なんとか今年中にはお届け出来ました……
ちょっと短めですがお楽しみいただければ。
18:新たな始まりと新たな出会い
スレイン法国の最奥にある、さして広くも、豪華でもない一室。
そこには、12人の人間達が集っていた。
法国の最高位に座すもの、最高神官長。
続いて六柱の神、六つの宗派の神官長ら六人。
これに加え、司法・立法・行政の三機関長、
魔法の研究開発を一手に引き受けている研究機関長、
軍事における最高責任者である大元帥。
この12人こそが、スレイン法国という国家を回す最高執政機関であった。
「では、これより会議を開始します」
今回の会議の進行役は、土の神官長。
議題は、近頃聖王国の東、アベリオン丘陵に出来たという亜人の国、
ナインズ・オウンゴール獣王連合についてであった。
かつてかの地においては大規模討伐を行ったが、
一時的な間引きにしかならない程の亜人種がひしめく地。
聖王国の城壁が出来てからは小康状態が続いていたため様子を見るに留めていたが、
近頃事情が変わった。丘陵の亜人が『獣王』なるものの名のもとに掌握され、
国家を名乗り活動を始めたのだ。
聖王国と国交を結び、街道の魔物を退治するなど精力的に活動しており、
獣王に恭順していない少数の部族との小競り合いこそ最近まで続いていたが、
現在は聖王国との交易も始まり、聖王国も亜人との小競り合いがなくなったため、
大手を振って他国との交易に乗り出している。
「丘陵の亜人共をまとめ上げる者が現れるまではいずれあるかもしれん、
と思っていたが……聖王国との国交があるというのは、本当なのか?」
「本当のようです。風花聖典を送り込んで調べさせましたが、月に1度ほど、
獣王と聖王女による首脳会談が行われているとの事。
近頃は聖王国から家畜を買って繁殖もさせようとしているらしく……」
「やはりあの時根絶やしにすべきだったのでは?」
「だが、あの時あれ以上の戦闘行動は不可能だった。今更だろう。
……西側はどうしている? 聖王女の意志が聖王国の総意では無かろう」
「西側の貴族たちには現在の聖王女のやりように否定的なものもおります。
ですが、聖騎士団長、神官団長も健在で、
かつ聖王女に何かあった場合獣王を怒らせることになりかねず、
大きく出ることはできていないようです」
「今しばらくは監視に留めよう……場合によっては六色聖典を出す事になるか?」
「だが、陽光聖典は今壊滅状態だ。覚えているだろう?
この間、王国戦士長を暗殺させようとした際に返り討ちに遭った事を」
大きなため息とともに、部屋の中を沈黙が支配する。
スレイン法国が抱える特殊部隊、六色聖典。
六大神になぞらえた六つの特殊部隊の総称であり、
その中の1つ、陽光聖典は現在、隊長を含む主力が壊滅状態となっている。
というのも、本来リ・エスティーゼ王国は、スレイン法国により、
人類を守るための強者を産み出す母体として建国された国である。
だが外敵の少ない環境、肥沃な土壌は腐敗を招き、
代々溜め込まれた膿により、何もせずとも滅びかねない程に悪化していた。
その為、隣国バハルス帝国に吸収させるべく暗躍していたのだが、
その一環である戦士長、ガゼフの暗殺に陽光聖典を派遣した所、
想定外の事態が起こった。
作戦を優位に進め、あと少しでガゼフを殺せる、というところで横槍が入る。
近隣に住んでいるという魔法詠唱者とその従者が現れ、陽光聖典を一蹴したのだ。
挙句、切り札の魔封じの水晶を使って召喚された
それをさらに上回る女神を召喚されて叩き潰されてしまった。
最終的に見逃され、逃げること自体はできたが、切り札とされた最上位天使、
それが為すすべもなく叩き潰された様を見てしまった陽光聖典の者達は、
心の均衡を崩し、今もなおトラウマを抱えてしまった者達も多い。
「報告によれば、かつて十三英雄が呼び出した女神と同一の者ではないか、
という見解のようだ……あれから200年、時期は符合するな?」
「神の降臨だというのか?」
最早多くが歴史の波に埋もれてしまったが、
法国の中枢にいる彼らにはある程度正確な情報が伝わっている。
神。六大神や八欲王、あるいは、百年周期で転移してくるプレイヤーの降臨。
新たに降臨した
そう神官長達は結論付けた。
「その背景を考慮せずに状況を考えれば、村々を襲い戦士長を誘き出し、
そして戦士団を蹂躙し殺そうとした、という状況にも取れよう。
戦士長の人格そのものは義に篤く情に脆い好漢だ、
奴を助けるために戦ったのだというなら、件のぷれいやーは善き人であるのだろう。
どうにか弁解をし、敵に回らぬよう説得はできないだろうか?」
「彼女らを迎え入れると?」
「それが出来れば良いが、最悪、我らの理念を理解してもらえればよいだろう。
彼女らから見れば悪である陽光聖典すら殺さず解放したのだ、
少なくとも敵対せぬよう、妥協点を探ることはできよう」
「では、次の議題へと移りましょう。王国に派遣している漆黒聖典の件ですが……」
「くしゅんっ!」
「なんだよやまいこさん風邪か? そういや風邪って回復魔法で治るんかね」
「風邪は分からないけど病気の類は治せたよ。
まあこれは風邪じゃないと思うけど……誰か噂してるのかなぁ」
「セバスがツアレと話でもしてんのかもな」
そういってメコン川が肩をすくめれば、かもねー、と苦笑するやまいこ。
王都を離れて後、一行は王都の東にあるエ・レエブルを経由し、
その東にあるトブの大森林に沿うような形で一路エ・ランテルを目指していた。
やまいこの治めるトブの大森林に行く途上にある王の直轄領であり、
バハルス帝国・スレイン法国の領土に面しているため交通量が多く、
人、物、金、あらゆるものが行き交い非常に栄えている。
まずはそこを目指し、お土産などを買って世話になっている王国領の村、
カルネ村への贈り物などを送りたい、というのがやまいこの言であった。
「カルネ村の皆はトブの森の人達と仲良くしてくれてるし……
前にも言ったでしょ、法国の人達に襲われて少なくない被害が出てるからさ、
少しでも手伝ってあげたいんだ」
「いいんじゃねーの。困ってる奴らを助けるのは当たり前ってもんさ。
それに行きがけにしばいて来た魔物の討伐部位の換金もしちまいてーしな、
やっぱ冒険者組合ってシステムは便利だよな、
一応国としての体裁が整いつつある連合であったが、
近頃までは小競り合いも多く、未だ冒険者組合などの誘致にまでは手が回っていない。
そもそもが亜人ばかりの国に行こう、というような奇特な人間がいないのもあるが。
「
スカウトも難しい……ん? んん?」
「ルプスレギナさん?」
不意にルプスレギナが怪訝そうな顔をすると、周囲を見回しながら鼻をひくつかせる。
同時にネイアも警戒態勢に入る。蒼の薔薇と出会ったきっかけになった焼き討ち、
それを真っ先に察知したのがルプスレギナであった事を思い出したからだ。
しばし周囲を見回していたルプスレギナが少し離れた場所にある森を指す。
「メコン川様、やまいこ様、森の方から人間の血の匂いがするっす。
臭いが濃い……結構大量に出血してるっぽいっすね……あ、気配が止まった」
「やばくね?」
「多分やべーっす」
「はい二人ともコントしてないで助けに行くよ!
ルプスレギナは先行して治療! 急いで!
もし死んだりしてたらボク怒るからね!」
やまいこが率先して駆け出し、その後ろからルプスレギナとメコン川が追い抜いて先行。
そして身体能力の関係で一人置いていかれる形になったネイアが必死に追いかけ、
血の匂いのする方へと向かっていった。
―――やっば、これ死んだかも。
スレイン法国の擁する特殊部隊、漆黒聖典。
それはすべての人間が英雄級の実力を持った精鋭部隊である。
その元第九位、『疾風走破』ことクレマンティーヌは、
薄れゆく意識の中でどこか他人事のようにわが身を顧みていた。
任務の中での負傷ではない。むしろその逆、背信行為の結果である。
そも、クレマンティーヌは法国において、信仰心が高い方ではない。
同じく漆黒聖典に属する兄とは幼少の頃から比較され続け、
兄にばかり愛情を注がれ、友人を失い、任務の過程で凌辱や拷問などを受けた結果、
信仰心を失い、その性根はねじ曲がっていった。
そんな日々の中、秘密結社「ズーラーノーン」の誘いを受け、離反。
そして手土産とばかりに法国の宝物の1つを奪い、脱走するまでは良かった。
あと少しというところで背信行為が露見し、追手を放たれた。
辛うじて振り切る事には成功するも重傷を負い、今や動くこともままならない。
―――まぁ、碌な人生じゃなかったし、ろくでもない死に様がお似合いか。
そもそも死なせてもらえるか、怪しいけど。
あの連中なら蘇生させ、精神系魔法で情報を引き摺りだすぐらいはやるだろう。
引き摺り出す情報もないのだが、どうせなら無駄足を踏ませて笑ってやろう。
そう内心で苦笑し、クレマンティーヌの意識は闇に落ちた。
「ヤマイコさん、女の人が目を覚ましました!」
「……へ?」
次にクレマンティーヌが目を覚ました時、そこは知らない天井だった。
身体は傷跡も残らぬほどに治療されて綺麗に清められ、
上等な寝間着に着替えさせられた上で柔らかな布団に包まれて寝かされていた。
顔を覗き込んでいた目力の強い少女は目覚めた事に気付くと、
部屋の外にいるらしい誰かを呼びに出ていき、
黒髪の南方人らしい外見の少女を連れて来た。
「大丈夫? 傷はあらかた塞いだけど……すごい出血だったし、
体力はすぐには戻らないだろうから、安静にしててね」
「あ、うん……あんた達が拾ってくれたの?」
「うん。ボクの仲間が血の匂いを嗅ぎ付けてね、危ない所だったよ……
あ、ボクはやまいこ。さっきの子がネイアちゃん。
一応……冒険者でいいのかな。登録はしてるし。あなたのお名前は?」
「クレマンティーヌ……ワーカーやってる流れ者だよ」
安堵のため息を付きながら自己紹介するヤマイコと名乗る少女。
咄嗟にワーカー(組合未登録の冒険者)を名乗るが、
密偵として活動する際はそう名乗ることも多く、あながち嘘でもないだろう。
「そっか、ワーカーなら依頼とかで怪我したのかな……
まあ、深くは聞かないでおくね。守秘義務とかもあるだろうし」
「ありがと。……で、ここは、エ・ランテル?
最後に覚えてるのがそこの近くの森の中だったはずなんだけど」
「うん、合ってる。黄金の輝き亭って知ってるかな、そこの部屋だよ。
あ、うちのパーティメンバーってことで宿帳書いてるから、口裏合わせてね」
その後も、軽く雑談をして時間が過ぎる。それでわかったのは、
この『ヤマイコ』という女性(話を聞くに自分より一回りは上のようだ)が、
底抜けのお人よしであるという事。
そうでなければ野垂れ死にかけたワーカーを拾って高級宿に泊まろうなどとは考えないだろう。
先程のネイアという目力の強い少女も、目つきが悪い以外はごく普通の少女であった。
そうこうしているうちにクレマンティーヌの腹が鳴り、
食事の用意をせねばと慌てて飛び出していく二人。
それを見送りながら、クレマンティーヌはあらためて己を顧みる。
―――怪我、無し。(古傷以外は本当に跡形もなかった)
―――体力の低下無し。(ただし失血による消耗はある)
―――装備、スティレット以外ほぼ全損。(傍らのチェストに襤褸切れになった装備が置いてあった)
「さて、どーしたもんだかね……」
とりあえず復調するまでには世話になるか、と考えながら、
いつぶりか分からない柔らかな寝床に横たわる。
この出会いが彼女にとって想像だにできないような転機であったとは、
今のクレマンティーヌには知る由もない事であった。
そんなわけでエ・ランテル編突入。ようやっとクレマンティ―ヌ出せました。
個人的にも大好きなキャラなので見せ場を作ってやりたい……
出自とか考えると真性のクズとも言い難い気がするんですよね、この子。
今年は本作を読んでいただきありがとうございました。
割と見切り発車で始めた本作ですが、気が付けばUA七万超え、
お気に入り900超えという個人的には相当な快挙を成し遂げさせていただきました。
どうにか完結まで走り切りたいと思うので、よろしくお願いできれば。
来年は大体週1ぐらいでお送りできたらいいなあ。
呪術師の端くれさん、トリアーエズBRT2さん、tino_ueさん、佐賀らしんさん、えりのるさん、null_gtsさん、Cranさん、はなまる市場さん、きなこもちアイスさん、誤字報告ありがとうございました。17話でのお礼を書き忘れていたので二話分。
それでは皆様、良いお年を!