどにな」
「……探知阻害のマジックアイテムを持っている可能性がある、ということか……」
警戒する3人を値踏みするように眺め、メコン川はおもむろに変化を解く。
「いいねえいいねえ、初見の相手に対してまず見から入る。
お前さんらが六腕って奴だろ? 1人はアンデッドか。
ってことは……そこの姉ちゃんが『踊る三日月刀』、
ファイアーパターンのローブが『不死王』、残りが『空間斬』か?
はは、ブレインを試しに来たら思いがけず面白ぇ奴らと会えるとはな」
途端、エドストレーム達の肩に何かがのしかかる。
否、それはメコン川から発せられた殺気だ。物理的な重圧に感じるほどの。
しかし、それを前に六腕の3人が取った行動は、撤退ではなく迎撃だった。
エドストレームが三日月刀を抜き、残る五本もまた宙に浮かぶ。
その異名の元となった、『
デイバーノックの手の中には火球が産まれ、ペシュリアンもまた剣―――
ウルミと呼ばれる鞭のような剣を極限まで細く鋭く加工した斬糸剣を放つ。
しかし、その必殺の連携を前にしても、メコン川は笑っていた。
「流石は六腕、中々面白れぇ事をやるもんだな。
じゃあ……俺もちょっと
――――――百鬼変化:分福茶釜」
破裂音と共にメコン川の体が変わる。
いつもの変化による全身変化ではなく胴体のみが茶釜に変わり、
襲い来る三日月刀や斬糸剣をはじき返し、四肢と頭を引っ込め、
<火球>を高速回転しながら浮いてかわす。
これはアヤカシの種族スキルの<変化>ではなく、
その上位職、ヒャッキ・ロードの種族スキル、<百鬼変化>。
<変化>のような自由度はないが、ある程度のステータス変化、
そして特定の妖怪をモチーフとした能力を発揮することができる、
姿だけが変わる<変化>よりは戦闘向きなスキルである。
メコン川のビルドはこの<百鬼変化>による変幻自在の戦いに加え、
魔法を用いて敵陣を引っ掻き回すことに長けたビルドとなっている。
欠点としてはどちらかと言えば攻撃手段は多いとは言えず、
また種族としての適性は盗賊・魔法詠唱者系であるが、
当人の性分としては前衛系のため、
そのミスマッチで総合的な戦闘能力はギルドのガチ勢には及ばない。
しかしそれは突き詰めきった100レベルでの話であり、今ここに至っては
『何をしても倒せない、何をしてくるか分からない正体不明の敵』。
それが今六腕を襲っているメコン川の現状であった。
「予約してるやつがいるもんでね、お前らには悪いが手早く決めさせてもらうぜ?
なぁに、悪けりゃ死ぬだけだ。全力で来な」
「馬鹿にして……っ!」
エドストレームが仕掛ける。本体の剣技に加え、同レベルの動きをする三日月刀が5本。
<舞踊>という名法は単純な操作しかできないはずで、
操作するにも使い手が逐一思考して動かす必要がある。
これだけの数をこのレベルで動かせる、というのは、彼女のタレントか、
あるいは脳の使い方が常人のそれと違っているのか。
(なるほど、アダマンタイト級冒険者に匹敵する、というのも、
まんざらフカシでもなさそうだな……悪くねえ)
しかし茶釜の表面を傷つけることも叶わずはじき返され、
そのまま突っ込んできたメコン川に吹き飛ばされ、植木に突っ込む。
感触からするに、肋骨でも折れたか。
「エドストレーム! ……ちぃ、合わせろ、デイバーノック!」
続くペシュリアン。扱いにくそうな斬糸剣を自在に操り、
メコン川を囲むように配置し続ける技量には驚嘆すべきものがある。
しかもこの斬糸剣、極限まで細く鋭く鍛えられている関係上、非常に見づらい。
重装甲の剣士かと思っている所に遠間からこれで斬り付けられれば、
なるほど空間を切り裂いたようにも見えるだろう。
「このまま回ってると絡みそうだな……面白ぇ。面白ぇぜお前ら!
面白いってのは価値だ。誇っていいぜ? ――――――百鬼変化:鎌鼬」
斬糸剣の隙間をするりと抜けて四肢と頭を出し、新たな<百鬼変化>を起動する。
茶釜状態から元のメコン川に戻り、両腕が鎌と棍棒に変わり、尾が刷毛のように変わる。
そこから高速で接近し、棍棒で足を払い、がら空きになった胴を鎌で鎧ごと叩き斬り、
刷毛のようになった尾で吹き飛ばす。
残るデイバーノックも戦意は衰えていないようで、爆風でフードがめくれ、
アンデッドそのものの顔が露出するのにも構わず<火球>を連射。
その顔は、怒りに歪んでいるようにも見えた。
(事前に仕入れた情報通りの
しかしこいつからは生者への憎悪は感じねえ、俺への敵意・殺意は感じるが……
恐らく自然発生したもんだろうが、こいつは種族の本能を抑え込めている。
何がこいつを押しとどめる? 面白ぇ、面白ぇなあこいつも。
殺したくはねえな、俺や、やまいこさんのためにも)
「――――――百鬼変化:天狗の葉団扇。
ちょっと動けない程度には痛めつけるぜ、死ぬなよ?」
鎌鼬を解除し、今度は手の中に巨大なヤツデの葉を産み出し、力いっぱい扇ぐ。
すると突如竜巻が発生し、<火球>をかき消し、
そのままデイバーノックを吹き飛ばして戦闘不能に追い込む。
と、そこでブレインらとメコン川の時間が合流する。
メコン川はブレインらに気付くと、葉団扇を消して向き直り、
にやりと笑って手招きをした。
「ブレイン、知り合いか?」
メコン川に対し油断なく身構えながら、ゼロは傍らのブレインに言う。
相手の口ぶりとブレインの様子からして、2人には面識があったようだからだ。
「ここに来る前にコッコドールの娼館の用心棒に入ってたろ、その時にな……
その時の姿とは、ずいぶん違うようだが?」
「こっちが本来の姿でね。ま、あっちの姿も元の姿と言えばそうなんだが……
本題に入ろうか、今日は八本指を潰すついでに有望な人材のスカウトに来たんだわ。
今の3人が『踊る三日月刀』『空間斬』『不死王』だから……
そっちの刺青男が警備部門の長、『闘鬼』ゼロか。
俺は別にお前ら警備部門をどうこうしようとは思っちゃいないし、
その手腕や実力は買ってる。さっきの3人も実に面白ぇ奴らだったし、
そこのブレインもそうだが、六腕の頭って事は、八本指最強って事だろ?
お前ら、もっと『先』が見てみたいと思ったことはないか?」
見た事もない亜人に会うなりスカウトされ、戸惑うゼロ。
本気の六腕三人を一蹴したことから、その実力は間違いなく自分同様、
英雄の領域に到達したレベルの使い手だろう。
周囲を探れば、死人は驚くほど少ない。
一番深手であろうペシュリアンすら、どういうわけか出血はもう止まっている。
だが、相手は「八本指を潰しに来た」と言った。
つまり――――――
「これ以上に強くなれるのならば、俺にとっても否やはないがな。
仮にだが、断ったら……どうなる?」
「まあ、殺すな。殺さにゃいかん。俺は王国の人間じゃあねえが、
知り合いの暮らしてるこの国をこれ以上腐らせるのは忍びねえし、
なにより俺んとこにとばっちりが来ても困る。だから滅ぼすのさ。
特に麻薬部門と奴隷部門には壊滅してもらう。
お前ら警備部門は勿論、他の部門にはまだ利用価値もあるが……
この2つを庇い立てする理由もお前らにはなかろ?」
さらりと言ってのけるメコン川に、ゼロは警戒のランクを一段上げる。
ここからは一挙手一投足に注意を払わねばならない。
対応を間違えれば、この麻薬部門の拠点と共に死ぬ未来が見えた。
「なるほど、どっちみち、従うか死ぬかしかないわけだ。
さっきあんたは「腕前を見に来た」と言ったな? どう見る?
二人まとめてかかってこい、と言ったが……ブレイン、勝てると思うか?」
「どうだろうな……正直手の内が見えない。
最初に会った時は、ゼロより大柄な筋骨隆々の男だった。
しかし、随分と俺達を買ってくれているんだな?
ええと……メコンガワ、だったか」
「なぁに、実際その蒼の薔薇に匹敵する実力は、
従えりゃあ役に立つとも思ったし……まあ、何よりもその技よ。
『千殺』とお前らはまだ見てねえが、かなりやるだろう?
どいつも『人』として極限まで極めた技の冴え。
その声に、熱と、寂寥感が宿る。
ゼロもブレインも、己の技を極限まで高めようとする武に生きる者である。
裏の世界で成り上がるという野心こそあるだろうが、それは他の六腕も同様だろう。
アンデッドであるデイバーノックですら、生者への憎しみを抑え込むほどの知識欲、
そして魔法の技を高めんとする心を抱いている。
それを軽々と一蹴してもなお、この男は自分達に『憧れている』と言った。
「その極限まで極めた技を一蹴しといて、よく言うぜ。
ゼロも俺も、あんたほどの強い相手には会ったことがない。
それだけの強さを持っても、まだ足りないってか?」
ブレンのその問いに、メコン川はきょとんとした後、得心したかのように笑う。
だが、2人はメコン川のその笑いに、ある感情が籠っているのを察した。
そう、自嘲という感情が。
「はっは、強さか。まあ、確かに俺の強さそのものはこの世に並ぶものも少なかろうよ。
だがな、俺の強さは
お前達みたいに、人のまま高みを目指そうとした時期もあった。あったが……
俺には、人でいた頃ですら、お前たちに並ぶほどの強さは無かった。
腕っぷしだけならそこそこに強かった自負こそあったが……
そんなもんは、クソほどの価値もなかった。俺の居た場所じゃあな」
「人のまま、って事は……あんたは、『人』だったのか?」
「まあな。武の道を捨てて、人を捨てて、魔法に走り、まあまあ強くはなれた。
けどな、やっぱたまに思うんだよな。あの時背を向けず、まっすぐ進んでたら。
がむしゃらに武の道をひた走ってたら、結果は違っていたのかもな。
あるいはお前たちの足下ぐらいに及ぶことは……できたのかもしれん」
寂しさと、憧れをないまぜにした目で、メコン川はブレインとゼロを見る。
「だからこそ、お前たちに
お前たちには才がある。力もある。
いずれは英雄すら逸脱できるかもしれねえ。どうだい、八本指なんて泥船より、
こっちに乗り換えねえか。お前たちの腕を、この国の裏で腐らせておくのは惜しい。
もっと上を見てみたくはねえか。俺の見れなかった景色を見たくはねえか。
――――――
静かな空気が流れる。ブレインもゼロも分かっている。
だからこそ、男達の答えは、すでに決まっていた。
「……六腕、『魔剣』ブレイン・アングラウス」
「……六腕、『闘鬼』ゼロ」
ブレインが腰に下げたポーションをすべて飲み干し、刀の鯉口を切って構えれば、
ゼロは拳を突き出し、半身に構える。
メコン川は『腕前を見る』と言った。ならば、自分達のやることは一つだ。
ただの一撃でいい、今出せる全力、いや、
それが、遥か高みにありながらも自分達に
最大級の返礼であると、そう直感していた。
「まずは俺から行かせてもらう……
『
ゼロの刺青が光を放つ。ゼロの修めているクラスの1つ、シャーマニック・アデプトは、
動物の霊を憑依させることにより身体能力を引き上げるという
相応の負担はあるが、全てを同時起動した上での正拳突きは、
石壁を滑らかにくりぬくほどの威力を持つ。
「ほう、そいつは見た事がねえ
動物の力を宿すことによる身体能力上昇か……?
なら、この姿で応じるのが礼儀ってもんか」
破裂音と共に、メコン川が人化した。ゼロをも上回る巨躯の男が、
左手を前にかざす様に出し、右手を腰だめに構え、どっしりと地に根を張ったように構える。
「我流、獣王メコン川。身体能力こそ異形種のそれだが……
『人』としての技で、お相手するぜ」
ゼロが、敷石を踏み砕く速度で踏み込み、真っすぐに、只真っすぐに正拳を放つ。
常人が喰らえば四散して果てるであろう一撃を見据え、メコン川が動く。
ブレインでも目で捉えることは難しい拳撃に対し、
メコン川は前に出した左手を正拳の横から当て空手で言う回し受けの様にして払う。
そして全力で突き込んだがゆえにがら空きになった胴に、右の拳を叩きこむ。
カウンター気味に入った拳は胴にめり込み、六腕最強の男を軽々と吹き飛ばした。
「見事な一撃だったぜ、ゼロ。さて……次はお前か?」
「ああ。ぶっつけだが、俺の使える最高の技を、あんたに見せたい」
「いいぜ、撃ってこい」
言いながら、メコン川は無造作にブレインの間合いへと踏み込む。
ブレインは剣士であり、武技と呼ばれる戦士版の魔法ともいえる技を使う。
これは集中力、と呼ばれる概念を用いて振るわれる技で、
ブレインがここで使うのは4つの武技。
一時的に身体能力を向上させる<能力向上>、
半径三メートル以内の全てを近くする<領域>、
放たれれば知覚することもできない速さの斬撃<神閃>。
通常はこの3つ、あるいは<領域><神閃>のみを複合させ、
必殺必中の秘剣・
ブレインはそれに加えてもう1つの武技を重ねる。
かつて、王都の御前試合において、ガゼフ・ストロノーフに敗北した時、
その悔しさをバネに習得したガゼフの武技、四つ同時に斬撃を放つ<四光連斬>。
かつて習得はしたものの屈辱から封印したこの技を、今解き放つ。
「ァ――――――ッ!」
研ぎ澄まされた世界の中で、メコン川が領域に踏み込む。
それを知覚したその時、ブレインが動いた。
<能力向上><四光連斬>で常以上の鋭さで四度放たれた<神閃>。
通常同一対象への命中率は極端に低い<四光連斬>であるが、
それは<領域>の補佐を受けて必殺必中の速度でメコン川を狙う。
それを異形種としての肉体強度で受け止めようとし―――目を見張る。
「……ほう?」
丁度払おうとした手の指の先、爪のほんの先が切れていたのだ。
実際の所、先の攻撃の軌道は見えていた。首を狙っていた斬撃を、
僅かに下がり、手で受け止めようとしたためにわずかに狙いがずれ、
斬撃の軌道上に爪の先が来たのだろう。そこまではある程度予想が出来ていた。
だが、
<変化>ではステータスそのものは変わらない。
が、裏を返せば人化したとしても身体能力や肉体強度は異形種のままだ。
また、フル装備でこそないが、装備の差も歴然としている。
モモンガのように<上位物理無効化>を持たないメコン川であったが、
レベルにして20台後半、ガガーランよりやや高いレベルのブレインでは、
いくら全力だったとしてもかすり傷も難しかったろう。今のブレインの攻撃は、
凄まじい速さかつ恐ろしいほどの精度の斬撃を四つ同時に放つ技のようだった。
ならば、あるいは。100レベルに達しているメコン川の肉体とはいえ、
その末端部であれば、そこに左右から挟み込むように、
それならば、
メコン川の顔に、我知らず、満面の笑みが浮かぶ。
「はは、ブレイン、お前すげえわ……
お前を見込んで正解だった! 最高だぜ、お前!」
技の打ち終わりの隙を狙って踏み込み、丸太のような足の回し蹴りがブレインを吹き飛ばす。
そうして、マルムヴィストを除く六腕が倒され、メコン川の
その後の記録にはこう書かれている。
「・八本指の拠点についての報告書
屋敷は全焼、多数の焼死体が発見された。
その中には屋敷の主である麻薬部門幹部、ヒルマ・シュグネウスも含まれており、
その他判別不能な焼死体群も麻薬部門の構成員である可能性が高い。
焼け残った倉庫には大量の黒粉が備蓄されており、一部は集積所として使われていた模様。
また――――――」
「――――――王派閥による八本指拠点八か所の襲撃は滞りなく完了、
多数の証拠や資料などを奪取し、八本指関係者の洗い出しが進むとみられている。
また、同時期に貴族派閥(一部の王派閥を含む)多数の貴族が行方知れずとなっている。
中には第一王子、
バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ殿下も含まれているが、
遺体・及び遺品などは発見されておらず、事件との関連性も含め調査中である――――――」
余談だが、あまりにも興が乗り過ぎたメコン川による一撃を受け、
ブレインが生死の境を彷徨ったことは、メコン川しか知らない。
どっとはらい。
に、28kb……ッ! ただこの話切りようがなくて1話増やすのもできなかった……
マルムヴィスト君ごめんよ、
君割と好きな方だったんだけどヒルマの護衛に誰かつけないとお前ら何しに来たのってなるから……
ところでなんで屋敷全焼したんでしょうね。こわいなー戸締りしとこ。
きっとデイバーノックの<火球>の流れ弾から出火したんでしょう。
きっとそう。
今回初登場のスキル、百鬼変化。
ざっくりいうとデミウルゴスの「悪魔の諸相」シリーズに似た能力です。
戦闘向きとはいうけれど、100レベル同士のどつきあいで火力の出せる能力ではないです。使用条件が厳しい代わり強力なものもあるにはある。
次回、王都編エピローグです。
みんな大好きバルブロ王子の顛末もちょっと出ると思う。
ほすさん、誤字報告ありがとうございました。