BEASTLORD   作:タマヤ与太郎

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そんなわけで新年1発目。
今年もよろしくお願いします。


19:手助けしては意味がない

 

「あー、疲れた。ヤマイコもユリも体力底なしかっての……」

 

エ・ランテル、黄金の輝き亭の一室。

クレマンティーヌは、ふー、と大きなため息を付きながらベッドに倒れ込んだ。

あれから幾日かして、体力の戻ったクレマンティーヌはやまいこに押し切られ、

やまいこのパーティメンバーとして冒険者組合に登録。

正式にやまいこの仲間としてエ・ランテルに滞在していた。

 

実際の所登録しただけで未だ銅級であったやまいことユリ、

そして新たに登録したクレマンティーヌの三人で、矢継ぎ早に依頼を受け続け、

どうにかメコン川らと同等の金級まで上げることができた。

ただ、本当に常人ならば過労死しかねないレベルの強行軍であったため、

元漆黒聖典、そして英雄級の実力者であるクレマンティーヌにとっても、

簡単だ、とは絶対に言えないようなものであったが。

 

「まあ……楽しかったけどさ」

 

幼少時からの訓練、そして漆黒聖典になってからの任務。

お国のため、人類のためというお題目に従って力を振るってきたが、

クレマンティーヌはそこに何一つ意味を見いだせなかった。

漆黒聖典であれば出来て当然、兄のようにやって見せろ、

そのように常に両親から、また周囲から兄と比較し続けられた。

 

だが、ここ数日はずっと、慌ただしくも楽しい日々だった。

やまいこが何かと気遣ってくれ、自分にも妹がいるらしい彼女は、

本当の妹かのように接してくれている。

従者であるユリには嫉妬からか時折きつい視線を飛ばされているが、

本質的には主人同様善人なのだろう、言外に気遣っているのが感じ取れる。

凄腕のモンクであろうユリ、そしてヒーラーであるやまいこ。

その手厚い支援を受け、辛くはあったが危険は皆無だったと言っていい。

 

「家族に気遣われる、っていうのは、こんな感じなのかなあ。

 こそばゆくはあるけど……まあ、悪くはないか」

 

「ま、いい人だからなあ、やまいこさん」

 

「!?」

 

唐突に聞こえてきた言葉に跳ね起きると、

ドアに立ちふさがる様にして巨躯の男が立っていた。やまいこの仲間の1人、メコン川だ。

依頼に次ぐ依頼であまり関わっている暇もなかったが、

やまいこらと話しているのを横目で見ていた限りでは、無頼だが気のいい男のように見えた。

その男が、目の前に立っている。やまいこの前では豪快に笑っていた顔が、

何の感情も読み取れない目でクレマンティーヌを睨んでいる。

 

「メコンガワ……だっけ? 夜這いのつもり?

 ま、カラダには結構自信はあるし、助けられた恩もある。

 一晩ぐらいつきあってもはいいけどさ」

 

内心の動揺を押し殺し、冗談交じりに口の端を上げる。

この男の側には、いつも赤い髪の信仰系魔法詠唱者、ルプスレギナがいた。

やまいことはただの友人関係だと聞いていたが、

クレマンティーヌにはわかっていた。この男も、こっち側(・・・・)だと。

 

「お誘い嬉しいが別件さ。漆黒聖典第九位、『疾風走破』……だったか?」

 

「――――――ッ! どこで、それをっ!」

 

跳ね起き、傍に置いてあったスティレットを掴んで構える。

突き付けられたそれに視線を向けもせず、メコン川は獰猛に笑う。

 

「やまいこさんはしばらく戻らんよ、土産物探しに行ってるからな。

 荷物持ちに付けたルプスレギナにも時間を稼ぐように伝えた。

 こっちはこっちの話をしようや。ついてきな」

 

言いながら、部屋を出ていくメコン川。

その後を追い、リビングに出ると、メコン川はソファに腰かけ、

その対面に座るように促す。

 

「そうだな、まずお前さんの背景を知った経緯を話そうか。

 お前さんが寝込んでる時に、魔法でちょっとな。許せとは言わんけどよ、

 どう見たってカタギにゃあ見えん上に切り傷、しかもあれは魔法の刃物だろ?

 面倒ごとなのは見てわかるし、警戒するだろ。

 まお前が法国の裏切り者なのは記憶を見て分かった。経緯もな。

 まあ、そんなとこか」

 

「……ヤマイコには?」

 

「言ってねえよ。知ってるのは俺とルプスレギナだけだ。

 やまいこさんに余計な心配はかけさせたくねえしな」

 

「随分優しいね?」

 

「分かんだろ? お前さんならな」

 

そのまま黙り込む。

メコン川の言う事も分かってはいる。やまいこはお人よしすぎるきらいこそあるが、

それでも、その温かく、包容力のある人柄は好ましいと思えた。

荒み、歪み、ねじ曲がった自分ですら、彼女の側にいることを望みたくなるほどに。

お互いそのまま沈黙していたが、少しして、メコン川が口を開く。

 

「……で、どうするつもりよ?」

 

「ズーラーノーンの事? 正直、どうでもいい。

 法国から抜けられて、連中に嫌がらせが出来るんなら、なんでもさ」

 

「……そうか。まあ、俺も脛に傷ある連中を抱え込んでるからな。

 やまいこさんが良いというなら否やはねえさ」

 

だが、と言い置いて、メコン川は言葉を続ける。

 

「やまいこさんの事は、裏切らねえでやってくれよ。

 あの人には天才肌の妹さんがいてな。昔は結構比較されたんだそうだ。

 まあ元々精神面でタフだからなんてことねえみたいにしてきたそうだが……

 全くのノーダメージだった訳じゃあ、ねえはずだ」

 

「……ヤマイコが戻ってきたら、話す。それでいい?」

 

「ああ。別に俺も、お前さんを追い出してえ訳じゃねえ。

 俺自身真っ当な人間じゃあねえからな、……ただな」

 

そこでメコン川は少し考え込み、ぽつりとつぶやく。

 

「お前さんがどうするにせよ、ケジメはつけてきな。

 ズーラーノーンの連中、エ・ランテルで何か企んでんだろ?」

 

「……分かってる」

 

 

 

そしてルプスレギナによる時間稼ぎが終わり、やまいこ達が帰ってきた。

そこでクレマンティーヌは一同に自分の素性を明かす。

ワーカーというのは嘘である事、スレイン法国の裏切り者であること。

元々法国には愛想が尽きていて、諸々が積み重なり脱走したこと。

しかし、それを聞いてもなおやまいこはクレマンティーヌに暖かな微笑を向けていた。

 

「そっか……そりゃ、言い辛いよね。でも、正直に言ってくれてボクは嬉しい。

 スレイン法国とはまあ、ボクらもいい関係とは言えないからね、

 陽光聖典って人達ボコボコにしちゃったし……まあ、閑話休題(それはそれとして)

 

右から左に何かを移動させるような動作をした後、

やまいこはクレマンティーヌの頭を抱き、子供をあやすように撫でる。

 

「今までよく頑張ったね、クレマンティーヌ。どのぐらい辛かったのか、

 ボクには推し量ることぐらいしかできないけど……

 大丈夫、これからは、ボク達がいるよ」

 

胸に抱かれながら、ちらりとやまいこを見るクレマンティーヌ。

普段は獲物を狙う肉食動物のような目が、全てを嘲る様に吊り上がっていた口元が。

この時ばかりは、怯えた子猫のように歪んでいた。

 

「……任務とはいえ、たくさん人を殺したよ?

 それでなくとも、遊び半分で殺したことだって何回もある。

 ヤマイコ達と過ごしたここ暫くは、正直楽しかった。

 でもさー、ふっと我に返ると、恐いんだよね。楽しすぎて。

 あたしみたいなクズがさ、こんな楽しい思いしちゃ、駄目なんだよ」

 

「駄目なんてことはないよ。そりゃまあ、人を殺しちゃったのは、よくないけど。

 奪った命の分、命を救えばいい。沢山悪い事してきたなら、

 これからたくさんいい事をしていけばいいんだよ。

 どんな極悪人だって、いい事の一つもしていれば救われるチャンスがあるもんだよ」

 

「……綺麗事じゃん。出来たらいいとは、思うけど」

 

クレマンティーヌの言葉に、やまいこはそうだね、と言って苦笑する。

 

「『綺麗事だからこそ、本気になる、本当にする価値がある』。

 だったよね、メコンさん?」

 

「え、そこで俺に話振んの? まあ、言ったけどよ。

 そうさな……クレマンティーヌ、難しいからこそやる価値があんのさ。

 それに、偽善(ウソ)も貫きゃ(マジ)になる。

 諦めろよ、やまいこさんがこの状態から手放してくれると思ってんのか?」

 

おどけた調子のメコン川に、今までを思い返して思い当たる節があるのか、

大きくため息を付くクレマンティーヌ。

 

「……無理かも」

 

「やまいこ様、意志が固いっすからね……その上で脳筋気質だからストッパーが欲しいっす。

 クレマンティーヌ、命の恩と思って一つ頼まれてくれないっすか?」

 

「こ、こらルプー! 不敬よ!?」

 

ルプスレギナのまぜっかえしにユリが慌てて反応した所で、

クレマンティーヌは思わず吹き出して笑いだす。

 

「ぷっ、確かにヤマイコ、言い出したら聞かないもんね……

 分かった。出来るかどうかは分かんないけど、まずはやってみるよ」

 

そう言って、穏やかに笑うクレマンティーヌ。

こんな笑い方をするのは何年ぶりだろうか。

そんなことを思いながら、暖かな時間は過ぎていった。

 

 

 

「…………」

 

その夜、メコン川は人化を解き、カワウソ姿で屋根の上にいた。

何をするでもなく、ただある方向を見つめている。と、そこにふっと現れる影。ルプスレギナだ。

ルプスレギナはごく自然な流れでメコン川を膝に乗せて座ると、いつもの笑顔でメコン川を見る。

 

「どーしたっすか、メコン川様?」

 

「おう、お前か。あいつの事で、ちょっとな」

 

「クレマンティーヌの事っすか。やまいこ様はお人柄から当然っすけど、

 メコン川様、随分気にかけるっすね? そういうこと(・・・・・・)っすか?」

 

半眼でじっと見つめながら言うルプスレギナにそういうんじゃねえよ、と手を振り、

メコン川は大きくため息を一つつく。

 

「まあ、割かし好みであるのは否定はせんがね。

 あいつはさっきはああ言ったがよ、多分まだ迷ってるはずだ。自分がここにいていいのか、

 自分なんかが幸せになっていいのか、こんな楽しい思いをしていいのか、ってな」

 

「よく分かるっすね?」

 

「俺がそうだったからさ。話したろ、俺が人間だった頃、色々汚ぇ事もやって来たってな。

 人も殺したさ、人に雇われてな、いろんな奴をぶん殴って殺しもした。

 アインズ・ウール・ゴウンの皆と馬鹿やってた頃は楽しかった。

 人生で一番楽しかった時期だろうな。でもな、俺もずっと迷ってた」

 

軽く後ろに体重をかければ、察したルプスレギナが倒れ込んで屋根に寝そべる。

ある意味世界一贅沢なリクライニングチェアーに寝そべりながら、

メコン川は話を続ける。

 

「今も少しな。俺みたいなクズが、一丁前に王様ぶって何様だって、たまに思う」

 

「たまになんすか?」

 

「この体になって、こっちの世界に来て、ある程度諦めも付いたしな。

 今は俺を親分と思ってくれてる奴らだっている。

 それに、今までやりたくてもできなかった弱者の救済、それが出来るんだ。

 今までろくでもねえことをしてきた分、いい事をしろってことなんだろうよ」

 

閑話休題(それはそれとして)、と右から左に何かを移動させる仕草をし、

メコン川はだが、と口を開く。

 

「あいつはまだ、その辺の割り切りが出来てねえはずだ。

 それに、あいつは自分がズーラーノーンに属していた事は話してねえ。

 まあ、そこは俺が言うなと言い含めといたんだが」

 

「そりゃまたなんで? やまいこ様なら怒って殴りこみそうっすけど」

 

「そこだよ。やまいこさんがそれを知ったら、自分で連中を潰しに行く。

 クレマンティーヌに一切手は出させずにな。それは良くねえ。

 そこまで甘やかすのはあいつのためにならん。

 あいつ自身でケジメをつけさせるのが筋ではある。

 正直、手を貸してはやりてえんだがなぁ……

 こればっかりはあいつ自身の問題だからな、

 俺達が直接手助けするわけにゃあいかんのよ」

 

「難儀な話っすねえ……」

 

「全くだ」

 

メコン川はそう言うと肩をすくめ、ルプスレギナに体を預けた。




そんなわけで、メコン川なりにクレマンティーヌの事を考えていましたよ、というお話。少なくともクレマンティーヌも今あんで沢山手を汚してきたと思うので、いくらやまいこさんがOK言うても禊のようなものは必要かなあ……と。

大体このぐらいのペースを維持していけたらなぁ、と思っております。
文量で言うと14kb~20kb前後ぐらい。

もう少しルプスレギナを動かしたいけど、
大体後方正妻面してる感じが多くてなんともはや。
どこかでソロパートというか、ルプスレギナメインの話も入れたいところです。
一応メインヒロインのつもりではいるので。

ability10さん、誤字報告ありがとうございました。
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